幕間―変わり者のオーガ―
―“ゲルシュの森”―
オールドランド大王国南西部。エルバレスタ侯爵領の最南端に位置する森林である。
巨大な樹木の生い茂るこの森林には、豊かな生態系と、それに引き寄せられる様に沢山の魔獣達が暮らしている。
“魔獣”
単に獣型の魔族を指してそう呼ぶのだが、彼等はその実、あまり通常の獣達との違いは無い。
―無論、剣と魔法の世界たるギャミングステイトにおいての“通常”だが。
彼等は魔王の影響下に入れば、その全てを魔王の命に捧げるが、魔王が再誕のサイクルに入っていれば、生命の使命たる“産めよ、増えよ、地に群がり、地に増えよ”に従うのだ。
そして、このゲルシュの森は約18年前に神滅された魔王の一柱、“繁殖王ドゥブロヴニク”が、その居所としていた地。
その為、魔獣達の生態系は大きく繁殖王の眷族たる“繁魔”に片寄っているのだ。
そんな森の中を一体の魔獣が歩く。
2メートル半程の巨躰に、赤黒く、筋肉質な肉体。
その頭部には二本の角があり、その形相は鬼の様―
否。鬼なのだ。
“オーガ”
“繁殖王ドゥブロヴニク”が眷族にして、この森林北部の王者。
ユーリ達が、“アイゼン”と名付けたオーガだ。
このアイゼンは変わったオーガだ。
通常、オーガは武器を扱える程度の、其れなりの知性しか持たない魔獣だが、このアイゼンは極めて高い知性を持っている。
自身で武器となる棍棒を作り出し、それを振るって“武技”と呼ばれる近接魔術を使いこなす程だ。
しかし、アイゼンを変わり者足らしめる点は、その知性では無い。
今、アイゼンの目には一匹の子鹿が写っている。
慌てて何かから逃げて来たのか、その体を倒木に挟み込んでしまい、必死にもがいているのだ。
肉食のオーガであるアイゼンは、この幸運を目の前にして、ゆっくりと子鹿に近付き、そして―
『ザァ、イゲ。』
どうにか体を起こした子鹿が、慌てて駆け出す。
そう、アイゼンは倒木を退かし、子鹿を逃がしたのだ。
彼は、“子”を殺さない。
例え自分が飢えていても、成長した個体のみしかその糧としない。
理由は彼にも分からないが、彼はずっとそうして生きて来た。
そう、アイゼンは変わり者のオーガ。
優しいオーガなのだ。
彼は子鹿が逃げるのを見ると、ホッとした様にまた歩き出す。
まだ彼は今日の糧を獲ていない。
狩りをせねば、飢えて死ぬ。
生命の使命に従って動き出した彼だったが、ある事に気付いた。
『…獲物…イナイ…生キ物…イナイ…?』
いつもならば生き物の声や気配を感じるのだが、今日は先ほどの子鹿以外を見ていない気がする。
彼は疑問に思いながらも歩を進め、そしてその音に気付いた。
『ナンノ…オドダ…?』
ブブブ…ブブブ…
響く様な重低音が聞こえる。
それも、尋常な数の音では無い。
アイゼンは音の出所を捜し、そしてそこで見たのだ。
巨大な龍の影を―




