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モンテレイアの街にて  作者: 雅夢
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終わりと始まり Ⅰ

終わりと始まりⅠ


 私は貴族が、帝国貴族が嫌いでした。

 彼らは総じて尊大にして高慢で、平民である一般臣民に服従を求めながら自らは責務を果たすことは無い、そんな無責任な存在だったからです。

 彼らは自らを王国建国の英雄たちの子孫であるとし、それを誇ると共に与えられた恩賞である特権は当然のものと考えていました、加えて自分たち貴族のみが魔法士を担える唯一の存在であると誇示しています。

 でもそれは、私たち一般臣民から見ればある意味笑えない冗談に見えるのです。

 何故なら、彼らがその恩賞の対価である盟約に従って王国の盾と矛であったのなら、ある事が出来たのであれば今回の内乱は起こり得なかったからです。

 凡そ100年前、アルカディス王家は平民階級に対して魔法士への道を開き新たな矛と盾とする決定をしました、この決定は唯一自身のみを魔法士であると自認する貴族たちの反発を買い、彼らが反旗を翻した事によって後にヒルデスハイム戦役と名付けられる事に成る80年に渡る内乱が始まったのです。

 何故、王家は前例を破って平民にも魔法士と成る道を開いたのでしょうか?それは偏に当時既に貴族が魔法士としては戦力に成り得ないまでに劣化した結果、盟約を果たせなくなっていた事に有りました。

 つまり、盟約を護る能力も意志も無く、有るのは実力に見合わないプライドと既に得ている特権からの利益を護ることのみに汲々とする、それが、私が生きた時代の帝国貴族の姿だったのです。

 ですから、私と相対した王国の魔法士の口にした一言に私は怒りを覚えたのです。

「お前さんやるね、叛徒の貴族にしては珍しく戦闘に慣れているようだ。」

 魔法爆発の至近弾で地面に叩き付けられ、痛む身体をアーケリスを杖にして辛うじて立ち上がることが出来た私に、王国魔法士はそう声を掛けて来たのです。

 私はそれを聞いて一瞬して身体の痛みが消え頭に血が昇って行くのを自覚しました、そして気が付くとこう言い返したのです。

「貴族じゃない!」

 叩き付けられた衝撃で、咳き込みながらの反論です。

 この私の反論を耳にした敵の魔法士は少し意外そうな表情をその渋めの相貌に浮かべました。

「ほおっ、珍しいなお前さんは魔法が使えるのに平民なのか?」

 私はその問いに応えず、彼を睨めつけました。

 本当は何か言い返したかったのですが、この状態ではその余裕も無かったのです。

 ですが、敵の魔法士は対応に苦慮する私に構うことなく言葉を繋げていました。

「お前さんは、魔力を見て感じて、術式の構成文も読める。

 違うか?」

 ふと気が付くと、王国魔法士の彼は笑みを浮かべて私を見ていました。

 しかしながらその姿は、相手を痛めつけて喜ぶ顔や、己の欲求不満を無抵抗な従者や平民に向ける貴族の浮かべる笑みとは酷く違って見えました。

 そこに見えたのは好奇心、そして、課された難題を解いて一歩前へ進んだ弟子の成長を喜ぶ師の顔でした。

 丘の頂上付近に居た王国の魔法士は中腹にまで移動して、その姿は良く見える様に成っていました。

 歳は父と同年代、40前後だと思います、距離が有って瞳の色までは判りませんがやや長めの褐色掛かった赤髪が印象的で、面はやや厳つい造りですが口元の笑みが陽気な雰囲気を醸し出していました。

 背格好は父と同じで、やや細みながらギッシリと筋肉が詰まった印象を抱かせる、育ちが良さそうなのに野性味を感じさせるそんな中年男性でした。


「事情は分からんが、こいつは避けれるかな?」

 これまで弟子の成長を見守る様に笑みを浮かべていた王国の魔法士は、笑顔はそのままにそう一言言い放つと頭上に術式陣を浮かび上がらせました。 

 その術式陣は第4類、所謂初級魔法の火竜弾でしたから、以前モンテレイアの街中であのアーガン・ルーメットが使用した術式と同じものでした。

 しかしながら、その術式陣の在り様は次元を異としていました。

 その術式陣自体は初級魔法故に基本的で単純な構文式で成り立っていました、術式は初級魔法らしい単純で簡素な式が使われていましたが、そこに込められていた魔力は量・質・密度の何れをとっても初級魔法の水準を大きく超えていました。

 常識的に考えるならばそれは不可能以外の何ものでもありませんでした、が良く見れば術式陣は一つでは有りませんでした。

 その火竜弾の術式陣は、背後に複数の術式陣が重なり合った立体的な構成をとることで初級魔法に高威力を実現させていたのです。

 これは既に初級魔法などと呼ぶ代物では有りません、効果と威力の両面から見ればそれは第3類の中級魔法以上と認識すべき術式陣と成っていました。

 それは、決して奇想天外な手法では有りません、誰でもが一度は考えるでしょう。

 しかし重なる複数の術式陣の制御と連携に掛かる手間と必要な能力を考えるとき、誰もが実現させる努力を放棄させる程の難解さを持っていたのです、それ故に現状の私にはとても真似できない水準の逸品とも言える代物でした。

 とは言っても美しいと言っても見呆けている場面では有りません、何しろ、その術式は私を狙っているのですから。

 私はそう認識すると、アーケリスを手にしたまま素早く身を投げ出して地面を転がり一時狙点から身を交わすと、腹這いになってアーケリスを構えました。

 その過程で、顎紐が切れていた軍帽が飛んでしまいましたが私は構わず伏射の姿勢で構えたアーケリスの銃口を敵の魔法士へ向けました。

 しかし次の瞬間、私の視界を白いカーテンが遮りました。

 私は慌ててそれを払い除けようとしましたが、それは軍帽が脱げた事で露わとなった私の白銀の頭髪でした。

 射撃を急いでいた私は、髪を払い除けて開けた視界のその先、照準の向こうで王国の魔法士がオルテシアの銀の御印を目にして魔法の行使を躊躇していることに気が付きました。 

 私にとってそれは隙であり、千載一遇のチャンスと言えるものでした。

 私はほとんど反射的にアーケリスの引き金を引きました。


 それは、生きたいと願う心の発露でした。

 

 だから撃たれる前に撃つ。

 ただ、それだけでした。


 私が魔装銃アーケリスの引き金を引くと、薬室の周囲に配置された魔法術式に魔力が流れて術式が起動、最初に初期設定の火竜弾の術式が起動しますが私はこれを素早く無属性の魔法の起動式に書き換え、同時に発生する無属性の魔力を圧縮すための加圧術式が起動します。

 これに呼応して薬室内では装填された魔導銀の弾丸表面の術式が活性化して魔導銀が一瞬にして昇華して無属性の純魔力へ昇華し同時に加圧術式によって急激に圧縮されます。

 それと並行して銃身周囲に刻まれた術式が螺旋状に表面を走って、圧縮が完了した魔力体を一気に加速させました。

 そう、私がアーケリスから放たったのは魔法や実体弾では無く純粋な魔力、それを圧縮させた一種の魔力弾でした。


 何故その攻撃を選択したのか?


 答えは単純明快です。

 相手は、遠距離の魔法攻撃を苦も無く行い、一撃で貴族の私兵軍を殲滅させることも可能な恐らくは戦略級と見られえる高位の魔法士です。

 私の稚拙な魔法攻撃でどうにかできる相手ではありません。

 それくらいは私にも、彼が構築した魔法の多層術式陣の巧緻さを見れば一目で解ります。

 ですから私は込めれる限りの魔力と魔素をアーケリスへ注ぎ込み、圧縮して無属性の魔力弾として撃ち出したのです。

 但し、狙い撃ったのは彼自身ではなく彼が展開させた術式陣でした。

 それは一種の賭けでした、私の魔力でもし術式陣を破壊できなければ、次の瞬間彼が放つ火竜弾が我身を貫くのは明白でしたから。


 賭けは、勝ったと言って良いでしょうか?


 魔力弾となった圧縮魔力は、王国の戦略級魔法士の頭上に展開していた術式陣の制御式を直撃して欠落させ、術式陣を理論破綻に追い込んだのです。

 彼が展開しようとしていた魔法は、術式陣の制御部分が崩壊した事で途中で術式の展開が不完全のまま行われ、術式内に滞った魔力が不均等に集中して暴走或いは暴発状態となって無秩序に爆散する危険性が有りました。

 勿論、彼はその危機を察知して素早く術式を消去して暴走寸前の魔力を空中へ逃がしました。

 その辺は流石戦略級魔法士と言うべきで、手早さと確かさはその実力の高さを如実に示している思いました。

 しかし、私が驚いたのは彼がその状態でも楽しそうに笑っていた事でした。

 何が面白いのでしょう、私はその様子を見て彼の真意が理解出来ず苛立ちを覚えました。

 が次の瞬間、彼は素早く魔杖を私に向けると杖の先に魔力を集中させ始めたのです。

 ここで私は自身のミスを悟りました。

 アーケリスを撃ちながら、薬室内へ魔導銀の銃弾を装填していない段階で私には反撃する術が無かったからです。

「さて、どうする?

 まだやるかい?お嬢さん。」

 王国の魔法士は、先端へ魔力を集中させた魔杖を私に向けながらそう語り掛けて来ました。

 相変わらず楽し気な表情でと語り口ですが、同時に彼の行動には全く隙がありません。

 その証拠に、私が一矢報いれないか、と試しに魔導銀の弾丸が入れてある腰のポーチへそっと手を伸ばそうとすると。

「止めとけ。」

と、短く制止の言葉を口にしました。

 その言葉は短くも鋭く私に突き刺さって来ました、そこにはこれまでの私との戦闘を楽しみ教え諭すような姿は無く、私の行動次第では有無を言わせず命を刈り取りに来る、そう宣言している様に私は感じたのです。

 勿論私はこれ以上の抵抗するつもりは無かったので、そこで動きを止めて両手を彼の見える場所に出して抵抗の意志の無い事を態度で示しました。

「うん、良い娘だ。」

 そして彼は、私が無駄な抵抗を止めると、安堵の表情を浮かべてこれまでの口調に戻して言葉を続けました。

「う~ん、あっちも終わったらしいな。」

 王国の魔法士が、まるで見物でもするかのように戦場の方を見渡してそう言うので、私もその言葉に釣られる様にそちらに視線を向けました。

 そこでは既に一部の帝国軍部隊が王国軍に降伏し、武装解除に応じている姿が見て取れました。

 戦場を見渡せば、帝国軍部隊は丘を囲む森や茂みから姿を見せた王国の銃兵の銃列に左右より迫られ、前面の丘の上には魔法士の部隊が陣取っていて魔仗を構えています。

 そして、後方には帝国の騎馬兵を蹴散らした王国の騎馬兵隊が退路を遮断する位置に布陣したことで、逃れようのない袋のネズミとなっていました。

 そして、本来部隊の指揮を執るべき高級士官である貴族たちは、その腰巾着どもと共に既に王国の魔法士によって跡形もなく消し飛ばされています。

 貴族たちが仮に生き残っていてもここで真面な戦闘指揮が出来たかは不明ですが、背後から武力でもって戦闘を強要して来た貴族とその腰巾着が居なくなったことで帝国の各部隊は戦闘を継続する意義を失っていました。

 それ故に、各部隊の指揮官は整然と迫りくる王国軍を前に、降伏を選択したのは当然の結果と言う事が出来ました。

 そして降伏し武装解除を行っている部隊の中には、私が所属している1023銃兵隊の仲間たちも姿もありました。

 私は彼らの無事な姿を確認すると、意を決してアーケリスと魔導銀の弾丸の入った腰のポーチを外して地面に置きました。


 当然ですがこうした事態(敗北)を受け入れられない人間は居ました。

 その最たいる存在が生き残った貴族たちですが、その中でも厄介な存在が騒ぎ出したのです。

「何やってる!

 敵に尻尾を振りよって、今こそ皇帝陛下の恩寵に報いんか‼」

 それは我従兄殿、アーガン・ルーメットでした。

「なあ、帝国には人語を離す豚が居るのか?」

 王国の魔法士が、呆れた口調でアーガンを見てそう言いました。

「あれでも一応人間で、貴族です。」

「成程、あいつは貴族様なのか。」

 私たちが会話を交わす間にも、激昂した従兄殿は怒鳴り続けましたが今となっては言う事を聞く人間は誰も居ません。

 従兄殿は散々怒鳴り散らし訳の分からないことを口走っていましたが、その内、何を考えたのか無事だった魔仗を振り上げると頭上に火竜弾の術式陣を浮かび上がらせました。

「馬鹿、何やっているの!」

 流石にこれは看過出来る事ではありません、私はこれ以上の行動は死を招くと危惧して制止しようとしましたが、それよりも早く王国魔法士が動きました。

 彼は何か言葉を発する事無く軽く手にしていた魔仗を振りました。

 すると途端に、アーガンの頭上の術式陣が揺らぎ、やがて砕け散ったのです。

 当然ながら、術式陣には既に魔力が集められていてその多くは空中へ発散しましたが、一部の残留魔力が火竜弾に変換され彼の頭上に降り注ぎました。

 数は僅かでしたが生身の人間には相応の破壊力を持つ魔法です。

 アーガンの場合は、先の魔法攻撃で切り刻まれていた服が燃え上がり始めましたが、それが大きく燃え広がり火達磨になる前に、王国の魔法士がもう一度魔仗を振るうとアーガンの頭上に新たな術式陣が産まれてそこから水が降る注ぎ火が消されました。

「見た通り、制御術式がお粗末なだと術式の制御を容易に奪われてしまう。

 もっともあれはお粗末すぎる、勉強不足も良いところだな。」

 よく覚えておきな、と私にそう警告すると彼は振り返って何時の間にか後ろに立って居た先程の若い魔法士に声を掛けた。

「クリムト、これ以上あの馬鹿が暴れない様に抑えておいてくれ。」

 そう命じられたのは先ほど海蛇の鞭でゲベールの銃弾を防いだ青年魔法士でした。

 クリムトと呼ばれた彼は柔らかそうな金髪を揺らして承諾の意志を示すと、少し呆れた口調で言葉を続けました。

「承知しましたが、師匠せんせいは何時までそのお嬢さんを地に座らせておくつもりですか?」

 そう言われて私は、自分がアーケリスを前にして地面に座ったままなのに気が付きましたが、当事者の私自身クリムト氏に言われるまでそれを自覚していなかったのです。

「すまんすまん。」

と、謝りながらその中年魔法士は私に手を差し出すと私を立ち上がらせてくれました。

「そう言えば、お互い名前を名乗っていなかったな。

 俺は、ヴァンクリフ、ヴァンとでも呼んでくれ。」

 王国の中年魔法士ヴァンクリフ氏は、陽気な表情でそう名乗ると、その表情で私にも名乗る事を即して来ました。

「私はアリシリア、アリシリア・コーノです。」

「そうか、やはり君がリアか・・。」

 私が名乗るとヴァン氏は、その名に一瞬喜色と安堵、そして哀色を帯びた表情を顔に浮かべましたが、直ぐにこれまで通りの表情に戻して師匠が弟子に語る様に先程の一連の戦闘を評価し始めました。

「最後は少々詰めが甘かったが、全体的には良い判断だ。

 本当にお前さんは魔法士では無いのか?」

 最後にそう言って、最初の問いに戻ってヴァン氏は会話を締めくくりました。

「一体どうやったらあれが可能に成るのですか?」

 しかし、私は自分の戦闘の評価や私が魔法士で有るか否かよりも目の前で見せられたあの多層術式陣が気に成りました。

「何がだい?」

「先程の術式陣です。

 一見普通の術式陣に見えましたが、同じ術式陣を複数重ている様に見えました。」

 私がそう言うと彼は少し驚いた表情を浮かべましたが、

「なるほどな・・。」

と、呟いて何度か頷いてから説明をしてくれました。

「あれはごく普通の第4類の魔法・火竜弾の術式陣だ。

 但し、俺はそれを立体的に多層展開させている。」

「多層展開?」

「ああ、術式陣を前後に重ねて展開する方法だ。」

 そう言いながらヴァン氏は実際に術式陣を展開して見せてくれた、勿論、ここでは発射の必要は無いので、発射段階へ至る前に停止させ消去してくれました。

 しかし、間近で見るヴァン氏の術式陣は想像以上に巧緻で美しい造りをしていまいた、術式を構成する構文の文字は細いながらくっきりと見え、それは偏りなく書き込まれていたのです、これは氏が如何に優れた魔力の制御能力を持っているかを示していました。

 しかし、それでも尚疑問はありました。

 だから私は、それを遠慮なく彼に問い掛けてみたのです。

「しかし、この様な複雑な術式陣展開を行う理由は何処に有るのですか?」

「まあ、確かに多層展開は制御に相当の手間と力量が必要で一見すると、実用的でない、とも言える。」

「では何故?」

「それはな、手加減の為だ。」

「手加減?」

「正確には、威力を加減するため、と言った方が良いかな?」

 そう言ったヴァン氏は、私が今一つ納得していない様子を見て一度肩を竦めると説明を続けて下さいました。

「魔法、特に威力の高い魔法の威力を調整するのは思いのほか難しい。

 特に、威力を減らして手加減して撃つのはな。」

「そう、なのですか?」

 それは、アーケリスを使って魔法を発現させる私には認識の外の物事でした、アーケリスで発射される魔法は一定の調整されていたのす。

「それでだ、俺は威力の小さな術式陣を複数連携させて威力を調整することを思いついたんだ。」

「それが、術式陣の多層展開と言う訳ですか?」

「そう言うことだ、

 これまで、捕縛や鎮圧用には其れ専用の術式が使われていたのだが、反撃を受けた時、咄嗟に攻撃術式に切り替えが出来なくて手痛い逆撃を受けるケースが多かった。」

「一つの術式で調整出来る、多層展開術式を使えば対応できますね。」

「そう言うことだ。」

 私がそう評価すると、ヴァン氏は自慢げな表情を浮かべたが、私の背後から聞こえた声に表情を凍り付かせました。

「実際には、そうは上手くいかなかったのですよ。」

 そう語ったのはアーガンを捕縛しに行った青年魔法士のクリムト氏でした。

「上手くいかない?」

「ええ、術式陣の多層展開の制御に必要な力量があれば、攻撃用と捕縛用の術式陣を同時に展開できるので必要ないのですよ。」

「それで、普及しないのですね。」

「もっとも、細密な制御が出来れば少ない魔力で展開できますし便利なのですがね。」

 と言いながら、クリムト氏もヴァン氏同様に術式陣を多層展開して見せてくれました。

「私にも出来ますでしょうか?」

 私がそう言うと、それまで悲嘆に暮れていた様子のヴァン氏が表情を輝かせて応えてくれました。

「お前さんなら余裕だろ、

 それには一から魔法を習わないといけないがね。」

 そう言ったヴァン氏は、表情と口調を改めて言葉を続けました。

「お前さん、本格的に魔法を習いたくないか?」

「私がですか?」

 私はそう問い掛けられて一瞬思考が停止しました。

 魔法の習得は幼い頃からの夢でしたが、同時に戦場に於いては真っ先に潰されるという危ない立場でもありました。

 そして、行き成りの話で私の考えが纏まっていないのも事実でした。

 ですから私は、

「私は、平民ですから魔法の習得は・・・。」

そう言ってお茶を濁して答えを保留しようとしました。

 でもそれは無駄な抵抗と言うやつでした。

「問題ないぞ、それは叛徒勢力、お前さんたちの言う帝国の話だからな。」

 ヴァン氏にはその答えは想定済みだったようで、一言で踏み越えられてしまいました。

「今、お前さんは王国の管理、いや保護下にある、帝国の法よりもお王国の法の方が優先されるのさ。

 それに、お前さんも気が付いているだろ?」

 ヴァン氏はそれまでの気楽そうな口調そのままでそう言いましたが、その表情は真剣なものになっていました。


 つまり、帝国は滅びる。


 そして、それは冗談ではないと言っているのです。


更新が遅くなって申し訳ないです。

納得行く展開にするのに時間が掛かってしまいました。


やっと更新できましたが、まだ終わりません、もう一話お付き合い願います。

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