98 前夜の宴
お久しぶりです。こんなに更新間隔が延びてすみません、年度末のため……
「俺はリョー、冒険者だ、パーティーメンバーは後ろの二人の計三人で頼む」
受付で名前を言ったら、急に周りがざわつきだしたけどなんだ。
「おいおい『百足殺し』まで参加するのかよ」
「嘘だろ、ただでさえ名うての連中が参加するってのに、これじゃ獲物が全部持ってかれちまうじゃねえか。どうなってるんだよ、今回は報酬も少ねえってのに」
「そういや、新種の鬼を見つけたのもあいつじゃなかったか」
「なんだよ、それじゃあ新種の特性や対策もばっちりってか、百足で稼いだんだから少しは遠慮しろっての」
「まあ、その分危険は減るか」
「なに情けないこと言ってんだい、冒険者は危険をかいくぐってなんぼだろうに」
(ずいぶんとお主も、名が売れてきたようじゃのう)
まあ、結構派手な事やってるからな、それよりなんだよ『百足殺し』って。中二っぽい二つ名も嫌だけどさ、もう少しマシなのがいいんだけど。
まあ、受付の兵士は俺の事を知らないみたいだね、下手にビビられるよりはまだいいかな。
「ん、なんだ若造、ガキに小娘でいっちょまえにパーティーのつもりか。悪い事は言わないからやめとけ、ゴブリンなんかならともかく、オーガにでも会ったら、そっちのお嬢ちゃん達もただじゃすまないぞ」
いや、多分さ問題ないかと、アラはまたレベルが上がってたし、俺だってオーガの倒し方のコツがつかめたから。ムリさえしなければ、トーウ一人を庇いながら戦うくらい何とかなるだろう。
「大丈夫でございます。このトーウ、決して旦那様の足手纏いにはなりません」
おお、これはオーガ相手に戦う自信が有るって事か、うん、なんてったって『暗殺者』だし、スキルも凶悪そうだし、ステータスも結構高いもんな。
「もしも、わたくしが力不足だと感じられましたら、すぐにお言いください。旦那様の御迷惑になるくらいでしたら潔くその場で……」
あ、このパターンはマズイ。
トーウにそれ以上の言葉を言わせないために肩に手を置く。
「トーウ、お前が邪魔になることなんてないからな、安心しろ。たとえ今は力不足だとしても、強くなれば良いだけの事だ。それにお前は色々と役に立っているんだからな」
だから、早まらないで、自殺とかはマジでやめてね。トーウがそこら辺を匂わすとシャレにならないから。
「旦那様、わたくしごときにそのようなお言葉、もったいのうございます。トーウはトーウは……」
ふう、何とか持ち直したか。
「い、色々と役に立つだって、あんな清純そうなお嬢さんに、一体何をしやがったんだ」
「まさか、あの小さな子も、なのか……」
「『百足殺し』まさか、そっちも只者じゃないのか」
あれ、なんか俺、変な誤解されてないか。違うよ、そういう意味じゃないよ、酒や肉類がダメな俺にとって『料理解析』が役に立つって事なんだよ。
「ああ、旦那様……」
やばい、トーウが美味しいモノを食べた時みたいにトリップしてる。この表情じゃますます誤解が。
「リャー、アラはー、アラも役に立ってるよね」
アラ、今のこのタイミングでそのセリフはやばいって。
「マ、マジかよ、ただの与太話だと思ってたのに、まさかそんなはずは無いと思ってたのに」
「ほ、ほんとうに、あんな小さな子供を相手に」
「二つ名に百足なんて毒虫の名前が付くってのは、伊達じゃないって事かよ」
ほらー、無茶苦茶誤解されてるじゃねえかよ、これじゃあ俺は最低のロリコン野郎じゃないかよ。
「ところで、受付はどうするんだ、後がつかえているんだが」
あ、受付の兵士があきれてるよ。
「ああ、さっき言った通り三人で頼む、名前はリョー、アラ、トーウだ」
「解った、『大規模討伐』の方式は『複数拠点掃討法』、討伐ノルマは一人に付き一日十体、ただし普通のゴブリンだけは五体で一体分の扱いだ。報酬は五日間以上の連続参加で金貨二枚だが、その代りノルマ以上に討伐した魔物や、その他の採集品、取得物品の一切は冒険者の取り分。フロアボスやボス、レアモンスターを倒した際は別途賞金が出る」
えっと、早口でまくしたてられても、初めてだから、まったくちんぷんかんぷんなんですけど。とは言え後ろがつかえてるし、個別交渉で賃上げとかは無理だよね。本来なら正確な条件も確認せずに契約するとか、ビジネスマンにあるまじき行為だけど、これ以上ここに居るのはまずい気がするから、後でラクナに聞いとくか。
「解った、それで頼む」
(『複数拠点掃討法』とは、公的な軍隊や騎士団が中核となって、攻略や物品収集よりも、魔物の大量駆除を目的とした討伐方式じゃ)
てことは、今回の状況には適してるんだな。
(『迷宮』内の幾つかの広場に十分な兵力と物資を配置し、そこを『拠点』として、周辺の魔物を虱潰しにするのじゃ。冒険者は危なくなれば『拠点』まで逃げるだけで、よほどの事がない限り兵達に助けられるうえ、食料の支給や、回復までしてもらえるのじゃ。周辺の魔物が居なくなれば、『拠点』を進めて、徐々に奥へと進行するのじゃが、今回の場合ではそこまで奥へゆかぬかもしれぬの。この方式の場合、定められたノルマ分の魔物採集物を提出すれば、後は何をしようと自由じゃから、お主には都合が良いかもしれぬの)
まあ、確かに、神殿やテトビからの依頼が有るもんな。しかし。
「ずいぶんと騒がしいな、なんだってんだ一体、こんな明るいうちに」
まだ真昼間だってのに、結構な騒ぎになってるし、酒の匂いもするし、そこら中で食い散らかしたり吐いたり、向こうじゃ肩組んで歌ってるし、いかにも玄人って感じのお姉さんがお酌してたり。てか、あそこの物陰、男女二人っきりで怪しい動きしてるけど、これはアラ達には見せらんないな。おかしいだろ、これどうなってるんだこのお祭り騒ぎは。
(明日はいよいよ出発じゃからのう、冒険者たちが飲んでおるのじゃろう。お主らの言葉で何と言ったかのう、たしか)
ん、そう言えばそうだけど、普通は出発前ならしっかりと装備の確認とか、買い忘れの調達なんかをするんじゃないのかな。
(おお、そうじゃそうじゃ、『宵越しの金は持たない』じゃった。以前の『勇者』がこの様子を見て、そう評しおった)
(いや、それって普通はダメ人間の例えじゃないのか)
(『大規模討伐』に限らぬが、危険な依頼などではいつ死ぬか解らぬからの、そうなれば金など持っておっても意味が有るまい。ゆえに若手の冒険者などは、思い残さぬように使い切ってしまうのじゃ。依頼中は金を使う暇なぞないし、生き残れば十分な報酬が手に入る、ゆえに使い切る事の問題はないのでの)
なるほどね、嫌な理由だけどまあ理解は出来るかな。それは理解できたんだけど、別な疑問が出てきたな。
広場に集まって、樽の酒を好き勝手に飲んでる冒険者連中のど真ん中で、地面に垂直に立っている長い梯子、その上で披露されてる曲芸は、どう見ても年始なんかでたまに見る、梯子乗りにしか見えないんだが。
(なあ、ラクナあれって)
(梯子乗りじゃの、多少の土地さえあれば、岩場や森の中でも周辺を広く見張れるうえ。ああして梯子の上で定められた姿勢を組み合わせる事で、周辺の兵に指示を伝えたり、離れた梯子同士で連絡を取り合う事もできおる)
ああ、そう言えば梯子乗りの技って幾つも有るもんな、手旗信号みたいなものか。実際に今目の前でも色々な技をやって、その度に拍手貰ってるし。士気高揚の狙いもあるのかな。
(夜間などは使えぬが、狼煙よりも細かい内容を、伝令よりも早く伝えられるゆえ、軍隊などでは一定数の梯子係を確保しておるの、特に谷や河等の障害物を挟んだ施設同士や、大型船などでは重宝しておる様じゃ)
(試しに聞いておくが、その始まりは……)
とっても嫌な予感がするんだよな。まさかとは思うけど。
(以前の『勇者』じゃの、なんでもトビとか言う大工だったそうじゃが)
ああ、やっぱりか、うちの会社も現場じゃ鳶職の人にはお世話になってるもんな。もしかして、現場なんかで会った事のある職人さんの中に、『元勇者』が居たりするのかな。
「おうあんたが『百足殺し』か、俺は『百狼割り』のテークだ」
こいつは、なんかいかにもな感じの冒険者だな、マッチョで、ぼさぼさの髪で、髭で、露出で、酒臭くて、もう冒険者じゃなかったら盗賊だろって感じだよ。
「よろしく、リョーだ」
まあ取りあえずは、友好的に行かないとね。『迷宮』でお世話になるかもしれないし。
「そうか、まあ今回の『迷宮』じゃ、よろしく頼む、これはあいさつ代わりだと思ってくれ」
あ、嫌な予感がしてきた。この手の場所でこの手のキャラって事は……
「ほら、ぐいーーと」
やっぱり、勝手に俺の手にジョッキを持たせて、酒を注いできたよ。接待の飲み会とかで居たよね、こんな感じでさ、酒を人に勧めることが何より楽しいって人。
営業の頃は、もう一も二も無く飲み干してたけどさ、今は一滴も飲む事が出来ないからな。
どうしよう、過去の経験だとこうやって考えてると……
「なんだ、おめえ、俺の酒が飲めねえってのか」
ほらー、絶対このセリフが来ると思ったんだよ。このままだと不味いよな……
「おら、グイッと行けよ、こんな水みてえな酒も飲めねえんで、それでも冒険者か、ああ」
ああ、これだから酔っ払いは嫌なんだ。人の都合も考えないで、俺だって飲めるものなら、ってあれ。
「わたくしが頂戴いたします」
て、トーウ、俺のジョッキを取って、そんな、一気に飲んじゃったよ。
「トーウ、大丈夫なのか」
まだ、十代なのにいいのかな、まあこの世界だとそんなに規制がないみたいだけどさ。
「はい、なんともございません」
ケロッとしてるな、まあ一杯だけだし……
「お、嬢ちゃんいける口だな、じゃあこれなんてどうだ」
調子に乗った酔っ払いが、でかい酒瓶と小さなコップを持ってくるけど、おいそれ度数が高いやつだろ。子供に何飲ませようとしてるんだよ。
「頂戴いたします」
そう言ってトーウが両手で掴んだのは、コップじゃなくて酒瓶の方。いや確かに周りの連中は、酒瓶から直接ラッパ飲みしてるのが殆どだけど、他の連中がそうやって飲んでるのは、度数が低いのばかりだぞ。
「お、おい嬢ちゃん、それは違う」
酔っ払いが止めようとするより先に、トーウは酒瓶に口付けて、首を傾ける。小さな可愛らしい喉が、コクコクと動くたびに、瓶の中の水位は下がり、あっという間に空になる。
「嬢ちゃん大丈夫か」
そ、そうだよな、ウィスキー2ℓを、チェイサーも無しで一気飲みしたようなものだよな。普通に大人でも倒れる量だぞ、急性アルコール中毒でも起こしたら。
「あら、どうかなさいましたか」
(平然としておるの)
顔色も変わってないし、言葉遣いも動きも変わりない。いやこれから一気に回って来るかも。
「トーウ、気分は悪くないか」
「普段通りでございます旦那様。お酒というものを初めて頂きましたが、変わった味がいたしますね」
(考えてみれば、酒気も毒の一種であるしの)
ああ、そっか『毒耐性』が効いてるのか。
「そういえば、御酒を頂戴した際は、返杯と言って、同じ分の御酒をお返しするのでしたか」
いや、それはマズイって、いくらなんでも、同じ量を今の勢いで飲んだら、普通に死人が出るって。
「え、あ、う」
ほら、酔っ払いも青い顔してるよ。
「おいおい、テーク、普段酒の量で息巻いてるやつが、こんな小さな子の挑戦を逃げたりしねえよな」
「そりゃねえだろ、他の連中を酔い潰すまで捕まえとくあんたが、まさか子供に負ける訳ないよな」
「あたりめえだ、テークだぞ、この位の酒、一息に決まってら」
ずいぶん、周りの囃し立てが酷い気がするけど、まあ普段からあんな絡み酒じゃ、嫌われてるのかもな。
「え、う、う、お、おうよ、見てやがれ」
目の前に持って来られた酒瓶と、周囲の間で視線を往復させてから、酔っ払いがやけくその様に瓶を掴む。
「うぐ、うぐ、ぐ……」
あ、倒れた。
「誰か、解毒の出来る治癒師を呼んで来い、たっくしょうがねえな」
「まあ、こいつにゃいい薬だろ、今まで何十人も、こんな目にあわせてたんだからよ」
それじゃああんまり、同情できないかな。
(まさに酒は百薬の長という事かの)
いや、それはあんまり上手くないぞ。
「お嬢ちゃんやるねえ、まだ飲めるなら奢るが、どうだい」
「あの野郎みたいに、飲めねえのに無理やりはしねえから、安心しな」
あれま、一気に人気者になっちゃったな。奢りって言葉で、トーウがそわそわしてる。
(まあ、スキルが有る以上、酔い潰されることは無いじゃろうから、好きにさせてもいいのではないかの)
うーん、『大規模討伐』を考えれば、トーウが人気者になるのは良い事だよね。それに、色々と経験させてあげるのもトーウの為かな。これから俺の奴隷として過ごすなら、お嬢様のままじゃ大変だろうし。
「あら、皆様どうなされましたか」
(これは、予想以上じゃの)
俺達が酔っ払いに絡まれてから、まだ二時間くらいしか経ってないと思うのに、見渡す限り死屍累々。いや多分死人はいないだろうけど。
俺の見渡す限り地面に倒れ伏している男達と、たった一人立って不思議そうにあたりを見ているトーウ。例外は物陰でよろしくやっている男女数組だけって。
「あの、旦那様、皆様どうなされたのでしょうか」
この悲惨な状況を、たった一人で作り出したって言うのに、まるで他人事みたいだな。あの酔っ払いを一撃で潰したこの子を、なんとか酔い潰そうと、みんなで酒を注いだのに、返杯で全滅とかありえないだろ、どこのマンガだよ。
しかし、ずいぶん不思議そうにしてるな、まさか。
「トーウ、一応聞くが、酔っ払いを見た事がないのか」
いや、まさかそんなことは無いだろうけどさ。
「いえ初めて見ましたが、領内では御酒は造るのを禁止しておりましたし、商人の方も我が領には持って来られませんでしたから。王都に参内した際も、滞在費を出さないため馬車の中で寝泊まりし、食事も自炊でしたので、振る舞われる事も有りませんでしたし」
そっか、考えてみれば酒の材料って全部食べ物だもんね。一瓶の酒を作るだけで、何日分かの食料になるし、食糧難のラッテル領じゃ、酒を買う金が有れば麦を買うよね。
(しかしまあ、うわばみだとか、ザルといった言葉では表しきれぬ惨状じゃのう)
うん、普通なら何人か急性アルコール中毒で死んでる量だよね。というか、この細い体のどこに、あれだけの酒が入ったんだか。
「あ、あの旦那様」
うん、なんだ赤い顔して、あれだけ飲んでも顔色一つ変えなかったのに。
「このような事を申し上げるのは、失礼かと存じますが、あの、御不浄へ」
ああ、トイレか、まあこれだけ飲めばそりゃあ、出さないと不味いよね。しかしまあ、なんでわざわざそんなこと俺に断って。
(宿の中ならともかく、こう言った場で、主の許可なく離れられるわけが無かろう)
あ、そうか、ひょっとして今まで我慢してたのかな。
「ここで待っているから、行って来い」
「失礼いたします」
小走りで走っていくトーウと、入れ替わる様に広場に入ってきたのは、酒の匂いに顔をしかめたミムズだった。
「おおリョー殿、こちらに居られたか。貴殿が今回の『大規模討伐』の参加を決められたと聞いてな。一言挨拶にと思ったのだが、この惨状は一体」
まあ、真面目なミムズからしたら、この状況は許せないかもな。
「まあ、もうすぐ出発だからな」
「だからこそではないか、このようにだらけていては、まともに戦えるか知れたものではないであろう。まして、あのように屋外で破廉恥な行為に及ぶなど」
心底嫌そうに、ミムズが物陰にいる男女を睨みつけたけど。と言ってもな、流石にいつ死ぬか解らないんじゃ、この乱痴気騒ぎも仕方ないんじゃ。俺だって、『禁欲』なんかが無けりゃ、人肌が恋しくなったかもしれないから、まあ今はアラをぎゅーとするだけで我慢してるけどさ。
「まあ、仕方ないんじゃないのか、誰だって不安なんだろうから、酒や女でそれを紛らわしたいんだろう。お前だってそういう時が有るだろう」
まあ、こないだの泣いてた件をここで取り上げる気はないけど、思い出しちゃうかな。
「う、うむ、それもそうか、士気の維持にはこう言った事も必要悪という事か」
お、少し話が分かるようになったかな。
「とは言え、自分が参加する気にはなれんがな」
「黙認でも大切だろ」
この手の物ってのは、気にくわないからって完全禁止すると、一気に人心が離れるリスクが有るからな。学生時代の部活で、キャプテンが茶髪とロンゲ禁止、やってる部員は明日までに坊主って言ったら、頭刈ってくる代わりに退部届持ってきたもんな。
「そ、そうか、そう言ってもらえると」
「旦那様、あちらの物陰でこれらを捕まえました」
ミムズのちょっとした成長にホッとしていたら、お手洗いからトーウが帰ってきたけど、両手にそれぞれ何か持ってるな、あれは。
「ご覧ください、これなんて丸々と太って、とても美味しそうです。お国ではこのように肥えたドブネズミを、見た事がありません」
細いしなやかな指に握られて暴れているのは、灰色というか、茶色というか、いやーな感じをしたでっかいネズミ。いやさ、牛とかくらいにでっかい魔物なら平気でぶっ倒せるし、カピバラくらいのサイズとか、ハムスターくらいのもふもふなら可愛く見えるけど。この大きさであの容姿はちょっと。
しかも、トーウが行ってきた場所を考えると衛生的にも、そういやドブネズミって病気を媒介するんだっけ。
「こちらも見てください、途中で倒木が有ったのでもしやと思い、探してみましたら見つけました。こちらも丸々と太っていて」
もう片方の手には、『地虫窟』にいたザコ魔物を通常サイズにした、いわゆる幼虫が数匹蠢いている。
「トーウ、念のために聞くが、それをどうするつもりだ」
「それはもちろん、本日の夕餉に……」
「いい、すぐに元にいた所に戻して手を洗ってこい」
うん、この子にはまず、そこら辺から教えないとだめかも。
「ですが、これほどの……」
「そうしたら、晩飯は焼き肉だぞ」
「承知いたしました、すぐに、すぐに戻してまいります」
なるほど、トーウを動かすには食べ物で釣るのが一番と。慌てたように走り去っていくトーウから、視線をミムズに戻したら絡まれていた。
「子爵、何を」
「ラースト卿には、以前より、わたしの思いを伝えさせていただいたはず」
金髪のにーちゃんが、跪いてミムズの手の甲にキスしてるよ。うわ、やる事がキザ臭いな、どこの馬鹿だよこんな所で。
「ラマイ子爵の御気持ちはありがたいが、自分は両殿下付きの騎士ゆえ、今はそう言った事はまだ考えられぬ。申し訳ない」
ラマイ子爵、でもってあの金髪って事はマイラスの野郎か。こっちに背中を向けてて、顔が見えなかったから気付かなかったけど、何やってるんだあいつ。
「もちろん、今すぐにとは言いませぬが、ただ、わたしの思いを忘れないでいてほしいのです」
わ、わたし、あいつ一人称は俺じゃなかったっけ。
「あれほどの贈り物と、気持ちの籠ったお手紙を頂いて忘れる事などできませぬ、ただ自分は」
「いつまでもお待ちしておりますので、御気になさらず」
お、あっさりと引いたな、あまり一気に押し過ぎるとダメって事なのかな。
「では、わたしはこれで、チッ」
ミムズに一礼して、振り向いた瞬間に、俺に気付いて小さく舌打ちしやがったよ。
「おや、子爵はリョー殿とお知り合いか」
げ、ミムズが余計な事だけ気付きやがった、どうせなら舌打ちも気付けばいいってのに。
「ええ、以前に『迷宮』でお会いした事が有って」
うわ、優しげな微笑を浮かべるマイラスって、キモ。
「そうか、リョー殿は『迷宮踏破者』との事だし、あれだけの実力が有れば、顔も広かろう」
「はい、わたしのパーティーも『迷宮』で助けられました、あの節は助かった」
助けなきゃよかったって思ってるけどな、『鬼族の街』でこいつらがピンチになってたら見捨てよ。
「いや、べつに」
「おお、そうだ、以前お願いしていた件は考えて頂けたか」
「悪いが、何十年たっても、俺の奴隷を売るつもりはない」
この野郎、まだサミューの事を諦めてないのかよ。
「そうか、まあいい。ではラースト卿、わたしはこれで」
やっと離れて行ったよ。
「まったく、あの御仁も物好きな事だ、自分の様な面白味のない女のどこが良いのやら」
自分で言うか、まあ若干バカで目つきがきついけど、パツキン碧眼の美形、白い肌、出るべき所と引っ込むべき所がしっかりしてるし、地位も有る。うん、馬鹿じゃなきゃ優良株か。
まあそれは、マイラスも一緒かも、あっちも金髪碧眼、白い肌に整った顔、すらっと整ったスタイル、あれで変態ですりゃなけりゃ、まてよ。
「ミムズは、あの男をどう思っているんだ」
「ラマイ子爵か、そうだな、優秀な魔術騎士と聞いているし、ラマイ家は子爵とは言え、なかなかの名家らしいし」
お、これは脈ありかな、いくらあの変態でも、結婚すれば丸くなるかもしれないし、そうすれば犠牲者も無くなって、サミューが付きまとわれる事も無くなるだろうし。いくらなんでも、体面を気にするマイラスが、同じ貴族で、しかも王家と繋がりのあるミムズが相手じゃ、アブノーマルな事はしないだろうし。
「確かに、自分の伴侶としては申し分ないだろうが、彼は子爵家の当主、一方自分はラースト家の当主の上に御役目も有る。出来る事なら婿に入ってくれる御仁がいいのだが」
ああ、そう言うハードルが有るのか、でもまあ全世界の奴隷達の為だし、大人しくなったマイラスなら、ミムズにとっても優良物件だろうし。ちょっと考えておくか、まあ、あいつを見殺しに出来る機会が有ったらそれが最優先だけど。
遅くなりましたが、アンケートのご協力ありがとうございました。
締め切り後に結果を活動報告の方へUPしています。
それと、お酒の飲みすぎ、一気の強要は大変危険です。耐性のあるトーウだからできるので良い子はマネしないでください、ほんとに死人が出ます。
現代日本でやると罪に問われる場合もありますので、ほんとにやらないでね。
それと、お気に入りが1500を超えました、ありがとうございます。
次回は、奴隷娘たちの危機を、お送りする予定です。
H27年9月5日 誤字修正しました。
H28年6月26日 誤字修正しました。




