5-2
ここでようやく明良は言葉を返した。
「なんで僕たちがそんなこと」
赤ん坊は明良には答えず、右隣にいる果歩に「それ貸してくれるか? 腹減ってんねん」と言って哺乳瓶を渡してもらった。「まあ少し、温度下がってきたな。これならいけるかな? まだ熱めやけど」などとぶつぶつ呟くと、哺乳瓶を小さな両手で抱えるようにして持ち、逆さに傾けた。そして口に乳首を含んで、ぐっ、ぐっ、ぐっ、と三口、ミルクを飲んだ。
「ぷはああ。うまっ。生き返ったわ」
赤ん坊は哺乳瓶を果歩に返した。それからようやく、
「兄ちゃん、ワシ引き取るのそんなに嫌なんか?」
明良に言った。
「嫌というか、それは無理です。無理ですよ」
明良が答えた。
「ほう、でもなあ、ワシ分かってんで」
「何がです?」
「お前ら半グレやろ? 見たとこトクサギをシノギにしとるグループか」
「……」
「分かっとんねん! ワシ、前世では××会系傘下△△組の幹部補佐や! 幹部補佐やで! いろんなシノギやってきて、トクサギに関わっとった時期もある。お前らのちぐはぐなナリ、会話、ワシを警察に連れていけんとこ、そういうの見てたら何を仕事にしとるかくらいすぐ分かるわ! もしワシをこのまま見捨てていくいうんなら、あそこにいるマスターにお前らが半グレちゅうことバラしたるでえ!」
「半グレではないよ」
そこでずっと黙っていた果歩が会話に入ってきた。そしてハンドバッグから名刺入れを出し、名刺を一枚取り出して、赤ん坊に見せた。
「株式会社W・M・S 総務人事 白崎果歩」
そこにはそう書かれていた。
「私と新城くんが勤めているのは、ちゃんとした人材派遣会社です」
赤ん坊はちらりと名刺を見ると、
「ハッ、そんな名刺くらい、誰でもすぐ作れるわなあ」
とせせら笑った。果歩はその反応を受けて、
「……確かに、グレーなこともやっていると言えばやっています。でもうちは半グレでも暴力団でもない、独立した組織です」
冷静に答え、名刺をしまい直した。
「独立した? たたき上げちゅうことか。まあなんでもええ、こっちとしてはなんらかの方法でお前らを警察に売ることは簡単やねん。だからまあ、縁ちゅうもんもあるしやな、とりあえずしばらく引き取って――」
「それはだめですよ!」
明良が割り込んだ。
「そんなことしても警察沙汰になって終わりですよ。たとえばれなくてもその先はどうするんですか、乳児健診に予防接種に国民健康保険への加入、保育所への入所。法的に手続きした保護者に育てられていないと、そういう公的サービスが受けられないでしょう? あなたがしゃべれるなら不幸中の幸いです、親御さんの家の場所教えてください。今からそこまで連れていきますから」
「それだけは」
赤ん坊は顔のパーツをくしゃっと中央に集め、顔をゆがめた。
「それだけはあかんねん! うええっ、えっ、えっ……」
泣きだしていた。