第四十四話 炎と印と水の民。
ラグビーボール型の肉ロールが一個ずつ転がっていく。樋にはダシ汁が流れていて、部屋中に良い匂いが満ちていた。
ゴール地点に溜まったダシ汁は再加熱されてスタート地点に汲み上げられ、再スタートを切る。そのあたりの機構はサヤが改造したものなんだろう。すごいぞサヤ。
このラグビーボール型の肉ロールは、エルフの民族料理「アマン」で、中身は野菜であったり主食であったりいろいろなんだそうだ。様々なものを肉で巻いて焼いた料理というわけだ。
つまり、【炎の流しロガーマン】ではなく、【炎の流しロガアマン】だったわけだ。形がラグビーボールに似ているのは偶然だろう。
樋の中を整然と並んで転がってくるアマンの光景はとてもシュールだった。ベルトコンベアで運ばれていくたくさんのラグビーボールにも見える。曲がり角や折り返し地点の動きは、なんとなくピタゴラ○イッチ感が半端ない。
「おおおっ! きたきた……!」
シェリーのテンションが爆上げ中だ。そもそもロガアマンが大好きだったらしいのだが、この流しそうめん風の演出も相まって、シェリーの魂を揺さぶったのだろう。サヤ、GJ!
最初のアマンを一つ取って口に運ぶ。大き目のギョウザくらいの大きさがあるので、シェリーもサヤも一口では食べられない。
「おおお、サヤ、とてもおいしいぞ!」
半分くらいを口にほおばり、シェリーは感嘆の声を上げた。
「おにいちゃん、すごくおいしいよ、ほら!」
上がりきったテンションのまま、自分が半分食べたアマンを俺の口へ。思わずぱくっと食べてしまった。うん、旨い。旨いがこれって……。
「カイ様、こっちも召し上がって下さいっ!」
サヤが対抗意識を燃やして、俺の前にアマンを差し出した。これもサヤが半分食べたやつだ。ちょ、お前達……!
もうやたらと間接キス間接キス……な昼食が終わった時、俺は動けない程満腹になっていた。しょうがない。二人から食べさせられ続けたおかげで、俺は二人の倍以上の量を食ったのだ。いやぁもうとても旨かった。
シェリーは思いのほか元気だった。そもそも、思いつめた表情になっていたのは、責任感に押しつぶされていたからではなかったらしい。きっちり責任を果たすため、善後策を講じていたのだ。さすがと言う他はない。
「心配をかけてしまったようですまなかった、サヤ。心配かけてごめんね、おにいちゃん。
シェリーね、さっきまでファミルエリシャに相談してたの」
え? 連絡取れるのか? この世界に携帯はないだろ?
「すごい! ファミルエリシャさんと連絡が取れるんだ!」
サヤが流しそうめんセットを解体しながら言った。
「ああ、エルフの魔法にはそういうものもある。【ラー】と呼ばれる魔法の印を使い、お互いにメッセージをやり取りするのだ。もちろん、文字だけではなく、会話する事も可能だ」
連絡を取りたい相手に印を渡し、相手の印をもらう事で双方向のやり取りが可能になる魔法なんだって。なんか、何かに似てるな。
シェリーとファミルエリシャは幼馴染の親友なのだから、この【ラー印交換】をしているのはなんの不思議もなかった。
「ファミルエリシャに全部話して、どうしようか相談したんだけど、やっぱり水の民の力を借りるしかないかなって」
シェリーはまじめな顔でそう言った。確かにそれしか方法はない。大地の民と水の民の関係はうまくいっているという事か。
「そうだな。しかし、緑の鎧の事まで頼めるのかな? 水の民は青の鎧を持っているんだろ? ライバル関係みたいなもんなんじゃないか?」
俺としてはそこが心配だった。現在の民達の関係を知らない俺が、【自己虐殺戦争】の印象を強く残していたって不思議じゃないだろう?
「確かにそういう面はあるかもしれないけど、実は長老様と水の民の長はお知り合いなんだって。だから、長老から水の民の長に話をつけてもらえるみたい」
おお、そういう事か。それなら話は早そうだ。ってことは、あの元気爺さんと水の民の総帥とやらはラー印交換してるのかな?
「じゃあ、問題は水の民の人たちとどうやって会うかですね」
後片付けを終えたサヤがテーブルに戻ってきた。
「そうだな。水の民はこの広大な海の中を自由に回遊していると聞く。コンタクトを取るのは難しいな」
シェリーが腕組みをして背もたれに寄りかかった。
「長老様からラー印してもらったら? 私達を迎えに来てもらうように」
サヤが身を乗り出して言った。
「ラー印は大地の民の魔法だ。水の民の長には使えぬ」
「そっかぁ……」
サヤがしょぼんと肩を落す。
「大丈夫だよ、サヤ。あたしたちさっき会ったもん。人魚」
ミュウがサヤの肩に乗り、頭をよしよしした。
「何!? 水の民に会っただと?」
何故もっと早く言わないのだ、という勢いでシェリーが身を乗り出した。
「うん、会ったよ」
あっけらかんと答えるミュウ。
「なんか、マスターが【なんとかしょーしょー】だとか言ってた」
だから言えてないぞミュウ。ってかテキトーかよ。
「あぁ、別に隠してたわけじゃないんだけどな。さっきそこの海岸で水の民の群れにあったんだ。
水の民の長にも会わせてくれるし、用がある時はいつでも呼んでくれって言ってた」
その言葉に、サヤとシェリーは一瞬きょとんとなった。かなり驚いたらしい。
「さすがカイ様! 閃光の魔術師様の人徳ですね!」
サヤが目をキラキラさせて言うと、シェリーがキッとなってサヤの方を向いた。
「いや、ピクシーオーナーのお力と言うべきだ。ねっ、おにいちゃん」
シェリーはくるっと愛くるしい表情になってこちらを見た。いや、どっちでもよくないかそれ。でも二人にとってはとんでもなく重要な事なんだろうなぁ。
うーん、これじゃあ水の民に【完全なる奏唱者】と言われたなんて言いだせないぞ。
「まぁとにかく、水の民と話してみよう。俺は、鎧の件は水の民の長に相談するまで言わない方がいいんじゃないかと思うけど、どうだろう?」
俺は話題を変えた。やっぱり鎧の件を最初に話すのは危険だと思ったのだ。どちらにしろ水の民の総帥には会えるのだから、こちらの情報を出し急ぐ必要はあるまい。こんな風に考えるのは、営業マンの端くれとしての職業病だろうなぁ。なーんて。
既に読者の皆さんも忘れてそうな俺の設定を思い出していると、シェリーがこっくりとうなずいた。
「うん、そうだねおにいちゃん。今、長老に水の民の長へのメッセージをお願いしてるから、もうすぐ届くと思うし」
「じゃあ、水の民の人をここに招待してお話しましょう! 水の領域の事も色々聞きたいですしっ!」
サヤが元気にそう言ったが、その表情には僅かに不安の色が見えた。
昨夜の一件がまだ心に残っているのだろう。水の民ならあの現象の正体を知っている可能性は高いし、もしかするとあの一件が水の民の仕業である可能性すらあるのだ。
だが、動かなければ始まらない。
「よし、じゃあ水の民を呼んでくる。サヤ、お茶の準備を頼むね。シェリー、これから水の民と接触するってファミルエリシャに伝えておいて!」
俺はそう言うと、ディーノ達を呼び出すため海岸に向かった。
次回予告!
やっほー!ミュウだよ!
水の民の総帥に会うために、大地のおじいちゃんからラー印で手紙が来た!
え、マジ?何これwww
おじいちゃんが直筆で書いた、渾身の手紙の内容とは一体!?
次回、Take It All! 第四十五話
「ため息不可避の男たち。」
読まなかったら鼻に飛び蹴りだからねっ!
なんかこの小説、出てくる男、みんなダメダメじゃない?
まぁ、主人公が一番ダメダメ男だから、しょうがないか。




