メアリーの秘密
この話を投稿するとき、ものすごい失敗に気がついてしまいました。「この時点で、読者は既に『メアリーの秘密』を知っている。」ということに気がついてしまったのです!
そのことに気がついた途端、どうしても改稿したい気持ちを抑えることができませんでした。ですので、『審判』と『メアリーの秘密』をわずかに改稿してしまいました。
ここまで読んでくださった読者の皆様。私の詰めの甘さと身勝手な我儘のため、多大なご迷惑をおかけします。本当に、申し訳ありませんでした。
「さて、それじゃ、先に行きましょうか、と言いたいところなんだけど―。なんか、アタシ、記憶が混乱してて、何していたのか思い出せないのよ。」
ギャリーが腕組をし、首をかしげる。ギャリーは、絵の具玉を集めていたときの記憶だけがなくなっていた。
「・・・別に、もう思い出さなくてもいいんじゃない?こうやって、合流できたんだし。」
イヴには、そう言ったメアリーの表情がどこか曇っているように見えた。さっきから、メアリーの様子がおかしい。
「それはそうなんだけど・・・。なにか大事なことを忘れているような気がするのよね。なんだったかしら?」
「とにかく、行こうよ。上の階に、階段も見つけたし。」
思い出そうとするギャリーに対し、メアリーがそう提案する。そうだ。ギャリーがいる今なら、『無個性』の向こう側に行けるはずだ。
「そうね。それじゃ、もうひと頑張りしましょ!」
ギャリーがそう言うと、三人は歩き出した。三人は扉をくぐり、階段を上る。
階段を上りきったとき、二人の後ろを歩いていたギャリーは、メアリーのポケットから何かがこぼれ落ちたのが見えた。黄色いバラだった。
「メアリー。バラ、落としたわよ。」
ギャリーがかがんで黄色いバラを拾う。
「わっ!?」
ギャリーは何かに突き飛ばされ、尻餅をつく。ギャリーが顔を上げる。そこに立っていたのは、メアリーだった。怒りで顔が歪んでいる。
「触らないで!」
「ちょ、っと!」
メアリーが、ギャリーから黄色いバラを力づくで奪おうとする。ギャリーは、突然の出来事に混乱していた。
「ギャリーなんか、ずっとあそこにいればよかったんだよ!」
メアリーが何かを取り出そうと、ポケットに手をいれる。ギャリーは思わず、メアリーを突き飛ばしてしまう。メアリーは突き飛ばされ、床に頭をぶつける。
メアリーは小さな呻き声を上げると、横になったまま起き上がらなくなった。小さな身体が呼吸に合わせ、静かに上下している。
「イヴ。アタシ、思い出したわ。」
床に横になっているメアリーの姿を見て、ギャリーは忘れていた記憶を思い出した。
それは、ギャリーが『ゲルテナの作品集(下)』を開いていたときのことだ。『ゲルテナの作品集(下)』を開いていたギャリーの目には、ひとりの少女が映っていた。ギャリーは、慌ててその絵の紹介文を読む。
『メアリー』
ゲルテナが手掛けた、生涯最期の作品。ゲルテナが倒れていたアトリエに置いてあったもので、公には発表されなかった。
まるで、そこに存在するかのように佇む少女だが、もちろん、彼女も実在しない人物である。
紹介文の反対側のページに、見覚えのある少女の絵が載っていた。金色のウェーブのかかった髪。緑のドレスに身を包み、青い瞳でこちらに向かって微笑みかけている少女―。
「な、なんで?え?うそでしょ・・・これ?」
見間違えようがなかった。ついさっきまで一緒にいた少女。明るく飛び回り、イヴと仲良く手をつないでいた少女。
「メアリー!?」
紛れもなく、それはメアリーだった。全く同じ少女が、この本に載っている。
「実在しない?どういうことなの?じゃあ、あの子は・・・。今、イヴといるのは・・・。まさか・・・。」
ゲルテナの作品?
「イヴが危ない!」
「―落ち着いて聞いてね。実は、メアリーもゲルテナの作品なの。ここで動き回っている他の作品と同じ。とてもそうは見えないけど―。」
ギャリーは手にしている黄色いバラを見る。よく見ると、そのバラはよく出来た作り物だった。イヴは、ギャリーの説明が理解できなかった。静かに横になっているのは、メアリーという名前の、ひとりの少女だ。
「うそ。そんなことないよ―。」
「とにかく、早く先を急がないと。この子が気を失っているうちに。」
ギャリーがイヴの手を引く。しかし、イヴはその場から動こうとしない。
「イヴ!」
「信じられない―」
「お願い!いまは、アタシの言うことを信じて!」
ギャリーがイヴの肩を掴み、まっすぐ見つめる。イヴは迷ったものの、ギャリーの言うことを信じることにした。イヴはギャリーに連れられ、扉をくぐった。




