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パンドラの箱

 パンドラの箱といえば、「箱の中には絶望が詰まっていて、その奥には希望がある。」ということで有名ですが、そのパンドラの箱が出てくる話が一体どんな話なのか、私は知らないんですよ。そもそも、そんな物語があるのかどうかすら、自信がありません。あるとしたら、どんな話なんでしょうね。


 前回、「メアリーの秘密」が明らかになりましたね。鋭い人は、メアリーの陰謀にも気がついたのではないでしょうか。(原作をプレイされた方は、もちろん分かっていると思います。)

 さてさて、イヴたちの冒険も佳境に入ってきました。メアリーの目的は?イヴたちは無事脱出できるのか?最後まで楽しんでいただけると幸いです。

 イヴとギャリーは、階段のある部屋に入る。階段の前には、相変わらず『無個性』が立っていた。

「これね。アタシに任せて。」

 ギャリーは、『無個性』の隣に立つと、力を込めて押す。すると、『無個性』は重い音を立てて動いた。イヴは、今入ってきた扉の向こうを見る。

(メアリー・・・)

「よし。これで先に行けるわ。」

 ギャリーがイヴの手を取る。イヴが見上げると、ギャリーが静かに頷く。メアリーが、あの不気味な作品たちと一緒なんて―。イヴは、メアリーの明るい笑顔を思い出す。ギャリーが手を引くので、イヴは歩き出す。

 階段は長かった。いくら降りて行っても、先が全く見えなかった。一体、どのくらい深いところまで来たのだろうか。

「ねえ、イヴ。アタシたち、出口を探してるのよね。なのに、アタシたち、ずっと降りてばかりじゃない?・・・ごめんなさい。不安になるようなこと言って。」

 イヴは、首を横に振る。一体、私たちはどこに向かっているのだろう?本当に、この美術館に出口はあるんだろうか。イヴは、『ある少女の末路』の最後の挿絵を思い出す。

 さらに降りていくと、階段の終わりが見えてきた。ただ、その先は普通の廊下ではなさそうだった。二本のピンクの線が書いてあるだけだった。二人は、階段の最後の段を降りる。

「なんか、クレヨンの匂いがしない?」

 イヴは、匂いを嗅ぐ。たしかに、クレヨンの匂いがした。床に書かれている線も、クレヨンで書いたもののように見えなくもない。

 二人が先に進むと、家が見えてきた。まさに、子供がクレヨンで画用紙に書いたような家だった。

「なんなの、ここ・・・。なんか、現実味がないんだけど―。」

 ギャリーは、その家の扉に手をかける。外見が平べったいこの家に、中があるのだろうかと思ったけれども、扉を開けると、ちゃんと家の中があった。二人は家の中に入る。

 家の中には、机やタンス、時計などがあった。もちろん、それら全てクレヨンで書かれているものだった。机の上には、リンゴの山が置いてある。

「誰か来た!隠れて!」

 ギャリーとイヴは、衝立の裏に隠れる。ちょうどそのとき、家の扉が開いた。ギャリーは、こっそりと様子を伺う。

「・・・!」

 そこにいたのは、メアリーだった。手にパレットナイフを握って、周囲を見渡している。

「イヴ、ギャリー。どこに行ったの?私を置いていかないでよ。」

 ギャリーは、咄嗟にイヴを抱える。このままだと見つかる。メアリーの隙をついて逃げ出すしかない。ギャリーは呼吸を整える。

「・・・イヴ・・・。」

 メアリーは、そのまま外に出ていった。どうやら、助かったらしい。ギャリーは、大きく息を吐き出す。

「あの子、もう追ってきたんだわ。」

 二人は衝立から出る。すると、ギャリーは、机の上に鍵が置いてあるのに気がついた。鍵には札が付いていて、こう書かれていた。

『びじゅつかんのかぎ』

「美術館?美術館って、ここのことかしら?でも、これもクレヨンでできてるし・・・。」

 ギャリーの手の中にある鍵は、クレヨンで出来ていて、この場所でしか使えなさそうだった。おそらく、この場所に『びじゅつかん』があるのだろう。

「ねえ、ギャリー。メアリーは、ここから出られないのかな?」

 ギャリーはイヴの方を向く。イヴは、まっすぐギャリーを見ていた。

「メアリーは、人間じゃないから。ここから出るなんて、もともと無理なんじゃないかしら?」

「でも―」

 イヴは、そこまで言って言葉に詰まった。「一緒にここから出ようね。」そう言ったメアリーは、嘘を言っているようには見えなかった。それとも、それこそがメアリーの罠なのだろうか?

「とにかく、『びじゅつかん』を探しましょ。考えるのは、出口を見つけてからでも遅くないわ。」

 二人は部屋の外に出る。

 『びじゅつかん』は簡単に見つかった。家を出て、まっすぐ歩くとそれらしい建物が見えてきた。表札にも『びじゅつかん』と書かれていた。ギャリーは、鍵穴に鍵をさしこみ、扉を開ける。

 『びじゅつかん』に入ると、正面の壁に絵が描かれていた。見覚えのある三人が描かれていた。

「これ、アタシたちよね―。」

 壁には、クレヨンでイヴとギャリー、そしてメアリーが描かれていた。まるで、子供が描いたような絵だった。三人とも、それぞれ赤いバラ、青いバラ、黄色いバラを持っていた。メアリーの近くには、青い鬼がいた。

「もしかして―」

「なに?どうしたの、イヴ?」

 ギャリーに尋ねられたイヴは、首を横に振る。もしかしたら、この絵はメアリーが描いたんじゃないか。イヴはそう思ったものの、口に出すことはなかった。三人とも、笑顔だ。

(メアリー。やっぱり、あなたは―)

「あの箱、なにかしら?」

 ギャリーが、部屋の真ん中にあった箱を見つける。その箱に近づいてみると、蓋になにか書かれていた。

『パンドラの箱』

「パンドラの箱ってまさか、あの悪夢が詰まっているとかいう、あれ?」

 ギャリーは、その箱を開けることを躊躇う。すると、イヴがなんのためらいもなく箱を開ける。

 箱を開けると、太陽の形をしたものやハートの形をしたもの、三日月型のものなどが一斉に飛び出し、部屋の外に出ていった。それ以外のことは、何も起きない。咄嗟に身を引いていたギャリーは、姿勢を正す。イヴは、身を乗り出し、箱の中に手を伸ばしていた。

「・・・ホント、あなたの勇気には感心するわ、イヴ。」

「だって、パンドラの箱の奥には希望があるんでしょ?」

 イヴは、そう言って箱の中から取り出したものをギャリーに見せる。鏡だった。

「あら、鏡じゃない。それが希望になるといいわね。」

 イヴが先に進む。ギャリーはそれに続く。


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