53話目 ワイバーンバーン
「リョータおはよう!今日はハルが一緒だよ!嬉しいね?」
翌朝、狼煙の合図に現れたのはハルだった。おかしいな、ハルには何も伝えていなかったんだが…
「おはよう、ハル。ハルは皆が何してるのか知ってるのか?」
「ガルの友達迎えに行くんでしょ?任せてよ!ハルがすぐ見つけてあげるね。」
おお…ハルなりにちゃんと理解しているらしい。
「じゃぁ今日はよろしく頼むな。」
ハルは親指を立てて飛び立って行った。
俺達はハルが持ってきてくれた食事を取り、家を魔法で更地に戻し出発の準備をしていた。
その時、ジャックが空を指差し叫んだ。
「リョータさん、あれ!何か来ます!」
ジャックが指す方向を見ると何かがこちらに向かって来ている。
「ハル……」
呆然とする俺を気にすることなく、ハルは手を振りながらこちらに向かって飛んでくる。
「この子ガルの友達?」
両肩をガッチリと掴まれているのは、少し青みがかった黒髪の獣人の男の子。途中暴れたのだのだろう、肩で息をしている。
当然半泣きだ。
「おお…そうだ。ドク大丈夫だったか?」
ガルはドクと呼ばれた青年に駆け寄る。
ハルによって地面に降ろされたが、腰が抜けたのか上手く立ち上がれないようだ。その隣でハルはドヤ顔である。
「ハル…いきなり攫ってきたのか?ダメじゃないか。」
「オークに追われてたから助けたの!お話しするヒマなかったんだよぉ!」
褒められると思っていたのにダメ出しされて、ハル涙目。ちょっと怒ってる?
そこにガルが反応した。
「オークだって!数はどれぐらいだ?集落の近くに居たのか?」
ハルとドクと呼ばれた少年から聴き取りすると、20体を超えるオークの群が集落に迫っているとのことだった。
急ぎハルに運んで貰おうとしたが、拗ねてしまっている。プリンで手を打って貰った。
「ハル、悪かったな。そんで、ドクを助けてくれてありがとう。」
ハルに運ばれながら謝る。
「もぅいいよ。それよりプリン、約束だからね。」
「ああ、この前のヤツより美味しいヤツを作って貰うよ。」
きっと更に改良されているだろう。頼んだぞ、ヘルムートさん!
そんな話をしながら黒犬族の集落に到着。警戒されていたが、オークの群が迫っている事を伝え、戦闘準備にかかる。
すぐに森からオークが姿を現したが、俺と目が合うと大きな雄叫びを上げてまわれ右、バラバラに逃げて行った。
あれ?今度はガル達が危ないんじゃないか?急ぎもと居た場所に戻ろうと走り出した所で、森からガルとジャックが出てきた。何だったんだ?
「ジャック、そっちは大丈夫だったか?」
「はい、多分ですが…オーク共はリョータさんから逃げ回ってたんじゃないでしょうか?すれ違いましたが、こちらには見向きもせずに逃げて行きました。」
マジかよ…オークには俺がどんな風に見えているのか…そんなに必死に逃げなくても良いじゃないか。
俺がショックを受けている間にガルが住人達に説明をしてくれた。早速各々が引越し準備に取り掛かる。
と言っても家具、家電?付きの新居が余っているので、各自細々とした雑貨や衣類なんかを纏めるだけ。直ぐに準備は終わった。
「全員いるか?忘れ物はないか?もし有っても言ってくれれば転移で戻る事は可能だからな。遠慮せずに教えてくれ。」
広場に集落の全員を集めて確認をする。ガルが奴隷として捕らえられている間に、黒犬族以外の種族も合流して一緒に暮らしていたらしい。ここだけで当初の予定の300人はいる。
「じゃぁ行くぞ?転移!」
島の南側、ダンジョン近くの浜辺へと飛んできた。300人以上居たが魔力は1割も減ってない。
連れてこられた獣人達はキョロキョロと辺りを見回している。子供達の1部は海へと走り出す。
後はジャックとガルに任せてアルベール領に向かおう。
「ねぇハル、さっきみたいに俺を山の向こうまで運べる?」
「リョータ、飛ぶの楽しかったの?良いよ。でもプリン食べてからね!」
「わかった。俺も食べよ。」
改良まで待てない様なのでしょうがない。2人並んでプリンを食べながら、ハルに予定を伝える。が…うん、聞いてないな。随時指示をしていこう。
なるべく低い位置を飛んでもらって、地形や植生、モンスターの生息域や種類を調べながら行きたい。
あれは畑か?ハルに運ばれながら山脈のふもとを見回す。所々に木々が伐採されて、人の手が入ったような所が見える。
「ハル、あの辺りに一回降りてくれ。」
山脈の峰が東にうねり、日当たりの良さそうな山の中腹に降り立つ。
やっぱり畑だ。トマトにトウモロコシ、水辺の近くにあるのはサトウキビでは?パイナップルもあるじゃないか!
キョロキョロと辺りを見回しながら進んで行くと足元に矢が飛んできた。
まぁ気づいてたけどね。当たらない軌道だったので無視した。
少し離れた木の、上の方に立ち弓矢を構える存在を。
こちらに鋭い視線を向ける存在。
歳は20代後半位か?長い金髪に白い肌、擬態の為かその身を緑色のマントに包んでいる。
俺は敵意が無い事を示すように両手を挙げながら、ゆっくりと近づいていく。
相手もそれを理解したのかスルスルと木から降りてきて途中で止まった。地上から5メートル程の位置で待っている。
警戒させない為、木から10メートル程の距離まで近づいてから、俺も止まる。
両手は挙げたままだ。
「俺はリョータ、ヨークデリア王国よりこの地を貰い受け、この森に獣人や亜人と呼ばれる者達を受け入れる街を作ろうとしている者だ。敵対するつもりは無い。」
「私はアカシア、この森に住まうエルフだ。人の定めた国など知らん。この地は我々の物だ。立ち去れば敵対はしない。」
「この山を超えてアルベール領に向かう途中なんだが、上空を抜けるのは構わないか?アルベール領にもこの森に手を出さないように伝える。」
「この山は越えられん。山頂から西は飛竜の住処だ。引き返し平地から山間を行け。」
「それは問題無い。上空を抜ける許可だけ…」
キィョオォ
エルフから通行の許可をと、話していると、イルカの様な鳴き声が聞こえてきた。
「あれを見ても問題無いと言えるか?私は里に知らせなければならない。諦めて山間を行け。」
「大丈夫だ、里は近いのか?あれが里に落ちても申し訳ないからな、大体の場所を教えてくれ。」
そう言いながら腕輪から鉄鉱石を出す。
「場所は言えんが近くには無い、あれが落ちても大事無いが…」
それを聞いて俺は振り被る。最近では見なくなった、ワインドアップの大きなモーション。
右の本格派、リョータが投じた1球は途中、ソニックブームを纏い轟音を響かせ、空気との摩擦で赤熱化しながら、ワイバーンの顎を下から捉える。当たった鉄鉱石は粉々砕け、熱を放出しながら落下。きっと火災の心配は無いだろう。
ワイバーンは首をぐにゃりと曲げ、広がったままの翼で滑空していたが、それもすぐにキリモミしながら落下して行く。
あれ?思ってたのと違うな…まあ、倒せたみたいだし、結果オーライって事で。
「リョータ、ハルにあれやったら怒るからね!」
先程まで、興味なさそうに話しを聞いていたハルもリョータの速球には驚いたらしい。
アカシアと名乗ったエルフは驚愕の表情だ。目を見開き、大きく口を開けている。
「では改めて、上空を抜ける許可を!」




