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95 王女と二つ目の依頼

 とりあえず面倒な話も終わったし、朝飯を食いに行くか。


「待たせたな、あれ」


 おっ、ちょうど鳥料理も出てきたところか。てか手を付けてないって事は俺の事待っててくれたのか。


「あ、リャーきたー」


「旦那様、こちらへどうぞお座りください」


 先に食べていた二人が、食事を中断して俺を迎えてくれるけど、そのせいで冒険者連中の冷やかしの声がまた大きくなっちゃった。


「ああ、もう朝っぱらからこんな甘ったるい空気出しやがって、酒だ酒、こうなったらこの部屋を酒臭くしてやる」


「こっちもだ、飲まないで見てられるかこんなの」


「くそ、俺も酒だ、つまみも持ってこーい」


 良いのかよ、こんな朝っぱらから飲んでてよ。


(まあ、冒険者とは言ってみれば自由業じゃしのう、ここに居る連中は『大規模討伐』が始まるまでは、こうして過ごすつもりなのじゃろ)


 うわー、日本に居たらダメ人間扱いされそうな。


 まあ、いいや飯にしよう飯に。


「さてと、食うか」


「あの、旦那様は鶏肉を召し上がられないのですか」


 そう言えば、言って無かったっけ。


「ああ、俺はなまぐさと酒類は取らないんだ。それと本来は女禁もしてるから、お前の相手は昨日の一回だけだ」


「左様でございますか、できれば思い出が欲しかったのですが」


 ん、なんか後半が聞き取れなかったな。


「それは良いだろ、食べ直す前に、と、パンが冷えたか」


 騎士連中は帰ったか、けどまともに飯食えてるのかな、トーウでこんな状態なのに。


 まさかとは思うけど、騎士が残飯を漁ったりはしてないよね、今度会ったら適当な理由で何か飯でもおごろうかな。腹が減ったせいで『迷宮』で戦死なんて事になったらなんかやだし。


「ちょっと貸せ『加温』」


 三人分のパンを一皿にまとめて乗せ、バターとチーズを置いてから、魔法でパンの表面をあぶる。うん、俺の『魔力回路』でもこの位の熱量は出るようになったし、『念力』を使えば熱を無駄にせずに集中させられるから、トースター替わりくらいなら余裕だ。


 バターとチーズがいい感じに蕩けてから、二人の前に配る、俺のはチーズが違うから間違わないように気を付けないと。


「さてと食べるか」


「わった、いたらきます」


「頂戴いたします」


 うん、二人とも食べ始めたな、さて俺も食うか、うーん、やっぱりこの世界のパンは固いな。こうやってトーストにすれば多少ましだけど、カミヤさんの所で食べた食パンが懐かしいな。


 よく考えたら、元貴族のお嬢様にこんな質素な食事食べさせて大丈夫だったのかな、よく有るパターンだと不味いと手を付けないか、それとも珍味扱いされるかだけど……


 あれ、うっとりしてる。


「ああ、温かく柔らかいパンだなんて、一口ごとに芳醇な麦の薫りが、バターの甘みと、チーズの濃厚な味と共に体中に広がってまいります。噛めば噛むほど甘みが増してゆき、更にはミルクを含むと、パンがとろけて、ああわたくしの中に香りが浸み込んでまいります」


 あ、そう言えばこの子、まともな食事が出来てなかったんだっけ。しかし、どこのグルメリポーターだよ、この感想。


(どんな粗末な食事でも、腐敗したものと比べればマシじゃろうからのう)


 まあ確かにね、腐ったり虫の湧いた物に比べりゃそりゃね。


 お、今度はサラダか、なんか反応が怖い気がするけど。


「おおう、噛む度にシャリシャリとした涼やかな音が響き渡ってまいります。これはまるで、わたくしの口の中で演奏会が執り行われているようでございます」


 な、なんかすごい表現が飛び出しましたけど。


「ふう、この鶏肉も、もも肉はじゅわりと肉汁が溢れ出しますし、ささみは軽く歯を当てただけで解れて。血抜きがしっかりとされていて、臭みが全くございません」


 その抜いた血は、君のシーツにかかってたんだよ。とは言えないよなー


「はうう、幸福なひと時でございました」


「ごちそーさま」


 さてと、食事も終わったし、一息ついたら会いに行くか。ちょっと怖いけどさ。





「お待ちしておりました、リョー殿。どうぞこちらへ姫殿下がお待ちです」


 訪ねた高級宿屋で俺達を待ってたのは、優しげな笑顔が自然と凶悪そうに見えるワニメイドさんと、なぜか俺達よりも自分の隣の同僚を怖そうにうかがっている犬耳メイドさんだった。


「連れがいるが構わないか」


 一応相手は一国の王女様だし、『暗殺者』を持ったトーウを同席させても大丈夫かな、奴隷だし嫌がられたりするかも。でもな下手にこの子を一人にすると何を始めるか解んないもんな。帰ったら部屋の中が血まみれだったとか笑えないし。


「伺っております。ラッテル子爵家のトーウ様でございますね、どうぞこちらへ」


 なんで知ってるんだ、トーウを受け入れたのは昨日の話だぞ、情報早すぎだろ。


「旦那様の奴隷のトーウでございます。よろしくお願いいたします」


「これはどうもご丁寧に、当家の侍女を務めておりますディフィーと申します。こちらは同僚の……」


「サーレンです。可愛いですね、スラッとしてて、深紫色の長い髪もサラサラで、触ってもいいですか、サーレンが触ってもいいですか」


 おお、サーレンさんが一気にトーウに詰め寄ってるよ。確かにトーウの髪はストレートロングできれいな紫色だけど、スキルや職業を知っちゃうとなんか毒々しく見えちゃうんだよね。


「おだまり、駄犬、お座り」


「はうううううん」


 おお、一言でサーレンさんが床に正座したよ。しかし空中で正座してそのまま着地って。


「失礼いたしました、躾の行き届かない使用人でして」


 ディフィーさん、見下ろす視線が怖いですよ。


「このような所で立ち話もなんですので、どうぞ奥の間へ、お茶と御菓子をご用意いたします。サーレン、殿下にご連絡を」


「は、はいい、わかりました」


「お、御菓子でございますか、い、頂いてもよろしいのでしょうか旦那様」


「おかしーおかしー」


 アラは素直に喜んでるけど、トーウは緊張してるか、そりゃそうだよね。宿屋のやっすいパンやチーズであんなに感動してたのに、王族用の御菓子なんて夢のような話だろうから。


 ディフィーさんに案内されるままに、奥の部屋に入ったら。モノホンのお姫様がいた。


「いらっしゃいませリョー様、歓迎いたします。アラ様とトーウ様もどうぞ遠慮なくおかけください。ディフィー、直ぐにお茶と御菓子をお持ちして、今日はチーズケーキを作ってみたんです」


 チーズケーキだと、お姫様の手作りチーズケーキ、だがやはり卵が使われているし、チーズも大丈夫か確認しないと。しかし、我に秘策あり。


「失礼いたします」


 俺たちが並んで席に着き、ディフィーさんがケーキとお茶を置いてくれると同時に、視線を向けるとトーウが頷いてくれる。


 よっしゃあ、事前にトーウと話をしておいてよかった。俺がなまぐさがダメだって伝えたから、これからは微妙そうなときは『料理解析』で材料を確認してくれるように頼んだんだよね。無精卵と有精卵なんかのラインはこうでもしないと解らないから。


 結果はセーフ、これで安心して食べれるね。さーてと、チーズケーキ、チーズケーキ。


(まあ、これがトーウを配下にした一番のメリットじゃろうが、お主は他に気にする事が有るのではないかのう)


「リョー様は、生臭を食べられないようだと聞きましたので、卵とチーズは無精卵と『僧侶向け』の物を使いました」


 ミムズやプテックから聞いたのかな、俺の為に態々材料から気にしてくれるなんて、気の利くお姫様だな。


「遠慮なく貰おう、二人も食べなさい」


 勝手に食べる事が出来ないトーウに許可を出してから、俺もフォークですくって一口、おおう、口の中に甘みが。旨いよこれ、コンビニで売ってるスイーツなんて比べ物にならないって、ほろ苦いお茶とよく合うし。ああ、サミューの作ってくれたお菓子やお茶も美味しかったけど、それに並ぶ旨さだな。しかしまあ、これがこっちの世界独特の味付けなのかな。


「はむ、はむ、おいしーね」


 アラも嬉しそうに食べてるな。ん、待てよ、俺やアラがここまで反応するような味って事は、トーウは。


「はああ、ああああ、おおおおおう、ふうう」


 トリップしてらっしゃる。


(これは、何を言っても気付かなそうじゃのう)


 まあ、それは置いておいて、何の用かだよな。


「それで、どうしたんだ。俺はあんたらには嫌われていると思ってたんだが」


 今更、敬語なんかで繕っても仕方ないよね。何しろあの謁見の時は思いっきり啖呵を切って来ちゃったし。


 ミムズは熱血バカだし、その上で俺の能力だけは認めてるっぽいから、そこら辺はだんだん気にならなくなって来たし。プテックとディフィーさん、サーレンさんなんかは、ミムズの手前俺に気を使ってたんだろうけど。


 どう考えてもこの人とアクラスからは嫌われてると思うんだよね。


「私個人の感情はこの場ではどうでもいい事でしょう。私の言動はどんなものであれ公に影響します。言いかえれば私は自分の感情よりも国や民、更には王家の利益を優先しなければならないのですから。もちろんどうしても妥協できないような事もありますが」


 そのセリフは、俺よりもお宅の暴走正義感娘や世間知らず王女様に言ってほしいな。


「それはずいぶんと御立派な言葉だな」


(お主は、喧嘩を売っておるのかのう)


(いやそう言うつもりはないんだが、どうもこないだの事を思い出すとな)


 こっちも腹が立つし、前回あんなこと言って出てきた手前さ、幾ら王女様相手だって、いきなり下手に出るのも変じゃない。


「リョー様の御怒りはごもっともでしょう、前回のアクラスの件も有りますし、なによりミムズがご迷惑をおかけしましたし」


 迷惑ね、まあ確かに迷惑っちゃ迷惑だよね。オーガの一件じゃあ散々振り回されたし、契約はあっさり袖にされたし、こっちの助言はスルーされたし、補給なしで大量のオーガに特攻することになったり。まあ、結果オーライだったところもあるんだけどさ。


「ですのでまずはこれを、サーレン」


 俺の前に置かれたのは金貨の山、ざっと百枚くらいはありそうだな。


「お、お金です、旦那様こんなにたくさんのお金が」


(トーウが持ち返しおったのう、いやはや金の威力とはすさまじいのう)


 まあ、金が無くなったせいで散々な目にあって、奴隷にまで成っちゃったんだからな。そりゃ金には反応するよね。


「この金は一体?」


「違約金だと思い下さい、リョー様を雇う際にミムズが約束した額の五倍、金貨で百五十枚用意しました。このお金でどうかミムズの契約違反を不問にしてはいただけないでしょうか」


「ひゃ、ひゃ、ひゃ、百五十枚でございますか、それだけありましたら、一体どれだけ。ええと、一番安い豆が一袋で銀貨一枚ですから、一万五千袋、豆粉のお粥が……」


 なんかトーウがまたトリップしそうになってるけど問題はそこじゃないよね。


(なあ、ラクナ、契約違反は契約金の五倍返しなのか)


 そうなると、不用意に高額の契約をして不履行なんてことになったら不味いよね。


(契約の内容にもよるが、普通は半額から二倍程度が相場じゃの)


(ならなんでここまでして、ミムズの契約違反を解消したいんだ)


 まあ、王女様からすればこの位は、はした金なんだろうけどさ。


(信用問題じゃろうな、事前に定めた契約を勝手に反故にしたことが知れ渡れば、ミムズの信用はガタ落ちじゃ。そうなればいざという時に冒険者や傭兵を雇うのが難しくなろうし、たとえ雇えても全額前金でかなりの高額になるじゃろう。そうなれば騎士としては致命的じゃな)


(そんなにかよ)


 予想以上だなおい。


(冒険者や傭兵にとって、契約の履行や金の支払いは死活問題じゃからの、信用の出来ぬ相手とはよほどで無くば契約はせん。騎士にしろ貴族にしろ戦争や大規模討伐では、自前の戦力では足りず、外から雇い入れる物じゃが、それができねば)


 ああ、確かにそれは致命的だろうなあ。


(俺が、この金を受け取るとどうなるんだ)


(ミムズの契約違反は許されたという事になるのう、契約違反はしおったが通すべき筋を通したとして、信用はそれほど傷つかぬ。一方、お主は契約違反について領主や役人などの公的な場に訴えることは出来ぬし、他の冒険者などにこの事を話してミムズの信用を貶めることも出来なくなる。もしすれば今度はお主が金貨百五十枚でミムズを許すと言う、パルスとの契約を破ったことになり信用を失いかねんぞ。そうなれば高額の依頼は受けられなくなるじゃろうな)


 うーん示談みたいなものか。


 まあ別に、ミムズには疲れさせられたけど、恨みは無いし、金が貰えるならそれに越したことは無いよな。ラッテル領に貸し出して金が減って来てる事だし。まあそれでもこの街に来た時よりはあるんだけどさ。でも……


「別に俺はかまわないが。なんで、あんたがミムズの代わりに謝罪をしているんだ」


 椅子に座ったままとは言え、王女様が冒険者風情に頭を下げるとか異常だろう。


「ミムズは、私やアクラスの側近として、国軍のそれなりの役職について貰わなければいけません。我が国にも様々な派閥や力関係が有る以上、私達が信用できる数少ない配下のミムズをこのような事で台無しには出来ないのです」


「こんな事か」


 何人も死人が出てるんだがな。


「リョー様や、被害に遭われた人族の方には申し訳ありませんが、今回の事は彼女にはいい教訓となったでしょう。目の前の事態だけに目を奪われて大局を見失えばどうなるのか。小を救おうとして、大を死なせる事が有る。多きを助けるために、少なきを殺さなければならない事が求められる。そう言った事を知る事が出来たのは彼女の為になるでしょう。今までのままでは十人のために百人を犠牲にしかねなかったですから」


「ずいぶんとまあ、あけすけに話すんだな」


 俺の言えたことじゃないが実際に死んだり被害にあった連中には聴かせられないな。


「為政者とは、より多くの民の利益を考えないとならないのです。いつかはアクラスにもそれを学んでほしい物ですが」


「その時は、犠牲無しで教訓を得てもらいたいものだな。それで、この金を渡す事が呼び出した理由なのか」


 出来ればそうであって欲しいな、もうこれ以上の面倒事はごめんです。


「いえ、本題はこれからです。私個人としてリョー様に幾つか依頼が有りまして」


 あ、やっぱりそんな甘くないか。


「リョー様には今許していただきましたが。今回のオーガ討伐でミムズの取った行動が問題になっているのです」


「里の連中が騒いだのか」


 うーん、脅しが足りなかったのかな。


「いえ、そちらの方はディフィーが口ふう、いえ、補償を行っていますので」


 あれ、今何か物騒なことを言いかけなかったかな。しかもディフィーさんって、更にリアルなんですけど。


「問題はそれよりも、この地方の領主殿なのです。あれほどの被害が出たので、ミムズが領役場に状況の報告をしたのですが」


 あ、なんとなく予想が付いたな。


「功績の殆どが、作戦を立てたリョー様と後から救援に向かったディフィー達の物で、多くの被害が出た原因はミムズの判断に有る。そう報告してしまったのです」


 あちゃー、いや間違ってはいないけどさ。もう少し報告のしようが有ったんじゃないのかな。取りあえずミムズとしては義務もないのに全力を尽くしたんだからさ。まあ、あのバカ正直娘にそんな真似は出来ないか。


「一貴族領とはいえ、公的な記録にミムズの失態で他国の民に多数の被害が出た。そう書かれてしまった以上、我が国としても彼女を罰しない訳には行かないのです。そうでなければ、王室の裁きが身内に甘い物と取られかねませんし。私達を快く思わない者達には格好の口実を与えます。今のうちに対処しなければ将来ミムズ自身が破滅しかねません」


 あらら、そんな大事になっちゃってるのか。


「『鬼族の街』の大規模討伐終了後になりますが。王族付き騎士の資格停止と、一定条件下での追放処分、および貸与していた『決闘の長剣』『軽量の騎兵槍』の返納、それがミムズへの罰になります」


(なかなか厳しい処分じゃのう)


 確かに、懲戒免職みたいなもんだよな。


「帰参の条件はいずれかの『迷宮』を踏破する事と、一定数の強力な『魔道具』を王家へ献上する事、あるいはそれらに匹敵すると認められる功績。これだけ厳しい条件なら誰からも文句は出ないでしょう」


(なあ、ラクナこれはそんなに厳しいのか)


(『迷宮踏破者』が周りからどう見られているかを考えればその難易度が分かろう。また『魔道具』もそうそう手に入るものではない、店で売っておる『簡易魔道具』や『効果付与装備』等とは、効果の大きさが違うでのう。モノによっては貴族家の家宝や国宝扱いになっておる物も多い。『迷宮』で拾うならば『鎮静化』の際や『活性化』の最中を除けば、一度の『大規模討伐』で十数個集まればよい方じゃ。さらに強力と言われる物となればその中で一つあるかどうか、金貨数千枚、場合によっては数万枚の価値が出る時も有る)


 それはもう、戦車とか戦闘機みたいなもんって事か。いいのかな俺、強力かどうかは別として『魔道具』を幾つも持ってるけど……


「そこで、リョー様にお願いが有るのですが」


 ここでお願いって。


「まさか、ミムズとパーティーを組めとかか」


 さすがにそれはいろいろ面倒な気がするんだよな。俺の秘密も有るしさ。確かに俺は『迷宮踏破』をしてるし、『青毒百足』を倒してるから実力はあるように見えるんだろうけどさ。


「そうして頂ければ、うれしいですが、そこまで無理は言えないでしょう。もちろん彼女が危機の時に居合わせた際は力になっていただきたいですが」


 違うのか、じゃあなんだろう。


「リョー様にお願いしたいのは、もし不要な『魔道具』を入手した際は優先的にミムズに譲っていただきたいのです。もちろんお礼は致しますし相場よりも高くさせていただきます。国庫からは出せないので私の個人資産からになりますが」


 まあ、高く買ってくれるなら金の出どころはどこでもいいけどさ。まあ、ミムズの実力ならいいパーティーと巡り合えば『迷宮踏破』くらいは出来るだろうから、『魔道具』の方が問題って事か。


 まあ、今回の『大規模討伐』で神殿の依頼通り行けば、幾つか『魔道具』が手に入る予定だからな。サミュー達やアラ達が使えそうなのを抜いてから売っても問題は無いよね。


「いいだろう、その依頼は受けよう。だがいいのか幾ら手駒になる貴重な忠臣だからって、一人の為にそこまで金を使って」


 ミムズを手元に残すことにそこまでの対費用効果が有るとは思えないんだよな。一人の為に日本円で数億以上つぎ込むって事だもんな。


「ミムズは、臣下というよりは、私にとっては姉同然です。生まれた時から共に育ってまいりました」


 そう言えば乳姉妹だったか。ミムズはパルス達の乳母の娘か。


「私達はミムズに、いえ彼女達親子に返しきれない恩が有るのです。これは王女としてでは無く、私個人としてどうしても譲る事の出来ない一点です」


「そんな事を、俺達に言ってもいいのか」


 それって間違いなく、このお姫様達の弱点だよね。下手に外に漏れたらまずいんじゃないの。


「構いません、本国の主だった者達は知っている公然の秘密ですし。それに知られたからと言って、何かされるような事でもないですから」


 なんだろ急に表情が和らいできたような感じがするな。話しているだけでも楽しそうな。


「ずいぶんと入れ込んでるんだな」


 そう言えばディフィーさんも凄かったよな、『先生』って呼んで恩が有るから一生かけて返すとかって言ってたもんな。


「ええ、彼女の母親は私達姉妹にも分け隔てなく実の母親同然に育ててくださいました。慈母という言葉が最もふさわしいのでしょうね。エルフ族の生涯をかけて愛し続けても返しきれないほどの愛情をかけて頂きました。ですから私の出来るかぎりの事はミムズにしたいのです」


 何だろうこの言い方は、その乳母がもういないから代わりにミムズみたいに聞こえるな。まあ王族じゃあ色々あるのかな。


「話がそれてしまいましたね。リョー様にはもう一つ依頼が有ります。奴隷を探してほしいのです」


 なんだ、一気に話が変わったな。


「奴隷だと」


「ええ、アクラスが倒れた時に思い知りましたが、今私達に付いている侍女はディフィーとサーレンの二人だけですし、それ以外の近侍は全て護衛です。私達自身もある程度身の回りの事は自分でできますが、病気などになるとどうしても手が足りませんし、それ以外の作業もする者が居ないので」


 いやいや、おかしいよねそれ、お姫様だよね貴方達、普通お姫様とかお嬢様って言えば、メイドとか使用人を何人も下手すりゃ何十人も連れて、自分じゃ何もしないんじゃないの。だってハルも最初の頃は一人で着替え出来なかったんだよ。


「お姫様の言葉とは思えないな、それに必要なら幾らでも雇えるだろう」


「これも乳母の教育でして、御菓子作りなどと一緒に身の回りのあれこれを色々と教わったもので、あまり必要性を感じておりませんでした。それと、祖国で侍女や近臣を集めるとどうしても各貴族の息のかかった者しか集まりませんので」


 安心して身の回りに置けないって事か、まあ奴隷なら『隷属の首輪』があるから裏切られる恐れはないもんな。


「まあ、それは構わないが、なんで俺に頼むんだ。別に直接奴隷商に注文を出せばいいだろう」


「いろいろと細かい条件が有りますので。私が直接動けばすぐにでも条件に合った奴隷が見つかるでしょうが。場合によっては騒動になりかねません。私の気に入るような奴隷を集める為に、他者が所有する奴隷を無理やりに奪ったり、場合によっては攫ったなどとなれば、国の外聞に係わりかねませんから」


 まあ薬の時は実際ユニコーンが犠牲になったしな。


「薬集めの時とは事情が違いますので、リョー様の様に乱暴な行動に移る恐れがなさそうな冒険者十数組にお願いしているのです。買い取りの交渉自体は私の代理人が行いますので、リョー様は条件に合う奴隷を見つけた時にご連絡を頂ければ」


 まあ、その位でお金がもらえるなら悪くないのかな。別に見つからなかったらなかったで損する話でもないし、たまたま見つけたら小遣いになるんだから。


「まあいいだろう、それで条件はなんだ」


 でもさメイドって、そんなに条件が有るのか。


「一人では無く、幾人か必要ですがまずは薬師です。効果の高い解毒剤と回復薬を作れる『調剤』か、それに類するスキルの所持者、理想を言えばリョー様の持って来られた薬並みの物を作れる者」


 そりゃまた一人目からずいぶんと、あれでもユニコーン族じゃだめなのかな、それなら『強化濃縮調合』で解決するかも。


「二人目は毒味役、そちらのトーウさんのような方が居ればぜひとも」


 まあ、偉い人には毒殺の危険なんかもあるんだろうな。


「三人目は秘書官、『計算』や『書類整理』等の事務処理系統のスキルを複数持っている者を何人か探しています」


 確かにこれは、対立貴族の息がかかってちゃまずいよな。政治的な秘密なんかが筒抜けになっちゃうもんね。


「最後は侍女です。とは言えあまり人数が居ても持て余しますので、一人で何役もこなせるような優秀な者を探してください。スキルとしては『料理』『掃除』『洗濯』『裁縫』『茶』を最低でも持っていることが条件です」


 まあそれだけ有れば、大概の家事は出来るだろうからね。


「他に条件はあるのか」


「できれば人間族でお願いします。エルフ族ではたとえ庶民出身の奴隷でも我が国と色々しがらみが有るかもしれないので」


 あれ、変だな一応ラクナに聞いてみるか。


(なあ、奴隷ならしがらみとか関係ないだろう)


(そうでもない、『隷属の首輪』が反応するのは主人への害意や悪意、罪悪感、後は命令違反の自己認識じゃ。それが無ければたとえ主人の害となっても奴隷本人が気付くまで懲罰は発生せん。例えば家族や友人との何気ない世間話で、主人の致命的な弱点になるような情報をそうと知らずに話しても、禁止されていなければその場では何も起こらん。後に事の重大さに気付いて首輪に絞め殺されても後の祭りじゃ)


 ああ、そっか悪気がないとダメなのか。そういえば地球の神話とか昔話でもあったよな、良かれと思ってしたことが実は罠だったとかって。


 御主人を守るために弱点を教えろと言われて、教えたらそのせいで旦那が殺されたとか。他の女を好きになった旦那に戻ってもらえるよと媚薬を貰って使ったら実は毒だったとか。


 そう言う、奴隷自体が騙された時なんかは『隷属の首輪』は意味ないのか。確かに同じエルフ族同士なら騙しやすそうだな。


「だがそれなら、獣人でもいいんじゃないのか」


「それもあまり芳しくありません。私達の側近はミムズを除けばほとんどが獣人族のため、私達は獣人を好んでいると言うふうな流言が流れていまして、それが他国との外交にも影響しかねないのです」


 ああ、そっか獣人の多い国からは友好的に思われるだろうし、人の国は不安になるだろうな。


「ですので人族の奴隷でお願いします。それとこれも外聞の為ですが、全員二十代くらいの女性にしてください」


 まあ、男をあんまり身近に置いちゃ変な噂になるだろうしね。


(ついでに、希望の容姿も確認しておいた方が良いぞ)


(そんなのも必要なのか)


(貴族などによっては、あえて使用人の髪の色などが同じ者で統一したり、逆に似通った容姿を被らせないようにするなどのこだわりを持った者が居るのじゃ)


 そう言うのも金持ちのステータスなのかな。まあ見目麗しい奴隷は値段も高いだろうし、そう言う容姿の条件を付けて何人も集めるのは難易度が上がるだろうから、揃えてるだけで財力の誇示なんかになるのかな。


「奴隷の容姿などには条件が有るのか」


「そうですね。どの奴隷も私やミムズと同じ金髪碧眼でお願いします。金髪で似通った容姿の使用人と私達の中央に、一人だけ違う髪色が居ればアクラスがより引き立つでしょう」


 ああ、そう言う視覚効果も狙えるのね。


 しかし家事万能で金髪碧眼の侍女奴隷か、一人だけ心当たりが有るけどさ、売るつもりはないからね。万が一にもばれない様にしないと。


説明や交渉ばかりで、バトルがしばらく御無沙汰ですが。

もう、一話か二話で大規模討伐に移ります。


H27年2月23日 朝食及びチーズケーキ部分の文章を一部修正しました。

H27年8月24日 誤字修正、

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