南の滅亡2
大通りに降り立った私は、腰の渚を肩に乗せて大きく振った。
「どきなさい!」
家二つほどの大きさのミノタウロスを両断する。
そのまま渚を納め
「吹き飛べ!」
ミノタウロスの死体が周りの魔獣をさらに吹き飛ばす。
「建物に被害はないけど……それも時間の問題ね」
街の人が地下に逃げているといいのだけれど。
「運がなかったということと割り切らねば、また壊れるぞ」
「分かっているわ。それでも……」
再び群がってくる魔物たち。
術者を倒さなければ集まってくる一方だ。
「教えて」
風が教えてくれる。
「『天ノ鳴弓』」
刀が弓に代わりその弦を空に向かって引き絞る。
「うち貫け!」
放たれた矢は宙で分裂し、魔人の元へと届く。
一度かわして安心する魔人に通過したはずの矢が突き刺さる。
他人から自分にコントロールが戻ってくる一瞬の動作の硬直。
「四方雀!」
結界に魔獣が閉じ込められる。
「鳴神雀」
内側から砕け散る。
結界の中に雷が落ちたのだ。
一帯の魔獣や魔物が消失するのを確認する。
拍手が辺りに響く。
「成長されましたね」
「白か?」
「はい、九十九兄さんは東の防衛にあたっております。今のところ死者は出ておりません」
「血桜ってのはどうなったの? あれはあなただったのでしょう?」
九十九にそっくりな青年に近い姿と老紳士の姿を重ねることができるものはいないだろう。
「私は何もしておりません。あの村はとうに滅びていたのです」
屋根から飛び降りる。
「あの子の能力が死なせていなかっただけに過ぎなかったのです」
「代償は……何だったの?」
「彼女自身の長寿を用いたのですよ。村人の人数分の寿命を自分が負うという方法です」
それだと……矛盾が生じるわね。
「彼女は一度死んだものをもう一度死んだと思ったの? 彼女の力ならよみがえらせることができるわよね?」
「龍炎さんに刈り取っていただきました。恐らく、彼女の力が当人のあずかり知らぬところで暴走したのでしょう。麻奈花さんにも架空のギルドを作っていただきましたし。まったく、あの夫婦には頭が上がりませんね」
いろいろ納得したこともある。
なぜ、美咲があそこで引き取られていたのか。
なぜ、そんな危険なギルドの討伐依頼がなかったのか。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!
爆音がとどろく。
「ドラゴンですか……」
「行きますよ」
「……了解」
「……!?」
百枝が立っている。
「弟子が来たってことは」
遅れて正面の門であったはずの大きな扉がドラゴンを直撃する。
白の後の言葉を引き継ぐ。
「……こうなるわよね」
「お主の仲間は馬鹿ばかりじゃな」
「それと伝言。東の姫は囚われたそうだ」
このタイミングで言うのね。
「ま、いずれにせよ。行かなきゃ世界が滅びるわけだし。とっとと行きますか」
少し嬉しかったのは、秘密である。