第五十二話 操者の条件。
「サヤは、どうしていつもそんなに俺の事を考えてくれるの?」
俺はサヤの頭を撫でながら尋ねた。
「それは……その……」
さらに頬を染めてうつむくサヤ。
「俺が、あの四人組からサヤを助けたから?」
サヤは小さくうなずいた。
「でもサヤはその前に、倒れていた俺を介抱してくれただろ? その後だって、サヤは俺のために料理を研究してくれたりしてるし、あの四人組の事ならもう充分以上に、お返ししてもらってるよ?」
「そんなの、全然たいした事じゃ……」
サヤは消え入りそうな声で言う。
「そんな事言ったら、俺がサヤを助けたなんて、もっとたいした事じゃないよ。なんたって俺は【閃光の魔術師】だからね。だろ?」
サヤははっとして顔を上げた。
「いや、記憶が戻ったわけじゃない。でも、サヤがそう信じてくれるなら、俺は【閃光の魔術師】だってこなしてみせるよ」
サヤの目に、また涙が膨れ上がった。
「なぁサヤ。サヤは『他の人はすごい所いっぱいある』って言うけど、みんなだってサヤに同じ事思ってるかも知れないよ。サヤはこんな事できてすごいな、って」
時折身体を震わせながら俺の声を聞いていたサヤが、弱々しく首を横に振る。
「そんな事ないです……絶対」
「自分にはそんな人がうらやましがるような、すごい所はないって?」
サヤはこくんと首を縦に振った。
「どうしてそう思うんだろうね。サヤだって他の人にないもの、いっぱい持ってるのに、なんで何もないって思うんだろう。
……多分それは、サヤにとっては『当たり前のこと』だからじゃないかな」
思いつくまま喋っていた俺だったが、何か自分の胸にも刺さるものがあった。
「みんな、自分が持っているものは当たり前になっていて、他の人から見たらうらやましいものでも、たいした事ないって思ったり、持ってる事にすら気付いていなかったりしちゃうんだ。
さっきサヤは、俺を介抱してくれたのも、料理してくれるのも、たいした事じゃないって言ってたよね。俺から見たら、サヤの料理の腕も、そして優しさも、本当に心の底からすごいと思うし、感謝してるんだ」
「うそ……そんなわけ……」
サヤは少し息を弾ませながら、それでも自分の価値を認めようとはしなかった。くそ、火の民の村の連中、よくも人の心をこんな風に縛ってくれたもんだ。鬼畜か。
「ある!」
俺の強い声に、サヤの身体が大きく震えた。
「サヤはいっぱいすごいものを持ってる! だけど……」
サヤの呼吸が荒くなってきていた。俺は一旦言葉を切って、サヤの目を見つめた。
「俺がサヤを必要としてるんだ。サヤがもし本当になんにもできなかったとしてもいい。サヤがそばにいてくれればいい! だから……!」
サヤの吐息が甘くなって、身体がビクンと反応した。そうか、無意識に乗ってしまっていた言霊が、サヤの心の穴に入っていこうとしているんだ。
俺は急にどぎまぎして視線を反らしてしまった。
「私……カイ様と一緒にいて、いいんですか……? 本当に……」
サヤがまだ整わない息のまま言った。
「もちろんだよ、サヤ姫」
俺は照れ隠しに冗談めかしてそう言った。サヤはとたんに耳まで真っ赤になった。
「そんな、あの、ひ、姫なんて……」
両手で自分の上気した頬をはさみ、恥ずかしがりまくるサヤ。可愛い。可愛すぎる。
さては総帥ゼットを『ゼット姫』と呼んだ時の妙なリアクションは、やきもちだったのか。うん。それ込みで可愛い。可愛すぎる。
俺はサヤの顔を覗き込み、目を合わせた。
「いや、俺からお願いするよ。一緒にいて欲しい」
俺は心を込めて、言った。
サヤの顔に笑顔が戻った頃、ドアをノックしてディーノとニミュエが訪ねてきた。鎧捜索と、青の鎧操者選定の打ち合わせだろう。
鎧捜索については任せるだけだからいいけど、俺はまだ操者選びについては何も考えていなかった。
ニミュエは育ちが良いせいか、先客であるサヤに会釈をしたが、ディーノは完全にサヤの存在をスルーしていた。こういうとこがね、こいつを信用できない理由なんですよ。
「鎧の捜索については、我が水の民の魔操鎧部隊を五班に分けて、交代で行います。まぁグランデ・トルチュ周辺にある事は間違いないでしょうし、それ程時間はかからないと思います」
ニミュエが生真面目にそう説明すると、ディーノが興味津々な顔で俺に質問をした。
「奏唱者様、青の鎧の操者はどのように決定されるのですか? 選考基準などがあれば教えていただきたいのですが」
そらきた。そんなんわかるわけねえじゃん。
「誤解のないように言っておくけど、操者を決めるのは俺じゃない。鎧そのものだ。誰が鎧に選ばれるかなんか……」
そこまで喋って俺はふと気付いた。シェリーが緑の鎧に乗り込んだ時の事を思い出したのだ。
ちょっとあの時のくだりを、以下にコピペしてみる。(第二十八話 「緑の戦士」参照)
『シェライアが像に触れると、両腕の緑の腕輪がはずれ、宝玉に戻った。
鈍く緑色に光る宝玉。それに呼応するかのように、像が緑色に変わって行く。』
『シェライアが緑の宝玉を緑の鎧に向けて掲げると、像から発した緑色の光がシェライアを包んだ。
そして、シェライアの身体は浮き上がり、像に吸い込まれていった。』
そうだ。宝玉だ。大地の神殿の地下にあった宝玉。あれに選ばれた者が、鎧の操者って事じゃないのか。
よし、やる事は決まったぞ。だが、その前に。
「まず一つ言っておくけど」
俺はちょっと険しい表情を作って言った。
「シェリーが緑の鎧の操者であるのと同様に、ここにいるサヤは赤の鎧の操者だ。そこはきっちりお含み置きいただこう」
思いの外厳しい声が出た。俺の刺すような視線はディーノに向けている。
水の民二人の視線がサヤに向けられた。あまりに突然の俺の剣幕と、意外な事実の開示に驚いたのだろう。
俺がディーノに対して向けている非難と不審の視線の意味がわかったのか、ディーノは完全にしゅんとしてしまっている、当のサヤも驚いて俺を見つめていた。
「間違いない。サヤは赤の鎧に選ばれてる」
俺はそう言い切って、サヤの耳元に口を寄せた。
「これは本当だ。もう一つ、俺がサヤから離れられない理由が増えたね」
サヤが真っ赤になってうつむいた。なんかもじもじして、色っぽいぞ。
「ご無礼がございましたら本当に申し訳ございませんでした」
ディーノが神妙に、サヤに頭を下げた。サヤは何を謝られたのかわからないようだった。と言うより、もっと気にかかる事があるらしい。
「あの、カイ様、私、部屋に戻ってますね。それからあの、すまほ、お借りしてもいいですか?」
サヤは真っ赤に上気した顔で立ち上がった。こんな真っ赤になった顔を二人に見られるのが恥ずかしいのだろう。可愛い乙女心だ。
「スマホ? いいけど何に使うの?」
俺はポケットからスマホを取り出して言った。
「もっともっと、カイ様がお好きなお料理のレシピ、勉強したいんです……!」
うおおお、なんていじらしいんだサヤ。もちろんいいとも。いくらでも使ってくれ。
いつの間にか、スマホの充電が20%を切っていた。え、マジか。地上にいた時90%近くあったよなぁ。
「あー、充電減ってるじゃん。海の中でこれだけ深いと電波悪いから電池食うんだねー」
ミュウがスマホの画面を覗き込んで言った。そんなもんなのか?
「あたし、ちょっと戻ってるね」
やっぱり海の中だと調子が出ないのか、ミュウはスマホに戻っていった。俺はサヤにスマホを手渡した。
まぁここで料理するわけもないから、レシピのサイトを見るくらいだろう。夜までに返してもらえば問題あるまい。
「じゃあ、カイ様、あとでお返ししに来ますね!」
サヤはそういい残すと、部屋に戻っていった。
「さて、早速明日から、操者の選定をしようと思うんだが……」
サヤを見送って、くるりと二人の方へ振り向いた俺は、超絶イケボを響かせた。
ディーノとニミュエが息を呑むのがわかる。
「その方法は! ずばり、オーディションだ!」
俺の超絶イケボが、二人のハートを撃ち貫いた。
次回予告!
やっほー!ミュウだよ!
鎧の操者をオーディションで決める事にしたエロマスター!
そんなんで決められるの?
ディーノやニミュエとの打ち合わせを終えたエロマスターに、まさかの事態が!
次回、Take It All! 第五十三話
「オーディション開催決定!」
読まなかったら鼻に飛び蹴りだからねっ!
オーディション!あたしも受けてみようかな!
……え?ダメ?




