石油王、現状確認す 二
(さっきは気付かなかったけど、このスタンドも俺のクルマもリセットされてたんだな)
ぶつかったはずなのに傷一つない愛車と給油機を見てそう気付く。
まずは待合室に売店でもないかとドアを開く。が、鍵がかかっている。
(昨夜閉店した後の状態なんだろうから鍵してあって当然か。今更強盗だなんだと言われる心配もないだろうし、ドアのガラス叩き割って入るか)
そう決断して何かバアルのようなモノがないかと探すが見当たらない。
(おっと、そうだ。石油王のチカラで壊せないかな?)
これから先この異世界で生きていく上で「石油王」という異能は必要不可欠であろう。だからこそ、何が出来るのか把握する必要があり熟練する必要があると十三は感じていた。
なるべく粘度の高い固形に近い油を水鉄砲のように噴出したらガラスぐらい割れるのではないかと挑戦する。
(原油から精製されるものの中だとアスファルトか?)
十三は右手で指鉄砲を作る。真っ直ぐ付き出した人差し指をドアのガラスに向け、そこから銃弾が飛び出すイメージでアスファルトを高圧で噴出させてみる。
噴出されたアスファルトはまさに銃弾のようにガラスに吸い込まれ大きな音を立てガラスを粉々にした。
「よし!」
予想通りの結果に十三はガッツポーズをする。
まだ有効射程などは検証が必要だが、銃火器に相当する自衛手段を確保出来ていることがわかったのだ。
割れたガラスを避けて手を伸ばし内鍵を解錠して中に入る。正面の壁に弾痕があった。どうやらガラスを割ったアスファルトの弾丸がめり込んだようだ。
(威力は十分そうだな)
壁の弾痕を見て満足そうに頷いた十三ではあったが、待合室を見回すとその顔に失望の色が浮かんだ。
(食べ物はないか)
あまり大きくないこのガソリンスタンドの待合室にあったのはジュースの自販機と椅子やテーブル。そしてレジカウンター程度であった。一応レジカウンターの上にガムがいくつか置いてあったがそれでは十三の腹は満たせないだろう。
(いよいよホタテ頼みになるのか?)
そのホタテも最大一〇八個しかない。この異世界で生きていくためのプランを早急に立てる必要を十三は感じた。
(自販機があっただけでも良しとするか)
自販機の中にアスファルトを流し込み無理矢理自販機を押し開けて中身を取り出しつつ十三はポジティブに考えた。
炭酸飲料清涼飲料コーヒー紅茶烏龍茶などそれぞれの缶やボトルは売り切れていることなく上限まで詰まっていた。しばらくは飲み物で困ることはないだろう。
他に何かないかとスタンド内を物色するもタイヤやワイパーといったカー用品ぐらいしかないようだ。あとは配達用と思われる軽トラが倉庫にあったので、これは状況によって愛車と乗り分けることにした。