悲痛な叫び
「フェルン、すまないが急な仕事が入った」
俺とフェルンのデートは、突然やってきたヴィルラドの一言で終わりを告げた。
「え・・・。今日はお休みだって言ってたのに、まだ夕方にもなってないよ」
フェルンにしては珍しく、とても不服そうだ。
「仕方がないさ。私たちは勇者パーティなのだから」
「でも・・・」
フェルンは気まずそうに俺の方をちらりとみた。
「仕方ないさ。俺はいつでも暇人だから、またフェルンの徒弟がない時に誘ってくれよ」
「・・・うん」
笑顔を向けると、彼女はうつ向いてそういった。
「悪いな、勇者」
「元だよ、元。貴族のお前が間違えんな」
「ふ、そうでもないさ。時期にわかる」
「・・・?」
首を捻った俺を無視して、ヴィルラドは去っていった。
「ごめんね、じゃあまた・・・」
その後ろを、フェルンも申し訳なさそうについていくのだった。
・・・この時の俺はまだ知らない。今日という一日が、あんなに長くなるということを。
そして、次に会う彼らがあんなにも・・・変わり果ててしまうということを。
☆
一人ですることもないので、奴隷の彼女が待つ家へと帰る。
ま、彼女の精神的には俺のことなんて待っていないんだろうけども。
「ただいまー」
もちろん返事なんて帰ってこない。いつか帰ってくるようになればいいなと切に思うが。
「・・・早かったわね」
「ま、いろいろあって。・・・なんか疲れてないか」
椅子に座って頬杖を突く彼女は、どこかそう見えた。
「仮に疲れてたとしてもあなたには関係ないことでしょ。いちいちキモいこと言わないでよね」
「そーですかい」
彼女の前の椅子に腰かける。
すると。
「・・・」
奴隷の彼女が、俺のことをじっと見つめてきた。いつも通りの不機嫌そうな顔で。
「何。どうかした?」
「別に」
問いかけると、一度は視線を外すが、時間がたつとチラチラ俺の方を見てくる。
「だから、何?顔になんかついてる?」
「だから別にって言ってるでしょう。安心していいわ、あなたの顔には何もついてない。いつも通り冴えない顔してるわ」
「嘘だゾ。ぜったい嘘だゾ」
「は?嘘じゃないですけど?」
うーん。彼女はそう言ってるが、やはり何か言いたげに俺のことをチラチラ見てくる。なんか微妙に居心地が悪い。
良し、ここは冗談でも言って場の空気をを換えてしまおう。
「もしかしてお前・・・俺とフェルンのデートが気になるのか?・・・大好きなご主人様の恋の行方がどうなったか気になるなんて、案外乙女だなぁ」
そうして、『何バカなこと言ってんのよ』って怒られてしまえばいつも通りの俺たちだ。
・・・と、そんな予定だったのだが。
「ー--なっ!?」
奴隷の彼女が、机をたたいて立ち上がる。
「な、ななな何バカなこと言ってるのよっ!?」
彼女の口から出た言葉は予定通りだったのだが、そのニュアンスはだいぶ違っていた。
「おいおい、なんでそんなに取り乱してるんだよ」
「取り乱してなんてないからっ!」
もう一度机をたたいて叫んだ彼女の頬は、ほんのりと赤らんでいる気がした。
「ごめんな・・・軽い冗談で場の雰囲気を変えようと思ったんだけど・・・まさか図星だったとは・・・」
「違う!だから、違うんだってばっ!」
その日初めて、元勇者の家中に奴隷の彼女の悲痛な叫び声が響いた。




