メニュー1 素朴な味のポトフ
メニュー1 素朴な味のポトフ
きっとその出会いは運命だったと思うのです。神官として、中立都市「サブディア」へ向かう道中、盗賊に襲われた事も、神殿では教えてくれない真実を教えてくれた人に出会う事も出来たのも、私にとって幸福であり、そして進むべき道を示してくれたのだと思うのです
「イワサキさん。いつものお願いできますか?」
「はいよ。ポトフだな、直ぐ準備するよ」
迷った時、どうすればいいのか?と悩んだ時。そして自分にとって大切な物を思い出したい時、私はイワサキさんの店でポトフを食べるのです……
気絶から目を覚ましても、俺はやはり森の中にいて、そして人間ではなく。モンスターズワールドのコックマンの姿だった
「夢じゃねえ……マジか」
なんでだ。なんで俺はコックマンなんだ?そしてここはどこなんだ?誰かに尋ねたいのだが、誰もいない。と言うか、周りに人がいるとしてモンスターの姿なのか?人間だったら俺が襲われるんじゃないのか?と言う恐怖が頭を過ぎる
「まずは……うん。アイテムボックスオープン」
もしこれがモンスターズワールドの世界ならばと思い、アイテムボックスを開ける言葉を口にする、すると目の前に黒い渦が現れる
「え?これ?」
ゲームではこう。8×8のマスが表示されるんだけどな?と思いながら黒い渦の中に頭を入れる。そこには俺がモンスターズワールドで集めに集めた豊富な食材が鎮座していた
「うん……マジか」
あるかな?とは思っていたが、それでもこうして目の前にするとマジか?と言う感想しか頭に浮かばない。しかしどうした物か……コックマンは料理人なので、戦闘など出来る訳が無い。料理に回復や強化の追加効果を付与する、それがコックマンの真骨頂であり自ら戦う物ではないのだ。と言うか、俺自身料理以外興味ないので武器や防具も無い……ん?
「こいつは……なんであるんだ?」
昨晩少年に飯を食わせてやった時。お礼だと差し出された金の硬貨……それがポケットに入っていた。なんでここにあるんだ?と言う疑問を感じながらも、俺が人間だった時に貰った物だ、俺が岩崎司だったという確かな証拠だ
(お守りとして大事に持っておこう)
たとえコレが金として使えたとしても、決して使わずに持っておこうと心に決め、それを大事にコックスーツの内ポケットにしまいこむ
「襲われない事を祈って進むしかないな」
まずは誰かを見つけて話を聞く、それしかないだろう。もし襲われるなら逃げる、そして人のいない場所でひっそりと料理をしながら暮らすしかないだろう
(あーあ。何でこんな事に……)
飯を作って誰かに美味いと言って貰いたい。その為に店を持とうと思ったのに……なんでこんな事に……俺は溜息を吐きながら森から移動するのだった……
どうしてこんな事に……私は馬車を取り囲んでいる盗賊を見て震えながら、私「ミリアリア」は何度目になるかも忘れたどうして?と言う言葉を呟いた。王都セルフレントから中立都市サブディアの教会へと修行の為に移動し、あともう少しと言う所で盗賊に襲われてしまったのだ、比較的安全と言われる王都から中立都市への道中で襲われたというショックは私にはとても大きい物だった。しかしそれは盗賊に襲われたからではない、私を取り囲んでいる人達の言葉を聞いてしまったから……
「すまないな、神官さんよ。でもよ、死んじまうんだよ……嫁さんがよ……だから食いもんを寄越してくれ」
「すまねえ、すまねえ……俺らだってこんな事したくねえんだ」
「サーム村で疫病が流行っても王都から神官も来てくれない。食料の支援も無い、このままじゃサーム村は滅んじまう」
すまないすまないと繰り返し謝り、食料を分けてくれと懇願する盗賊……いえ、サーム村の農民達。疫病が流行っているという噂は聞いていたが、それは帝都の方であり、王都では疫病が流行っていないと思っていた。だけど実際はこっちの領土にも疫病が流行っていると聞いて、その衝撃は凄まじい物だった
「神官さん。食料を渡すのは許しませんよ」
「え?」
私の乗っている馬車の従者が私が食料を差し出そうとするのを見て、駄目だと止める。どうしてですか?と尋ねると従者は逆になんで判らないんですか?と笑いながら
「疫病で滅ぶ村なんて腐るほどありますよ。そんなのに一々食料を配れるわけ無いでしょう?」
第一私の食べる食料が無くなりますと断言した従者に絶句する。教会の人間でここまで自分本位の人間がいるなんて思っても無かった
「良いです。私の食料を与えますからッ!」
「だーかーらー、駄目だって言ってるでしょ?どうして判らないんですか」
施しをすれば、サーム村は配給があったのにと問題になる。だから食料を渡す事は出来ないんですと従者は断言し、そして懐から銀のメダルを取り出す。それは王国の神官である言う証であり、私の胴よりも遥か上役と言う証
「私は従者ですが、貴方の神官としての適正を図る事も任されています。その意味が判りますね?」
その言葉に息を呑む。それは卑劣な脅しだった、だけど助けてくれと困っている人を見捨てて何が神官だ。ニヤニヤと笑う従者を睨みつけていると私達を囲んでいる村人達から悲鳴が聞こえた
「も、モンスターだ!? モンスターが出たぞ!!!」
「「え!?」」
森の出口の方に黄色の身体に白い服を身に纏ったモンスターの姿があった。亜人でも、人間でもない。その異形の姿は400年前に大陸を支配していたと言うモンスターにしか思えず
「ひ、ひいいいいいいッ!!!!」
従者はこんな仕事引き受けるんじゃなかったと叫び、馬車を牽引していた馬の綱を切り、馬に跨って1人だけ逃げ出してしまう。馬を失った事で馬車はもうただの隠れ場所にしかならなくなってしまった……モンスター相手では何の役にも立たない、木の砦。それでも少しでも救えるかも知れない、私は私の成すべき事をする!私はそう決意し私は馬車から顔を出して
「早く! 馬車の中に隠れて!!!」
もう何百年も姿を見ていないモンスターが現れた。ここで死ぬ事は間違いないが、モンスターの知性が低く見つからないかもしれない。そんな淡い期待を持ち村人達に馬車の中に隠れるように叫ぶ、村人が馬車の中に乗り込んだのを確認し、私1人だけ馬車の外に出る。私は神官だから村人を護る責務がある、例え死んだとしても、僅かな時間稼ぎにしかならないとしても……私は私の成すべき事をする。強い決意を持ってモンスターを睨らむと、モンスターは私の視線に気付いたのか、その歩みをこちらに向ける。その移動速度は凄まじく、物の数分で私の前に来た
「わ、私は王都の神官ミリアリア! 邪悪なモンスターよ! 去りなさいッ! さもなくば、神の天罰が下りますよ!」
震えながら杖を構え、モンスターに去れと叫ぶ。私の魔法は決して強い物ではない、ダメージを与えるのが困難だと言うのは判っているが、なけなしの勇気を振り絞りそう叫ぶと、モンスターは困ったように頬をかきながら
「あーミリアリアさんだっけ?ここどこか教えてくれないか?」
「はい?」
不気味な唸り声でもなく、困ったように笑いながらここはどこだ?と尋ねてくるモンスターに私は完全に毒気を抜かれてしまった。も、モンスターじゃない?もしかして亜人?と思って見つめているとお腹がぐーっと音を立てる。ま、まだ朝からご飯食べていませんでした……その恥ずかしさに顔を赤くしているとモンスター(?)は
「ああ。なんだ腹空いてるのか、じゃあ飯でも食いながら教えてくれよ。今何か用意するから」
「え、ええ?……えっとお?」
何も無い虚空から鍋や食材を取り出し、調理を始めたモンスター(?)に私は間抜けな声を出す事しか出来ないのだった……
森を出て馬車を見つけて、話を聞けると思ったら邪悪なモンスターかぁ……やっぱりモンスターは居ないのだろうか?と思いながらまな板と包丁を取り出す。勇ましく名乗りを上げていたミリアリアと言う茶髪の小柄な少女に振り返り
「飯食うのミリアリアさんだけ?馬車の人は?」
「えっえっと……はい、馬車の中に10人ほど居ますが……」
10人……10人かぁ。それなら煮込み料理だな、それに顔つきも日本人と違うので、和食よりも洋食だな
「も、モンスターですよね?」
「……多分?俺ってやっぱモンスター?」
逆にモンスター?と尋ねると、た、多分と言う返事が返って来る。やっぱり俺ってモンスターなのかと落胆する、だがやっと見つけた現地人だ。なんとかしてこの周辺の事を聞きたい
(こう思え、こう思うんだ)
ここは外国。俺は日本人、うん。そう思え、そう思えば大丈夫。姿形が違っても、美味いと思う心は同じはず……美味い飯を作ってなんとか話し合いの余地を……それだけを考えていると馬車から1人の男性が降りてくる
「モンスターじゃないのか?」
「逆に聞くけど俺モンスター?」
も、モンスターだと思うが?と言う返事が返って来る。だが男性も困惑している素振りが丸見えだ、茶色の眼と黒髪。それとがっしりとした体格をしているのだが、顔色が悪い
(ビタミン欠乏症か?……それに服装も……なんと言うか質素だ)
ミリアリアのシスター服とは違う、ボロボロの服装は無精髭と合わさり貧乏な村人と言う印象を俺に与えた。とりあえず、なんにせよ。まずは飯だ。飯を作って敵じゃないと認識して貰って話し合いはそれからだ。俺はそう考え、食材をアイテムボックスから取り出す
「「何も無いはずの空中から食材が……」」
アイテムボックスから取り出した食材を見て驚く2人。モンスターみたいだが、モンスターじゃない?と言う呟きも聞こえる。
(ファンタジーの世界なのかね?)
漫画やアニメで見る異世界転移とかいう奴か?いやいやそんな馬鹿なと思うが、この姿に男性とミリアリアの姿を見れば、それが真実に思えてくる。死んで異世界転移……事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ
(さてとさっさと作るか)
俺含め12人。とろとろやってる時間は無い、取りだしたじゃがいも、キャベツ、人参、玉葱。そしてウィンナー……作るのはポトフだ。煮込み料理だが、そこはコックマンの名に偽りは無い。料理だけに限定すれば、コックマンほど適した種族は居ないのだ
(じゃがいもは水で洗って……あ、水は……うん。これでいいだろう)
水色の菱形の結晶を取り出し、近くに見えた石の上に乗せる。すると水晶から水が溢れ出す、アクアクリスタル。その名の通り水を作り出す結晶だ
「み、水が石から溢れてるだと……」
「ま、マジックアイテム……で、でもあんなの見たことも聞いたこともない……」
アクアクリスタルに慄いている2人。だけど俺としては、作った料理に驚いて欲しい物だ。アクアクリスタルから溢れる水で野菜を洗い、包丁で皮を剥き、じゃがいもは煮ることで煮崩れする事も考え、豪快に半分に切り。ざるにほうりこむ、人参は半分に切って、更にそれを半分に切ってこれまた大きく切り分け、包丁の先端で隠し包丁を加える。
(大分胃が弱ってそうだ)
見た感じだが、数日は何も食べていないだろう。そんな中急にがっつりとした食事を取らせるのは、胃にも、身体にも良くない。まずは優しい煮込み料理、それもスープをメインにした物で胃に食べ物を入れるぞ?と言う事を伝えなければ
(こういう細かい細工は得意なんだよな)
ざく切りにしておきながら、細かい隠し包丁をいくつもいれる。これで食べやすくなる上に、スープが良く染みこむのだ。玉葱だけは甘みを出したいという事もあり、薄切りにして火が通りやすいようにする。ポトフは田舎の素朴な料理だ、下手に取り繕うよりもざっくりと豪快に作ったほうが見た目も良い。キャベツは包丁なんか使わず、素手で食べやすい大きさに千切る。ウィンナーは切込みを入れるだけでOKだ、後は大鍋に油を入れて、切り分けた野菜とウィンナーを入れ。今度は赤い四角い石……ファイヤークリスタルを地面に置くと火柱が上がる。火柱を鍋で押さえこみ、ヘラで炒める。周囲に野菜を炒めるじゅーっと言う小気味良い音が響く
(うんうん、良い感じ良い感じ)
この短い手で料理が出来るのか?と言う不安はあったのだが、全然問題ない。ヘラも持てるし、包丁も使える。姿こそ違うが、体の感覚は生身と殆ど変わらないようだ。玉葱の色が透き通ってきた頃合でアクアクリスタルを手に取り、直接鍋の中に注ぎ込む。12人前だから……500mlの十倍……5000 mlってとこか……。大鍋に水が満ちた所で、致命的な事に気付いた
(コンソメねえ……)
普通ならここでコンソメブロックを入れるのだが、当然ゲームにコンソメの元なんてものは無い。何か無かったかと思い、アイテムボックスに頭を突っ込む。周りから虚空に頭が消えた!とか言う声が聞こえるが、それは無視する。
(お、これで代用出来そうだな)
牛筋のアイテムを煮詰めていると作れる「牛筋の煮こごり」を見つけ、それを2つ取り出し、鍋の中に入れる
(本当ならコンソメなんだがなあ……)
本当ならコンソメだが、無いもの強請りになるし、旨みと言う事を考えればこの牛筋を煮詰めた煮こごりの方が遥かに上だ。煮こごりが解けたのを確認した、ここまで来たらもう完成したといっても過言ではない。後は蓋をして、野菜に火が通るまで十分に煮詰めるだけだ。
「さてと……うん、まずまず」
十分に煮えた頃合で御玉で掬い味見をしてみる。煮詰めた野菜の旨みとウィンナーの塩気が良く効いている、それに先ほど入れた牛筋の煮こごり、これもスープに深みを足している、仕上げに少し塩を振れば文句の無い仕上がりになるだろう。少し荒い所はあるが、野外料理と言う事を考えれば十分すぎるレベルだな。少しだけ塩を加えて、後は仕上げだ。アイテムボックスから皿を取り出して盛り付ける、スープだからパンとかあるといいんだが、流石に材料は合ってもパンは無かった……幾らファンタジーの世界でもそこまで万能じゃない。小麦粉やイースト菌はあったが、パンが無かったのが残念と言えば残念だ。
「どうぞ召し上がれ。岩崎特製野菜ごろごろポトフです」
ミリアリアとその隣の男性にポトフを入れた皿を差し出す、これは俺にとっても勝負。異世界に俺の味が通用するか……俺は思わず緊張した面持ちでポトフを口に運ぶミリアリア達を見つめるのだった……
モンスターが現れたとき。俺は天罰なのだと思った、村に疫病が流行り滅びる寸前で、家族を、村を救いたい。それだけを考え、少しでも栄養のあるものを食べさせたい、そう思って中立都市に向かう馬車を襲った。そんな事をしたから天罰が下った……そう思った。だが現れたモンスターは何故か料理を作り、俺とシスターに差し出したのだ
(なんだ……これは……?)
透き通るような琥珀色のスープに腸詰めが2本。それに見たことも無い野菜がたっぷりとしかも、かなり大きくごつごつと切られた物がスープの中に沈んでいた。モンスターの料理だから血が満ちたおぞましい料理だと思っていたのに、予想に反して差し出されたのは王都で出せれていてもおかしくないような一品だった。それに皿も白く美しく、スプーンは先端がフォークになっており、具材をフォークのようにさせ、更にはスープを味わう事も出来るという、見たことも無い形状をしていた
(野菜ごろごろポトフと言っていたが……ポトフとは煮込み料理だったのか……?)
どんな恐ろしい物を食べさせられるか?と怯えていたのに、コレは予想外の一品だった。だがモンスターの料理と言う事で口に運ぶのは恐ろしい……だがッ!
(ぐっぐう……香りを嗅いでいるだけで腹が空いてくる。それに……美味そうだ……)
疫病で村が滅びかけ、そして何よりもここ数日何も食べていない。スープの温かさは皿越しに両手に伝わり、そして漂ってくる香りは鼻を直撃し、腹を鳴らす。恐ろしいという気持ちはあった、それでもあまりにも美味しそうな香りに食欲を抑えることが出来ず俺はスープを口に運んだ。
「……」
声も出ないとはこの事だ。澄んだ琥珀色のスープは味気無さそうに見えるのだが、その旨みは俺の想像を遥かに超えていた。野菜の甘み、腸詰め肉の味だけではない、もっと複雑で恐ろしいほどの食材の旨みがスープに溶け出していた
「……はう。美味しいです」
「そいつは良かった、ちょっと寒いからな、スープの方が身体が温まると思ったんだよ」
本当はパンがあれば良かったんだがなっと笑うモンスター。食べる俺達の事をここまで考えていてくれるなんて……夢にも思っていなかった
「おい、ベッチ!そのスープは大丈夫か?」
「血の味とかしないか?」
馬車から顔を出してスープは大丈夫か?と仲間が尋ねてくる。毒見を買って出た俺だが、正直。毒見を買って出て良かったと思っている。まさかこれほどまでに美味いとは……俺は無言で赤い野菜をスプーンで掬い口に運ぶ
(甘い……!)
甘い野菜なんて食べた事が無い。柔らかく煮られているのに噛み応えがある……しかし口の中で溶けて行く。なんだ、なんなんだこれは!!!! こんな料理、王都でだって食べれる物じゃないッ!!
「あふっ……あ、あつい……で、でも、美味い」
今度スプーンで掬った黄色くて、ごつごつとした石のような野菜を口に運び、その熱さに目を見開いた。口の中でぽろぽろと崩れるのだが、崩れた野菜からたっぷりとスープが溢れ出し喉を焼く。だがその熱さでさえも心地いい
(これもだ、これも美味い!!!)
緑色のざく切りにされた野菜はとても柔らかく、これもさっきの野菜と同じく甘みに満ちていた。仲間が大丈夫か!?と声を掛けてくる。だがそれに返事を返そうとは思わなかった。この美味さに俺は完全に魅了されていた……
(これが……メインだ)
そして最後に残った腸詰めを見てごくりと喉を鳴らす。ただの野菜でさえここまで美味かったのだ、この腸詰めも普通の腸詰めではない筈……食べているのに腹が減る。今まで味わった事の無い感覚に困惑しながら腸詰めにスプーンを刺し、腸詰めを頬張る
「う、美味いッ!!!!」
「お、美味しいですッ!!」
俺とシスターの美味いという声が重なった。今まで食べた腸詰めがなんだったんだと思う、今食べた腸詰めはぎっしりと肉が詰まっているだけじゃない、ハーブが練り込んであるのかさわやかな後味が口いっぱいに広がる。それに見た目こそ丸のままの腸詰めだが、口にしたら判る。この腸詰めも野菜も食べやすいように驚くほどの考慮がされていた
(一見雑に煮ただけ……だが、実際は違う)
野菜も腸詰めも食べやすいように、小さく、細かい切り込みが入れられていた。それは食べやすさだけではない、スープが具材に染み込みやすいように配慮されていたのだ
「皆! めちゃくちゃ美味いぞ! 早く出て来い!」
スープを最後の一滴まで飲み干し、馬車の中に居る皆に出て来いと声を掛ける。すると歓声を上げて村の皆が飛び出して来る
「熱いから火傷しない様に気をつけてな」
1人1人に丁寧に声を掛け、スープを配るモンスター。皆が美味いや美味しいという声を出しているのを見ると、もっと欲しいと思うが……それは流石にあつかましいのでは?と言う考えが頭を過ぎる。それに村の皆が苦しんでいるのに、自分だけたらふく美味い物を食べるのは間違っているのでは?と思う。村で苦しんでいる妻の事もある、出来るならこのスープを持ち帰ってやりたい
「ミリアリアとベッチだったか?お代わりはいらないのか?たっぷりあるんだぞ?」
モンスターがお代わりはいいのか?と声を掛けてくる。食べたい、食べたいが村の皆の事を考えると……
「なんか悩んでいる事があるみたいだが、まずは飯を食え。話はそれからだろ?もし俺に協力できるなら手伝うからさ?」
だからまずは飯を食え、酷い顔をしてるぞ?と言われ、俺は村の皆に申し訳ないと思いながら、モンスターの作ってくれたスープのお代わりを貰うのだった……
酷い顔色をしていた男性達の顔に血の気が戻ってきた。やはり塩分の不足とビタミンの欠乏。それに加えて空腹だったのが大きな理由だろう
「ああ、美味い。美味いなあ……」
「腸詰めも、うめえ……ただの腸詰めじゃなくて、臭みを消す為にハーブが入っていて……オマケに噛み切ると、肉の旨味と一緒に肉汁も広がりやがる! これは……脂身なのか?」
「本当はモンスターじゃなくて、亜人なんじゃないのか?」
「亜人でも、モンスターでもいい……これだけ美味い物を食えるんだから……でも村の皆にも食わせてやりたいな」
村の皆……か。それに「亜人」と「モンスター」と言う言葉、そこがどうも気になる
「あの、貴方は一体?モンスターではなく、亜人なのですか?」
ある程度食べて落ち着いたのか、ミリアリアが俺が何者なのか?と尋ねてくる。正直言って、俺が知りたいと思っている事だな、それは
「判らん、気がついたら俺はあの森に居た。俺はなんなんだ?亜人なのか?モンスターなのか?」
もし知っているなら教えてくれと言おうとした時、ポトフを食べていた男性の1人が叫び声を上げる
「どうした!シュウ!」
「まさか毒!?」
いやいや、俺は料理人だ。飯に毒なんか混ぜたりしねえよ!!!心の中でそう叫ぶとシュウと呼ばれた男性は手を震わせながら
「み、見える……み、右目が……見えるんだ。見えなくなった筈の右目が……」
長い髪に隠されていた右目には深い切り傷の跡があり。それは彼が失明していた証拠なのだが、今はしっかりと開かれ光を宿していた
「うっ! 今度は俺だ……な、なんだ……足が……左足が動くぞ……」
今度は足を引き摺っていた男性が足が動く、動くんだ!と泣きながら周囲を飛び跳ねる
(エンチャント効果か?)
コックマンの料理はそれ自体に魔法の効果を秘めている。疲労回復であったり、筋力向上と言った回復やバフまで自由自在だ。意識していた訳ではないが、知らない内に料理に追加効果が発動していたらしい
「奇跡だ……モンスター……いや、貴方は神の御使いなのですか!? もし! もしそうならば! 村を! 俺たちの村サーム村を助けてください! 俺に出来る事なら何でもします!! お願いします!! お願いしますッ!!!」
「おいおい! 落ち着け! 落ち着いてくれ!!!」
俺の脚に縋りつき、村を助けてくれと繰り返し叫ぶベッチ。俺としては料理をしていただけなので、この反応には困惑するしかない。と言うか神の御使いってなんだ!?
「確かに失明していた方の光を取り戻し、動かない足を癒した……貴方はきっと神の御使いなのですね。この出会いを齎してくれた神に感謝を」
止めろッ!俺はただの料理人だ!神の御使いとかじゃねえ!そんなにありがたいとか、神よ感謝を!とか口々に言うんじゃない!!!
「俺はただの料理人だ、神の御使いとやらじゃない。判るか?」
「はい。料理人として世界を見極めるという事ですね?」
ちげぇ!!!話が通じないってこんなにやばいし、精神的に疲れるのか……俺はがっくりと肩を落としながら
「とりあえず、あれだ。ベッチだっけ?村ってとこに案内してくれよ。俺で何とか出来るか判らんけど、協力するから」
「おおお……感謝いたします! こちらです!」
俺をサーム村とやらに案内してくれるベッチ達と、私も同行しますと言って俺の後ろにつくシスターミリアリア。俺はここがどこであるか?と言う以上に神の御使いとやらにされる事を恐れるのだった……
(あ、でもミリアリアの首から提げてるペンダント、材質は違うけど、俺の持ってるのに似てるな)
胴と金と言う差はあるが、作りは同じように見えた。どうして現実世界で貰った物と同じ物がこの世界にもあるんだろうな?俺はそんな疑問を胸に抱きながら、ベッチ達に案内されサーム村へ歩み始めるのだった……
メニュー2 温かい卵雑炊へ続く
飯テロに挑戦しましたが、今回はどうでしたでしょうか?前回よりも飯テロになっていればいいのですが……そこだけが不安です。ポトフに続き、雑炊と料理としては弱いですが、疫病に侵された村と言う事で固形物よりも病人食で行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします