記憶
死んだ。
目の前で、私を人間にしてくれた彼の人生が幕をとじた。
胸が痛い。呼吸が苦しい。心が砕けてしまいそうなほどに苦しい。
ーーーなのに、彼の亡骸を抱きしめる私の瞳から、涙は流れなかった。
理由は単純。あふれ出る悲しみよりも、それよりもはやい速度で私の全身を満たすものがあったから。
それは、『記憶』だ。
「思い出したよ、全部。私とあなたが初めて出会った日のことも」
真っ黒に塗りつぶされた記憶のインクが奇麗に取り払われていく。
全てを思い出した今ならわかる。なぜ私が記憶を失っていたのかも、どうして今になって突然記憶が戻ったのかも。
・・・なぜ彼と私が、あんなにも惹かれあったのかも。
「・・・感傷に浸っている場合じゃないじゃない」
昔を懐かしんでいる場合じゃない。過去に想いを馳せるだけの時間もない。
「お父さん、お母さん、ごめんね。まだ貴方たちに、私の最愛の人を紹介できそうにないわ」
最愛の彼の顔を見て、決意を新たにする。
「たとえ何度間違っても、何を犠牲にしても、それであなたに嫌われてしまったとしても。・・・成長した私たちなら、きっとあの終わりのない地獄に出口を見つけられると信じてるから」
人一人の運命を変えるのはきっと簡単なことじゃない。何度も失敗してしまうかもしれない。・・・そしてそのたびに、彼は私の目の前で命を落としてしまうのだ。
「・・・大好きだよ、アルマ」
彼の名前を口にする。遠い昔、彼自身から教えてもらったその名前を。
「もう少しだけ、待っててね。今度こそ、望んだ未来を手に入れて見せるわ」
熱を失っていく彼に口づけをする。
そして。
記憶と共に取り戻した能力を使い。
最愛の人を救う旅に出た。




