シャオの秘密
シャオたちが海上で戦闘をしていた次の日、カルディナにエルフがやってきていた。
その数は数百人。
先日、カルディナの西にある海に近いカロの町は、エルフによって壊滅していた。
そのエルフたちが、今度はこのカルディナへとやってきたわけだ。
本来ならカロの町も守りたい気持ちはあったが、カロは独立を宣言した町であり、トキョウの人間が勝手に戦闘行為など行うわけにはいかなかった。
「何としても町への侵入を防ぐわよ!」
「でもみんなかなりの使い手のようです。油断できません」
「新選組おせぇ~なぁ~‥‥」
「おいらにまかせんかい!」
「私は上空から行きます」
「皆さん、きますよ」
アサミとアサリは前線で剣を構えた。
シュウカはその横でウェヴスォードを眠そうな目をしながらブンブンと振っている。
チンロウは肩に剣を乗せて待ち構え、サンゲンは空へと上がった。
「来ました!」
チューレンの声に、皆が対応する。
エルフは一斉に魔法攻撃を仕掛けてきており、それはかなりの迫力があった。
シュウカは扇子を展開し、攻撃魔法を魔法防御で止める。
「数が多すぎる‥‥それに強い」
防ぎきれない魔法が各々を襲った。
「私もサポートに回るよ!」
すぐにアサミはマジックシールドを展開したが、いくつかの魔法が近くで爆発した。
「長距離戦だと分が悪いですね」
「チンロウ、接近できるかぁ~?」
「連続でこれだけの魔法は、ちょっと厳しいんちゃうか?」
「空から攪乱します!」
チンロウはスビードを生かし回り込もうとする。
サンゲンは逆ルート上空から敵の側面へと回った。
しかし数に勝るエルフの攻撃は、楽に接近できるものではなかった。
更に魔法の発動も早い。
練度が魔法発動までの時間を決めると言えるが、その他にも魔法発動が早くなる要因はいくつかある。
エルフは魔法を使う為に生まれた人間だ。
頭の回転が早く、それは魔法発動の為の構築も早いと言えるわけで、連続して魔法を使う事ができた。
その上持っている己が魔力も大きいわけで、下級魔法ですらその威力は大きかった。
「ムリムリ早すぎる!」
「接近は困難です!」
チンロウもサンゲンも何とか接近を試みてはいたが、かなり厳しかった。
「わたくしも行きます。アサミ!援護をよろしくね」
防戦一方だったアサリだったが、白のオーラを纏って一直線に接近する力技に出た。
エルフの攻撃魔法は、アサミとシュウカの扇子によってかなり防いではいたが、いくつかはアサリに直撃する。
それでも膨大な魔力を持つアサリは、白のオーラによる鎧で、ダメージをほとんど受けていなかった。
「行けます!」
アサリがその距離を半分まで詰めた時、エルフたちは何やらブツブツと呟き始めた。
「呪文?」
「でがいのがくるぞぉ~」
いつも寝ぼけた表情のシュウカも、呪文と聞いて意識を集中させた。
呪文とは、魔法の組み立てを素早く確実にする為にあると言われている。
そしてそれを行うのは、大抵が大きな魔法、或いは複雑な魔法を発動する時。
例えば黒魔術のエネルギーブラストは、術者の中で最低の威力のものを放つ場合、単純に『魔力を集める』から『放つ』と、これだけに集中して頭の中で念じる事になる。
基本的にはこういった単純な魔法が一番早く発動できるので、戦いの中では使用されやすい。
もちろんこれだけでも術者の能力や魔力によってはかなりの威力を持ったりもするが、その術者の中では最低レベルとなる。
逆に例えばテラメテオだと、魔法の組み立ては『魔力を集める』を10回ほど発動までに繰り返し、『空気の電子運動の加速で加勢』し、更には『魔力を燃やして』『放つ』と、念をかなり複雑に組み合わせる事になる。
頭の回転の良さ、魔力を高める時間(回数)を減らせるだけの魔力、或いは一度に多くの魔力を集める能力、魔力効率の良さなどによって、同じ威力の魔法を短い時間で放つ事はできる。
それはつまり、魔法は経験値に左右される所が大きいとも言える。
その経験値を補うのが呪文である。
エネルギーブラストは、『魔力を集める』から『放つ』の2つの念を、『エネルギーブラスト』と声に出す事によってまとめる事ができる。
呪文に規定は無いが、自分が分かりやすくイメージしやすい言葉を声に出す事になる。
分かりやすく説明すると、『走る』という動作を、一々手の振りや足の動きを個々に考えて動かす事など普通はない。
『走る』と考えれば皆自然と体が動く。
それと同じで、『エネルギーブラスト』といえば、自然とそれが一つの動作としてできるというわけだ。
もちろん複雑になってくれば、言葉一つにまとめられるかは術者の能力にもよるわけで、普通は経験値を補う程度のものだと考えられている。
確認しながら工程を経るという意味合いもあるので、失敗しにくいという部分もあるが、シャオほどの上級魔法使いであれば、呪文を唱えるメリットなど相当複雑で強大な魔法にしかありえないと言えるだろう。
ちなみに魔法の組み立てや理屈は、必ずしも正しい必要は無いし、シャオのように生まれながらに感覚でいくつかの工程、或いはその全てを知る者もいる。
ようは思いの強さ、信じる心が大切なわけだが、呪文にはそれらを明確化するという意味でも役に立つと言えた。
他にも、ロッドやマジックアイテムなどで魔法を補佐する事もできる。
ロッドが呪文の代わりだったり、役割を分担したりしているわけだ。
このように呪文やアイテム装備によって、魔法はその威力や正確性を増す事ができる。
ただ、先に述べたように『失敗しにくい』という部分は確かにあるが、自分の魔力や能力を正確に把握していない人は、逆に無理をして失敗する場合もある。
魔力を高める過程を、残り5回が限界の人が、10回繰り返す呪文を唱えても魔法は発動しない。
あくまで確実に発動できる魔法に限り失敗しにくいだけで、この辺りで失敗する事はよくある。
その失敗は、ギリギリの戦いの中ではリスクが大きい事もあり、普通戦闘中に使用する事はあまりない。
そんな呪文を、エルフたちは唱えたというわけだ。
エルフたちの魔力は一気に高まった。
そしてそれはアサリへと向かった。
「ダメだ!」
シュウカはアサリを止めようと、その前方へマジックシールドを展開。
更にその前に扇子による魔法防御を展開した。
しかし両方ともエルフから放たれた強力なエネルギーブラストに飲み込まれ、そしてアサリと、更に後方にいたアサミたちをも飲み込んだ。
「呪文でいったい何枚のスペルを重ねているんだ?こんな強力なエネルギーブラスト見た事ねぇ~」
スペルとは呪文の事であるが、この時シュウカの言ったスペルとは、魔法工程の1つ、或いは1つの念の事である。
今回の攻撃で言えば、『魔力を集める』という魔法工程(念)を、何回繰り返して『呪文』としているのか、その数に驚いたという事だ。
呪文の長さから、シュウカは10回程度だと判断していたわけだが、威力はそれ以上だったこともシュウカを驚かせた。
最前線で攻撃を受けたアサリは、後方へと飛ばされる。
それをシュウカが受け止め、掌を向こうへ向けて、再び魔法防御の結界を展開した。
直後全ての魔力の塊は皆を通り過ぎた。
「はあ、はあ、スペル、12枚でした‥‥」
チューレンはそう言うとその場に倒れた。
「うっ……」
アサミもかなり飛ばされ、シュウカの後方で尻餅をついて倒れていた。
アサリはシュウカの腕の中で気を失っていた。
「ん~見捨てる訳にもなぁ~‥‥」
シュウカは1人で戦う事に優れていた。
だから周りを無視して戦いたかった。
あくまで本人の能力が出しやすいという意味でだが、とにかく主力が倒れた今、1人になる方が良いと考えた。
「チンロウ、サンゲン、この子たちを連れて逃げてくれ」
シュウカの言う通り、チンロウとサンゲンが倒れた仲間を連れて行こうとする。
しかしまたもエルフの攻撃が襲ってきた。
「時間差?しかも威力が予想つかねぇ~」
味方がまだ後ろにいる以上、かわす訳にもいかない。
シュウカは再び扇子の魔法防御と、自らのマジックシールドを展開した。
「ダメだぁ~強すぎるぅ~」
シュウカが諦めかけた時、上空に大きな影が見えた。
直後エルフが放ったエネルギーブラストの魔力は消失していた。
「魔力解体?」
魔力解体とは、魔法無効化の別名である。
「大丈夫かー?」
ドラゴンに乗るシャオが上空から声をかけた。
「シャオ……」
アサミはシャオの姿を見て、安心して気を失った。
「みんな結構辛い状況ね」
シャオとアイはドラゴンより飛び降り、皆の前に立った。
「後は俺たちでやるよ」
シャオは笑顔でサムズアップして見せた。
そんな中でも、エルフは続けて魔法による攻撃をしてきた。
今度も先ほどと変わらない、いや、更に大きなエネルギーブラストだった。
「魔法防御!」
アイが魔法防御を展開すると、飛んできた魔力の塊はアッサリと消失した。
「凄い魔法防御だぁ~‥‥」
シュウカはただ驚いていた。
「魔矢!」
シャオは魔法防御を迂回するようにマジックミサイルを放つ。
その数は相変わらず数えきれない。
それに対応して、無数のマジックシールドを展開するエルフたち。
マジックミサイルのほとんどはそれで防がれた。
しかしそのタイミングで、エルフたちの後方から現れたのは、新選組の4人だった。
「殺さないようにしろ!」
「陸地じゃ負けねぇーよ!」
「はははー楽しー!」
「油断は禁物ですよ」
新撰組の突然の参戦に、エルフたちのコンビネーションバランスが崩れた。
「今だ!」
「あっ、殺すなよw」
シャオの言葉に少し戸惑ったシュウカだったが、「はいよぉ~」と返事を返した。
扇子による遠隔攻撃は、エルフの手足に命中していた。
「さて、もう一度魔矢!」
再び放ったマジックミサイルは、今度は全てがエルフの手足に命中した。
「じゃあ私もー!魔矢!」
アイも同じように攻撃する。
それはエルフに大きなダメージを与えるものでは無かったが、足を止めたり体のバランスを崩させたり、エルフの行動を制限していた。
それをうまく利用し、新選組の4人がエルフを攻撃していく。
シュウカもその隙を突いて、扇子で1人ずつ戦闘不能状態へとしていった。
更に糸も使いながら、地味に相手の動きを封じていた。
エルフの動きが衰えてきた。
「呪縛!そして束縛!」
「魔力解体!」
シャオは全てのエルフを拘束にかかる。
それをレジストしようとするエルフの先を読んで、アイもレジストを阻止する為に魔法を放った。
2人のコンビネーションは、一瞬のズレも無かった。
気が付けば、全てのエルフはシャオに捕らえられていた。
「流石にシャオだなぁ~‥‥ってか、それよりもアイが凄すぎぃ~魔力を集めるのを邪魔するとか、どんだけぇ~って感じぃ~」
戦いが終わり、シュウカは黙ってシャオたちを見ていた。
アイはすぐにアサリとアサミを治癒していた。
再開を喜ぶアサリとアサミに「ちょっと待ってね!」と言うと、今度はエルフたちの治癒も始めた。
アイの行動に皆少し苦笑いしたが、変わっていないアイを嬉しく思った。
間もなく新撰組が連れて来たエルフたちも合流し、捕らえたエルフは300人を超えていた。
「流石にこの人数は多いな。ドレインの牢ってこの町にあるの?」
「小さいのが1件だけだなぁ~」
シャオの質問に、シュウカはそうこたえた。
その辺りの心配をしていたのはシャオとシュウカだけで、アイやアサリやアサミは再会を喜んでいた。
「アサリちゃんもアサミちゃんも大きくなったねぇ」
満面の笑顔のアイに、アサミは抱き着き、アサリはそれを笑顔で見ていた。
シャオとシュウカは苦笑いするしかなかった。
「おーい!再会を喜ぶのは後にして、エルフたちを早くなんとかしたいんだが」
シャオはアイたちに声をかけた。
「んー‥‥牢も無いなら、解放するしかないんじゃないかな?」
アイは特に考える事もなく、それが当たり前と言わんばかりにアッサリとこたえた。
「これだけ苦労させられたのに、そんな事をしたらぁ~‥‥」
シュウカはアイの発言に驚いたが、シャオとアイの力を見れば、それも可能なのかもしれないと思った。
「じゃあそうすっか?まあ何人かは話聞きたいから置いておくとして‥‥」
シャオはエルフたちを見回した。
その中に1人、他とは少し身なりの違う者がいるのに気が付いた。
「ねえ。この中であんたがリーダー?」
シャオはそのエルフに訊ねた。
「我々にそのような決めごとはない」
そのエルフはそうこたえたが、他のエルフが口をはさんでくる。
「しかし一応まとめ役だったのはそいつだがな」
そんなエルフたちを見て、シャオは少し考えてから提案した。
「俺たちとしては、別にあんたらと戦う気はないんだよね。だから別にこのまま解放してもいいんだけど、また町や人間を襲われても困るわけでさ。もう町や人間を襲わないって約束してくれれば解放するけど?あんたら2人にはちょっと話が聞きたいから残ってね!で、どうかな?」
エルフたちはシャオの言葉に驚いていた。
流石に自分たちを殺そうと襲ってきた者を開放するなんて、そんな事はないと考えていたからだ。
「何故?そんな約束こちらが守るとも限らないだろ?今殺しておかないと後悔するかもしれんぞ?仮に我々が約束を守ったとしても、他の者たちはおそらく人間の駆除を続けるはずだ」
「そうだな。でも俺たちは人を簡単に殺すような野蛮人ではないからな。まあそっちが又、人間に危害を加える野蛮人だってなら、その時はそれなりの対処はするけどさ。そもそもあんたら俺達よりも賢くて、森を愛する優しさを持った種族なんだろ?そんなエルフが、約束を破ったり話し合いにも応じないなんて、そんな事あり得ないよね?」
シャオに言われたエルフたちは、『やられたな』といった感じで失笑するしかなかった。
「とりあえず今日の所は約束しよう。ただ他の者を説得できるかどうかは分からない。それでもいいならな」
エルフの言葉に、シャオは「オッケー!」と一言いってから、アッサリと全てのエルフの拘束を解いた。
再びシャオたちに襲い掛かろうとする者もいたが、別のエルフがそれらを止めていた。
「じゃああんたとあんた‥‥えっと、名前は?」
「私はエルファンだ」
「俺はエルフィン」
少し似た名前に、シャオは苦笑いした。
「あ、そう。じゃあエルファンとエルフィンは話があるので残ってくれ。後は帰っていいよ」
シャオは掌をあちら側へ振って帰るよう促した。
するとエルフたちは少し戸惑いながらも、1人、また1人と森へ入っていった。
エルファンとエルフィンだけが残った。
「じゃあまあ立ち話もなんだし、えーっと‥‥」
シャオはシュウカを見た。
「じゃあ領主の屋敷へどうぞぉ~」
シュウカに案内されて、シャオたちは屋敷内の応接室へと向かった。
応接室に入ると、早速話を始めた。
「それじゃあ聞かせてもらうよ。まずはエルフたちは今、何処で生活をしているのか。だいたいの場所が知りたいんだけど」
「そうですね。元々我々は、この町の西、黒海に浮かぶ島で暮らしていました。今はこちらに半分くらいが移りすんでいます。半分は移り住むというよりは、人間を駆除する為にやってきているといった感じでしょうか」
シャオはエルファンの様子を窺いながら、次の質問をした。
「その島、黒の霧はかかっているのか。或いは最近晴れたという事はないか?」
シャオの質問の意図が、まだ皆は分からないでいた。
「我々の島に黒の霧がかかった事はありません。島の周りに6つの島があり、そこに不思議な穴が存在します。その穴に向けて黒の霧が流れ込んでいるようです。島の周りという事であれば、未だ黒の霧は少し残りますし、以前は濃い黒の霧がありました」
シャオはアイを笑顔で見た。
「やっぱり‥‥それで、その穴にエルフが入ったという話はあるかな?」
「ええ、以前に何人かが入っています。ただ、誰も戻ってはきませんでしたが」
エルファンは少し寂しそうな顔でそう言った。
シャオは話を聞いて、全てが分かったと納得の表情で頷いた。
「そうか。これで全てが分かったよ。皆少し話を聞いてくれ」
シャオは姿勢を正し、少し真剣な表情をした。
皆は黙って頷いた。
「俺とアイはここ3年、黒の霧の中であるモノを探していた。エルファンの言った穴、黒の霧の入る穴だ。それは間違いなく魔界への小さな門だろう」
「ほぅ~」
「そなんだ‥‥」
興味がある無しは人それぞれで、皆それぞれの反応を返した。
「何故それを探していたかって理由だけど‥‥俺が魔獣退治に南の大陸へ行った時、魔界への門の封印が僅かだが緩んでいたんだ。魔界の門が閉じられて以来、黒の霧は少しずつ減っていた。つまり黒の霧は魔界と何らかの関係があるという事。仮に魔界から黒の霧が来ていたとして、それが減ったとなれば、魔界へと向かうルートが別に今もあると考えられる。そして閉じた魔界の門が排気口だとすれば色々と説明がつく。受け継ぐ者の本にも、門の創り方なんて書いてはいない。初めからそこにあったと考えるべきだろう。吸気口があれば排気口も必要だ。南の大陸の門は、元々少しだけ隙間が開いた状態であったんだろうな」
シャオはそこまで話すと、懐から1冊の本を取り出した。
それはかなり古いものだった。
「これは南の大陸に帰った時、家で見つけたものだ。俺のかなり前の先祖、7代くらい前の祖母くらいかな。ハッキリとは分からないけど、その婆さんが書いた日記だ」
シャオはそう言うと、あるページを開いた。
そこには人の顔が描かれており、下に『私の夫』と書かれている。
その描かれた男の顔なのだが、耳が尖るように大きかった。
「えっ?これって?」
「なるほどねぇ~」
「これは、我々と同じエルフでしょうか‥‥」
そういうエルファンは、少し動揺しているようだった。
他の皆も驚いていたが、何処か納得する所もあった。
此処に書かれている事が事実であるなら、シャオにはエルフの血が流れているという話になる。
シャオの魔力が桁違いに大きい事も、魔法コントロールに長けているのも、生まれ持った素質といえるのだろう。
「この婆さん、一度魔界に言ってるみたいなんだ。日記には、アサリとアサミに渡した風神と雷神の剣も、その時手に入れたと書いてある。確かに、こっちの世界には存在し得ないアイテムだろう。親父が何処で見つけたものだと思っていたが‥‥」
シャオはページをめくった。
「そして吸気口側から入ったエルフは帰ってこなかった。そのエルフがどうなったのかは分からないが、おそらくこの婆さんとの間に子を残した」
シャオは自分の目を指さした。
「赤いって言われればそうかもしれないけれど、ってくらいだけどね」
「うーん‥‥全然わかんないね」
一見しただけでは分からないくらいの色だが、誰かと比べるとアイのいう事も分かるくらいの違いは見てとれた。
「それでエルフたちを逃がす事にしたのかぁ~?」
シュウカはいつも通りの眠そうな顔で訊ねた。
「どうだろう。特に自分では何も思う所はないかな。人間だろうとエルフだろうと関係なく殺したくはない。ただそれだけだと思う」
アイはシャオの横で、満面の笑みを浮かべてシュウカを見た。
「そうみたいねぇ~」
シュウカも、別にシャオを不審に思うとかそういう感情はなく、ただ何となく聞いただけだった。
「となると、エルフと人は交配できる。つまりは同じ人間と言えるわけですね」
「見た目はさほど大きくは変わらないし、少なくとも害虫と蔑むのは違うのだろうな」
「人間同士でも男女や国によって考え方に違いがあるように、エルフと人間も少し考え方に違いがあるという事だな。ちゃんと話せれば、おそらくは共に生きる事も可能だと思う」
エルフたち、そしてシャオの言葉に皆は同意して頷いた。
「そうだね。それにエルフってなんか美形だよね!私は仲良くできそう!」
「女性は綺麗な人が多いよなぁ~」
「人間の女性だって、綺麗な人は大勢いますよ!」
アサリはシュウカを笑顔で見つめた。
「あぁ~そうだなぁ~」(アサリたん、その笑顔が怖いよぉ~)
「話がズレてきたけど、仲良くできるように皆でやっていきたいと思う」
シャオがそう言うと皆が頷いた。
「しかし、人間が森を破壊する以上、それに対する我々の感情を抑えるのは難しいと思います。森を守るのは我々の本能ですからね」
「それでも殺す必要はないし、無理な場合は接触を避けるしかないかな」
「とりあえず俺たち2人が此処で話せている事を考えると、無理ではないと思うがな」
エルファンの不安も尤もだが、エルフィンの言う通りでもある。
皆、なんとかできるのではないかと思えた。
「そうそう、こうやって1人ずつでも仲良くなっていけば良いんだよ!」
アサミの言った事がみんなの答えだった。
「でも‥‥早くしないと‥‥」
シュウカは、アイの言った事に気が付いた。
「魔界の穴か?」
アイやシュウカの言った意味が、アサミたちには分からなかった。
「そうなんだ。俺とアイは南の大陸の魔界の門の様子から、早く別の入り口を見つけ、閉じなければならないのではないかと考えていた。それを探す旅でもあったんだ。どういう訳か南の大陸の門は少しずつ開き始めている。もしかしたら門が壊れる可能性もある。そうなったら再び黒い霧に覆われるかもしれないし、魔物も自由に行き来できるようになってしまう」
シャオの話で皆理解した。
「つまり魔界への扉を閉じるには、そこに行かなければならないわけでぇ~‥‥それをエルフたちが黙って見ていてくれるのかって事だねぇ~」
シュウカは話しながらエルファンの顔を窺った。
「そういう事でしたら、私が皆に話してみます」
「でも期待はしないでくれよ。いつかは分かり得る時が来るとは思うが、それがすぐにできるかと言えば難しいからな」
「ああ、それでも頼む」
話は終わり、エルファンとエルフィンはエルフの島へと戻って行った。