石油王、現状確認す 四
サイコメトリーで海の記憶を引き出すとしても、海が持っているであろう記憶はクルールーの記憶以上の情報量であるのは容易に予想出来たので、ある程度内容を絞って検索する。
(まずは食い物をなんとかしないといかんからな)
そう思い現状手に入りそうな食料、海の幸の情報を検索する。何が捕れてどこが漁場かを調べるのだ。
石で作られた波止場にうつ伏せ右手を海に入れ、捕れる海の幸と漁場のことを念じていると掌に見えない力が集まってきたことを感じる。
(成功…かな?)
おそらく右手にホタテが具現化するのだろう。だとしたら落としてしまわないようにと、十三は海から右手を抜いて起き上がり胡座をかいて右手を見つめた。
やがて読み取られた海の記憶は十三の右手に具現化された。が、
(パンだと?)
それは予想に反してホタテではなく食パンだった。それもこんがり程よく焼けたトーストだ。
(…使用者によって食材の種類が変わるのか?)
あのタコのような自称九頭ドラゴンはホタテで良かったのだろうが、十三には焼きたてトーストの方がありがたかった。早速食べようと愛車に戻り、スタンドから持ってきた飲み物を取り出す。
(トーストだし、またコーヒーで良いか)
缶コーヒーとトーストを食べる。スマホの時計を見ると十三時過ぎ、昼食にはちょうど良い時間帯だ。
(時間の流れは地球とほぼ一緒だったよな)
クルールーの記憶と照らし合わせる。
この世界も一日約二十四時間らしかった。十三が転移して来た時とこちらの時間帯はほぼ一緒だったので、スマホの時計表示はそのまま利用出来る。
(ま、この世界も時差はあるから別のとこ行ったら意味ないだろうけど)
問題はまだこの島を出て行くあてがないことだが。
(しかし、焼きたてトーストだけでもありがたかったけど、チョコ味まで付いてるのな)
十三がサイコメトリーを使用して具現化したトーストにはチョコソースで味付けがしてあった。というより食パンにチョコソースで二次元コードが描かれていたのだ。おそらくこの二次元コードこそがサイコメトリーで読み取った情報であろう。
(まるで暗記パンだな)
某国民的人気な青狸のひみつ道具を連想した十三は今後このトーストをアンキトーストと呼称することに決めた。
ともかくサイコメトリーの効果で生み出されるものがホタテではなくトーストだったことは十三にとって朗報である。
(この辺りの漁場の情報も手に入ったけど、アンキトーストと飲み物があれば今日一日はなんとかなるだろう)
今すぐ食料確保のために漁に挑戦する必要はないと判断した十三は先に拠点を作ることにした。




