Episodio 8 Ognuno di preprazioneーそれぞれの覚悟ー
「くそ、なんて数だ」
目の前に見えてきた大軍勢を見て、思わずそう呟いたのは、真田隊の大谷という男だった。
自衛隊第一普通科連隊所属である彼にも、これほどの大軍との実践の経験は無かった。
先の大規模侵攻時に武器を持っていなかった大谷は、民間人の避難誘導にあたっていたため、これほどの敵を相手にしての戦闘は初めてであったのだ。
いくら自衛隊といえども、この平和な日本で生死を争う実践を行うことになろうとは思っていなかった。
正直、1か月前までは自分の命を犠牲にしてまで、人のために働きたいと思うような考えには、否定的だった。周りの人間も同じような考えの人が多かった。
それなりの仕事をして、それなりの給料を貰って、それなりの生活を送る。これが出来れば別にどこの職場でも良いと思っていた。
自衛隊に入ったのは、生まれつき体格や運動神系に恵まれていて、仲のいい友達に防衛大に進む奴がいたからだった。
世界が変わったあの日、俺は高校時代から付き合っていた彼女とデートに行くために駅へと向かっていた。
そして、突然世界が歪み、イザナギと名乗った神の宣告を聞き、絶望と混乱で目の前が真っ白となっていた俺がふと横を向くと隣にいた彼女にいまにも涙のこぼれそうな瞳が目に入った。
その目は、俺と同じ絶望と混乱、そして、俺にすがっているようだった。達也君は私を守ってくれるよね、と。
その時俺は思った、練馬区中の人間を守ってやれるような力は俺には無い。それでも、目の前にいるこの大切な人だけは絶対に守ってみせると。
俺たちは一刻も早くこの23区を解放して、人々を解放しなければならない。それぞれの大切な人のために。そのために戦うのだ、たとえ、この命が燃え尽きようとも。
「俺、この戦いが終わったら、彼女にプロポーズするよ」
隣で銃を構えている後輩の石田にそう呟いた。
石田はこの状況で何を言っているんだ、と呆れながらも答えた。
「この状況でフラグ立てないで下さいよ先輩。そんなこと言ったら、だいたい命を落とすのがお決まりですよ」
「じゃあ、フラグ回収しないように頑張るか!」
そう言って、俺は正面の神兵に照準を合わせ、ハチキュウの引き金を引いた。
「広人、カバー!」
「リョーカイ」
突進してきた神兵《ヒルビー》の角を広人の盾が防ぐ。突進を防がれ、体勢を崩したヒルビーの背後に素早く回り込んで、背中から叩き切る。
「よし、これで3体目」
戦闘が始まって10分ほど経過しただろうか。前方の射撃班が、正面の敵を削り、側面のあふれた敵を俺たち近接戦闘班が倒す。今のところ真田のこの作戦は上手くいっているようだ。
射撃班の人員が攻撃を受けて離脱した、という情報もまだ入っていない。
このまま押し切れるか、と思い始める。それにしても出発前にあれほど心配されていた人間の介入も今のところは無い。
人は戦闘に絡んでこないのか、それとも...。と、その瞬間、何者かの視線を感じ、振り返る。
しかし、背後には誰もいない、変なネズミが一匹こっちを見ているだけだ...。
待てっ。なんでこんなとこにネズミがいんだよ!とそのネズミを注視する。変わったネズミだ。無機質でからくりのような..。と、思ったところであわてて、そのネズミを刀で串刺しにする。
やはりこの見た目、新型の神兵だ。まさか、俺たちを陰から監視していたのか。衝撃が走り、あわてて真田に報告するため無線を繋ぐ。
「真田総隊長。こちら、椿隊の隊長椿です。新型の神兵を確認しました。小型のネズミのような外見で、俺たちを監視していた様子です」
「こちら真田だ。報告ごくろう。君たちの他にも直江隊、井伊隊からも報告を受けている」
そこまで言った真田が急に呟く。
「もしや、この戦いの主導権を握っているのは、俺たちではないのかもしれない」
「放った《ヒーリー》4体全滅しました。思ったより気づくのが早かったですね」
「反応が早かった右側の部隊のデータが少ないですね。もう一回放ちますか?」
「問題ねぇよ。雑魚が何人いようと俺が《天の咆哮》を使えば負けるはずがねぇ」
「あまり下界民の兵を侮るなよタラニス。油断すると痛い目に遭うぞ」
「まあまあ。喧嘩しなさんなお二人さん。アラメイさんどうしますか。俺としては一気に奇襲をかければ、十分勝算はあると思いますが」
「分かった。データが少ない右側には俺が行こう。タラニスは左側。ママラガンは敵部隊の背後から奇襲をかけてくれ。サラピタとカドルはいつも通りに。センツウはここからどんどん兵を追加してくれ」
『了解!』
「さあ、作戦開始だ」