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93 初夜と鳥と

ふう、今回はかなり長くなっちゃいました。

「解った、とりあえずお前を俺の手元に置いておいてやる」


 これしかもう選択肢がないじゃん。


「それでは、それでは旦那様」


 結局その呼び名で定着しちゃうのね。


「帰るぞ、宿でアラが待っているからな」


「は、はい」


 ああ、また女の子が増えちゃったよ。





 トーウを連れて宿に戻ると、まだ賑わっていた一階の酒場から、一気に歓声が上がる。


「おお、兄ちゃん連れ込みかい、やるねえ」


「ねえちゃん夜はこれからってか、そんなほそっこい体で壊されるなよ」


「『迷宮踏破者』で、金貨数百枚の金持ちで、魔道具持ちで、女もってか。爆発しろこのやろ」


 そんなこと言うけどさ、ほんとは蛇の生殺しなんだよ。ああ、でもこの冷やかしのセリフ、異世界トリップのチート主人公になった気分だなー


 冷かしてくる冒険者連中をスルーして、とりあえず親父に一人分の追加料金を支払う。別に一室を押さえるのは無理かな、リューンの薬の買い取りが終わったけど、『大規模討伐』のせいで結構冒険者が残ってるんだよな。


 やっぱり相部屋か、俺はアラと同じベッドで寝てトーウにはもう一つの方で寝てもらうか。


「それじゃあ、そっちの方で寝てくれ」


 上着だけを脱いで、アラを起こさない様に掛布団をめくろうとすると、背後から衣擦れの音がする。振り返っちゃダメだよな、たぶん寝る為に着替えてるんだろうから。


「旦那さま、こちらを向いてはいただけないでしょうか」


 なんだろ、何か気になる事でもあったのかな。


 呼ばれてふり返った先には、なにも着ていないトーウが居た。


 ちょっと待てー、慌てて後ろ向いたけど、見ちゃったよ全部、上から下まで隠すとこなく。


 いやー、ほんとにぺったんこでスレンダーなんだなー


 じゃない、どうなってるんだ、もうそこのところは、済んだ話じゃないのかよ。金を出すんだからさ、いいんじゃないの。


「必要な手続きは昼の間に終えておりますゆえ、後はわたくしに旦那様がはめて頂ければ」


 は、ハメるだと、まさかお嬢様の口からそんなセリフが、いやいや無理だからそんなの。


「どうか、旦那様の御手でこの首輪をわたくしに」


 く、首輪、アレの事じゃないの?


(おそらくは『隷属の首輪』の事じゃろうな。本来、金と引き換えに人をやり取りする場合は、奴隷を使うのが好ましいとされておるからのう)


 そ、そう言う事か、お嬢様を奴隷にするとか何処のエロゲーだよ、いやまあハルもそうなんだけどさ。奴隷商で買うのと違って、俺の手で直接奴隷にするって展開がなんかさ。


(どうせやらない訳には行かぬのじゃから、早く済ませばよいじゃろうが)


 そ、そうだよな、金を払うって言っちゃったし、それに、当分はトーウを俺の手元で保護した方が良さそうだからね。


(しかしまあ、奴隷化とはずいぶんと思い切った事をしおるのう)


(何か問題が有るのか)


 こっちの世界じゃよくある事な気がするんだけどさ。


(貴族の縁者が奴隷になるなど、実家だけでは無く親戚筋全体の家名に泥を塗るも同然じゃからのう。ラッテル家は血筋を領内のみで保っているゆえ他よりはマシじゃろうが)


 そ、そうなんだ、そりゃ貴族と奴隷じゃ、身分的に天と地くらいの差が有るもんね。


「いいのか、そんな事をして、家が困るんじゃないのか」


「お父様とキッシュ卿達だけは御存知です。今頃はわたくしが病死したとの連絡が王都へ付いている事でございましょう」


(家門の恥を防ぐために、死んだ事にするというのはよくある事じゃの)


 そうなんだ、でもまあ時代劇なんかじゃけっこうある事かも。


「わたくしが他家に利用されるのを防ぐためには、こうするしかないと、わたくしから言い出した事でございます」


 てことは、俺が受け取らなかったら死ぬって、最初から決めてたって事か、ああこれはもうどうしよう。


(ラクナこうなると、もうラッテル家は金を返す気はないって事か)


 死んだはずの令嬢を取り戻すってのは変な話だよな。


(解らぬのう。こう言った場合でも、後に別人を養女にしたという形で、家に戻すと言う前例が幾らでもあるしのう。他にも買い戻してから、解放奴隷を経て臣下として仕官させる手もあるからのう。まあ、実子とは扱いや待遇が変わるが、奴隷のままにしておくよりは親の気持ちも休まるじゃろう)


 とはいえ、金貨千枚は厳しいだろうな。とはいえ、ここまで係わって金を出さない訳にも行かないか、何とか資金回収の事も考えておかないとダメかな。


「解った、とりあえず首輪を付けるから体を隠してくれ」


 裸のままじゃさ、俺の理性がね色々とヤバイからさ。後ろを向いたまま毛布を差し出すと、すぐに受け取ってくれる。


「どうぞこちらをお向き下さい」


 そう言われてふり返ると、きちんと毛布を体に巻いてくれてた。しかしホントに凹凸の無い体だな、これ服装しだいじゃ美少年で通じるんじゃないかな。男装の麗人かそれもいいかも、いやいやそうじゃないよな。


「それじゃあ、『隷属の首輪』をはめるぞ」


「はい、お願いいたします」


 しかしこれは、結構緊張するな。震える手で首輪を回して留め金を止める。


(後はお主の血を吸わせて完了じゃな)


「旦那様の奴隷になる前に、一つだけよろしいでしょうか」


 なんだろ、碌な事じゃない気がするけど。


「どうかわたくしの純潔を、貰って下さりませんか」


 なに、結局そこに行きついちゃうの。


「俺が言うのもなんだが、もう少し自分を大切にした方が良いんじゃないのか」


 女の子なんだからさ、初めては色々思い入れあるだろ。


「たとえ死んだ事となった奴隷の身であっても、わたくしが純潔のままでいると知られれば、他の家々が策をめぐらす余地が生まれかねませんので」


 な、なんだこの世界の連中は『処女厨』なのかよ。


(生娘であるかどうかはともかく、冒険者風情の手が付いた女奴隷を、わざわざ買って妾にした。となれば貴族としての体面が悪かろう)


 そ、そう言うものなのかな。


(まあ、それらは地方や国によって差が有るがのう。この辺りでは女奴隷は生娘か否かで価値が大きく変わるが、出産経験のある女奴隷の方が、確実に子を産めると高値で取引される地方も有る。また国によっては、他者が忌避するような経歴を持つ娘を、あえて迎え入れる事を貴族の徳だとする国もあるでのう)


 まあ取りあえずは、トーウが処女の内はリスクが有るって事か。


 でもなー


 無理だからなー


 いや俺だって、出来る事ならしたいよ、従順なスレンダー美少女、しかも純粋培養のお嬢様なんて、男の夢そのままじゃない。無茶苦茶したいけど俺には出来ないんだからさ。


(しかしこのまま生娘では、面倒なことになりそうじゃのう)


 そうだよな、あれまてよ、そもそも。


(なあ、もし俺が手を出したと仮定して、担保としての価値と借金はどうなるんだ)


 普通に考えれば、問題ありそうじゃないか。


(貸し手の責任で預かっていた担保が傷ついたり無くなった場合、その度合いに応じて借金が減額されるじゃろうな。年頃の女奴隷の場合ならば、この地方では生娘で無くなれば売値は半額になりかねぬの)


 まさか、トーウはそれも狙ってるんじゃないよね。


「どうか、なされましたか旦那様」


 うーん、そんな感じはしないか、でもホントにどうしよう。


(実際に抱くのは無理でも、そう装う事が出来れば違うかもしれぬが)


 装う、そうか、そういう手も有りか。


(じゃが、トーウは嘘が下手そうじゃしのう、周りを誤魔化すのは難しいかもしれぬのう)


 ああそうか、じゃあ無理かな、いや待てよなんかこんな展開覚えが有るような、ラノベやアニメじゃなくて、あれは学生時代に読んだ古典文学で。よし、一か八かやってみるか。


「いいだろう、お前の全てを俺が貰おう」


 くさ、俺は何を臭いセリフ言ってるんだよ。いや取りあえずは奴隷化を済ませてからだよな。


 刃物で指を軽く切り、傷口がふさがる前に首輪へ血を吸わせる。


「これでお前は、俺の奴隷だ」


 明らかにホッとした顔をしてるな、気が抜けた今なら上手く行くかな。


「『入眠』おっと」


 力が抜けて崩れ落ちかけたトーウの体を抱きとめて、ベッドの上に運ぶけど軽いな。ひょっとしてスレンダーってわけじゃなくて栄養不足でガリガリに痩せてるだけなのかも。


(しかし、毎度毎度こういう事態では『入眠』の出番が多いのう、もしかすると熟練度も上がっておるかもしれぬのう)


 それは、あんまり嬉しくないな、碌な使い道がなさそうだもん。


(解っておるとは思うが、おかしな悪戯で『魔力回路』を損なうでないぞ)


 おい、俺をなんだと思ってるんだよ、寝込んでる女の子に悪戯なんてするわけないだろうが。


(それにしても、いくら保護のためとはいえトーウを仲間にする必要はあったのかのう。パーティーとしてはミーシアがいれば斥候系の職種は必要あるまい)


(何を言っているんだ、それに関しては問題は何もないだろ)


(はて、かつての『勇者』達ならば、同じような職種が仲間になれば『被った』と言って、嫌うものが多いのじゃが)


 ああ、ゲームなんかで役割分担が明確に分かれてるのに慣れたりするとそうなるのかな。


(被っていいんだよ、と言うか被ってくれないと困る)


 俺より少し下の会社の連中には『ナンバーワンよりもオンリーワンにならないと』なんて言うのが居たけど、個人として目指すのは良いが、組織や集団の中にオンリーワンばっかってのは困り者だからな。


(ミーシアが怪我や何かで、動けなくなったらどうするんだ。そう言った時の為にも同じようなスキルや特性を持ったメンバーが複数必要なんだ)


 オンリーワンって事はその人だけにしか出来ないって事で、予備(サブ)がいないって事だもんな。資格にしろ技術や知識にしろ、個人の能力に頼ってもってる集団ってのはその個人が潰れるだけで崩れるからな。


 そう言えば昔あったな。麻雀好きな木田部長の接待するってのに、接待麻雀が得意な工藤君が事故って入院しちゃって、代わりに麻雀が出来る別な後輩を連れてったら、散々な事になったなんてこと。


 鳴きまくるわ、黙テンするわ、安上がりしまくるわ、部長の待ってる上がり牌を貯め込んで出さないわ、挙句の果てに木田部長をハコるってあり得ないから。


 あれ以降、とりあえず接待でありそうな娯楽のセオリーは何人かに教え込んで、いざって時の交代要員を確保したもんな。


(なるほどのう確かにそう言った予備を取る事は必要かもしれぬの、それに考えてみれば、トーウのスキルはお主個人にとっても重要じゃしの)


 俺にとっては重要、なんの事だろう。


(先ほど『鑑定』したであろう、トーウは『料理解析』が有るのじゃぞ。お主にとってはまさに最適な毒見役じゃろうに)


 おお、てことはこれからは、食べ物に肉や酒が混じってないか心配しなくて済むって事か。これは押し付けられた気分だったけどもしかしてとっても掘り出し物だったのかも。


(それで、これをどうするつもりなのじゃ)


 言われて見下ろした先には、無防備に裸体を晒すトーウの寝姿が有った。






「も、申し訳ございません、旦那様よりも先に起きなければならない立場でありながら、あっ、これは」


 一番最初に起きたアラの髪を梳いていたら、起き出してきたトーウが慌ててるけど、シーツに気付いて黙り込んだか。


(まあ当然じゃろうのう)


 トーウが見つめているのは、血で赤く染まったシーツのシミ。パッと見は初夜の事後に見えるよね、まあその血は食堂から貰った鳥さんの物なんだけどね。


 最初は俺の血を使うつもりだったけど、アラが起きて気づいたら泣きそうだったし、俺の場合、直ぐに傷がふさがるせいで量の調節も難しいから。


「わたくしは昨夜、旦那様にその……」


 赤く染まった顔の下半分を毛布で隠すとか、そんなお約束の萌えポーズで見つめないでくれ。


「覚えてないのか、それならそれでいいが」


(覚えているはずが有るまいに、そもそもそんな事実が無いのじゃからのう)


 まあ、そうなんだけどさ、ここはトーウに勘違いしてもらわなきゃならないんだからさ。


「ええ、もうしわけございません」


「まあ、疲れていただろうしそれも仕方ないだろう」


 ここはもう、それで押し通すしかないよね。やべ思い出しちゃった、トーウに血をかける時に思いっきり見ちゃったんだよね。


(昨夜の様に、厠で発散してきてはどうじゃ)


 うるせえぞ首飾りが。俺だって健康な成人男性なんだからさ、そりゃ欲求だってあるんだよ。いやいや、そっちの事は考えないようにしておかないとね。


「とりあえず朝飯にしよう、先に行ってるから体を拭いて服を着たら下にこい」


 アラを連れて食堂に行ったら、昨日もいた連中が口笛で迎えてくれた。どいつもこいつもニヤニヤしやがって、特に親父の面が腹立つな。昨日鳥の血を貰いに行った時も『こんなのを使うだなんて、あんたも通だね』なんて言って来たし。


 一体鳥の血にどんな使い方があるっていうんだ、俺がどんなコアプレイしたと思ってるんだよ。


「おうおう、ずいぶんとのんびりした御朝食で、そんなに夜更かししたのかい」


「そりゃあもう、あんなお嬢さん連れ込んだんじゃ、夜遅くどころか明け方まで、かーやってられるか。酒だ酒、酒持ってこーい」


「こっちも酒だ、クソ、モテ男なんてもげちまえ、腐り落ちてしまえ」


 なんだ、そこら中で酒の注文が始まったよ。


 とりあえず空いてる席はっと。


「悪いな、端の席が空いてるが、厨房が手いっぱいでな火を使う料理は少し待って貰うがいいか」


 まあ、この状況じゃな、酒と一緒に料理もかなり出てるし、てかこいつら朝からよく喰うな。


「ああ、とりあえずパンとサラダ、ミルクを三人分、後はチーズを『巡礼向け』が一人前、通常のを二人前頼む。時間が出来たらなにか二、三品作ってくれ」


 まあ、トーウが下りてくるまで少し時間が有るだろうし丁度いいか。


「ああ、あんたら宛に手紙が来てるぞ、それとまた別な呼び出しもだ」


 うえ、また呼び出しか、しかもこれは、今度は一体何の用だ。それと、こっちの手紙は……


「てあみ、サミュかな」


「ああそうだ、席で読もうか」


 わくわくした顔で見上げてくるアラの頭を撫でてからテーブルに向かう。


「ええと、なんだこれは、みんなで金を稼いでるだと、渡した金貨はどうしたんだ。せっかくカミヤさんが餞別だと大量にくれたっていうのに」


「ねーねー、みんな元気なの」


「ああ、魔物を狩ったり、小石を集めたり、買い物したり、御菓子作ったりしてるらしいな」


 ところで小石って金になるのかな。


「お菓子、サミュのお菓子」


 おーおー、目の色変えちゃって、でもまあ仕方ないかな。アラがお菓子食べたのはパルスのとこで食べたのが最後だもんな。


 でもまあ、たぶん、後で食べられるかな。


「今度の『大規模討伐』が終わったらみんなを迎えに行くからな」


「うん」


「申し訳ございません、お待たせいたしました旦那様」


 きちんと服を着て階段を駆け下りてきたトーウに、酒場中がざわめく。


「だ、旦那様だと、あんな子にそんな呼ばれ方」


「御主人様も憧れるが、旦那様もいい」


「おれ『大規模討伐』が終わったら奴隷を買いに行くんだ」


「俺も、『鬼族の街』で稼いで、それを元手に美人の女奴隷を買ってやる」


 はあ、まあいいやトーウも来たし、丁度食べ物も来たから。


「あ、あの旦那様、本日は何か特別な日でございましょうか」


 なんだ、ずいぶんきょどってるけど、どうしたんだろ。


「いや、特には何も、あえて言うならトーウが来た初日ってくらいだが」


「それではなぜ朝食がこのように、豪勢なのでございますか」


 豪勢、え、なにが。


「カビ一つない柔らかそうな白パン。しなびていない、みずみずしく鮮やかな色合いの生野菜。干からびても、虫が湧いてもいないチーズの塊り。それに、それに臭いのほとんどないミルク。こんな、こんなお食事、いつ以来でございましょうか」


 ちょっと待てよ、このメニューって、買ったばかりのミーシアすら、これと似たようなスープ、サラダ、パンだけだと思って残念そうな反応したってのに。しかもこのパンそんなに柔くも白くもないし、というかカビって、それにしなびるはともかく、虫が湧くとか、臭いのするとかって、普通それって捨てるレベルじゃないの。


(まあ、『毒耐性』があれば、腐っておっても腹は壊さんじゃろうが、『味覚強化』が有りながらそんなものを食せば、相当堪えるはずじゃが)


 犬に刺激臭を嗅がせるような感じなのかな。いったいこの子どんな食生活してたんだろ。


「トーウ、ためしに聞くが昨日は何を食べた」


 あんまり聞きたくないけど、ちょっと気になるし。


「はい、昨日は、空き地で摘んだ草と掘った根、蝗の干物をすり潰して、少量の麦で煮込んだおかゆと、根を掘った時に見つけました、幼虫……」


「もういい」


 こ、これは想像以上だったよ。


「昨日は久方ぶりに新鮮な物を頂きました」


 そ、そんな嬉しそうな顔で思い出されてもさ。やっぱりスレンダーなんじゃなくて栄養不足で痩せこけてるだけだわ。


(『雑草鑑定』や『虫肉鑑定』などという、訳のわからぬ『食材鑑定』が付いておる理由が良く解ったわ。それにしても他にもさまざまな食材の『鑑定』が有る以上、昔はかなり良い物を食っておったであろうに)


 何だろう、お嬢様のはずだよねこの子。


「姫様、姫様はこちらに居られまするか」


 俺には理解できない理由で感動しているトーウの背後に有った扉があいて、暑苦しい連中が飛び込んできた。


「おお、姫様やはりこちらに居られましたか、他の心当たりを虱潰しにしても、いらっしゃらなかったゆえ、ここだとは思っており申したが、夜間や早朝に押しかけて、万が一にも事の最中であってはと思い」


 事ってなんだ事って、オッサン何を期待してたんだよ。いや今はそれよりとりあえず面倒事を済ましておくか。


「トーウ、とりあえずアラと一緒に食事をして置け。キッシュ、話がある。お前と、後はそうだなアイテムボックスを持っている中で一番使えるのを一人連れて部屋にこい」






 キッシュが誰を連れてくるか考えてるうちに先に部屋へ戻り、昨日のうちに用意していた物を取り出して置く。


「リョー殿いったいどうなされたのだ、話ならば下でもよかったのではあるまいか」


「さすがにこれは、人前じゃ出せないだろ」


 アイテムボックスから、皮袋を五つ取り出してベッドの上に放り投げる。一袋は金貨二百枚であってたよな。


「こ、これはまさか、リョー殿」


「それとこれだな、好きな方を取れ」


 キッシュの目の前に、数枚の紙を突き付けて選ばせる。


「これは一体、こちらとこちらはどちらも借証書」


 一枚目は、トーウを担保にして金貨千枚を貸すもの。


 二枚目は、子爵の指を担保にして金貨九百五十枚を貸すもの。


 三枚目は、トーウを奴隷として金貨五十枚で買い取るが、他者には転売せず、ラッテル家から買い取りの意向が有った場合のみ無条件で応じるというもの。


 二枚目と三枚目はセットにしてある、どちらにしても金貨千枚渡すのは変わんないけどね。


「これは一体どんな意味が」


「千枚の金貨がそう簡単に返せるとは思えないが、必要な額が支払われるまでは俺は絶対に担保を手放さないからな」


 キッシュも気付いたみたいだな。一枚目だけを取った場合、子爵の指は俺へのワビを行動で示せば金を使わなくても返ってくるが、借金を全額返してトーウを取り戻すのは難しくなる。


 二枚目と三枚目を取れば、子爵の指は取り戻すのが金銭的に難しくなるが、余裕が出来たらトーウだけなら買い戻せる。ついでに俺の奴隷という前歴が付くから他の貴族は手を出しにくくなるってことで。


(さてさて、主君の指を取るか、娘を取るか、家の体面ならば指じゃろうな。トーウが死んだ事になっておるのならば、奴隷となっても家名には影響せんが。指を失ったままでは、騎士としての誓いを果たせていないと言っているのと同じじゃからの)


 そうなんだよな、これ次第でこいつらとどう付き合ってくか決めよう。


「リョー殿、これほどまでの御心遣い、重ね重ねかたじけない」


 きちんと二枚の方を取ったか、ここまでお膳立てして家の体面を取る様なら、もうこれ以上深入りする必要はないと思ったけど。


「これはおまけだ」


 この位のおせっかいなら別に俺に損は無いし、もしこれで返済が早くなればラッキーだもんね。


「これは、紹介状、この、このお相手は」


 驚いてるな、まあ相手は有名人だもんな。


「ミーナ王国のアキラ・カミヤ・ライワ伯爵宛の紹介状だ、俺の紹介なら多少は便宜を図ってくれるだろう」


 あの人は、農業の専門家だから、なにか解決策を知ってるかもしれないからね。虫に強い作物とか農薬とか。


「それと、俺は昨日の夜にトーウを抱いた」


「な、それは、いや、なんでもござらぬ」


 覚悟はしてたんだろうけど、やっぱり動揺するよねそりゃ。後ろに控えてた若い騎士が、思わずって感じで剣に手を当ててたし。


「と、いうふうに、トーウは思ってるし、誰かに聞かれたら俺はそう答えるつもりだ」


 まあ、俺の御手付きの方がトーウは安全なんだろうけど、やっぱり女の子の初めてはね、特別だろうから。


「で、ではリョー殿、それは、いや、なんでもござらぬ」


 キッシュも俺の伝えたい事が分かったみたいだな。よしよし、これでとりあえずは解決かな、後はカミヤさんが頑張ってくれれば貸した金が返ってくるかもしれないし。


 でもほんと、キッシュが指を担保にするほうを選んでくれてよかったよ。


 この状況じゃトーウを抱いた事にするしかなかったけど。トーウだけで金貨千枚だと、処女じゃなくなって価値が落ちた場合は、最悪半分の五百枚くらいしか返済されないって事だから。


 そこまで行くと不良債権なんてレベルじゃないもんな。こっちの方なら全額チャラでも被害は50枚で済むからね。少しでも返ってくる可能性が有るなら額面に近い方が良いから。でもなー


「踏み込んだ事を聞いて悪いが、ここまで追い込まれる前に国などから支援を受けられなかったのか」


 いくらなんでも、ここまでの災害なら多少は対策をしないと、難民が大量に発生して治安が悪化とか、いろいろ影響でそうだよね。


「それは……」


 ああ、やっぱり言えないよね。そうだよね政治的な秘密とかしがらみが有るんだろうから。


「いや忘れてくれ、トーウから『毒見役』や他の貴族との事を聞いていたので少し気になっただけだ」


「いや、ここまでの事をして頂いた以上、秘密にはして置けませぬ。ただし今から話す事はトーウ様も御存知ない事も含まれるゆえ、どうかご内密に願いたい」


 え、ほんとに話してくれるの、ダメ元のつもりだったのに。でもトーウにも話せない事ってなんだろ。


「トーウ様を欲している貴族家は、どれも中堅どころの家々であるが、その背後にはそれぞれの属する派閥を纏める有力貴族が付いており申す。更にそれらの大貴族は、それぞれが十数年後の王位継承に係わって来られるだろう、王族様方の後見になっておる」


 ああ、有力貴族で王族を抱えてるんじゃ、色々と圧力かけれるんだろうな。このままいけば、ラッテル家はトーウを何処かの家に嫁がせるしかなかったってことか。


「本来ならば、それら貴族をいさめるべき国王陛下や高官の方々までもが…… 方々までもが、トーウ様と御家の近親者数名を、奴隷として陛下に献上すれば事態を収めると」


 うわあ、すっごい辛そうな言い方してるな、思いっきり拳を握りしめてるし。しかし、貴族家の令嬢を奴隷にしてよこせって、相当無茶苦茶なことを言ってるよね。


(なるほどのう、王室も必死のようじゃのう)


 うん、必死ってどういうことだよ。


(今までの状況は、こと食事だけに関しては一国の元首の命を、たった一人の臣下が握っている状況じゃ。今回の騒動で国王もその危険性に気付いたのじゃろう)


 まあ、そりゃそうだよな、その気になれば簡単に自分を毒殺できるポジションを、みんなして争ってるんじゃ、安心できる訳ないよな。


(ラッテル家は今まで血脈を守るために、他家と姻戚関係を避けていたゆえ、政治的に中立を保っておったのじゃろうが、どこかの家へトーウを差し出せばそれも崩れおる。じゃが『隷属の首輪』で忠誠を強制できる奴隷を『毒見役』とすれば、『毒味役』に一服盛られる恐れは無くなるじゃろうからの)


 まあ、確かにそれなら安心だろうけど、ラッテル家としてはたまったもんじゃないよな。


「建国の御代より、代々『毒見役』を務め、王家に無私の忠誠を捧げてきたラッテル家に対して、このような仕打ち、到底納得できぬ」


 そうだよな、大切な娘を奴隷にしろって言われるのもそうだろうけど。『お前等だけじゃ信用できない』って言ってるようなもんだもんな。


 だけど、言うとおりにすればトーウの安全は保障されるし、ラッテル領も持ち直せるなら、俺に渡すよりもよっぽどましだと思うんだけどな。


(娘が大事ならばこの話は、確かに飲めぬじゃろうな)


(そんなに悪い話なのか)


 奴隷になるのは俺の所でも一緒だろう。


(お主が昨夜言ったじゃろう、重要な役目には予備が必要じゃと)


 ああ、オンリーワンと予備の話か、それがどうしたんだ。


(今のラッテル家がその状況じゃろう、他に代わりのない重要な能力、ゆえに今まで一つの役職を独占し、そして今回はそれが問題となったのじゃろう)


 だから奴隷にして完全に抑え込んでおきたいんだよね。


(たとえ、今はトーウを奴隷として解決したとしても、数十年後はどうじゃ、トーウが死ねばまた同じ事になろう)


 まあそうだな、またラッテル家しかスキルがない状況に戻るんだから。最悪、他の貴族にトーウが暗殺されるなんて可能性もあるか。


(必要なスキルを持つ奴隷を、継続的に、更には何かあった時の予備も含めて確保しておきたいならば、お主はどうする)


(資金をつぎ込んで手広く買い集めるか、国王ならその位は出来るだろう)


(もっと簡単で確実な方法が有ろう、自分の手元で増やすのじゃ)


 増やすって、そんな簡単に出来るのか、いやまてよ。


(奴隷を集めて毒を飲ませるのか、数百人いれば何とかなるんだろ)


 そんな方法は考えるのも嫌だけど、手段としては可能なんだよな。


(それでは、割に合わないじゃろうの。忘れおったか、ラッテル家は血筋でスキルを受け継いでおるのじゃぞ)


 それってまさか、トーウに無理やり子供を産ませるって事か。


(『繁殖奴隷』などと呼ばれるが、特殊なスキルや高ステータスの奴隷を異性の奴隷とまぐわせ、子を産ませるのじゃ。それが男奴隷ならば多くの女奴隷とまぐわうだけじゃが、女奴隷となれば悲惨じゃ。主がどれほど多くの子を求めても産める数が限られるゆえ、部屋に押し込めて、子を産むとすぐに次の子を宿す様にさせられる、場合によっては薬を使ってまでの。それを子が産めぬようになるまで続ける事に成るじゃろう)


 何だよそれ、ふざけるなよ、そんな人を家畜か何かみたいに。


(奴隷ならば、何をしようと主の自由じゃ、それゆえに国とかかわりのないお主へトーウを預けたのじゃろうな)


 そっか、それだけ信用されたって事なのかな、ん、ちょっと待てよ、『毒耐性』のあるトーウでこうなら。


(もしかすると、サミューもそんなふうになる恐れが有ったのか)


 それこそ幾つも耐性を持ってるサミューなら、トーウ以上に。

 

(奴隷商次第では、あったかもしれぬの。とはいえ奴隷を繁殖させるとなれば、売れるようになるまでには十数年かかる上に、それまでに多くの資金を使うのでな。今回のようなどうしても必要なスキルでもなければ、専門の奴隷商以外はよほど資金に余裕がある者しか手を出さぬの)


 18禁のネット小説とかPCゲームなんかじゃ『奴隷牧場』みたいなネタも有るけど、実際に聞くと気分の悪くなる話だな。


(ずいぶんと詳しいな)


(以前の『勇者』が手を出しておってな。女奴隷を買い『成長補正』で育ててから子を孕ませて奴隷商に売る。高ステータスな上に『勇者』の種じゃ、毎回相当の値が付きおった)


 うわ、そんな『勇者』もいたのかよ、でもまあ、確かにそんな奴隷なら高く売れたんだろうけど、そりゃねえよな。


「先ほども言った通り、この事はトーウ様には伝えておらぬ、もしもトーウ様が知られれば」


 ああ、あの子なら、『わたくしが犠牲になれば』とか言い出しそうだな。


「しかし、そこまでされて、よくまあ嫌にならない物だな」


 俺だったら、とっくに国王に毒盛ってそうだよ。


「もしも今、ラッテル家やそれに類する者が、少しでも不審な行動をすれば。王宮は嬉々として討伐の軍を発してラッテル領を蹂躙し、御家に連なる者すべてを逆賊として奴隷に落とされるであろう。当家は誰にも疑われぬよう粛々と御役目を果たすのみ」


(なるほどのう、『地虫窟』の騒動で、ミムズが抗議をすると言った時に、あれほど必死だったのはこれが原因かのう。他国から正式な抗議が有れば、ラッテル家を取り潰すのは多少強引でも可能じゃ、その上で路頭に迷った者達を奴隷とする。それを恐れたのじゃな)


 そんな事なら、そもそもあんな事しなきゃいいのに。まあだから俺を殺すつもりで仕掛けてきたんだろうけど。


「リョー殿、これはリョー殿を見込んで話した事、どうかどうかトーウ様の事を」


 まあそうか、これって要は王様の欲しがってた奴隷を、横取りしたって事だもんな。これが原因でトラブルになったりとかあるかな。


「ムルズ王国なんて聞いた事もない国に行く予定はないし、冒険者は信用第一の稼業だ、契約書にかかれた事を破ったりはしない」


「かたじけない、まことに、まことにかたじけない」


 やめてー、土下座とか止めてー、される方は無茶苦茶気まずいから。


「この御恩は、なんとしても、なんとしてもお返しいたす。その証に……」


 やばいこのパターンは碌な事にならないよね。


「これ以上、指や耳を持って来られても邪魔なだけだ。そんな暇があるなら、とっととその金を持って行け」


 危なかったよ、もう少し遅かったら、この部屋が血まみれになってた。薬指に当ててた短剣を退けたキッシュがもう一度頭を下げてから、金貨の袋に手を伸ばす。


「かたじけない、かたじけない」


 さてと、早いところ朝飯を食って、面倒そうな用事を済ませに行くか。


何でこうも外道なネタはすぐ思いつくんだろう。


それとちょっとしたお願いですが、どなたかレビューを書いてくれたらうれしーなー


H26年10月31日 誤字修正しました。

H27年2月23日 朝食の注文を修正しました。

H27年8月24日 誤字修正。

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