帰ってきた者達
修行というなの地獄については翔たちの会話から察してあげてください。
渚の口調を全面改変します。
あしからず
芽の月20日水曜日
「やっと帰ってこれたな?……よくもまぁ生きて帰ってこれたな」
たった2週間しかたっていないのに目の前に見える南の門が懐かしく思える。
それに時節、視界が揺らぐ。
「お腹すいたわ」
「いつもすいてるだろ」
「確かにいつもそんな風は気がしますね」
「千花ちゃんまで……」
「1日目にして2週間分の食料をすべて食べきる。何てことやっていましたしね」
「グッ!」
絶句する美咲。
食わないで生活するのは難しかったので獣を狩るしかなかった。
それで奮闘し疲れたところで特訓が始まるという悪夢のサイクル。
多分、九十九さんは初めからこうなることはわかっていたんだろう。
なんというスパルタだ。
美咲は助けを求めてほかの三人の顔を見るが月夜は笑うだけ、希と悠の返事はない。
まぁ、希は俺の、悠は明の背中で眠っているからだけどな。
「皆様、今日中に編入登録をお願いいたします」
九十九さんが口を開く。
「確か東通りだったな……行くか。で、この2人はどうすれば?」
希は大丈夫だが悠は年齢が届かないのではないだろうか?
その疑念を口にする。
「学校に来る方々にもさまざまな事情はございます。ですから、特例として読み書きができるならば入学することも可能です。なので、その心配はございません。それと、機能とサービスはほとんど使うことはできませんがギルドカードです。正確には準がつくのですが、ささいなことです。これがあれば身分証にはなるのでお2人にお渡しください」
手渡されたカードをポケットに入れる。
この服も過酷な修行をともにしてきたのに、ほつれや破れもない。
凄過ぎるぜぞ、まったく。
と、
背中からずり落ちそうになる希がわずらわしいので、だっこに変える。
気配はなるべく絶っているので、周りから奇異な目で見られることはないだろう。
「それでは後ほど」
と、言い残して九十九さんは消える。
さて、行きますか。
俺達は南門を通り抜ける。
カードを持っているためかあっさり通過。
美咲の言葉じゃないが昼も近いし、早く終わらせて飯にするか。
東通りに行くためにまずは中央広場へ向かう。
この王都の4つの通りを束ねる中央広場。
真ん中に立っているのは、建国時から残されている巨大な時計塔。
そこから、北西には王宮があり、その反対側の南東には図書館がある。
昼間でも仕事はあるのか、王宮への人々の出入りはあるようだ。
と
ここで希が目を覚ます。
そして、ばっちり目が合う。
「うぇ?ひゃんで?」
「落ち着け」
「何で起こすのよ。希ちゃんの寝顔可愛かったのに」
「文句は起きた本人に言え」
って言うか、俺に言われても困る。
「そんなこと言えるわけないでしょ」
「じゃあ言うな」
美咲との掛け合いの間に意識が回復したらしい。
「な、何で私、だっこされているんですか?」
「それはあいつが変態だからよ」
な!……伏兵だと!?
月夜よ。
まだそれを引きずっていたのか?
「変な事言うな。いらん誤解を招くだろ!……仕方ないだろうが。いくらこいつでも長時間背負うのは厳しいんだからな。」
「そうだったんですか。翔さんは変態だったんですね」
ワンテンポ遅れて反応する千花。
なぜか、千花にいわれると心に刺さる……じゃなくて。
「待て。何勝手に納得してるんだ!それから、明!お前、表情変わってないくせに面白がっている雰囲気が駄々漏れだ!」
「あれそうでしたか?僕は正直者なのでつい」
「いや違うのではないでしょうか?」
「千花ちゃん、そこはもっとびしっと突っ込みなさい」
「……なぁ…行かないのか?」
どうやら、悠も起きたらしい。
すると、とたんに黙る。
「行くか」
「はい」
「そうだね」
「とっと行くわよ」
俺の言葉に三人が答える。
多分、素直に反応したのは年下のはずの悠に負けた気がしたからだろう。
東通りに向かう。
辺りに薬の臭いが立ち込めていて
千花が苦しんでいる。
「臭いが鼻についてきます」
涙目で訴えてくるのだが、俺にはどうしようもない。
ので、美咲を見る。
「無理よ。治すことはできても鈍らせることはできないわよ」
「だよな。よし」
「『天羽』」
風が起こる。
この2週間で、渚がなくとも大分操れるようになった。
無論、消費も少なくなった。
が、まだ起きてこない。
俺が天羽を操れるようになれば起きるのかと思ったがどうやら違ったらしい。
風で千花の周りを包む。
「はぅぅぅ?臭いが消えました」
「区切ってるだけだから、この結界が消えれば臭いがするぞ」
「すごいですね」
「やるじゃない」
また歩き始める。
「やっぱり、ここは回復薬とか治療薬とか売っているわよね」
美咲の見遣る先で薬が売られている。
「今の2つは何が違うんだ?」
「回復薬は体力や魔力を回復するもので治療薬は病気を治したりするものことよ」
へぇ~。
「だから、風邪薬や麻痺や毒などに効く薬草は治療薬で、ポーションやリジェネ、エーテルは回復薬なのよ。その回復薬の中で需要はエーテルがほとんどね」
「なぜだ?」
「簡単よ。私みたいに治せばいいのよ」
「確かにそうですね」
明も知らなかったのか?
いや、需要なんて知ってても商人になるわけじゃないしな。
と、商人の娘に目をやる。
商人の息子の方は興味がなさそうなのだが、こっちは興味津々らしい。
「そうだったんですか。私の家は家具や小物がほとんどだったんで、知りませんでし……あぅ」
みんなの視線が自分にむいていることに気づいたらしい。
「話を戻すけど、間違ってはいけないのは、ポーションで怪我が治るわけではなく、その傷から発生する病気などの抵抗力が上がるだけなのよ。リジェネは体力回復を促進するだけよ。使うだけで傷が消えるのは、フェニックスの尾とか世界樹の雫ね。どっちも今はどこにあるのか謎だけど、翼族はフェニックスの、樹族は世界樹の在り処を知っていると言われているわ。これで翼族は人を避けるようになったし、樹族も世俗との交流を減らしているわ」
人の欲ってやつか。
「早く行きましょ。お腹すきすぎると動けなくなるしね」
巨大な建物が目の前にある。
月夜の屋敷と同等か、それ以上。
門を通り中に入る。
中から、声が聞こえるので、休みと言えども活動はしているらしい。
受付と書かれたプレートの入ったドアをノックする。
「どうぞです」
「……失礼します」
入って行くと悠と同じくらいの身長の子が1人。
「入学希望者でいいのですか?」
「あぁ。受付の人は?」
「私ですよ。ですからカード見せてくださいです」
「どう思う?」
美咲に聞く。
「かわいいは正義」
明に聞く。
「面白いですね」
千花に聞く。
「この子お持ち帰りできますか?」
悠に聞く。
「俺にわかるわけないじゃん」
希に聞く。
「月夜さんに聞くのが早いかと」
犯罪者になりつつあるのが2名。
ポーカーフェイスの馬鹿が1名。
常識が2名。
「変態が1名」
「そうそう。俺は変t…って、違うわ!!で、どうなんだ?」
月夜なら知っているはずだ。
「この人、校長先生よ」
「へぇ~。そうなんだ校長せn…!?そんな馬鹿な!!だまされてるのか?……どう思う?」
「かわいいは正義!」
「いや、解答になってないしさっきと変わってないし。じゃ、明?」
「それも面白そうですね」
「お前は馬鹿か?っていうか、馬鹿なんだよな?千花、今度はちゃんと答えろよ。」
「はい。麻奈花さんのところで着せ替えです」
「さっきの続きなんて俺は聞いてないからな!悠」
「誰でもいいだろ。別に」
「確かにその通りだ」
「あの…翔さん」
「ん?なんだ?」
「あの人恐い」
自称校長の後ろからオーラが出ている。
「氷魔術『氷雨』」
「マジかよ」
数が
九十九さん並だ。
「木魔術『蔦網』」
「火魔術『火門』」
だがしかし
希が出した蔦は氷の弾丸によってちぎられていき、悠の出した炎もすぐに鎮火されていく。
「まずい」
止め切れなかったものが、2人に向かう。
『海渡』を使っても凍る可能性が高い。
『紫電』の羽衣は飛来物には効果がない。
『天羽』は速度を遅くするだけしかできない。
なら、
違うの使うしかないだろ。
「『紅蓮』」
吹き上がる炎と氷が衝突する。
周りのものは何も燃やさない、ただ氷だけを溶かす。
そして、蒸発。
一瞬、膠着状態が生まれる。
「面白かったのです」
「僕は面白がるのは好きですが、面白がられるのは性に会いません」
敵意むき出しの明。
どうやら、気で弾いたらしい。
「同感よ。かわいいは正義だけど、自分のものじゃないのは全て悪よ」
あくまでもかわいいにこだわる美咲。
色々と突っ込みたいところだが、氷をダガーで斬ったらしい。
「危ないですよ」
千花の神器が顕現している。
これが一番、ずるい。
「失礼します」
入ってきたのは月夜。
今まで外に出てたのかお前は!
……ってことはさっきまでのは幻か!
ならば
「お・ま・え・は・せ・こ・す・ぎ・る!」
そして、向き直る。
「私を無視するなのです」
地団太踏んでる。
「かわいい」
「お持ち帰り」
敵意が消える。
そして、言葉から推測するに千花の性格が崩壊しつつある。
こんな積極性溢れる子じゃなかったはずだ!
これはもしや偽者?
確かめるべく頭をなでてみる。
「はぅぅ~」
あ、本物だ。
と、
女の子からカードが提示される。
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名前:美鈴
種族:***
ランク:A
所属ギルド:知の学び舎
戦闘:魔術師
備考:学校長
ギルド長
***
***
国はこの者がギルドをまとめる
事を認める。
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ランクは国が評価を下すから、ギルド長であってもSランクというわけではない。
「マジですか」
それよりもっと早く見せてくれればよかったのではと思いながらポケットに手を突っ込む。
そして、仮証を悠と希に渡し、自分のを見せる。
持ち主以外には使えないようになっているからだ。
「はい。いいのです」
全部確認した後、紙を配り始める。
「約1週間後から授業が始まるのですが、それまでに内容を選択しておいてほしいのです」
「クラスは?」
「実力的にはAと言いたいのですが……色々と麻奈ちゃんに話を聞いた結果、全員Fクラスということになったのです」
麻奈ちゃん?
麻奈花のことか!?
確かに麻奈花キラーではありそうだ。
「それとこっちで勝手にチーム申請しとくのですよ」
「チーム?」
「はいです。学校の行事などで組む相手のことです。ギルドも同じならその方がいいはずです。ちなみに上限は8人までです。学校内の人なら誰でもいいんですが、当然のことながら去年に入学してきた人は登録が終わっているので今年に入ってきた人しか入れませんですよ」
「それって勝手にやって大丈夫なのか?」
「麻奈ちゃんに着ぐるみきて頼めば万事解決なのです」
あぁ、この子最強だ。
……じゃなくて、いいのか?
「チーム名はどうするです?」
俺の一存で決めるわけにも行かない。
「どうする?」
「かわいいは正義」
「却下。さっきからそればっかり言ってるだろ」
「面白いは正義」
「却下だ。それネタがかぶってるし」
「お持ちk」
「先が読めてる却下。悠…」
「何でm」
「却下」
二人続けて、言いかけているところを遮る。
「俺は何でもいいって言おうとしたんだけど?」
「私はお持ち帰りしようって言おうとしたんですけど?」
「悪い悪い。悠だけな。で、希は?」
この際、千花はスルー。
「え?私ですか?楽しいは正義?」
「いや、まねしなくていいから。でもって却下」
そして、
「……」
「……」
「……」
「何で私のときだけ沈黙なのよ!」
「却下!!イタッ!」
月夜に殴られました
「夢か現か幻かっていうのはどう?」
「それはお前がよく俺にやるやつだろ!」
冷や汗が
「というわけで、みんなの意見聞いたので『雛鳥の集い』にしたいと思うのです」
「どこをどう聞けばそうなるんだよ!っていうか、聞くだけなのか?」
「決定です!」
美鈴が申請ボタンを押す。
「……………」
「沈黙が痛いのです」
「……………」
「何かいってほしいのです」
「……………」
「ごめんなさいです」
「よし。帰るか」
「はい」
「そうですね」
「ご飯よ」
「それじゃ行きましょ」
俺たちが出て行った後。
2人の姉弟と美鈴の間で
「何か……」
「ごめんなさい」
「うぐっ、君たちはこのまま純粋に育ってほしいのです」
という
会話がなされていたことを俺たちは知らない。
作者の中ではイメージが浮かんでおり勝手に補正をかけて読めてしまうので、引っかかりや矛盾があれば教えてください