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モンテレイアの街にて  作者: 雅夢
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出逢いと離別 後編Ⅱ

後編の後半部分です。

出逢いと離別 後編Ⅱ


 カルゼンは、元は地方の中心都市であるサントメルの周辺に散在した農村であったが、内戦勃発後は境界線地帯に近くに在ったことから叛徒勢力の攻撃対象と成るのを避ける為に、より以南の安全な地域へ住民が避難させられたことから廃村と成った村の一つであった。

 そうした中で、カルゼンは比較的規模が大きく残った建物の傷み具合が軽度であったためにこれまでも度々輜重や医術の支援を目的とした部隊の駐留地としてその廃墟が利用されていたと言う。

 しかし、サントメル駐留の守備隊と中央軍派遣隊、それに参謀本部から派遣された調査隊がカルゼンへ向かったがそこで彼らが見たのは直径一キロに成る巨大な爆発孔であった。


「それで?一月が経って出た結果がこれと言う訳か。」

 待ち望んだ報告書を片手に俺の口からは、そんな台詞が漏れ出た。

「済まないな、何しろ目撃者が殆ど居なくて調査が難航したのだ。」

 夜遅く纏められたばかりの報告書を、士団の本部の執務室迄持ってきたのは国軍総司令のカールだった。

 カールは纏められた報告書の綴りを俺に手渡すと、深々と頭を下げた。

「謝罪して済む話では無いが、今回の事は軍の不始末が原因だ。」

 カールも娘のアルメリアを可愛がっていた友人の一人だった。

 それが、現場の指揮官が後方の支援要員を見捨てて逃亡を図った結果、今回の惨事が起きたとあっては奴も心労が絶えない様子だった。

 カルゼンで失われたのは20名の医術魔法士の研修生を含む50名の命、当然、遺族の批判の矛先は軍へ向かう。

 カールは、その批判を一身に受けたのだから心労が絶えないのは当然の事だろう。

 俺は、塔長エイムスが言霊縛りの伝令を寄こしてくれてお陰で、比較的早い段階で事実を知ることが出来、一応公人としての立場で対応する心の準備が出来た。

 だからと言ってそれで済む話では無いのだが・・。


 奴は副官と共に帰って行った。

 俺はカールを見送ると執務室の椅子に戻って報告書を開いた。

 報告書は当時サントメル近郊の戦場や街に居た者達の証言を基に作成されていた。

 それによれば、敵は侵攻作戦の初期に守備隊により足止めされ湖沼地帯を抜けた時には前面には中央軍から派遣されてきた部隊が布陣しその先への侵攻は絶望的な状態であったと言う。

 しかし、敵の司令官は余程諦めが悪いのか、それとも現状を認識できないのか撤退をする事も無く湖沼地帯を抜けた位置に陣を敷き双方は睨み合いとなった。

 こうした状況は、王国軍にとって理想的では無かったが特に問題も無く、国軍は次第に包囲網を絞り込みながら叛徒勢力軍を北へ追いやろうとした。

 そうした中、叛徒勢力軍の中から一部隊が陣を離れて移動を開始したとの報告が王国軍にもたらされた。

 数は100程度、数機の騎兵以外は歩兵と言う構成は傭兵部隊の一隊と見られ、消耗を恐れた傭兵の逃亡かと派遣軍司令部は判断した。

 しかし、半日後にもたらされた報告はその予測を大きく裏切るものであった。

 その傭兵の一隊は、戦場を大きく迂回し湖沼地帯南方に布陣する、王国軍派遣部隊の後背へ回り込もうとしていたのだ。

 ここで派遣軍指揮官は、大きく判断を誤った。

 戦場での指揮を老練の指揮官である現地軍のコーエン准将より引き継いだ派遣軍指揮官のミヒャエル・バーデンバーク大佐は、優秀であり勇猛では有ったが軍人としての経験は未だ心許無いと言える人物であった。

 彼は、このままでは後背を襲われると判断し、各部隊にサントメル迄後退するように命じ自身も直卒部隊を率いて後退してしまった。

 しかし、この時彼の頭の中には戦闘部隊のことしか無く、戦場の後方、サントメルから北へ5キロ行った地点にあったカルゼンの後方拠点の存在を完全に失念していた。

 結果、カルゼンの輜重や医術部隊は侵攻して来る敵の最中に置き去りにされる結果となった。


 この傭兵隊の動きに関しては生存者がいない為に、「塔」の先見と遠見の報告により明らかにされていた。


 敵勢力が雇った傭兵隊が目的としたのは、王国軍の後背を襲う事では無かった。

 彼らにとってこの侵攻作戦は既に採算が取れないものであった、であるから彼らは目的を金品を略奪して逃げる事に替えていた。

 彼らは王国軍と対峙する傍らで多数の斥候を前方、つまり派遣軍の後方へ放っていた、多くは警戒する王国軍により討たれる事となったが、数名が美味しい情報を携えて戻ることが出来た。

 それは敵軍の後方に物資を集積させた補給拠点があると言うものであった。

 そこからは傭兵隊の動きは速かった、一度後方へ下がると日没と同時に行動を開始し夜陰にまぎれて派遣軍の哨戒網を大きく迂回すると目的地である王国側の補給拠点を目指したのである。


 言うまでも無く敵の傭兵隊が目指したのは、派遣軍の後方拠点であった。

 こちらも生存者が居ない為に先見と遠見の報告と推測であったが、拠点に残された者達は我が娘を含めて自分たちが敵中に置き去りにされたことを知らなかった。

 そこに居たのは輜重と医術の各隊と怪我の治療の為に運び込まれた負傷兵であった、その数は50名程。

 彼らが気付いた時には既に後方拠点は傭兵により包囲されており、数名が交渉や脱出を図ったが全てその場で斬殺されていた。

 敵勢力にとってはそこに居た20名の医術隊の研修生を含めた女性陣は、垂涎の的いえる存在でありこの時点で彼らは物資の強奪よりも女性を襲う喜びに打ち震えていたと推測できた。


 しかし、傭兵たちに悦楽の時は訪れなかった。

 この後、彼らはこの世界より消え去ったのだ。

 突如として起きた魔力爆発によって。


「こいつをやったのは、リアか・・。」

 確証の有る話では無いが、恐らく魔力爆発はリアが起こしたものだ。

 魔術士の常識から考えて、今回のカルゼンの魔力爆発は異常なものだった。

 当時、カルゼンには強力な攻撃魔法を行使できる魔法士は居なかったと言う報告であった、これは魔法士団側でも確認済みだだ。

 但し、それは男性に限った話である、前述の通り女性には戦闘用の魔法は使えない、と言うよりも教えられていないのだ。

 だが、アルメリアを例にとると、リアの魔法士としての能力は優に上級魔法級の資質が有った。

 持つ魔法力も豊富だ、それを使えば出来ない話では無い、行使する者の生存を考えなければの話だが。

 そして、リアは戦闘用魔法の初歩を独学で学び、術式に対する理解も一応有った。

 彼女が、以前の失敗の経験を活かし、術式の制御を外し逆に周囲の魔素や魔力を集めることが出来れば恐ろしい規模の爆発、いやこの場合は魔力暴走に近いな、暴走を意図的に起こしたと考えるべきだ。

 敵勢力の傭兵に捉えられた女性の末路は哀れだ、好きなように弄ばれた挙句殺されるか、奴隷として他国へ売られるか、一生慰めものにされるか。

 それは生き地獄と言うべきものだ。

 俺は、そんな世界に続くとば口に娘を送り出していたのだ。


 俺に残されたのは自責の念とやり場の無い怒りだった。


「ヴァン爺。

 ヴァン爺の中のリア姉は未だ泣いているの?」

そう問い掛けた『夢見の聖女』ジルの言葉は俺を酷く狼狽させ、答えが、いや声すら出すことが出来なかった。

 確かに、あの後、寝るたびに見る夢は泣きながら助けを求める娘の姿だった。

 しかし、腹立たし事に時間の経過はそんな娘の姿を忘却の彼方に追いやって行った。

 代わりに思い出されるのはリアの笑顔だった、悪戯を叱られて泣く姿だった、ジルと二人して眠る寝顔だった。

 そう、今の俺の中に居るのリアは・・・。

「泣いていたリアは居ない。

 父親なのに薄情と思うが、俺の中のリアは笑っている。」

「薄情では無いよ、ヴァン爺。」

 ジルはそう言って薄く笑った。

「ジルの中のリア姉も最初は泣いていた。

 悲しそうに苦しそうに泣きながら助けを求めていた。」

 ジルの顔が悲しみに曇った、ジルは感情をストレートに表すのが苦手なだけで決して無表情では無かった、それを俺はリアと共に暮らした2年間で理解していた。

「でもね、ヴァン爺。

 最近のジルの夢の中に出て来るリア姉はいつも笑っている。

 あの時、お屋敷で暮らした時の様に。」

「そうか・・。」

「夢の中のリア姉が泣いたり悲しんだりするのは、ヴァン爺やジルが心の中で泣いたり悲しんだりしているから。

 だから、今笑っているならリア姉は喜んでくれると思う。」

 ジルは今度はハッキリと笑顔を見せて「それにね。」と言葉を続けた。

「最近のジルの夢の中で、リア姉は他の人に成った。」

「他の人に成る?」

 ジルの言葉は意外なものであった。『他の人に成る』とはどういう意味だろうか?

 何しろ夢見の夢である、疎かにできるものでは無い。

「どういう意味だ?」

「どうって?

 ただ、夢の中で笑顔のリア姉がもう一人の女の人を連れて出て来るの。」

「もう一人の女の人?」

「そう、それで夢の中でリア姉はその人を私に『もう一人の私だから宜しくね。』って紹介してくれた。」

 その言葉の意味を理解できないでいる俺の前で、いつもの乏しい表情に戻ったジルはそう自信ありげに言った。

「もう一人のリア?」

「そう言う事だと思う。」

「生まれ変わりか?」

 その可能性は低いが、俺は一応言ってみた。

「生まれ変わりでは無い、ジルよりも年上だと思うから。」

「ではなんだ?」

「多分その人もリアと呼ばれているのだと思う。」

「名がリアか・・。」

 その可能性は有るがそれならばリアと呼ばれる女性は大量に居るはずだ、何故その娘がもう一人のリアなのか?

「何故その人がもう一人のリア姉なのかは判らない。

 でも、ジルの夢はそのリア姉が特別だと言っていた。

 この国にとっても、ヴァン爺にとっても。」

「俺にとっても?

 それで、そのリアは何処に居る?どこへ行けば会える?」

「大丈夫、もう一人のリア姉はモンテレイアに居る。」

「成程、もう一人のリアはモンテレイアの住民なのだな。」

 これで疑問の一つが解消された、何故俺がモンテレイアの担当なのかと言う疑問がだ。

 しかし、その予測は大きく外れる事に成る、俺の言葉を聞いたジルは変わらない表情のまま顔を横に振った。

「違うのか?」

「うん、もう一人のリア姉はモンテレイアに住んでいた人ではない。」

「なら・。」

「もう一人のリア姉はモンテレイアへ侵攻した叛徒軍に居る。」

「叛徒軍に?」

 余りの意外な答えに俺の思考は追いついて行くことが出来なかった。

「そう、でもすぐにわかるよ。」

「何故?」

「だって、もう一人にリア姉は❝白銀の乙女❞、銀色の髪をしていて赤っぽい眼をしていたから。」

 俺はそのジルの言葉に絶句した。

 そいつは、白い死神、オルテシアの銀では無いか。

 冗談じゃない。

 そんなのと戦ったら俺でも生き残れる確証は無いぞ。

 しかし、俺の心中を察したのかしなかったのか、笑顔を浮かべたジルが言った。

「ヴァン爺、必ずもう一人のリア姉を連れてきて、その人がヴァン爺の苦しみを取ってくれるから。」

「俺の苦しみを?」

「そう、ジルの夢はそう言っている。」

 何故かジルは誇らしげにそう言った。


 境界線地帯の彼方に設置された長距離砲を吹き飛ばした俺は、続いて前進を止めた自軍の兵を撃とうとした貴族とその傭兵団を狙い撃つ準備をした。

 こいつ等こそが諸悪の根源だ、己の責務を果たすことなく特権だけを得ようとした叛徒貴族ども、性格基盤を破壊し人々を困窮させる為に周辺干渉勢力より送り込まれた傭兵団。

 手心を加える必要性は感じなかった。

 だから、俺が魔杖を振り上げて術式を多重起動させて魔力を加えると、生身の人間に到底耐えられる水準では無い火竜弾が生成されて奴らに降り掛かった。

 火竜弾が炸裂し、着弾の土煙が治まるとそこには死屍累々という言葉が相応な地獄絵が横たわっていた。

 当然だが、俺には奴ら死によって痛む良心は無い。

 それにしても、想像以上に敵は相手に成らない弱さだった。

 それでも容易ならない奴は居た。

 そいつは、俺が展開する魔法の先を読んで周囲に注意を喚起すると身を伏せる様に叫んでいた。

 良い反応だが、後ろの貴族軍が相当されるとそいつに気を取られて余所見をしてしまった。

 こいつは教育が必要だな。

「おいおい、戦闘中に敵を目の前にして余所見はダメだろ。」

 俺は、音を消して間合いを止めるとそう言って威力を殺した空気弾を放った。

 そいつは、直撃は免れた者のショックで吹き飛ばされたが、銃を杖に立ち上がって来た。

 こいつは良いな、良い人材だ。

 そう思った俺は、次の攻撃の術式を展開しながらそいつに話しかけた。

「お前さんやるね、叛徒の貴族にしては珍しく戦闘に慣れているようだ。」

「貴族じゃない!」

 そいつは、咳き込みながら声を上げた、魔法が判るらしいから貴族と思ったがそうではないらしい。

「ほおっ、珍しいなお前さんは魔法が使えるのに平民なのか?」

 俺は戦いよりもこいつとの会話を楽しんでいた、だが会話の価値無しと思ったのかそいつは黙り込んでしまった。

「お前さんは、魔力を見て感じて、術式の構成文も読める。

 違うか?」

 その問いは、確信だった、こいつは俺が展開する魔法の術式陣の内容を読み取って対応していると。

 だから俺は一歩踏み込むことにした。

「事情は分からんが、こいつは避けれるか⁈」

 俺はそう言いながら再び火竜弾の術式を展開した。

 今回は一つ、それで十分な筈だ。

 そして、案の定そいつは目で俺が展開した術式を読み取って、狙いを外すべく魔道具らしい銃をこちらに向けながら素早く倒れ込もうとした。

 その時である、その動きでそいつが被っていた軍帽が宙に舞った、これまでの戦闘の衝撃で顎紐が切れたらしい。

 そして、軍帽が脱げた事で中に隠してあったらしい長い髪が露わに成った。

 それは、戦場には不似合いな銀糸の如く美しく艶やかに輝く白銀色の髪であった。

「オルテシアの銀!」

 噂には聞いていたが実物を見たのは初めてであった俺はその美しさに畏怖の念すら感じた。

 次の瞬間、自分が戦場で致命的な失態を起化した事に気付かされた。

 俺が、「オルテシアの銀」を象徴する髪に気を取られている隙に、そいつは地に這いながらも銃の筒先を俺に向け照準を合わせていたのだ。

 そして、術式の起動が遅れた俺に向かってそいつは銃の引き金を引いたのだ。



ギリギリでしたが間に合いました。

チョット体調不良で、厳しかったです。


ではいつも通りに、誤字脱字が有りましたらご一報ください。

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