第四十五話 ため息不可避の男たち。
ディーノを迎えてのティータイムは、一触即発の事態になっていた。
何故かって? もうね、アレですよ、アレ。
「カイ様は【閃光の魔術師】様なんですっ!」
「いや、おにいちゃんは【ピクシーオーナー】だぞ、サヤ」
「いいえお二とも、落ち着いてください。このお方は間違いなく【完全なる奏唱者】様です」
とまぁ、こんな具合。もうね、ややこしい。
「だって、カイ様は光を操る力をお持ちなんですよ? 間違いないもん!」
「しかしおにいちゃんは、ミュウというピクシーを連れている。しかも……。まぁそれは良いとして、ピクシーを連れているのだから間違いないのだ」
シェリーは鎧の事に触れるのは止めてそう言った。さすがいつも冷静だ。
「それにしてもディーノ殿は、何をもっておにいちゃんを、その【完全なる奏唱者】だとおっしゃるのか、聞かせていただきたいな」
シェリーは軽く敵意のこもった口調になっていた。ディーノがシェリーを見る時、異性としての興味があからさまに見えるのも原因の一つだろう。こいつ、ホ○じゃなかったのか。
「それはもう、間違いのない根拠があります。水の民の伝説によれば、【完全なる奏唱者】は聖地グランデ・トルチュに降り立ち、たった一人で様々な楽器を同時に演奏し、そして類稀なる歌唱をしてみせたといいます。
このお方は我々に、その演奏と歌唱を披露してくださいました。間違いありません」
え、演奏って。スマホで音楽流して歌ってただけだけど。
「グランデ・トルチュってなんですか?」
サヤが首をかしげて聞いた。まさかとは思うが……。
「この島が、聖地グランデ・トルチュなんですよ。サヤさん」
ディーノがあっさりと答えた。まさかとは思ったが、そのまさかだった。
それにしても。
それにしてもだ。
【閃光の魔術師】はスマホのフラッシュやライトの機能で、【ピクシーオーナー】はスマホのナビ機能、【完全なる奏唱者】はスマホの動画再生。全部スマホの機能やん。俺関係ないやん。
まぁ、とは言えその誤解のお陰で二人の美少女と旅を続けられるわけだし、水の民の総帥とやらにも会えるわけで、文句を言う筋合いはないのかもしれない。いまんとこ、問題は生じてないし。
俺はあまり深く考えない事にして、話を進めた。
「で、俺達としても水の民の総帥にお会いしたいと思ってるんだけど、どうすればいい?」
「おお、そうですか! ならば我々がご案内します! 総帥は海の底にある、ドラゴンパレスキャッスルにおられますので!」
ディーノは明らかにテンションが上がっていた。大地の領域でもそうだったが、伝説の英雄を見つけ出すというのは相当名誉ある功績だという事らしい。
「しかし、どうやって我々がそこへ行くのだ? 我々には水中で呼吸する能力はないのだが」
シェリーは切り口上で言った。やはりどうもディーノの事が気に入らないらしい。
「そうですね……。総帥に報告をして、送迎用の潜水艇を用意してまいります。少しお時間をいただく事になりますが……」
なに、そんなものがあるのか。まぁ人が操縦する【魔操鎧】なるロボットが存在するのだから、潜水艇くらいあっても不思議じゃないか。
「了解した。明朝にはこちらの準備も整えておこう」
シェリーは飽くまで事務的に言った。
「わかりました。それまでには必ず」
シェリーの態度は一向に冷たいままだったが、ディーノの心はまったく折れた様子もなく、にこやかに答えて立ち上がった。
「あ、ちょっと待ってください!」
サヤが慌てて呼び止める。
「はい? なんでしょう?」
ディーノはにこやかに答えたが、もう明らかに目が違った。サヤには全く興味がないらしい。
「あの……このあたりに、変な怪物とか……出るって噂、ありませんか……?」
そうだ。昨夜の化け物。このあたりを回遊している水の民なら何か知っているはずだ。
「怪物……ですか?」
ディーノはきょとんとして聞き返した。
「そう。昨夜見たんだ。青い炎みたいな光と、溶けた顔みたいな……」
これ以上は言うまい。いたずらにサヤとシェリーを怖がらせてしまう。それに、俺自身も思い出すとおしっこちびりそうになる。
「うーん……そんな話は聞きませんね……。
我々はよくこの海域を回遊していますが見たことはありませんし、そもそもこの島は聖なる島です。もし何かがいたとしても、邪悪なものではあり得ませんよ」
ディーノの回答は明快だった。確かに理屈はその通りだろう。でも、あの溶け崩れかけた顔が【聖なるもの】とも思えないんだよなぁ。あぁ、ちびりそう。
急いで潜水艇を用意してきます、と言い残してディーノは海へ帰っていった。
念のため、怪物が出ないように何人かを島の周辺に残しておいてくれるそうだった。
俺は何か大事な事を聞き忘れているような気がしたが、思い出せぬまま彼を見送った。
思い出せないって事は、大した事ではないんだろう。
夕食後、部屋でくつろぎながら明日の服を選んでいると、扉をノックしてシェリーが入ってきた。
「おにいちゃん、ファミルエリシャからラー印きたよ!」
もう完全に某通信アプリの名称にしか聞こえないテンションのシェリーは、一通の手紙を持っていた。って事は、ラー印は書類をそのまま現物で送れるってことか? さすが魔法だ。
「よし、リビングで読もう」
俺はシェリーから手紙を受け取ると、部屋を出た。
サヤに淹れてもらったお茶の香りが俺たちの心を暖める中、俺は手紙を開いた。
おお、読める。かなり達筆だが、読めるぞ!
この世界の公用語が日本語なのか、俺の脳がこっちの世界モードになっていて、日本語を読んでる気持ちになるくらい普通に読めているという事なのか。
そう言えばスマホのレシピ、サヤもシェリーも問題なく読めていたわけだし、この世界全体で日本語を使っているという事なのか……?
それか、こっちの世界では常に全員がデフォルトで【ホン〇クコン〇ャク】効果を得ている状態という事なのか。
まぁそんな事はあんまり深く考えずに、俺はとりあえずその手紙を読み上げてみた。
『Dear乙姫ちゃん。
しばらく~! 元気してた?
俺ちゃんの方は元気元気~! あれからまた少し背が伸びちゃった!
昨日測ったら、276.4cm! 最後に会った時275.9だったから、5㎜も伸びたよ!
それにしても、あれからもう80年くらいたつんだねえ。
また時間作って会いたいな。
あ、そうそう、実は相談があってさー。超ヤバいんだよねー。
実はさぁ。【白き鎧】と、うちの【緑の鎧】が海に沈んじゃったらしくてー。
乙姫ちゃんの力を借りられないかなーって。お願い!
詳しいことは、俺ちゃんの部下に聞いて!
ホントは俺ちゃんが会いに行きたかったんだけど、行けなくてごめん!
じゃあ、よろしくね!
大地の民長老 キュアライトアネストちゃんより』
「ちょ、長老……」
みながドン引きしている恐ろしい空気の中、シェリーは大きくため息をついた。
次回予告。
シェライアだ。
おにいちゃんが朗読してくれた長老からの手紙。
恐ろしい空気が流れる中、私達と水の民総帥との会談が決定した。
海底への訪問を可能にする潜水艇、プッティ・トルチュとは…?
次回、Take It All! 第四十六話
「はいっ! ネタざんまい!?」お楽しみに!
いよいよ海の中へ出発か……。楽しみ♪




