仮面
勇者パーティ御一行様の泊まる宿屋は、やはり町一番豪華なものだ。窓から見る景色も良ければ出てくるメシもうまい。
ただ一つ難点を上げるとするならば、入口の扉がないこと。・・・ま、壊したのは俺なんですけどね。
宿屋の主人たちへの謝罪と、弁償するという約束をしてから階段を上がる。
そして一番奥の部屋に・・・今度はちゃんとノックしてから入る。
中にはフェルンと奴隷の彼女。
「あ、ずいぶんと早かったですね」
フェルンが太陽のような笑顔で語りかけてくる。
「ま、相手はただの盗賊だからな。お前らと一緒にいた時の方がヤバいのと戦ってた」
実際のところ、戦っていたのは周りのみんなで、俺はほとんど見ているだけだったが。
「そっか、それならよかった。私たち心配してたのだよ?」
「・・・心配してくれたのはフェルンだけだろ」
俺は嫌味ったらしくそういった。仕方ないさ、事実なんだから。
だって、奴隷の彼女は俺のことを・・・
「では、お邪魔みたいなので私は出ていきますね。それじゃあね、アイ・・・」
何か言いかけたところで、フェルンは自分の口を両手でバッと塞ぐ。
「『あい』?」
不思議に思い、聞いてみると。
「アイ、あいぃ・・・そう!アイスが食べたいな~、なんて。あははは・・・」
フェルンは明らかに何かを誤魔化して笑った。さらに問い詰めようかとも思ったが。
「そ、それじゃあごゆっくりー」
そういって、少々強引に部屋を出て行ってしまった。
・・・フェルンが出ていってしまったのだから、部屋の中には当然二人っきり。
俺は黙ったまま、奴隷の彼女の近くまで行ってその顔を見た。
フェルンのおかげで、痛ましい傷はすべて消えている。・・・本当に良かった。
ーーーなら、フェルンがいなければ?
神にも等しい彼女の能力がなければ、今頃どうなっていた?
「・・・なによ」
いつものように、奴隷の彼女が不機嫌そうな顔をする。そう、いつものように。
「なによ・・・じゃねーよ。もっとあんだろ」
握った拳が、わなわなと震えた。
「言うべきことがさぁ、もっとあんだろ!」
彼女があんな目にあったのは俺のせいだ。
俺が大切だと言った指輪を守ったから。ミリエラの、俺を殺す計画に巻き込まれたから。
・・・いや、それよりももっと前。俺が彼女の人生を、たった数枚の金貨で買ってしまったから。
だから彼女には、他にもっと言うべき言葉があるはずなんだ。
怒鳴ってくれてかまわない、殴ったって別にいい。だというのに彼女は・・・
「はぁ?なによそれ。別にないわよ、言いたいことなんて」
いつも通り、そういった。そう、いつも通りに。
ひどい目にあったことなんて、まるでなかったかのように。
「あるだろう、普通。普通さぁ・・・」
不意に、両目から涙が出る。
フェルンに治してもらう前の彼女の姿があまりにむごたらしかったからか、それとも自分のみっともなさからか。
「・・・なに泣いてんのよ。だっさ、勇者のくせに。言っときますけどね、私は
あなたが仮に殺されたとしても、涙の一つも流してあげないから」
だって、だってさぁ・・・」
両腕で涙をぬぐう。が、止まってはくれない。
俺だって、女の子の前で泣きたくなんてないのに。それに、本当に泣きたいのは奴隷の彼女の方のはずだ。
「・・・泣く必要なんてないのよ。だって一番大切なモノはちゃんとあなたの手の中にあるんだから」
「あんな指輪なんて、どうでもよかったんだよ!」
大切なモノには変わりない。だけどそれよりも、もっと大事なものが目の前にある。
「なんでお前は、そんなにいつも通りなんだよ。お前があんな痛い思いをしたのは・・・」
「したのは、なに?まさか自分の為だなんて思っちゃってるの?・・・思い上がりもいい加減にしてほしいわね」
彼女はあきれたようにため息を一つ。
そして。
「いい?・・・もう一度教えてあげるからよく聞いておいて。それから足りない脳みそにしっかりと刻んでおきなさい。私はーーー」
俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。
☆
言いたい言葉がある。
伝えたかった想いが、たくさんある。
だけど私は、その全部に蓋をして、自分の気持ちを押し殺して、心に仮面をつけて。
そうやって、言うんだ。
ーーー眼を逸らすことなんて許されないから、彼の眼をしっかりと見据えて。
「・・・私はあなたのことが、大っ嫌いよ」
少しでも面白い、続きが気になると思った方は、『評価』と『ブクマ』をどうかお願いしますっ!
下部の星マークでの評価を・・・
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます。




