素直な心で
燃え上がる激情を剣に乗せ、西のダンジョンを攻略していく。そもそもここは、勇者パーティーが来るような難易度じゃない。
きっと、フェルンを殺した誰かにはめられたのだ。
・・・フェルンが、シュトラが、ヴィルラドが、実力で負けるわけがない。きっと卑怯な手でも使われたんだ。彼女らの優しさに漬け込んだのだ。
「なぜついてくる」
・・・幾度目かの魔物の返り血を浴びてから振り返る。
「いいでしょ、別に」
「危険だと言っている。俺はもうやさしい勇者様なんかじゃない。奴隷を、命を懸けて守ってやったりしないぞ」
『死んでよかったのよ』・・・先ほどの彼女の言葉がまだ頭の中で響いている。
「・・・別に守ってもらわなくてもいいわ。大嫌いなあなたに守られても、反吐が出るだけだから」
「そうかい、なら勝手にしろ」
あらかた魔物も片付けたし、そこまでの危険はないかもしれないが・・・あまりいい気持ちはしなかった。
しかし、来るなと言って、聞く彼女ではないだろう。
・・・少し先から誰かの荒い呼吸が聞こえる。
視線を送るとそれは。
「シュト・・・ラ?」
己の血で真っ赤に染まったシュトラだった。
おぼつかない足取りで歩いてくる。その瞳に光はなく、口も半開きだ。
いつもの彼女とはかけ離れた弱弱しい姿に、動けなくなってしまう。
「・・・・あ?」
ボロボロのシュトラは目が見えていないようで、固まったままの俺にポンとぶつかってしまう。
「フェルン、か・・?・・・バカが、逃げろっつったのによ」
ぶつかったシュトラからは、血の臭いがした。死ぬ寸前のフェルンと同じ臭いが。
「意外と頑固だな、お前も。・・・ま、ちょうどいい、さ。悪いけど、よ。ちょっとだけ話聞いてくれ。もう眼も見えねぇし耳も聞こえねぇから、ちと一方的になっちまうが・・・」
乾いていく。枯れていく。シュトラの命が。
「やっぱりさ、お前の言う通りだったみたいだ。・・・一度くらい素直になってさ、あいつと話せばよかったんだ。本気で喧嘩しときゃあよかったんだ・・・」
光のないシュトラの瞳から、一筋の雫が流れる。
・・・泣いているところなんて、初めて見た。
結局そうだ。同じパーティーにいても、俺と彼女の人生は交わらなかった。
交わることを拒絶したのは俺か、それとも彼女か。
もしも、そのどちらかにでも、ほんの少しの勇気があったのならば。
俺たちの人生は、重なっていたのだろうか。こんな結末にはならなかったのだろうか。
悔いても遅い。たらればの話に意味なんてない。他人と過去は変えられないのだから。
「結局、オレはガキだったんだ。でもよ、仕方ねーだろ?・・・ムカつきもするさ。ー--あの日、捨てられたのはあいつじゃねぇ、オレ達なんだよ」
「シュト・・・ラ?」
今にも消えてしまいそうな彼女の名前を呼ぶ。しかし、その声は彼女には届かない。
「フェルン、オレだってお前と同じさ。オレにとっての大将はあいつだけだった。あいつが『俺についてこい』って言ってくれたのなら、どこまでも行ったさ。・・・でもよ、そうはならなかっただろ?」
「そんなこと、思ってたのかよ・・・っ!」
「オレたちは、あいつの大切な人にはなれなかったんだ。最後まで『他人』・・・だったんだよ」
消えていく。シュトラの体温が。
「なぁ、フェルン。もし次ってやつがあるのならさ。・・・大切な人、ってのはちと夢見すぎかもしれねーが・・・」
シュトラの手が、俺の濡れた頬に触れる。
「友達・・・くらいにはなりてーよな。笑いあって、喧嘩して・・・名前くらい教えてもらって、・・・さ」
「嫌だ・・・やっと聞けたのに、こんな・・・」
「・・・な?フェルン。お前もそう思う・・・だ・・・ろ・・・?」
シュトラの手が、体が崩れ落ちていく。
シュトラだった『モノ』を、俺は急いで抱き留めた。何もかもが遅いとわかっていながら。




