#1-6 萩原龍 襲来!!
さて、作るか。
深夜、谷口さんのお陰で情報収集が想像以上に早く進んだ。よく考えたら1人でやるより作業効率が2倍になっているから当然といえば、当然なんだけど。
谷口さんは現在仮眠を取っている。昨日は眠れなかったらしいから寝かせた。自分は昨日20時間寝たから後2徹は出来るけど。
荒川がダンジョンになった以上、学校は休校せざるを得なくなった。彼女は学校を諦めて、自分の為に出来る限り時間を作ってくれるらしい。という訳で……
「谷口さん、その荷物は?」
「ここに住んでもいい?」
「なんで?」
半分同居の形で寝食を共にする事になった。流石に不味い奴だと全力で断ったのだが、わざわざ自宅に戻る必要が無いと聞かなくなり、最終的にはこっちが折れて渋々受託した。自分が家賃を提供して、彼女は食事を提供するという感じで契約(?)は成立。
でも正直、有難かった。はぁはぁ、あの谷口さんと同じ屋根の下で……と考える暇が無いくらい忙しくなりそうだから。今も残業してるしね。
また荒川以前に、世界中で全ての学舎がダンジョンに変貌していた。谷口さんは最速で学校に来て『立ち入り禁止』のレッテルを張り付けたお陰で、犠牲者を出さなかったみたいだが、それ以外の学校では魔物の餌になった児童さんは……いや、止めておこう。
また、ランキングもまる1日経ってとんでもないことになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【朝】
松本直人 1.14G 位 / 7.88G 人
【現在】
松本直人 1.13G 位 / 7.85G 人
ーーーーーーーーーーーーーーー
これが何を意味しているか分かるだろうか? 今日は別にレベル上げも何もしていないのに、自身のランキングが1000万上がっている。更に、全体の総数が朝78.8億人に対して、現在は78.5億人と3000万人減少している。これが何を意味しているか分かるか?
そう、今日1日で3000万人が……そういう事だ。
何故ランキングが1000万も上がっているのか? それは自分より強い1000万人が……そういう事だ。
亡くなった原因は殆ど、無知の状態でダンジョンに乗り込んでしまった事。会社や学校がダンジョンに変貌していることを知らずに、もしくはダンジョンを甘く見て犠牲になった方々が殆どだ。
Hランクのダンジョンならなんとか生きて脱出出来るみたいだが、職場や学校などの施設はほぼGランク以上である。Gランクはレベル10以上の魔物が殆どで、見つかったら逃げきることはほぼ不可能。そのくらい魔物の脚が速いという事。敏捷性が自分より高かったらそう感じるのも仕方ない。
チュートリアルが何も無い状態で突然始まったんだ。このくらい犠牲者が出ても可笑しくない。
実家にいる両親が心配でメッセージを送ったのだが、両親がゴブリンを倒してガッツポーズしている写真が返って来た。うわー思ってた10倍楽しそうにやってるな、この人達……と、とにかくあまり無理しないように促しておこう。
何度も言うが、とにかくRPGは序盤が一番死にやすい。これ以上の犠牲をなるべく減らすために、自分はなるべく有益な情報をSNSに提供する。本当に小さな事だと思うが、これが犠牲者の数を減らす最善の策だ。
今から攻略サイトに情報を書き込む作業を行う。朝からずっと働いているが、こういうのは慣れている。新作RPGを最速でクリアするために何徹もしてきているからな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ST:51/58
ーーーーーーーーーーーーーーー
とはいえ、全く疲れているというわけではない。スタミナが減少しているのが証拠だ。明日はステータスの仕組みを主に検証しようと思う。特に、スタミナと敏捷性は特に理解すべきなのだろう。主に魔物から逃げる上で必要な力だから。
******************
「よーい……」
ピーッ!
自分は通販で購入した100均の笛を鳴らす。笛先と同時に、前方に配置されている谷口さんが全力で地面を蹴り出し、凄まじい速度でこちらに接近してくる。
数秒後、彼女は自分の真横を通りすぎ、自分は同時にストップウォッチを押す。
カチッ。
『6.62秒』
「はっや。」
谷口さんがやっているのは皆大好き50m走。記録は1回目が6.83秒、2回目が6.72秒、3回目が6.62秒……化け物すぎない? 100m走換算なら13.2秒……うわぁ、なんでそこら辺の陸上部の男子より速いんだよ。
「じゃあ、次は20mシャトルランね。」
自分は空き地で小さいロープを20m感覚に配置する。補助用のスピーカーを使って、スマホでシャトルランの音を鳴らす。
数分間走り続けると、彼女はギブアップする。さて、記録は……
『152回』
だから、化け物すぎるって。こんな記録見たことないんだけど。100回超えれば英雄扱いされたあの時代は何処に行ったんだ。
「お疲れ、少し休んだら次、ハンドボール投げね。」
「ねぇ、松本君……なんで私体力テストしてるの? 朝起きたら松本が一人で外に出ていたから、私を差し置いて一人でレベル上げてるのかと慌てて追いかけてみたけど……なんで体力テストしてるの? 周囲から凄い冷たい目で見られてるんだけど。」
「ステータスを調べてるんだよ。敏捷性1はどれくらいなのか、敏捷性が1上がるとどれだけ速くなるのかとか。まずはパラメータの法則性から調べないとね。」
「それって必要なの? パラメータは意味が大体分かれば大丈夫だと思うけど……」
「パラメータの原理を理解すれば、相手のレベルを見るだけどのくらいのステータスなのか予想出来るようになる。命を守るためには逃げる力も必要。相手の敏捷性を理解するだけで、戦うべきか逃げるべきか正しい判断できるようになる。」
「だったら、レベル上がった時の上昇値を調べればよくない? わざわざこんなことしなくても……」
「攻撃力が2倍になれば威力が2倍になるとは限らないし、敏捷性が2倍になれば速度が2倍になるとは限らない。もしかしたら、スタミナの減少値で守備力や敏捷性が減少するかもしれない。そういうのも全部知るためには体力テストが最善なんだよ。」
「うう……現実が『RPG』になってうはうはするのかと思ったのに、まさか体力テストをやるなんて……」
「折れた?」
「……全然。嫌いになってもらうまでは折れるつもりないよ?」
はぁ、別に嫌いになんかなれないんだけど、ん? あれは……
道路沿いから1人の男性がこちらに向かって歩いて来ているのに気付いた。彼の整った容姿は周囲の全ての女子達を黄色い雰囲気にする。あのジト目クール系男子には非常に見覚えがあり、同時に安心感を感じた。谷口さんは彼が近付いていることに動揺している。
「よぉ。」
「……龍君?」
******************
「あれ、龍君じゃん!? 何でこんな所に!?」
彼は千葉県出身、そしてここは新潟県。200キロ以上距離がある筈なのに、何故彼がここにいるのか自分はいささか疑問に感じた。
「新幹線で来た、5分で。」
「ご、5分で来れるものなの?」
「金払えばワープ出来る。電車、新幹線、電車の順で。」
「あ、そっか。」
確かにワープ出来るけど、そんなに早く来れるんだ。
「松本君、この人は?」
谷口さんが自分にそう尋ねる。そういえば、谷口さんにとっては初対面だったな。ちゃんと紹介しなくては。
「ああ、紹介するよ。この人の名は萩原龍。自分と同様、RPGのガチ勢だ。ネットで仲良くなって、今はライバルであり親友だ。プレイ時間は……どれくらいだっけ?」
「1万時間超えた。」
「えっ、もう1時間超えたの!? 早すぎない?」
「お前にだけは言われたくない。」
「そ、そんな……」
谷口さんの身体が震え酷く動揺している。どうした? 魔物でも出たか?
自分は彼女に仕草で周りを警戒する。
「あの松本君に……友達がいたなんて……!?」
よし、後でぶん殴るかコイツ。




