第10話!
と、始まった剣の練習。
立った状態で握った剣を振るという剣道のような練習が始まった。
魔法剣というからには魔法も使うみたいだが、私はまだまだ魔力の使い方がいまいち。
でも身体強化魔法か〜、普通の魔法とは違うのかしら?
フリッツに「身体強化魔法って難しいの?」と聞くと純粋な魔法よりは簡単で、使用魔力も少なくて済むようだ。
それなら私にも使えるかしら?
「え、強化魔法ですか? ……普通の魔法よりは遥かに簡単ですけど……魔力の使い方が完璧でないと危ないですよ。簡単とはいえ魔法は魔法ですから」
「うう……やっぱりそうなのね」
「身体強化魔法は主に物理攻撃を得意とする剣士、槍士、体術士、そして力仕事をする時にも使われます。戦闘以外にも一般に広く使用されるものなので難しくはなく、また魔法陣も使わない。体内魔力だけで使えるものがほとんどです。当然、得意属性がその強化部分を大きく左右する」
「う、うん」
「例えば『火属性』はパワーアップ、体力アップなど。『水属性』は回復力アップなど。『風属性』はスピードアップなど。『土属性』はパワーアップ、防御力アップ、体力アップなど、ですね」
「へぇ、意外と『土属性』って強化魔法向きなのね!?」
「そうですね、『火属性』と『土属性』は強化魔法も得意、と言ってもいいでしょう。だからと言って魔力もろくに扱えない状態では危険だから使わないでください」
「わ、分かってる分かってる!」
魔法の事故が怖いのは身をもって分かってます!
……はぁ、フリッツって年下のくせにしっかりしてるわ。
「あ、でもそれならやって見せてよ。魔法って私の世界にはなかったから見てみたい」
「ええ、機会があれば。では素振りを再開しましょうね。やりたいと言ったのはミスズさんなんですから」
「………………はい」
……ほんと、しっかりしてるわ……。
だって私運動苦手なんだもん。
やりたいって言ったのは私だけど、上下に腕を振るだけがこんなに大変だなんて。
しかも……!
「腕を下げながら右足を折って。姿勢が悪いですよ。腕を上げた時、背中も伸ばす! 左足が外側へ向きすぎです、これじゃガニ股じゃないですか。剣の重さに振り回されては意味がないんですから、もっと振り下ろした時に脇を締めてください。腰はもっと下ろして! はあ、お腹と太ももに全然力が入ってませんよ!」
「フリッツ厳しい!」
「改善点が多くてやり甲斐がありますね?」
「……うううう〜〜」
ふふふふふ、と微笑むフリッツはえらく楽しそう!
こ、この腹黒ドSショタ〜〜!
マーファリーも笑顔で眺めてるくらいなら助けてよ〜。
「キツイ……もう無理動けない……」
三時間ほど姿勢を注意されまくりながらなんとか続けたけど、初めてでこれは厳しすぎやしない!?
ガーデンテラスの机に突っ伏す私へフリッツが「まだまだですねー」と肩を落とす。
そんなの分かってるわよ! というか、私今日が初めての初心者よ!? もっと優しくしなさいよ!
……言葉にする元気はないんだけど。
「お疲れ様です、ミスズお嬢様。頑張られましたね」
「うん、もっと褒めて……」
「次はもう少し動き易い服装で基礎体力や筋肉アップの練習をしましょう。剣を振るうにしても、体がグダグダで剣を持つのすら辛そうでしたから」
「ちょ、ならなんで延々三時間やらされたのよ!?」
「すいません、いじめるのが楽しくて」
「素直に鬼畜!?」
テレ……と微笑むショタ、フリッツ。
なんといういじめっ子!
マーファリーも空笑いするが、私は全然笑えない!
私の三時間なんだったのー!?
「さて、陽が暮れる前に領主庁舎に行きますか」
「? 領主庁舎に何か用事が?」
「ええ、昨日で粗方魔獣の討伐は終わったんで、報酬をもらいに。一応次の勇士や傭兵が見つかるまでの契約ですが、働いた分のお給料はしっかりいただきますよ」
「ええ、そうですね。……ユスフィーナ様もこれからは勇士や傭兵のお給料は歩合制にすると仰っていたそうですし」
「……ユティアータは大きな町ですからね。町の資金が潤沢なのは良い事ですが、無駄遣いしていい理由にはなりません。余ったのならきちんと民へと返さなければ」
「そうですね。……今回の事で、ユスフィーナ様の対応の遅さが問題視されています。領主をクビになったりしたらどうしましょう……」
「え、ユスフィーナさん、そんなに評判悪くなってるの?」
そんな……『魔獣襲撃事件』はあの使えないゴミ傭兵どものせいじゃない!
ユスフィーナさん悪くないじゃん!
あんなに朝から晩まで頑張ってるのに……!
「仕事をしない傭兵たちを放置していた事を追及されてるんです。そこまで手が回っていなかったのは事実のようですし……ユスフィーナ様も謝罪していました」
「そ、そんな……! あの傭兵たちが悪いのに!?」
「彼らは彼らで今回の事件を招いた罰は受けるそうです」
「納得いかなーい!」
「為政者とはそういうものです。まあ、彼女の場合それだけではないんでしょう。……あの若さで領主になった彼女には、都職員たちからの嫉妬による抵抗も多いと思います。……そうだな……魔獣討伐もひと段落ついたし、あちらも少し手伝いますか……。ユティアータがうまく回らないと、トルンネケ地方全体に影響が出かねない」
「「え?」」
そうと決まれば行ってきまーす、とにこやかに手を振りながら転移魔法で消えるフリッツ。
ええと……あいつ、今なんか言ってなかった?
「…………フリッツ様、本当に何者なのでしょう……」
「さ、さあ…………」
で、その夜。
「本当に、本当に凄かったんです!」
両手をグーにしてエルフィが興奮気味に教えてくれた。
本日午後、フリッツ参入後の庁舎は凄かったらしい。
なんでもあの腹黒ドSショタは領主ユスフィーナさんに反抗的な連中を、例の言葉責めと正論であっという間に丸め込み、あっという間に庁内を支配下に置き、あっという間に溜まっていた仕事も滞っていた仕事も終わりが見えるくらいにしてしまったんだとか。
その手腕たるや。
そもそも部外者であり、子どもであるフリッツがなぜああもこの都市の政務をサクサク進められるのか……謎はさらに深まってしまったのだが……。
とりあえず今日は定時で帰ってきたユスフィーナさんの疲れ果てた顔を見つつ、一緒にご飯が食べられるエルフィの嬉しそうな顔にほっこりする。
そして、その偉業を成したフリッツはというと、メーテプという私の世界の飴菓子に似た物をもぐもぐ食べて歩いてきた。
メーテプは歩きながら食べるお菓子、らしいんだが、一応屋敷の中だぞ。
だが、誰も怒らない。
というより、怒れない。
だって……。
「本当にありがとうございました、フリッツ様……。庁舎があんなに一丸となったのは初めてです。明日でひと段落つきそうですし……カールネント様からも「今後もユティアータを頼む」と仰って頂いたのはフリッツ様のおかげですわ」
「わたくしからも御礼申し上げますわ! 姉を助けていただきありがとうございます! フリッツ様にはお世話になりっぱなしですわね……」
「いえいえ〜」
カールネント様というのはこのユティアータがあるトルンネケ地方の領主様。
つまり、ユティアータの領主にユスフィーナさんを任命した人だ。
そんな偉い人に「ユティアータを頼む」とユスフィーナさんが言われたのは、つまり今後もユティアータの領主はユスフィーナさん、と地方領主様にお墨付きを頂いたという事。
これでユスフィーナさんがクビになる心配はなくなった。
本当に良かった……。
「カールネント氏は勘がいいですから……」
「? どういう意味ですか……?」
「いえ、こちらの話です」
言ってる事はよく分かんないけど、フリッツって本当にとんでもなくすごいガキンチョね。
本当に何者なのかしら?
「ところでフリッツ様〜! フリッツ様は彼女とかいらっしゃるんですかぁ〜?」
「いないし、作る気は無いですね。ちなみに好みのタイプはセミロングで髪質はサラサラ。僕が髪を触っても怒らない人で、からかって遊んだらとても楽しい人がいいです」
「あ、はーい、もういいでーす」
学校から帰ってきたナージャは瞬殺。
……ますます恐ろしいショタだわ……!
「これで光明が見えてまいりましたわね、お姉様! 明日も頑張りましょう!」
「エルフィ、あなたは明日から学園に戻りなさい。手伝ってもらった事は感謝していますが、来年卒業なのだから忙しいはずでしょう?」
「で、でも……」
「そうなさった方がいい。きちんと卒業してから正式にお姉様を助けて差し上げればいいのですよ」
「フリッツ様……。…………そうですわね……わたくし、頑張りますわ!」
「そう、今後はユスフィーナ様は市民からの信頼を取り戻す必要がある。エルファリーフ嬢がいつまでも手伝っていては、変な悪評に繋がるかもしれませんしね」
「「!」」
エルフィが可愛いな〜、と、にまにましそうな私でも、フリッツの言葉には「えっ」と声が漏れた。
……そ、そうか、偉い人にはお許しもらえたけど、この都市の人たちは別な話か。
私の世界だって政治家批判は日常茶飯事だった。
ユスフィーナさんがめちゃくちゃ頑張ってるのは近くで見てたから、私はユスフィーナさんの味方だけど……。
「……そうですわね……どうしたら……」
「………………。あ、そうだ! 恋人を作ったらいかがですかぁ!?」
「は?」
俯いて困り顔のユスフィーナさんへ、ナージャがドヤ顔で提案する。
食堂にいた使用人、メイドを含め、その場の全員が「は?」だ。
なんでそこで恋人……と思ったが、数日前にマーファリーに教えてもらった一件を思い出した。
そうだわ、ユスフィーナさんは既に恋愛フラグが立っていたのよ!
なんとかっていう領主の長男で、継母にいじめられて追い出されているという!
ナ、ナージャのくせになんていうナイスアイデアなの!
「それはいい考えだわ!」
「ええ!? ミスズ様まで何をおっしゃいますの!?」
「確かに。ここ数日の騒ぎと悪評を誤魔化し話題をすり替える意味ではなかなかいい案です」
「フ、フリッツ様!?」
おお、まさかのフリッツもこっち側!
もしかしてユスフィーナさんの好きな人の事知ってたのかしら!?
「……確か、フェレデニク地方、クレパス家のターバストがあなたに求婚を繰り返していると噂で耳にしたのですが」
「!? う、噂になっているのですか……!?」
「ええ、ユティアータは元より、王都にもその噂は届いていますよ」
「……お、王都にまで……」
例の竜人族の王子様ね……。
でもユスフィーナさんには他に好きな人がいるのよ!
噂になってるなら、その想い人の人から連絡とかくるんじゃ……。
「……やはり乗り気では無いようですね」
そりゃユスフィーナさんには他に好きな人がいるからね!
「……私はこの町の領主。嫁ぐつもりはございません」
「え〜、もったいないですよ〜! 会うだけ会ってみたらいいんじゃないんですかぁ〜?」
ん?
「待ちなさいよナージャ! あんたまさか竜人の王子様推し!? ユスフィーナさんには他に好きな人がいるんでしょ!?」
「え!? ミ、ミスズ様……何故それを……!?」
「え……」
驚いたエルフィとユスフィーナさん。
使用人の皆さんとナージャの「あ、こいつ言っちゃった〜〜」的な顔と、マーファリーの「言わないでって言ったのに」という泣きそうな顔。
「……う、噂で……聞いたわ」
通じるか分からないが、これでなんとか誤魔化せないかしら。
……ま、まさか言っちゃダメだったとは……てへ。
「そ、そんな……お姉様……カノト様の事まで噂になっているなんて……」
「…………そうですか……」
「カノト? まさかカノト・カヴァーディル? あの三剣聖の一人の?」
「え?」
「?」
「へ?」
「?」
フリッツが驚きながら首を傾げる。
フリッツも知ってる人なの?
……それにしてはなんか私含めこの場の誰もが「なにそれ」みたいな顔してるわよ?
ほら、物知りなマーファリーやメイド長も。








