Episodio 9 primo contattoーファーストコンタクトー
「敵の総数は、100ってとこですね」
放った《ヒーリー》から送られてきた観測情報を確認して、隣に座る長身の男が呟く。
俺たちに与えられた任務は、敵の足止めだった。
こちらの持ち駒は、80体の神兵と6人の戦闘員だけであるので、数が劣っている。
自分たちよりも多い数の敵の足止めとは、正攻法でやるのはなかなかに難しい。
既に70体の神兵《ヒルビー》が敵と戦闘を開始しているが、徐々に押されているようにも見える。
ここで待ち構えているより、こちらから敵の側面や背面に奇襲を仕掛け、部隊の混乱を誘ったほうが、人数の少ない俺たちの利点を活かせるか、などと悩んでいると、
「敵兵のレベルが分からないかぎり、奇襲は難しいな。俺やタラニスの武装は、乱戦には向いてないからできれば正面から当たりたくないんだが」
副隊長であるサラピタも同様のこと考えていたようだ。
敵陣に潜り込ませた《ヒーリー》から送られてくる観測データをもとに敵の配置、数、目に取り付けた偵察装置からの映像から武装、だいたいの戦闘能力を確認しているが、送り込んだ4体の《ヒーリー》はもはや2体まで減っている。
「あの右側の部隊にいた刀使いが《ヒーリー》に気づくのが早すぎたのよ。おかげで右側のデータが真っ白よ」
と、カドルが愚痴をこぼす。
「やっぱ戦闘員の数が少ねえんだよ。他んとこはもっとこっちに人員を送り込んでんだろ。《鹿》が何匹いようとろくな戦力にならねぇだろうが」
「うちの人は人がいいからな。下手に数だけ増やして領民を犠牲にするのを嫌って、こっちに送る兵は少数精鋭にしたんだろ。あの人は別に《主神》の座を狙ってないから、大事な兵を犠牲にしてまでここを守ろうとしてないだろうな」
俺たちの主君|《建御雷神》は人が良いので有名だ。民を愛し、またその民を守り抜く力も持っている。
まさに理想の主君であるあの人が下界への遠征部隊の募集をかけたのは、ほんの2か月前だった。
民を愛する《建御雷神》にとっては、下界に兵などを送りたくは無いのであろうが、イザナギから強制されているらしい。
遠征部隊に志願した俺たちにあの方は、
「命を第一に行動せよ、戦闘は基本|《神兵》を使え」
と、指示した。
「《ヒーリー》3体目がやられました。でも、データはとれてます。」
データが取れてないのは右側だけか、これなら奇襲をかけるのが得策か。
そう考えている間にレーダーに映る最後の《ヒーリー》の反応が消える。
「放った《ヒーリー》4体全滅しました。思ったより気づくのが早かったですね」
「椿さん、そろそろ我が必殺の咆哮を解き放ちたいのですが...」
「こんな状況で普通のはともかく、あの改造弾ぶち込んだら味方まで吹っ飛ぶぞ」
近くのマンションの5階あたりで砲撃のため待機している虹が、仕切りに砲撃催促してくる。
俺が合図をするまで撃つな。絶対だぞ。という俺の指示を今のところはおとなしく聞いているようだが、いつ勝手に撃つか分からない。
もし、自衛隊の怖い人を巻き込んだりしたら、と悪寒が走る。
俺たちは、陣形の左側で正面の射撃隊がこぼした側面の敵を排除している。
左側の部隊は、全部で8部隊で、俺が名前を憶えているのは、本多隊と後藤隊、井伊隊ぐらいだ。
自衛隊の部隊が本多隊のみなのが若干不安だったが、消防士長であるらしい後藤の機関銃の扱いは目を見張るものだし、井伊の銃撃の技術と高さは、並みの自衛隊員以上だ。
俺も負けてられないな、と広人と共に4体目の《ヒルビー》を倒しべく、刀を引き抜こうしたその時、
雷鳴―――――――いや、一発の咆哮が鳴り響いた。
まさか、虹が撃ったのか、とあわてて振り返った俺の目がとらえたのは、地面に倒れる5人の味方たちと、
「やっぱり大したことねぇな。こいよ。全員俺が消し飛ばしてやるぜ」
そう言い放ち、周りに電気の球体のようなものを浮かばせている20歳ぐらいの男だった。
やっぱり来たか。できれば来ないでほしかったな、と思いながら、真田に無線を繋ぎ、周りの隊員にも聞こえるように鋭く言い放つ、
「敵性の人間を確認。椿隊戦闘を開始する」




