59話目 ドワーフ
牧場主のビルさんと別れて、アルベールの街に戻って来た。
送ると言われたが、転移で戻れる事を告げると、また何時でも遊びに来いって。
次はマルチョウやシマチョウ、ギアラ辺りの難易度高めホルモンのレクチャーをして欲しいそうだ。
さて、戻って来たのはいいが、何をするにも中途半端な時間だな。
あ、辺境伯にお手紙届けておかないと。
後は市場以外のお店を見て回るかな?
街の人に聞いたら、広場から水道橋が繋がっている屋敷が辺境伯邸だって。門番さんにお手紙を渡しておいた。
北は精肉青果、南は魚介の市場がある為、食材を扱っている店が多く集まっていて、西側に各ギルドや教会や役所、警備兵の詰め所や宿舎もこの辺、東に鍛冶師や錬金術師、薬師や大工等の工房が多く集まっているみたい。
今日は工房を見て回ろう。
広場近くの大通りには、大きな店の中に幾つもの工房の作品が区画を分けて並んでいる。
作りはデパートみたいだな。
きっと入っている工房は1流の職人がいて、店は「ウチの店はあの工房と取り引きがある!あの職人と取り引き出来る!」ってのをアピールしているんだろう。1種のブランド戦略がされている。いつの時代も商人の考える事は同じの様だ。
並ぶ商品もデザインは工房毎に統一されていて、武器や防具、服やアクセサリー、帽子に靴など、各工房で住み分けがされている様に思える。
しらんけど。
こういう所を見ても余り面白くないな。どうせならドワーフの作る剣とかエルフの作る薬等を見てみたいが…初めての街だ。ノープランでフラフラしよう。
しばらく歩くと、道の端に女の子が座り込んでいるのを見つけた。
迷子かな?なんかボーッとしてるし親を待っているのか?
前世の見た目なら気にせず話しかけれたが、今の見た目だと怪しく思われるか?しかし…孫ほどの年齢の子供を無視する訳にもいかん。
「どうした、お嬢ちゃん。迷子か?誰か待ってるのか?」
「ん?お嬢ちゃんってアタシかい?アタシゃドワーフだよ、お嬢ちゃんって歳じゃないねぇ。」
なんだと!10歳位だと思ったのに…じゃあ一体幾つなのか?しかし…女性に年齢を聞くわけにもいかないよな?
衝撃を受け、悩む俺に少女?は続けた。
「アンタ、ドワーフを見るのは初めてかい?この辺のもんじゃ無さそうだね。どっから来たんだい?」
「ディニクの辺りから。あの辺は獣人は居たが、それ以外には会ったこと無い。ドワーフは初めだ。」
「そうかい。じゃあ、ドワーフに会った時の礼儀も知らないね?良いかい、初めて会うドワーフには酒を奢るのさ。それで全て上手く行く。さぁ!」
「さぁ!じゃ無いよ!でもドワーフが満足するような、強い酒を出す店が有るなら教えてくれ。そしたら奢るぞ。」
「ん?そんなモンが有るのかい?有るならこっちが教えて欲しいくらいさね!」
「そうか、やっぱり蒸留酒は無いみたいだな。ポットスチルくらいなら有っても良さそうなんだけどな。」
ガシッ!
俺の両肩は強く掴まれる。
「その話し、ちょっと詳しく聞かせて貰えないかな?」
身長差があり過ぎて、俺にぶら下がるみたいになっちゃってるけど、逃がす気は無いようだ。しかし…酒造りはウチでもやる予定。教える訳には行かない。
「悪いね。将来的にはウチで酒造りからやるつもりなんだ。教える訳にはいかないよ。」
「くっ…そうか、そうだよな。酒が出来たらこの街にも売りに来てくれよな!」
「わかったわかった。それより、こんなトコに座り込んでどうしたんだ?」
「あぁ…仕事を辞めて、これからどうしようかと思ってな…コレでも腕に自信は有るんだが、武器も鎧も作るのに飽きてしまってな。アタシは魔導武具を作りたいんだが、親方はそんなモンはドワーフの仕事じゃねぇって認めてくれなくてさ。」
「魔導武具かぁ…俺もちょっと本を読んだくらいだが、色々便利そうだよな。魔力を込めるだけで魔法が使えたりするんだろ?」
「ちょっと待て!魔導武具の本だって!ディニク辺りには出回ってんのかい?」
「いや、俺の持ってる本にそんなのが書かれているのがあったな。」
確か城の書庫で読んだ筈だ。魔石や魔獣の素材が必要って事だったので作ってはいないが、魔導具や魔導武具の事が書かれた本は結構な数があった。
「ホントか!?それを譲って、いや、売ってくれないか?金は結構稼いでいるし、出来た物も優先して売っても良い!」
「将来的にはこちらも我が領地の産業にする予定だ。本の販売は容認出来ないな。見に来るくらいなら構わないぞ。」
「じゃあ、アタシがアンタの領地に行くってのはどうだ?」
う〜ん…どうしようかな?ドワーフさんと仲良くするのは吝かでは無いが、俺が勝手に決めてしまって良いものか?
アルベール辺境伯に1言言っておいた方が良いだろうし、コレットさんにも聞いておきたいな。
「ディニクの南に現れた、リョータ サワダを知っているか?」
「ん?ああ、なんでも獣人をこの国からブン取ろうって言うヤツだろ?」
「いや、ブン取ろうとしてないから!獣人ってだけで奴隷にするのは許さんよ。って言ったら、じゃあお前が面倒見ろよ。ってなっただけだ。」
「……お前がその、リョータ サワダなんだな?」
「ああ、ホントは獣人だけじゃ無くて、すべての奴隷を解放したかったんだが、ちょっとした勘違いで獣人の解放で話しが進んでしまったがな。
で、ウチに来るなら本も酒も好きにして良い。ただ、辺境伯に許可は必要だし、受け入れの準備も有るから、すぐには無理だ。」
「そうか…」
「それに、来るにしてもドワーフはお前1人だぞ?それでも良いのか?」
あれ?聞いてる?
「魔導武具も酒も作り放題って事だな?よし、アタシは引っ越しの準備をしておく。あ、アタシはミーシャだ。そっちの準備が出来たら迎えに来い。この辺で聞けばアタシの居場所はすぐ分かるからな。じゃあリョータ、待ってるからな!」
そう言ってミーシャは何処かに走り去ってしまった。
まぁいいや、酒造りは彼女に任せてしまおう。あの見た目で酒を飲まれるとちょっと罪悪感が湧きそうだが、飽きるほど鉄を打ってきたドワーフだ。きっと俺より歳上なんだろう。
さて、フラフラの続きと行きますか。
おお、ここなんか良い感じじゃないか?鍛冶場が隣接していて、隣が店なのかな?看板も無く、一見さんはちょっと入りづらいな。ちょっと覗いてみるか。
「すいませ〜ん。」
扉に付けられたベルがカラカラとなる。
店内は幾つかの武器が飾られているが、新品では無いようだ。
見本品かな?客に応じてオーダーメイドで作っているのだろう。
店内を見回していると奥からおっちゃんが出てきた。
外見はTheドワーフ。
髭を蓄え、身長は頭2つ近く低いが、身体はガッシリしていてまるで樽。そこから生える四肢も筋肉に覆われて太い。
「なんだい、随分とヒョロっこいのが来たじゃねえか?武器の注文ならもっと鍛えてから出直してきな。こっちは振れもしない剣を打ってやるほど暇じゃねぇぞ。」
おお、酷いと言われようだな。
期待通りの偏屈な職人だ。ちょっとワクワクしてきたぞ。
「ほぉ~、まるで戦えねぇって事も無さそうだな。よし、獲物見せろ。話しはそれからだ。」
ん?勝手に話しが進んだぞ?獲物?武器を見せたら良いのか?
俺は腰から太刀とカイを抜いて渡す。
おっちゃんドワーフはそれを手に取り、しげしげと見つめる。
「変わっちゃいるが中々の業物じゃねえか。だが殆ど使ってねぇな?ポンポン獲物を変えるヤツは大っ嫌いだ。コイツを打った職人に申し訳無いと思わんのか?」
「これは俺が打ったんだよ。本職の意見が聞きたくて来たんだが…そうか、中々の業物か。」
「コイツをお前が?その細っこい腕で打てる代物じゃねぇぞ?」
「製法は秘密だな。研ぎだけでもお願い出来るかい?」
「良いだろう、銀貨3枚だ。明日の午後に顔出しな。」
よし、この偏屈なドワーフが言うなら信じて良いだろう。鈍らだって言われたらどうしようかと思ったよ。
明日出直すとして、今日はもう宿に帰ろう。




