最悪の世界
全部が全部、最悪だ。
「なんで・・・私なんかの為に・・・」
どこが間違っていた?何から間違っていた?
何もわからない。どうして・・・
「なんで私なんかの為に、命を投げ出したの・・・?」
シュトラの、フェルンの、痛ましい亡骸を見ながら。
勇者であった自分を簡単に切り捨てたかつての仲間の為に、彼は歩いた。すすんだ。
その道の最後は・・・血みどろのバッドエンドだ。
「なぜなんだ・・・こんなところで死ぬのなら・・・。たかが奴隷の女を庇って死ぬ程度の勇者ならーーー」
彼の人生に終焉をもたらした男の声が遠ざかっていく。
「そんなものの為に、彼女は・・・」
なぜこの男は、かつて自身の仲間であったシュトラとフェルン・・・そして彼をその手にかけたのか。そんな理由はわからないし、知りたいとも思わない。今の私は、そんなことに思考をさけなかった。
彼は、いま私の腕の中で最期を迎えようとしている彼は、勇者だった。
勇者になったのは彼が望んだからじゃない、世界が望んだからだ。
皆彼に勇者としての役割を押し付け、期待して、そして・・・簡単にその役割を奪ってしまった。
勇者以外の生き方なんてわからないのに。それを奪い去った。
それなのに、それなのに・・・。
ーーー誰も声を上げなかった。
勇者じゃなくなるっていうのに。みんなが勝手に押し付けたことなのに。
「怪我がなくて、よかった」
そんな彼が、血に濡れた手で私の頬を優しく撫でた。
私を庇って受けた傷口から、どんどん血が失われていく。
臭いがする。死の臭いだ。先ほど見たシュトラやフェルンと同じ・・・
「こんなところで、終わりなの・・・?」
頬を撫でてくれた彼の手を握る。
問いかけてみたものの、もう答えはわかっている。彼の人生はここまでだ。
ここが彼の世界の終焉だ。
勇者じゃなくなったことは悲しいけれど、誰も声を上げなかったのはムカつくけれど、それでよかったのかもしれないと考えたことがある。
だって彼には、これからがあったんだから。
勇者じゃなくなった彼には、これからがあった。
なのに、それなのに。
私なんかを庇って命を落とす。それが彼の人生なの・・・?
「貴方にとって、この世界は幸せだった・・・?」
「君に、逢えたから」
彼は痛いはずなのに、苦しいはずなのに。私を真っ直ぐ見てにこりと微笑んだ。
「なぁ、俺はさ。・・・奴隷制度が嫌いなんだ」
消えゆく彼の言葉を、私は黙って聞く。・・・・だってこれが、きっと最後の言葉だから。
「人が、同じ人間の人生を買うってのがきにいらない」
でも・・・と彼は続ける。
「でも俺は、たった数枚の金貨で君を買った。それがずっと自分らしくないって不思議だったんだ。・・・でもやっと、その理由がわかったよ。いや、思い出したんだ」
「おもい・・・だした?」
「俺はもうすぐ死ぬ・・・。魂が少しずつ消えていってる。・・・だから思い出したんだ。君ももうすぐ思い出すよ・・・『イヴ』」
「イ、ヴ・・・?」
困惑する私に彼は続ける。
「自分が気に食わないと思ってる方法であっても、俺と君をつないでいたかったんだ・・・。だから俺は君を買った」
死の臭いが強くなっている。・・・もう最後が近いんだ。
「思い出した。俺と君は・・・いや、俺たち『三人』は既にであっていたんだな。・・・全てを思い出した今なら、イヴがこの後どうするかってのも、なんとなくわかる。・・・君はもう一度、あの地獄の入り口に進むんだ・・・」
「何を言ってるのアルマ。わからない、私わからないよ・・・」
「最後に、一つだけ。君に、地獄へ向かうだろう君に、止めても聞かないであろう君に、たった一つの祈りを・・・」
彼はもう一度私に向かって微笑む。
「次はどうか、俺にとっても、君にとっても・・・あいつにとっても。素敵な世界で逢おう・・・」
それが彼の。
勇者ではなく、彼自身の、最後の言葉だった。




