第11話!
「なぁに、さんけんせいって」
「ああ、この国は王の誕生祭に『剣舞祭』という武術の大会が行われるんですが、その大会に二回以上優勝した者へ『剣聖』の称号を与えているんですよ。大体毎年五万人以上が参加するので、二回優勝はまさに神業。しかし、現在それを成し得た者が三人居る」
「……ご、五万人……!? そんな参加人数の大会に二回も優勝した人が三人もいるの……!?」
「一人はこの国の王国騎士団長のランスロット・エーデファー! あれは規格外。これまで三回優勝している。強さがふざけてるので殿堂入りという事で出場禁止にされました。次にミュエベール・フェルベール。女性初の『剣聖』であり、身体強化魔法と強力な炎の魔法で連続優勝。……あれです、ハーディバルのお姉さんです」
ああ……あのドS騎士のお姉さん……お姉さん!?
……そ、それだけでそんな感じがする……。
「そして一昨年、『剣聖』になったのがカノト・カヴァーディルです。稀に見ぬ風魔法の使い手で、その剣技は神速! 美しく見事という他ない! 僕も会場で直接見たのですがあれは凄かったです」
「……ちょ、ちょっと待ってくださぁい……『剣聖』って、この国に三人しかいないって言ってませんでしたかぁ……? ……え……ユスフィーナ様の想い人の方って、え……、そ、そんなに凄い、強い人、なんですか……ぁ?」
「カ、カノト様……そ、そんな凄い称号を……?」
「カノト様、凄いですわ……!」
「……なんか姉妹も知らなかったっぽいんだけど」
「……結構報道されてたと思うんですけどね」
私が知らないのは当たり前としたって、なんでこの世界のエルフィたちが知らないの。
まあ、いかにもお嬢様なユスフィーナさんとエルフィが知らないのは仕方ない……か?
「……で、ユスフィーナ様はそのカノトと想いあっておられると……」
「ち、違いますわ!」
「え?」
「……わ、私が一方的にお慕いしているだけなのです。……お会いしたのも一度きり……連絡先も存じ上げません。……むしろ、カノト様は私の事など覚えておられないかもしれません……」
「…………え?」
私もフリッツと同じように「え?」だ。
なにそれ、ますます萌える展開の予感……!
「どういう事なの? ユスフィーナさん、話して!」
「……十年前、伯父のマーレンス地方視察に同行した時に私の乗っていた車が魔獣に襲われましたの。……その時、当時領主だったお父上に同行してらしたカノト様が魔獣を追い払ってくださいました。歳が同じでしたので、私にもとても親切にしてくださって……」
「……待ってください、ユスフィーナ様が十年前……って事は……その“カノト様”も十四歳だったって事ですかぁ!? 十四歳で魔獣に勝つって……!」
「ハーディバルは十二歳で魔法騎士隊長になってますからね。才あるものは幼い頃から凄いんですよ」
驚くナージャへまさに今その年齢ジャストっぽいフリッツが笑顔で補足する。
とてつもない説得力に真顔で黙るナージャ。
いや、まあ、うん…………。
……いや、そうじゃなくて、魔獣から助けてもらったって事ね。
そりゃ惚れるわ〜。
っていうか、それからずっと一途にその初恋を想い続けてるって事!?
きゃー! す、素敵よユスフィーナさんんん!
「……うーん、でも……そうでしたか……。それじゃあターバストからの求婚には尚応えられませんね……」
「い、いえ、その……どうせ叶わぬ想いです。ですがターバスト様からの、その、ご婚姻のお話は私に領主を辞め、嫁ぐ事が前提。……私は領主を辞めるつもりはありません。ですから……何度もお断りのお返事はしているんです」
「……え? そうなんですか?」
え? そうなの?
「はい。ですが、なかなか諦めていただけなくて……。今ではここ最近、ほぼ毎日お手紙が届くんです。……竜人族はアルバニス王族の方々とあまり仲がよろしくないと聞いた事があるので、私がお断りし続ける事でよもや王家にご迷惑がかかるかもしれませんし……」
「考え過ぎですわ、お姉様……」
「ですが……」
「まあ、確かに竜人族はあまり王家と仲良くするつもりはないみたいですからね。ドラゴンの血を引く彼らと、幻獣族の力を取り込んだ王やその血を引く王子たちとの確執というやつです」
「やはり……」
「フリッツ様、そんな、お姉様の不安を煽るような……」
え、王族と竜人族って仲が悪いの?
どうして……だって……。
「同じ国の人たちなんでしょう? どうして仲が悪いの?」
「竜人族が種族間の確執を主張しているんですよ。幻獣族とドラゴンは人間を同じように忌み嫌っていますが、だから幻獣族とドラゴンが仲がいいというわけでもない。食物連鎖の中でドラゴンは幻獣族の餌。彼らは本来強大な力と強靭な肉体を持つ、頂点に君臨しうる生物。だがこの世界では幻獣族という捕食者に、狩られる立場……」
「……!」
マジで?
幻獣ってドラゴン食べるの!?
……あれ? でも、それでなんで王族と仲が悪いに繋がるの?
種族間の確執って……。
「そしてアルバニス王家……アルバート・アルバニスは幼少期に幻獣の一体を食らった事で幻獣の力を手に入れた。王が伴侶として選び、手に入れたのは純血の幻獣族。その息子は幻獣の血を引くハーフです。ドラゴンと交わり生まれた彼ら竜人族にとって、アルバニス王族はまさに天敵」
「…………ごめんちょっと整理するね」
「はい、どうぞ」
竜人族とは。
ドラゴンと人間が交配して生まれた種族。
ドラゴン族には“人間”の括りとして拒絶され、アルバニス王国の国民として認められている。
アルバニス王族とは。
……国王アルバート・アルバニスは幻獣を食べて幻獣の力を手に入れた。
で、結婚相手にしたのは本物の幻獣族。
当然ご子息は幻獣とのハーフ。
そして、幻獣はドラゴンを食べる捕食者であり、ドラゴン族にとっては天敵。
あ、なるほど理解。
だから竜人族は王家を目の敵にしていて仲が悪い、と。
「はい、質問があります」
「はい、どうぞミスズさん」
「……幻獣食べた人って本当にいるの……」
「後にも先にもアルバニス王家のみと言われています。中でもアルバート・アルバニスは熾烈な修行でその身を苛め抜き、幻獣の力を開花させ半神半人……つまり半分神となったのです」
「え……じゃあこの国の王様って、神様なの……?」
「はい。半分神です。不老不死……まあ、言うなればそういう存在ですね」
「……って事は王子様は……」
「王子は半分神と、純血の幻獣族との間に生まれた混血。幻獣族もまた、半永久的な寿命を持つ種族ですから、王子たちも当然寿命や老化はありません」
「……ふぁ、ファンタジー……」
おいおい聞いたか、私。
王子様も王様も人外らしいわよ。
お、思い描いていたものとはかなり違うわ……王子様像……!
どんな人なのか全然想像できなくなった〜!
もしかして、半分獣の半獣みたいな、狼男みたいな感じなのかも……!
い、いやああぁ〜〜! 王子様像がガラガラと崩れていく〜〜!
「他に何か質問は?」
「……王子様って毛深いですか……」
「は? い、いや、多分本人は毛深くないと思っていると思います、よ?」
「でも、人間から見たら毛深いかも……」
「そ、そうですね、そればかりはその人の主観ですから……。な、なんとも言えませんね……」
やっぱり毛深いんだ……!
ううう〜、求めていたのは『美女と野獣』じゃないのよ〜〜!
そりゃあのお話も素敵だとは思うけど、乙女ゲームや少女漫画に出てくるイケメンがいいの〜〜!
せめて人間に変身してくれないかな王子様〜!
「ううっ!」
「……?」
「ええと…………そ、そうですわ、お食事……お食事にいたしましょう! ね、お姉様!」
「……そ、そうですね……」
こうして、私のせいでなんの解決もせずご飯になった。








