なんで
シュトラの亡骸を抱きかかえ、俺は泣いた。少しずつ消えていく彼女の体温を、どうすることも出来ずに。
「彼女は・・・」
「しゃべるなっ!!!」
近付いてきた奴隷の彼女に、俺は叫んだ。
「もう一度言うつもりなのか。彼女らの最期を見たその顔で、死んでよかっただなんてっ!!!」
「・・・」
「・・・みんなみんなバカだと思ってた。勇者なんて信じて、俺みたいな平凡や奴に期待してって・・・。けど違ったんだ。ー--バカは俺だ。俺一人だ。フェルンもシュトラも、俺のことをこんなに想ってくれてくれていたのに・・・。そんなことにも気づかないで、あまつさえ『重荷』だなんて・・・。勇者なんて肩書ばっかり気にしてさ、一人の人間としてあいつらと接してこなかったんだ」
フェルンは勇者じゃなくなった俺に笑いかけてくれた。シュトラは俺と友達になりたいと言ってくれた。
・・・俺には俺がいないと思っていた。勇者として生きてきて、それを失ってしまった俺には、もう俺なんていないと。
だけど、違った。居場所なら、とっくの昔からあったんだ。
「バカが・・・。それに気づかないで、全部捨てて逃げ出して・・・」
「そうね、あなたはとてもバカよ。・・・いいえ、貴方だけじゃない。人間なんてみんな愚かで、バカなのよ。失ってからでしか、大切だったものが何かさえわからないのだから」
「知ったようなことをっ!」
憎悪を込めた瞳で、奴隷の彼女を睨みつける。
「知ってるわよ。貴方の気持ちもわかるわ」
「わかるもんかっ!」
怒鳴り声が響く。
「奴隷のお前なんかにっ!なんにも持ってないお前なんかに、わかるものかよっ!!」
「何も持ってない『今』だからわかるのよ」
「うるさい黙れっっっ!!!」
子供っぽいとは思う。けど、叫ばずにはいられなかった。今の気持ちを吐き出さずにはいられなかった。
そして俺は・・・
「・・・お前なんて、大嫌いだ」
決して言ってはいけなかったであろう言葉を口にしてしまった。
「・・・奇遇ね、私もよ」
しばらく気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、誰かの足音だった。
「自分の所有物とはいえ、女性に怒鳴るとは・・・勇者らしい行動とは言えないな」
足音の主はヴィルラド。彼がここにいるのはなんら不思議ではない。
・・・が。
「・・・しかし、良いじゃないか。かつての仲間の死に涙を流す。あんなまがい物とは違う、本物の勇者の姿だ」
なんで、ヴィルラドはあんなにも普通なんだ?・・・いま俺の手の中には、変わり果てたシュトラがいるっていうのに。
なんで、奴隷の彼女はヴィルラドを激しく睨んでいる?・・・あれほどの嫌悪、俺にだって見せたことはない。
なぜ、ヴィルラドは怪我の一つもしていない?フェルンやシュトラが殺されているっていうのに。
なぜ、なぜ、なぜ。疑問はたくさん浮かんでくるのに、一つだって答えは出てこない。
「教えてやろう」
そんな俺の疑問を読み取ったように、ヴィルラドが言った。
「シュトラを殺したのは私だ」




