#9 谷口彩香 襲来!!⑤
「あのー、なんで谷口さんが家にいるんですか?」
「え? 鍵が開いてたから。」
「それを不法侵入と言います。」
「昨日来たから不法侵入じゃないよ?」
「許可無しに入ってるので不法侵入ですよ……警察呼んでもいいですか?」
「うーん、別にいいよ。」
「はい?」
「どうせ本気でやらないでしょ? 松本君は極力面倒事は避けるタイプだからね。」
そうだ、この人全ての生徒の個人情報を知り尽くしているストーカーだった。あと仮に裁判を起こしても谷口さんに勝てる気が全くしない。うん、もう何も言わないでおこう。
「で、何の用ですか?」
「また知識貰いに来たの。」
「またですか……昨日で質問ノート全部消化されていませんでしたか?」
谷口さんは疑問に思った事を予めノートにまとめていて、昨日はそれを消化する作業をした。質問は30個以上あったけど、徹夜して全部消化したはずなんだけど。
「うん。でも、一つ疑問を解決すると、また新しい疑問が生むものでしょ? だからまたノートにまとめてきたの。」
「学校のPC使ってください。」
「先生にパスワード聞くの恥ずかしい。」
「不法侵入の方が恥ずかしいと思いますけどっ!? あとパスワードは『Arakawa_SikaKatan!』です。」
「憶えているんだ、記憶力凄いね!」
全校生徒の個人情報と宇宙人の布告を全て憶えている貴方にだけには言われたくありません。
「やはり、自分が教えるより、今からでも学校に行った方が……」
「今から行くの面倒くさいし、私パソコン使う機会ほとんどないから上手く扱えない。松本君に聞いた方がずっと効率がいい。」
「でも流石に誰かに見つかったら不味いですって。見つかったら自分が捕まりますから。」
「大丈夫! 誰も見つからないように心がけているから!」
谷口さんの『大丈夫』が全然信用できない。
「でも、まだ必要なんですか? もう、特別講義は終わりましたよね? そもそも、特別講義に自分の知識一切使ってませんよね?」
「え? まだ終わってないよ?」
「……はい?」
「もしかして、話聞いてなかった? 特別講義は宇宙人が来るまで毎回5時間目にやるって言ったよね?」
「うぇ!? じゃあ、あと何回特別講義やるんですか!?」
「再来週の日曜日に宇宙人来るでしょ? 今日は金曜日だから、その間に学校がある日は来週の月、火、水、木、金曜日。つまり、あと5回だね。」
まじっすか。そういえば昨日のホームルームでそんなこと言っていたような言っていなかったような。全然話聞いてなかったんだな、申し訳ない。
「というわけで、第2回以降はちゃんと松本君の知識使うから安心してね♪」
「別に使わなくていいですけど。」
「だーめ! 松本君の15000時間で得た価値は有意義なものばかりだからね。もっと自信持っていいよ!」
なんか谷口さんにそう言われると照れる。でも、所詮ゲームで得たものだから過信だけはNGだ。
「また、ご飯作るからいいでしょ?」
「はぁ、分りました……逆らっても無駄そうですし。」
まぁ、たった一日ならそんなに質問溜まっていないから直ぐ終わるでしょう。というフラグ立ててどうするのかだって? フラグじゃねぇわ!
「わーい! じゃあ、新しく生まれた質問100個、よろしくね♪」
「……ひゃい。」
自分のHPは既にゼロのようだ。
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「ありがとー! これでまたひとつ賢くなったよ!」
30個でも相当やばかったのに100個は流石にやばい。というか家に帰ったらすぐ寝ようと思ったのになんで生徒会長の家庭教師してるんだ。
質問内容は昨日の『ステータスの内容』、『基本職の役割の予想』といった基礎的なことばかりであったが、今回は『ステータスにおいてのダメージ計算』、『予想した基本職のメリット・デメリット』といった少し応用的なものが多かった。
おそらく、昨日の質問から更に生んだ疑問なのだろう。ということは明日は質問1000個くらいになってるのでは……よし、明日来たら絶対追い出そう。明日は貴重な休日だし。
「じゃあ、ご飯作るからちょっと待っててね!」
谷口さんはキッチンへ向かい調理を始める。
この間、何しよう。本当は物凄く寝たいが、谷口さんの前で流石に眠るわけにはいかない。結構、時間かかりそうだし、また風呂の準備するか。
「あ、お風呂入るの? 今回は10分でできるから、別に入らなくても大丈夫だよ!」
「ん、10分?」
「うん。松本君が帰ってくるまでに色々作っておいたから。お米も炊いてるし、あとは温めるだけだよ。」
本当だ。なんか色々出来てる。というか、どうして、当たり前のように人の家で好き勝手してるんだ。有難いんだけどね。
ん? そもそも、自分が鍵を掛け忘れたのが悪い? あ、はい、そうですね。すみません。
「あ、もしかして先にお風呂入りたいタイプ?」
「いえ、すぐできるなら待ちます。」
バイトある日は身体が汚れているから先に入りたいが、今回は別に汚れてないから後回しでいい。さて、空いた10分は、SNSで情報集めるとしますか。
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「出来たよー食べよう!」
気が付くと、机には豪華な料理で埋め尽くされていた。相駆らず見た目は圧巻だな、見た目だけだけど。流石、神の品々と言われてることだけあるな、見た目だけは。
「頂きます。」
とはいえ、今時、お嬢様兼JKの手料理が食べられる日本人なんて相当いないだろうから贅沢は言えない。
パクリ、もぐもぐ。
まぁ、そんな考えが全て吹き飛ぶくらい味が普通なんだけど。
「はぁ、今日は色々調味料工夫したのに、どうしてこんなに味が普通になるんだろう。」
ご本人もお悩みのようだし、もう何も問い詰めないでおこう。これが今できる米粒並みの優しさだ。
「ねぇねぇ、ちょっといいかな?」
ある程度食事が進んだところで、谷口さんが尋ねてきた。なんだか、深刻な顔をしているような気がする。
「どうしました?」
「あのー正直に答えてほしいんだけど、松本君は私に失望とかしたりしてないかな?」
「急にどうしました? 確かに、家の不法侵入は不信に思いますけど、ご飯作ってくれてますし、別に失望なんてしてませんよ?」
「そういうことじゃなくて……ほら、私が特別職持ちじゃなかったこと。」
「ああ、そういうことですか。」
剣闘士の清水健一、賢者の西村望、勇者の山本雄大。荒川に出てきた3人の特別職持ち。
だが、3人を踏み台に頂点に立つ谷口さんは特別職を授けられなかった。それに対して失望してないかって聞いてるのか。
「自分が特別職持ちじゃなかったの気にしてるんですか?」
「……うん、ちょっと。」
「別に特別職持ちが偉いというわけじゃないと思いますけどね。谷口さんは谷口さんでちゃんと皆のためにできることを一生懸命やってるじゃないですか。それだけで自分はかっこいいと思いますよ。だから失望なんてしてません。寧ろ、尊敬しているほどです。」
「あ、ありがとう。でも、松本君はそう思ってくれても、私は生徒会長として特別職を持ってたほうが、もっと皆の志気を上げることができたはず。特別職を授けられなかったのは私の力不足だと感じて。そう思うと悔しくて。」
「……そうですか。」
谷口さんは他人の為に頑張りすぎてるような気がする。もう少し自分の為の言動を頭に入れてくれないのかな。
「まぁ、そこまで真剣なら、皆答えてくれると思いますけどね。それに、本当に極小な確率というか自分の勘なんですけど『特別職』より『基本職』を選んだ方が最終的に強くなるかもしれませんし。」
「えっ! それってどういうこと!?」
やべ、喰いついてしまった。RPGオタクの癖でつい余計な事喋ってしまった。まぁ、喋ってしまったものは仕方ない。食べながら話すとしますか。
「はい、『転職』の概念がある事が前提ですが。」