九龍玄女 二
こことは異なる世界!
それはこの世界に倦んでいた彼女にとって何物にも変えがたい宝物のように感じられた。
しかもその世界の一般人として転生したと言うのだ。そのことも余りに強大過ぎて孤独だった彼女には魅惑的だった。
(妾もその世界へと転生したい!)
異世界の話を聞けば聞くほどその思いが強くなる。
居ても立っても居られなくなった彼女は、すぐにその同族が異世界への転生を果たしたという島をその人間に案内させた。
現場でその痕跡を探ればどのような術式を用いて転生したのかわかるかも知れないと思い至ったのだ。
「ふむ、確かにこの島は同族の匂いが強いの。ここにクルールーとやらが住んでいたのじゃな」
人間に案内されて辿り着いた小島には懐かしい同族の匂いが残っていた。
そして感じる力の残滓。
(どうやら使われた力は妾の力と同じモノのようじゃな)
であるならば、彼女にも異世界への転生の儀式は可能であろう。
(問題はどういう術式なのかということじゃな)
ふと下を見れば、この島に着いて解放した人間がいた。
(あ奴は異世界から来たのじゃったな)
その人間が説明した話を思い出す。
彼が語る異世界の話は興味深いものであった。特に「異世界人はあまり神を信じていない」という話が気に入った。彼女は神様扱いに辟易していたのだ。
(件のクルールーとやらもこの島で神に仕立て上げられていたらしいしの。只の人として転生したというものわかるの)
銀行口座に四十億円ある人間は只の人とは少し違う気がするが、彼女は日本のことを全く知らないのだ。多少の勘違いも仕方あるまい。
「人間、お主クルールーの記憶を持っているそうじゃな」
声と念話で話しかける。
『ええ、色々説明するのを面倒くさがったクルールーに彼の記憶が込められたホタテ貰って食べたら頭に入ってました』
確か十三と名乗った気がする人間が返事をした。
(するとこの人間はクルールーが行った転生の儀式のことも記憶しているやも知れぬ)
そう気が付いたとき構想が生まれた。
『ちょっ?!何するんですか!?』
彼女はそのぷにぷにとした可愛らしい指で人間を摘み挙げる。しかし千倍程の身長差がある摘み挙げられた人間から見たらとても「可愛らしい」では済まない迫力だ。当然彼は叫ぶが、彼女はその抗議の声を無視してそのまま顔の前まで持ち上げた。
『まさか食べるとかじゃないよな?!』
「そんなことはせぬ」
彼女は心配げな人間ににこりと笑いかけ、そのまま口に入れた。
「ただ飲むだけじゃ」
その言葉通り丸飲みした彼女が微笑む。
しかし、その言葉を聞くものは最早いなかった。




