#1-10 師弟関係 襲来!! ③
なんか怒られたわ。
彼女は自分の提案に対し、憤る表情で反論した。同時に自分は彼女の意見に違和感を感じる。
「踏み台にするのが認められないって、どういう事?」
はっきり言って全く意味が分からなかった。弟子とは師匠を踏み台にして強くなるもの。悪いように言ってるが、師弟関係は全然悪いものではない。弟子は師匠を踏み台にして強くなる。師匠は弟子の踏み台になる方法を考える。師匠にとって踏み台になることが生き甲斐の1つなのでは無いのか?
それってドMじゃねぇか! いや、そういう事じゃなくて。
師匠側にとって、弟子の成長を見届けたいのだ。だから、弟子が成長する為により良い踏み台になる方法を考える。そして弟子の成長をみて、師匠自身も強くなる。Win-Winの関係なのだ。
だが、彼女はその弟子が師匠の踏み台になることを否定している。なのに、自分の弟子を希望した。矛盾が発生しているのだ。
「仮に私が師匠を攻略サイトを道具として利用して、ソロでレベリングして、強くなったらどうなるの?」
「え? ……望んだ『幸せ』に近づけるんじゃない? だって龍君の言動を見て、強くなりたいと思ったんでしょ? 強くなれば沢山の人を救えるし、讃えられるようになる。周りに感謝される存在になれば、お母さんの言葉の意味も理解できるようになる。良い事だらけじゃん。」
「確かに私が魔王を倒せるくらいに強くなって、萩原君と世界を救えば、私は望んだ物を全て手に入れられる。世界を救えば世間からは賞賛されて、幸せになれる。」
「だったら……」
「前までの私だったら、きっとそう考えてた。けど、気づいたの。そんな事で世界を救ったら、不幸になる登場人物がたった一人いる事実に。ねぇ、誰だと思う?」
世界を救っても、唯一幸せになれない登場人物? 誰だろう?
「魔王?」
「魔王はどうせNPCだから感情持っていない。」
魔王さーん! 哀れすぎる。絶対に魔王城で独りで泣いてるから止めてあげて!
「じゃあ、助けられなかった人がいる族柄……」
「世界が滅ぶよりはマシだと思うよ?」
いやそれって正解なんじゃ。それじゃあ、一体誰が……
「それは師匠、貴方よ。」
谷口さんは堂々と自分に指を指して、そう宣言する。
「……自分? 何で?」
仮に谷口さんと龍君が世界を救うとしよう。となると、この二人は自分の攻略サイトを利用して世界を救った事になる。これ以上誇らしいことは無い。だが、彼女は自分が不幸になると宣言した。完全に意味が解らなかった。
「『創る側』は『攻略する側』より何百倍も頑張ってるのに、讃えられないから。」
「……」
「世界を救ったところで、讃えられるのは私達だけ。何百倍も頑張ってる師匠は何も讃えられない。」
気付いたのか、その領域に。
「それは受け入れるしかない。『創る側』はそういう運命だから。アイドルを裏で支えるマネージャーさんと一緒。マネージャーさんがどんなに頑張っても、実際に輝くのはアイドルだけ。裏で何百倍も頑張っているマネージャーさんでは絶対に表舞台では輝けない。それと一緒。」
「そんなの理不尽……何百倍も頑張る師匠を道具として利用して、自分だけ世間に讃えられるなんて……そんなの嫌だ! 師匠がいないと魔王を倒す私はいないのに、どうして世間は師匠を無視して私だけを賞賛するの!?」
「別に自分は世間の評価などに興味は無い。周りの評価なんて、唯の飾りだと思ってる。大事なのは自分の努力がちゃんと実っている事。自分の攻略サイトで谷口さんが世界を救うとなると、これ以上誇れることは無い。」
「それでも嫌なの……師匠だけ世間に見て貰えないのは。」
「諦めろ。それが『創る側』の運命だ。」
谷口さんが反論したのは自分の為か……相駆らわず、呆れてくる程優しい人だな。だが、それは物理的に無理な話だ。現代社会は、あのギャル宇宙人よりも腐っている。現代社会は表面上の世界だけを見て、それを全ての基準にしている。
では、『リアルRPG』において世間が讃えられる対象を今から予想してあげよう。最初は『特別職』持ちだ。一番世界を救ってくれそうだから。次にランキング上位になった人。ランキングが高いほど強いから。そして、最後に世界を直接救った人。当たり前だ、世界を救ったのだから。
こうしてみると、世間は世界の救済に直接的関与した人しか注目されないし、讃えられない。勇者の為に作った最強の武器を作った鍛冶職人さん、勇者を教育し続けたお師匠様、自分みたいに攻略サイトを作っている情報屋さん。こういった間接的に世界の救済に貢献した『創る側』の人間は全くといってもいいほど讃えられない。だって、表面上では見えないから。
それでも何故、『創る側』は『創る側』で居続けられられるのか? 自分の努力を認め、少なくとも感謝してくれる人がいるから。利用してくれる人がいるから。踏み台になってくれるから。それが唯一の『創る側』の生き甲斐。それだけで、『創る側』は満たされる。
「嫌だ……」
「?」
「どうして頑張っている人が認められないの? 何で『創る側』はそんな運命に納得しちゃっているの? そんなの絶対におかしいよ!?」
訳の分からない言い分を聞いて、自分は困惑する。理由も何も……それが常識だからとしか。
「萩原君ですらあんな凄かったんだから、師匠はもっと凄くないと………讃えられないと駄目! そうでしょ!?」
「何度も言うけど、自分はそんな大した人間じゃない。後、別に自分は注目されるのはあんまり……」
「師匠がそう思ってなかったら、私がそうさせる! 師匠の凄さ、全世界に見せつけてやるから!」
「頼むからやめてくれ。」
「そして、40代のおっさん限定で松本直人のファンクラブを作らせるんだから!」
「絶対やめろぉ!」
何で40代のおっさん限定なんだよ!? せめて女性のみ……いや、全年齢対象にしてくれよ!? おっさんだけのファンクラブなんて想像するだけで……ああヤバい、ゲロ吐きそう。
「それに師匠は私が萩原君みたいになりたいと思っているけど、勘違いしないで。私は萩原君を見て、全てのRPGプレイヤーに憧れを抱いたの。勿論師匠も含めて。だから、『リアルRPG』で『創る側』の道を選んだ師匠の姿を見てみたいの。」
「……」
「師匠が何を言おうと、私はここから離れるつもりない。師匠の凄さをもっと知りたいから。」
「……」
『創る側』が讃えられる道か……考えたことなかったな。今まで、運命だとごまかして逃げてただけなのかもしれない。強がっているだけで、本当は誰だって世間の評価は欲しい。それは人間として生まれてきた以上、逆らえない欲望だ。
「はい、折れました……そこまで言うなら勝手にしてくれ。」
「まっ、私がここにいる一番の目的は、私の事を嫌いになってもらう事だからね。どちらにしろ提案には乗らなかったよ!」
「まだそれ引きずってるの……」
「当り前じゃん。だって、何をしても嫌いになってくれないんだもん……」
別に何かされた記憶無いんだけど。というか嫌いになれる訳が無いんだよ。好きな人と同じ屋根の下で、食事振舞い続けて、攻略サイトのお手伝いしてもらって……どうやって嫌いになるの? この子は馬鹿なの? 一緒に居れば居るほど、逆に好感度が上がっていくんだけど。
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さて、体力テストの結果である程度のステータスの法則性をある程度捉えることが出来たのでご紹介しよう。
まずはST。STは走ったり、長時間作業すると消費する。どのくらいの頻度で消費したかは20mシャトルランの結果を見ればよく分かるだろう。
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【松本直人】ST:58 シャトルランの記録:61回
【谷口彩香】ST:152 シャトルランの記録:152回
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61回wwwwwwww
う、うるせぇ!!!!
ま、まぁ、それは置いといて気づいただろうか?
STの数とシャトルランの記録の回数がほぼ一致しているのだ。つまり、STの値『1』はシャトルラン1回分のスタミナと考えていい。敏捷性とは違って、こちらは滅茶苦茶シンプルな立証が出来た。
シャトルランを走り終え体力の限界を迎えると、STが0になっていた。そして、休んでいくと時間経過で少しづつ回復する。STが完全に回復していない状態で、もう一度20mシャトルランをしてみると……
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【松本直人】ST:44 シャトルランの記録:44回
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と言う事でスタミナの定義は完全に証明されました、わーい。
宇宙人性根が悪すぎない? これを知ったら相手のSTを見るだけでシャトルランの記録カンニング出来るじゃん。基本的人権の尊重という概念を宇宙人には持っていないらしい。
また、自分のシャトルランの記録は61回だったが、実際には58回が限界だった。61回なのは無理やりでも3回多く走りたかったからだ。
何故、こんなことをしたのか? STが0の時に無理やり走るとどうなるか知りたかったからだ。正解はこうなった。
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HP:90/110
ST:0/58
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STの代わりにHPが削れる。成程、完全に理解しました。ゲーム視点で考えると、『HPを犠牲にすればST消費無しでST消費する動きが出来る』事が判明した。HPは削れてもポーションで回復できるから、ポーションを常に飲み続けておけば、実質無限に走れる。理論上、ポーションを飲んでいれば、シャトルランを無限に走れるという事だ。
現実だから滅茶苦茶やりたくないけど、生きる為の最終手段のひとつとしてかなり重宝されそうな情報だ。これはしっかり攻略サイトに書き込んでおこう。
また、ハンドボール投げや握力測定で攻撃力の基準が分かると思ったが、法則性が分からなかった。自分は谷口さんより攻撃力が高いのに、ハンドボール投げは谷口さんの方が遠くに飛んだからだ。単純に投げるのにコツとかあるのだろうか? 握力も二人の記録は同じくらいだったので、こちらも不規則だ。
というわけで、MP、攻撃力、守備力は実際に魔物と戦わないと判明しないみたい。まぁ、そこは魔物と戦えば分かるので今回はお預けで。




