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可変迷宮  作者:
第四部.DESERT PARADISE

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79/116

79.妹は無駄な知識ばかり溜め込んでいるから、裏読みしようとして勝手に勘違いして人付き合いに失敗する。

 ケルベロスもいなくなりナツ達の知り合いも皆、無事に再会することが出来た。

 互いに喜びあう姿を見ながら帰る支度をしていると、イサナが何かを探しているのに気付いた。


「どうかしたのか」

「人が、足りてないです」


 足りないと言われてもこの場にいる殆どがナツの仲間なので、そもそも誰が足りていないのか分からない。

 むしろどうしてイサナが足りないのが分かるのか不思議だ。


「シンタさんも会ったじゃないですか。最初にあった女の子達」

「……あ」


 確かにいた。施設に入った最初の部屋にいた双子だ。

 何だか意味の分からないことを言って笑っているだけだったが、ナツが知らないのであれば仲間では無いのだろう。そうなると糸の技術も持っていないと考えた方が良い。

 せめて魔法が使えるなら自力で何とかして逃げ出しているのかもしれないが、あの素性の知れない双子はどこから来たのだろう、もしかすると誘拐でもされてきたのではないか。

 そんな話を聞いていた妹が禍々しく顔を歪めて拳を振りかぶった。

 打撃音が幾度か聞こえる。


「や、やめでぐれぇ。何でも話す! 知ってるこゲボァ」


 喋っている途中なのに殴っている。本当に聞く気があるのか。


「ミヅキ、話すって言ってるんだから殴るな」

「泣くまで殴るのを止めてはいけないんですよ」

「泣いでる! ないでるがら! は、話ざぜでぐだざい!」


 何度殴られてもペヨテは無傷なのだが、行為そのものはとても人道的には見えない。妹が悪逆非道な組織の女幹部のように見えてくる。


「建物の入り口の部屋にいた双子は魔法使いなのか?」

「双子……?」

「思い出せませんか」


 妹が拳を振り上げると、ペヨテが激しく首を左右に振りながら「違う! 本当に知らない!」と喚きだした。

 ナツの仲間たちを全部入れても100人程度なのだから、双子なんていたら間違いなく覚えているそうだ。


「そういえば、入口すぐのところに居たんですから逃げようと思えば逃げられましたね」

「じゃあ、自力で逃げたのか?」

「いえ、そもそも最初から施設に留まる必要がなかったはずです」


 怪しげな煙で判断力の低下していたチオ達や、ケルベロスの居る部屋よりも奥に監禁されていただろう他の人達は逃げるにも逃げられなかったのだろうが、あの双子だけは別だった。

 すぐにでも出られる場所で、他の人達と違う部屋で何をしていたんのか。一体、何の為にあの部屋にいたんだ。


「チオも、知らないのか」


 あるいは施設に出入りしていたチオならば見たこともあるのではないかと聞いてみたが、「何のことだ」と逆に聞かれる状態だった。

 ここまで誰も知らないと最初から双子なんていなかったんじゃないかと思えてくるが、俺やイサナ達は間違いなく会ったし話もした。

 何と言っていたか、「ここは誰でも入れるし、いつでも出られる」とか言っていたはずだ。実態は入ったら出られない怪しげな施設だったから、そこからして食い違っている。

 思い出してみれば話し方から普通では無かった。二人で交互に話すような。


「あら、大きな山が出来たのね」

「やだ、大きな山を作ったのね」


 そう、こんな感じの喋り方だった。

 声に振り返ってみれば、記憶にある通りの同じ格好をした女の子が二人、瓦礫の山の上に立っていた。


「無事だったんですね。今までどこかに隠れていたんですか?」

「ええ、無事なのは見れば分かるでしょう」

「ええ、無事なのは見なくても分かるわ」


 何にせよ無事でよかった。ペヨテが知らないというのはどういうことか分からないが、建物の中が移動式であったことを考えるとバレないように勝手に住みついていたのかもしれない。


「あなた達が狼を倒してくれたのね」

「狼を倒したのがあなた達なのね」


 双子はケルベロスの存在を知っていたらしい。もしかしてペット的に可愛がっていたのだとしたら申し訳ないことをした。


「扉を塞いでいた番犬の退治に感謝を」

「邪魔な犬ッコロの退治に感謝よ」


「ケルベロスと、何か関係があるんですか?」


 イサナが尋ねると、双子が同時にふわりと身体を浮かせて俺達の近くに降りた。


「狼は扉の守護者」

「狼は外に出さない為の番犬」

「私は入口と出口の存在」

「私は終りと始まりの象徴」

「この世界の最後の神」

「この世界の始まりの神」


 わけが分からないし、冗談にしては笑えない。

 つらつらと何事かを述べているが話の中身が理解できないが、とても面倒くさそうなことは分かる。全部放り出してご飯を食べたい。


「ええっと済まないが混乱していてね。まとめると君達は神様で、それがケルベロスに閉じ込められてたということでいいのかな」


 ちゃんと話を聞いていたモカさんが双子に尋ねた。


「その通り」

「貴方の言うとおり」


 双子が肯定するとモカさんが苦笑いを浮かべて頭を掻いた。双子からただならぬ雰囲気を感じているのは確かだが、それが神だと言われてもピンとこない。


「信じなくても構わない」

「信じて欲しいけど時間が無い」

「それはどういう……」


 モカさんが口を開いたところで地面が揺れた。


「閉じ込められて淀んだ力が漏れ出る」

「濃すぎる魔力が実体を伴って暴走する」


 揺れに耐えきれずに瓦礫の山が崩壊し始めた。

 地震に慣れていない人達はしゃがみ込んで動けなくなっている。双子以外では、俺と妹と兄だけが立ったまま何が起こるのかを目撃していた。

 遺跡のあった中心部の地面が割れる。ひびが入るのではなく、最初からそうであったように瓦礫が中に吸い込まれて消えていく。ぽっかりと大きな穴が口を開けた。


「狼を退けた貴方達にお願いする」

「私の撒いてしまった厄災を」

「どうか」

「どうか」

「世界を」


 ズシン、と先ほどとは異なる揺れが響いた。再度、大きく大地が揺れる。

 揺れの元は大きく開いた穴だった。その中から、巨大な人の手のようなものが出て穴の縁にかけられている。


「まさかの汎用人型決戦兵器とかじゃないですよね」


 穴から這い出てきたのは、巨大な人型の何かだった。とりあえずロボでは無さそうだが、ミイラのような干からびた人型が瓦礫の山を蹴飛ばしながら地上へと姿を現す。

 いつの間にか双子はいなくなっていた。本人の弁の通り神であるというなら姿かかき消えても不思議はないが、人に任せて自分が居なくなるのは無責任が過ぎる気がする。


「お、大きいですね……」

「魔獣か……? 今までのどんな資料にも残っていない姿だな」


 ぱっと見ればひょろりと長いシルエットで、眼窩は窪んでいて全身も木の枝のようなミイラだ。人間と違うのは20mはありそうな巨大さと、腕が4本あること。

 人型は4つの手に剣と弓を持ち、身体には鎧のようなものを着込んでいる。少し離れた程度では射程外に逃れることはできそうにないが、かと言って近づけば踏みつぶされそうだ。


「うげっ、何だコイツ」


 巨大な人型を見上げていたナツが変な声で叫んだ。


「気持ち悪いわね、顔の後ろにも顔があるわよ」


 セリアさんがぐるりと人型の周りを一周して戻ってくる。見上げれば巨人の頭の後ろには同じようなミイラの顔がもう一つくっついていた。

 ひとつの体に頭が3つあるケルベロスがいなくなって現れてのは、1つの身体に頭が2つと腕が2対の巨人だった。


「おい、狙われてるぞ!」


 ナツの叫び声に視線を向けると、巨人の頭を見上げていた兄へ壁のような剣が振り下ろされていた。砂を大きくえぐっている剣は幅だけで俺の身長よりも高そうに見える。

 兄の居た場所に叩きつけられた剣によって砂が高く舞う。それに混じって兄を連れたセリアさんが飛び上がっているのが見えた。無事に逃げていたようだ。


「皆、逃げろ!」


 ナツが叫ぶと糸でドームを作っていた人達が一目散に遺跡跡から離れて逃げ出す。瓦礫程度なら防げる糸でも、あの剣相手では防ぐ程の防御力が無いのだろう。

 後に残ったのは俺とイサナ、妹、モカさんとナツ。空中には兄とセリアさんがいる。


「シンタ兄さん、きっとこいつはリョウメンスクナですよ。前に漫画で見ました」


 思い切り日本風の名前だが、そんなものが異世界で出てくるものだろうか。


 リョーメン何とかの人型は振り下ろした剣を持ち上げると、再度振り下ろそうと高く持ち上げている。


「お、おぉ……遂に神が私の前に姿を……!」


 縛られていたはずのペヨテが、いつの間にか縛めを解いてよろよろと剣を振りかぶっている人型に近づこうとしていた。


「おい戻れ、死ぬのは構わんが王都に戻ってからにしろ」


 モカさんがペヨテを無理やり引っ張って連れ戻したところで人型がこちらを向いた。


「イサナ、雷落とせるか」

「やってみます」


 大抵の生き物は雷を落とすと動けなくなるはずだ。

 イサナが杖を高く掲げれば煌めく粒子が発生し、人型をとりまくように飛んでまとわりついている。

 次第に数を増した粒子が人型の全身を覆ったかと言うタイミングで杖が振り下ろされると、同時にまとわりついていた粒子が連鎖的に空気を引き裂く音を出しながら輝く。


「効いて……ますかね?」

「分からん」


 剣を振り上げたきり動いていないし、声を出すわけでもないのでダメージを与えられているのか分からない。

 動きが止まっているのであれば効いているのだろうと判断して、砂の上を駆けて人型に近づく。

 とりあえず殴ってみて料理に変わったらしめたものだと思っていたが、ハエでも叩き潰すように頭の上から剣が振り下ろされた。

 潰されてノシイカにされるのを防ぐために、慌てて拳を突き出して叫ぶ。


「剣先!」


 照り返す太陽に負けじと閃光が走り、長さ10mはありそうな剣が皿に盛られた干しイカに変わった。

 程よく炙られて香ばしい匂いが漂う。


 食べ易く割いてあるイカをひとつ手にとり、もちゃもちゃと噛みしだいた。

 スルメイカよりも身が柔らかく奥歯で潰すたびに身が解れて甘みの強い濃厚な旨みが溢れ出る。

 皿の上に乗せてある白い液体はマヨネーズだろう、赤い粉末が乗っているのは一味唐辛子に違いない。

 口の中のイカを飲み込みながら次のイカを手に取り、マヨネーズをつけて口に入れる。マヨネーズの油分がとろりと溶け、ピリリと唐辛子が舌を刺激しマヨネーズの柔らかな味が上から包み込む。

 イカの繊維と油が絡みあいイカの身が油を(まと)う。なめらかにコーティングされたイカは、まろやかにマヨネーズと融和する。


 つい夢中になってイカをしゃぶっていると、ふと日陰に入っていることに気づく。

 何事かと頭上を見上げてみるとリョーメン巨人がもう片方の剣を振り下ろすところだった。


「うわ、あ、ぶっ!」


 慌てて避けた身体の直ぐ横に剣が突き刺さる。衝撃で巻き上がった砂に巻き込まれて体が吹き飛ばされた。

 イカの乗った皿をかばって身体を丸めながら砂の上を転がると、丁度転がった先に妹が立っていた。

 呆れた顔で手を差し出してくる。


「ぼーっと突っ立って、何してるんですか」

「いや、ついベボッ」


 差し出された手に捕まって立ち上がり、しゃべりかけようとしたところで殴られた。


「口がイカ臭い!」


 イカを食べていたから、その臭いがするようだ。とても痛い。


「イカ食べるか?」

「臭いから近づかないでください!」


 随分な嫌われようだった。妹は自分のつないでいた手の匂いを嗅いで顔をゆがめる。


「手にもイカ臭いのが移ったじゃないですか! どうしてくれるんですか、この変態!」


 変態ではない。

 イカリングは食べるくせに、スルメの臭いは気に入らないらしい。

海のものならカツオも食べていたのに、何が違うというのか。


「ほら、イカ食べてないでさっさとアレをどうにかしてきなさい」

「分かった」


 嫌そうな顔をする妹にイカの皿を預けて巨人に向きなおる。

 巨体の割りに動きがすばやいようで、いつものようにイサナの魔法で跳ばして貰っても空中で叩き落とされそうな気がする。

 あとは遠くから魔方陣を飛ばすのが良いのだろうが、あの方法は空腹感が強くないと出来ないから今は成功するか分からない。

 ムスッとした顔の妹の横でどうしたものかと考えていると、空中から透明の球体が音も無く降りてきて回転を始めた。

 空中にいたセリアさんが何かの魔法を使ったのだろう。前にみた水球ではなく空気の塊のようだ。透明の球体は急速な回転で地面の砂を巻き込んで次第に回転力を増していく。

 時間の経過と共に球体も大きく膨らみ沢山の砂を巻き上げて、段々と地面を掘り下げてすり鉢上に地面を削る。

 巨人のからだがすっぽりと入るほどの大きさまで穴を広げると、最後に回転を止めないまま巨人めがけて浮かび上がった。


 巨人が飛んでくる球体めがけて剣を振り下ろすが、相手はただの空気の塊で手ごたえも無く霧散してしまう。

 勢いだけを乗せた大剣にひっぱられるように体制を崩し、巨人が身体ごと穴の中に滑り落ちていく姿がやけにゆっくりと見えた。


「あり地獄ですね」

「じゃあ落ちたのはエサだな」

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