#12 彩香回想シーン 襲来!!
「うーん……」
えっと、ここはどこ? もしかして寝ていた? でも、私の寝室ではない。この感触は布団? ベッドではないから病室でもない。
身体を起こし、辺りを見渡す。
あれ、この部屋ってどこかで見たことあるような。そうだ、ここは松本君の部屋だっけ? えっと、どうして私が松本君の部屋で寝てるの?
確か松本君にお風呂入るよう促して、入っている間に帰宅しようとしたら、眠気が我慢できなくなってそのまま机の上で、はっ!?
そうだ、私、寝落ちしちゃったんだ! でもどうして机じゃなくて布団で寝てるの? もしかして、松本君が運んでくれた?
ヤバい、どうしよう。また松本君に迷惑かけちゃったかな?
とにかく、謝らないと。少しでも『見捨てられる』確率が下がるように。
私の脳のスイッチを迅速にONに切り替え、寝室の扉を開ける。
ガチャ。
部屋はナイトランプが明るく感じるほど、暗闇に包まれていた。
どうしよう、もう深夜かな? 終電、間に合うかな? もし、間に合ってなかったらヤバいかも。うう、外で始発まで待つしかなくなるよ。
前回は松本君のスマートフォンをお借りしてタクシー呼んだけど、今頃彼は寝てるだろうし、スマートフォンは使えない。
そもそも松本君はどこにいるんだろう? あと、現在の時刻も知りたい。
ナイトライトを頼りに、気配を隠しながら、慎重に部屋を探索する。食堂の壁にデジタル時計を発見したので時刻を確認してみる。
『AM4:00』
「……」
もしかして私、1晩中ずっと寝ていた?
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見つけた、松本君。
彼はリビングのソファーで熟睡していた。
どうしてこんなところで寝ているのだろう? もしかして、私に布団を譲ってくれた?
でも、わざわざ何故そんなことを。私は松本君に日中迷惑な行動を重ねている。普通は報復を求めてくるはずなのに、彼は何故かより一層優しくしてくれてる。
少し考え浮かぶと、ある一説に辿り着いた。
そうか、そういう事ね。
松本君は私に優しくしてくれてるわけじゃない。私に対する松本君の『好感度』を上げようとしてるんだ。
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『ねぇ、彩香。』
『なーにー、お母様?』
『自分だけが幸せになったら駄目だよ。』
『ええとーどういうこと?』
『自分だけの為に幸せを求めると、周りの大切な人が悲しくなっちゃうの。彩香は周りの大切な人が悲しんでたり、苦しんでたりしてると嬉しい?』
『ううん、すっごい悲しい。』
『逆に周りが幸せそうだと嬉しい?』
『うん。』
『彩香、幸せになりたかったら、まず自分ではなく、周りを幸せにしなさい。周りが幸せになれば、貴方も幸せになれるから。』
『でも、私に出来るかな……私はお母様みたいに綺麗で優しくもないし』
『大丈夫、貴方なら出来るわ。私の子供なんだもん。これはお母さんとの約束だよ? 守ってくれる?』
『うん、分かった! 頑張ってみる!』
これが、私とお母様との最後の会話になった。大好きなお母様はこの後、交通事故で亡くなってしまった。
私はお母様の約束を守る為に出来ることを色々と考えた。そしていつの間にか2つのモットーが出来ていた。
・周りを出来るだけ幸せにする。
・周りの迷惑をなるべく掛けない。
この2つをこなすには想像以上に難しかった。沢山我慢したし、沢山辛い思いもした。だけど、どうしてもお母様の約束だけは破りたくなかった。そうして何年も何年も苦難の道を歩み続けていると……
『彩香、宿題教えてよ!』
『彩香さん、私の教科書探すの手伝ってくれない?』
『谷口さん、これ運ぶのお願いしてもいいかな?』
ホントに少しずつだったけど、皆私を頼ってくれるようになった。皆が喜んでくれる姿はやっぱり嬉しくなる。全てお母様の言う通りだった。頑張って良かったと思った。
けれどその道は決して楽なものではなかった。
『谷口さん、俺と付き合って下さい!』
小学5年生の時、私は初めて男子に告白を頂いた。
正直、どうすれば良いか分からなかった。付き合うとして私は彼を幸せに出来るのかだろうかと。断るとして折角勇気を出してくれた想いを踏み躙ってしまうのではないのかと。
最終的に、彼の勇気に応えるためお付き合いすることにした。しかし、これが大きな過ちの始まりだった。
『おい、彩香! なんで途中から行列を抜けたんだよ!』
『ごめんね、向こうで人が倒れていたから……』
『てめぇが勝手に抜けたせいで、限定フィギュアが買えなかったじゃねぇか! どう責任取ってくれるんだ! てめぇと付き合うのはもう我慢できねぇ! 絶交だ! 二度と関わってくるな!』
『そ、そんな!』
そう、私は表面上では人を幸せに出来るようにはなったけど、内面はまだまだ改善出来ていない状況だったのだ。
『好きです! 付き合って下さい!』
とはいえ、どんどん表面上だけ魅力的になっていく私は、告白してくれた男子が後を絶たなくなった。
『もう別れたいんだけど。なんでお前のクソ味気無い料理をずっと食べてあげないといけないの?』
このまま逃げてはいけないと思った。逃げてばかりじゃ、お母様の約束を果たせてるとは言えないと思ったから。
『貴方が一番好きです!』
だから、もし私が誰も付き合っていなかったら、告白してくれた男子達をなるべく受け入れるようにした。
『ゲームが出来ない? 俺よりも親の規律の方が大事なのかよ、糞が。』
今思えば、これが一番間違っていたのだと思う。私は告白してくれた男子達の事しか考えていなかったのだ。
『私、早瀬の事好きだったんだよね。けど、早瀬はお前と付き合った。悔しかったけど、それで早瀬が幸せになるならそれで良いと思った。なのに、なんであっさり別れてるの? お前、何してるんだよ! 私はずっと我慢してたのに、お前は……お前は!!!』
そう、女子達の事を何も考えていなかったのだ。
私が告白をなるべく受け入れてしまったせいで、女子達が好きな男子達を、私が無意識にどんどん奪っていったのだ。
このせいで、女子達は私を憎むようになり、イジメの標的になった。
あらゆる嫌がらせや暴力を受けたけど、この仕打ちは当然で仕方ないと思った。男子達には迷惑を掛け、女子達には青春を奪ったのだから。これはその罰なのだと、全てを受け入れた。
そう、私は周りを幸せに出来る存在ではない。周りを不幸にしか出来ない不良品。表面上だけ見れば、凄い人間に見えるかもしれないけど、実際、中を見れば穴だらけ。
そう、高校生になった今でも私に告白してくれる男子が絶えない。今は女子達の為に全てお断りしているけど。
松本君も恐らく、表面上の私を見て好きになってしまったのだと思う。
よって、松本君が私を布団で寝かせてくれたのは優しさではなく、好感度稼ぎ。本当に優しい人なら、こんな所で寝かせずに、お風呂上がりに起こしてくれる筈だもん。
私を布団で寝かせ、彼がソファーに寝ることによって、『松本君、優しいなぁ』と好感度を上げさせようという策略なのだろう。
あれ、ちょっと待って。
私を移動させたということは『罰』で身体が穢れてるの気づかれた?
いや、そこはおそらくバレていない。
もしバレていたら、私に失望して今すぐにでも追い出している筈だ。それくらい私の傷は酷くなっている。
はぁ、松本君からは沢山恩を貰っているけど、どうやって返したらいいか分からない。彼にとって何か都合のいい返し方は無いのだろうか? ×××もこの傷だらけ身体じゃ拒まれるだけだし。
その時、松本君が小さな声で寝言を放ち出した。彼が起きたのかと警戒しながら、慌てて口を押さえる。
「うう……ご主人様プレイはまずいって……むにゃむにゃ」
「……ご主人様プレイ?」




