最終話!
「……では、僕の方からの要件は終わりです。ランスロット団長」
「うむ! それでは最後、私から!」
「は、はい」
ごくり。
相手は騎士団の団長様。
一体どんな……。
「ゲオルグたちの件だ! 本人たちが結婚式などは考えていないと言っていたんだが、やはりそれはいかんと思うのだ! そこで、我々で場所を用意してはいかがだろうかと思ってな! 提案に来た!」
「……声量下げやがれ。サプライズにするにしてもあんたの声の大きさでバレるです」
「彼女は仕事を続けたいのでしょう? ゲオルグは実家住まいでしたっけ。結婚後はどこに住むんですかね。その辺りも決めているのでしょうか?」
「……いや、それは余計な世話すぎるだろ……。ガキじゃねーんだから住む家くらい自分たちで決められるだろう。あんまり口挟むんじゃねーよ、悪い癖だぞフレディ」
「いやぁ、ランスロットやハーディバルにも早く良いお嫁さんが見付かるといいのですけどねぇ」
「返す言葉もありませんな! はっはっはっ!」
・・・・・・・。
「「「? ? ?」」」
盛り上がってるところ悪いけど、私たちは何の話かさっぱり分からない。
ゲオルグ、さん? はて? 誰かしら?
結婚……? おめでたい話題なのは分かるけど……私たちになんか関係あるの?
「ん? どうした? キョトンとしているが……」
「も、申し訳ございませんジョナサン殿下……。……そ、その、なんのお話しかよく分からず……」
「え? 聞いていないんですか?」
「は、はい。……ええと、わたくしたちに関係するどなたかのお話ですか?」
王子たちが顔を見合わせる。
その後ろで固まるランスロット団長とハーディバル。
え? え?
「……これは早まりましたね……」
「ハーディバル、面倒くせぇから本人たちを呼んできてくれ」
「はーい」
「サプライズ結婚式の計画はどうしたらいいだろう!? ハーディバルくん!」
「今日は諦めやがれです」
ぱたむ。
扉が閉まり、顔を見合わせて困り果てるユフィとエルフィ。
カノト氏何か聞いてる?
こっそり耳打ちすると、全力で首を横に振られてしまう。
カノトさんも何も知らないらしい。
ええ? いったい誰と誰の結婚なの!?
「連れてきたです」
と、ハーディバルが連れてきたのは、二メートルはありそうな巨体の男。
顔は毛むくじゃらで、熊のよう。
そしてその横には……え?
「レナ?」
レナメイド長?
え? え?
「も、申し訳ございません! ユスフィーナ様! お嬢様! ほ、本当はもっと早くにご報告すべきだったのですが!」
「え? え?」
「私! レナ・ハルトンはこのゲオルグ・カルティエ様と結婚します!」
「「「…………………………ええええええ!!!」」」
ね、寝耳に水ーー!
待って待ってどうしてそうなったのぉぉ!?
っていうかその熊とぉぉぉ!?
「じ、実はレベル4襲撃事件の日に派遣されてきたゲオルグ様と出会いまして……」
「自分の一目惚れであります……! 必ず幸せにしますので、結婚させて下さい!」
パチパチパチパチ。
ランスロット団長とハーディバルと双子王子が拍手する。
熊みたいな人がレナメイド長に一目惚れ!
な、なぁんてロマンチックなの……!
っていうか私の知らないところで恋愛イベントどころかエンディングまでいってるって……どういう事よ〜!?
い、いや、おめでたいけどね?
おめでたいんだけどさ!
「そ、そうでしたのね。でもどうしてもっと早く言ってくれなかったの、レナ」
「……そ、それは……お嬢様たちの体調が心配で……。あのような事件の後で、言い出しづらくもあり……申し訳ございません!」
「そんな事を気にしていたの? ……もう……本当に余計な事にまで気を回して……あなたの悪い癖よ。……おめでとう、レナ……本当におめでとう」
「熊さんみたいでとても頼り甲斐がありそうな方ですわね!」
「はい。騎馬騎士隊の中でも防御系身体強化魔法の使い手の方なんだそうです」
「うむ! ゲオルグは守りに関しては騎馬騎士隊一と言っても過言ではない! こう見えて料理も上手いのだ! いやあ、先を越されてしまったな! はっはっはっ!」
確かにすごく強そう。
それに、レナメイド長に一目惚れするなんて女を見る目もあるわ。
顔は怖いけどレナメイド長をチラ見しては赤くなってあわあわと汗を飛ばしている……きっと一途な人なのね。
……イケメンとは言いがたいけど騎士団の人だもの、人のために命がけで戦う人に悪い人がいるわけない。
うん、まあ、合格かな!
私が全然関われなかったのはちょっと残念だけど……レナメイド長が幸せそうに笑ってるんだし、まっ、いっか!
「……ミスズ」
「うわ、びっくりした! な、なに?」
和気藹々の雰囲気をすこーし離れて見守っていたらハーディバルが近付いてきた。
差し出されたのは銀の腕輪。
あ、これは!
「魔力補助器。壊れたんだろう?」
「ありがとう!」
マーファリーにトイレを流してもらい、シャワーのお湯を出してもらう日々に逆戻りしていたのよ!
ようやく念願の通信端末を使えると思っていた矢先のあの出来事!
早速腕に装! 着!
やった! ゲーム! これで! 通信端末で! ゲームが出来る!
「悪かったな、持ってくるのが遅くなって。誰かに頼もうかとも思ったんだが、騎士団もそれなりに人手が足りなくて」
「ううん、こっちこそハーディバルには色々お世話になったもの」
特にあの『自動攻撃無効化』のネックレス!
残念ながらエルフィとユフィはそれがあってもなお、あんな大怪我をしてしまったけど……ナージャは少なくとも助かった。
それに、本当にちゃんと……私の事も助けに来てくれたしね……。
「これにも通信機能が付いてるの?」
「一応な。緊急時以外は使う必要はないが」
「そっか。まあ、でも心強いかな」
「それにしてもお前、そういう顔だったのか」
「は?」
また何を言い出すのこいつは?
言われた意味がさっぱり分からない。
しかしハーディバルはかなりまじまじと私の顔を見ている。
……え、な、なに?
「『死の気配』で顔はぼんやりしか見えなかったから」
「え」
「……怖がらせると思ったから言わなかったが、エルファリーフ嬢とユスフィーナ様よりお前の方がよほど強い『死の気配』を纏っていたんだ。顔も体も真っ白で、時折隙間から髪や目の色が分かるくらい」
「う、うそ、私が!?」
「実際死ぬ目に遭っただろう?」
「う……」
……そう、ね、その通りだわ。
ターバストに脚は焼かれるし、胸から生命力の鎖が生えて……ウィルを縛り付けた。
生命力の鎖をウィルが壊した時、私は一度死んだのよね。
ウィルがすぐに自分の生命力……本来生きるはずだった寿命を私に与えてくれなかったら……私はあの時……。
うう、今考えるとかなり怖い。
改めてウィルありがとう。
そしてハーディバルの『死の気配』の精度パネェ。
「…………僕は安易に約束をする事はしない。安易な約束で後悔した事がたくさんあるから。けれど、お前が生きる事を諦めずに『死の気配』から生き延びたら……約束通りお前が帰るために僕も協力する」
「……ハーディバル」
「けれどやはり時間は掛かるだろう。異界への道を繋ぐのは人には簡単な事ではないから。……だからまずはせめて、お前の家族と連絡が取れるようにしよう。それくらいの魔法なら多分、すぐ使えるようになる」
「……お父さんやお母さんと、連絡……取れるようになるの……?」
スマホも何もかも全部、置いて来たのに?
「お前の魂の情報は必ずお前の家族とも繋がっている。それを辿って行くんだ。糸のようにか細いものだが肉親との繋がりは決して切れる事はない。そして連絡先がわかればお前の帰るべき世界も分かる。……問題は帰り方。……だから心配ない。とはいえ、ご家族は心配しているだろう。生きているなら……生き残ったならちゃんと連絡して無事を伝えてやったほうがいい。僕も手伝う」
「…………」
「ミスズ?」
何にもなくなったと思ってた。
私の世界、お父さんやお母さん。
一応、お兄ちゃんたち。
今頃心配してるだろうな、とか死んだ事になってたりして、とか……色々、寂しくなるから考えないようにしてた。
でも、私とお父さんやお母さんはちゃんと…………繋がってる。
話せるようになる。
お父さんやお母さんと。
心配させてる自覚はあるし、無事を伝えられるなら伝えたい。
でもそれを口にしたら気にし易いエルフィやユフィはそれはもう気に病むと思うから……。
誤魔化して、忘れようとして、考えないようにしてきた両親やお兄ちゃんたちの事。
私ですらそう思っていた事を、こいつは……。
「…………うん……ありがとう……」
やばい、泣きそう。
ダメだ、ここで泣いたらエルフィやユフィに気を遣われる。
せっかくレナメイド長の結婚で和気藹々してるのに、空気が変になるわ。
「溜め込むなよ」
「え?」
「魔獣になるぞ」
「………………」
真顔で。
それを、今……言うか。
「何よ、どーせ私の悩みなんてあんたには関係ないでしょ」
「ああ、だからお前ほど深刻にならず、話を聞いてやれなくもない」
「………………」
ガシッと腰のポシェットを掴み、外し、ハーディバルの顔面めがけてぶん投げた。
『んぎゃ!?』と潰れたような声が聞こえたが、それに被せるように私は叫ぶ。
「あんたに攻略されるつもりなんかないんだからね!! ばーーーっか!!!!」
そして逃げた。
全力でその場から逃げた。
客間から飛び出し、階段を駆け上がり、自分の部屋へと飛び込んで思いっきり扉を閉めて窓を開ける。
窓辺にうつ伏せになり、自らの発言に後悔しつつ真っ赤な顔を腕にこすりつけた。
あ あ あ あ あ あ あ !! !! !!
なにやってんのよ私は!
相手は十八歳よ、十八歳!
年下すぎよ、六つよ六つ!
しかも毒舌ドSの騎士隊長よ!?
顔は良いけど性格と口は最悪よ!?
どこがいいのよ、あれのどこが!
「……そう思うのに……」
始終キラキラして見えた。
優しさが滲んでくる。
私ですら考えないようにしていたお父さんとお母さんの事を、まさか考えていてくれたなんて……。
あいつの事を考えると胸がドキドキする。
話しかけられた時、変に緊張したしもう少し側に行きたいとか考えちゃったしつい口元とか見つめちゃったし……も、もう、私、これ…………い、いやいやいやいや!?
私は乙女ゲームプレイヤーであって、ヒロインはあくまでエルフィやユフィやマーファリー!
あいつは正直攻略対象かすら微妙なのよ!
まして、なんで私が!
「そうよ! 私はあくまでプレイヤー! ヒロインたちは私が必ず幸せにするのよーーー!!」
・・・・・・・・・・・。
「……『八竜帝王』を御三家の魔法騎士隊隊長の顔面に投げつけるとは……ふ、ふふ、ふふふふ……」
「おい、笑うなフレデリック。笑うところじゃねぇだろ……」
「ハ、ハーディバルくん、大丈夫かね……?」
「……ええ、僕は……。……大丈夫ですかウィノワール王」
『びっくりした。話は終わったのではないのか?』
「そうですね。……………………どうしてくれようかあのドブ女……」
「ハーディバル隊長様! ど、どうか穏便に!」
(ミ、ミスズ様、逃げてくださいいい……!!)
終








