84 奴隷娘達の御茶会
ちょっとミムズでストレス溜まってる方が多そうなので息抜き代わりにサミューさんでも。
「もう少しで焼けそうですね」
オーブン窯の中を確認して中にある御菓子の焼き上がり具合を確認します。
「あ、甘い匂いがします」
買ったばかりの新しい罠を分解していたミーシアちゃんが手を休めて顔を上げ、鼻をひくつかせています。
彼女の言うとおり部屋の中はもちろん、家の周りにも焼き菓子独特の甘い匂いが広がっています。
こうやってお菓子を作るのは久しぶりですが上手く行ったみたいですね、御主人様から宿では無くて借家で待つように言われた時にはもったいないと思いましたが、宿屋ではこうして好きにお料理をするなんて出来ませんでしたね。
こんなに自由に御台所を使えるのはいつ以来でしょうか、御主人様に買われてからは野営での簡単な料理ばかりでしたし、伯爵様の御屋敷では御主人様に教えるのと独特な料理を覚えるので精一杯でしたから、買われる前ですか。
あの奴隷店では料理は専属の奴隷が作ってましたし、その前の四人目の御主人様の時は殆どの時間を個室の中で過ごしてましたから、もっと以前、となるとイツェリス様の御屋敷でお世話になっていた頃ですね。
あのころは数日置きにお菓子を作ってましたし、色々と料理をしていましたね。
「そろそろ良いでしょうかね」
オーブンの中にへらを入れて、御菓子の乗った鉄皿を取り出します。
「しっかりと中まで火が通ってますね、数年ぶりにしては上出来ですね」
串を差して確認しますが問題ありません、まあ『菓子作成』のスキルが有るのですから、そうそう失敗するはずは無いんですが、ですけれど。
「作り過ぎてしまいましたね」
次々とへらを動かして鉄皿を取り出しますと、テーブルの上がいっぱいになってしまいました。
久々なので忘れていましたが、あの頃は人数がいたので大量に作っていたのでした、当時の感覚で材料を買い込んでしまえばこうなるのは当然ですよね。
「こ、こんなにいっぱいですか」
ミーシアちゃんが驚きながらもうれしそうですね、確かにこの子なら食べ切れるでしょうが夕飯が食べれなくなっては困りますね、もう夕飯の仕込はしてありますし彼女の分を考えてお肉を用意してますから。
「作り過ぎてしまいました」
久しぶりに作れるのがうれしかったですし、魔物狩りで予算も有る上にミーシアちゃんが荷物持ちを買って出てくれたので、家に帰るまで気付けませんでした。材料の中には日持ちしない物も有ったので使い切ってしまいましたがどうしましょう。
「わたしとハルさんではそんなに食べれないですし」
あの頃でしたら、子供達もいましたし、余っても御屋敷に詰めていた騎士の皆さんが片付けてくれてましたから。
「どうしましょうか、あら」
家の前に小さな人影が集まっていますね、どうやらお菓子の匂いに近所の子供達が集まって来たみたいです。
「これはちょうどいいかもしれないですね」
このままにしていても悪くなってしまうだけですし、ご近所付き合いも大切ですからあの子達に食べてもらいましょう。
本来なら御主人様への来客以外の方に食べ物などを勝手に出すというのは主の財産を無断で処分したという事になってしまいますが、この材料はわたし達が稼いだお金で買ったんですし、たぶん御主人様はそこまで細かい事は気になさらないでしょう。
とりあえず外出中のハルさんの分とミーシアちゃんの分を別に取り置いておいてから、手早くお茶を入れていきます。幸いカップだけは借家の備品として置いてあるものがいくつも有りますから。
ミーシアちゃんに予備のテーブルを持って来てもらってから、お皿とカップを並べてそれぞれに焼き菓子とお茶を盛り付けていきます。
「さてこれで用意が出来ましたね」
きちんと用意の出来た部屋を見回してから、扉を開けて前庭に出ます。
これだけで今まで以上に甘い匂いがあたりに立ち込めたはずですが、わたしの姿を見た子供達が逃げ出そうとしていますね。
これは多分びっくりしたり、もしかしたら怒られると思ったのでしょうね、決して私の顔が怖い訳ではないはずです。
「怖がらなくてもいいですよ、御菓子を食べていきませんか」
怖がらせないように注意してかけたわたしの声に、子供達の足が止まりふり返ってきます。
「え、でもそんなの」
「お菓子食べてもいいの」
「私達、お金もってないし」
「お父さんに怒られるかも」
まあ確かに、いきなりこんな事を言われても困ってしまいますよね。
「大丈夫ですよ、御菓子作りの練習で作ったんですが作り過ぎてしまったんです」
「それならいいのかな」
「練習で作ったんなら売り物じゃないし」
「でも、失敗作でも売るときあるよ」
「うん見習いの作品だと安く売るよね」
「お金は要りませんよ、このまま残しても腐ってしまいますし、いっぱい有るのでわたし達だけで食べるとお腹が張って痛くなってしまうので、食べて頂けるとわたしも助かります」
そう言えば昔も似たような事を言った事が有りましたね、ですけれど効果が有ったみたいです。
「お金かからないの」
「それだったら、怒られないかな」
「お姉さんが困ってるなら助けてあげないとね」
「いっぱい食べてあげるね」
やっとその気になってくれたみたいですね、庭の中にどんどん子供達が入ってきます。全部で十人ちょっとですか。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
家の中から椅子と小さなタライを持って来て、戸の横に置いて呪文を唱えます。
「『清水』はい、きちんと手を洗ってから入りましょうね、汚れた手で食べてお腹を壊したりしちゃダメですよ」
「手から水が出てきた」
「すごーい、魔法、今の魔法なのかな」
「お姉さん魔法使いなの」
「かっこいー」
水を汲みに行く手間を省くつもりで練習中の魔法を試しただけでしたが、思った以上に食いついてきましたね、そう言えばこの位の年代の子供は剣や魔法と言った物が好きでしたね。
あの子達もご飯やおやつを食べ終わったらすぐに騎士の方の所に行って剣や魔法を習っていましたね、ネーザル様はもっとお勉強等をしてほしかったみたいですが。
「早く食べないと、せっかく焼きたての御菓子なのに、冷えてしまいますよ」
「はーい」
「お菓子だ御菓子だ」
「早く手を洗ってよ、待ってるんだよ」
「じゅんばん、じゅんばん」
一人づつ順番に手を洗った子供達が次々と客間の中に入っていきます、見ていて微笑ましい光景ですが注意しないとダメでしょうね。
「先に入ってもみんな来るまで待っててくださいね、先に食べてちゃダメですよ、きちんとみんな一緒に食べるんですよ」
全員が席についてから、食べるように促すとみんな一斉にお菓子をかき込んでお茶で飲み込んでいますね、まるで御主人様に買われたばかりの頃のミーシアちゃんみたいですね、多分誰かに取られないか不安なんでしょうね。
「まだいっぱい残ってますからお代わりできますよ、みんなの分が有りますからゆっくりよく噛んで食べましょうね」
空になったお皿に新しい御菓子を載せて、カップにお茶を注ぎなおしながら注意してみます、間違って喉に詰まったりしては大変ですから。
「はふ、はふぉ、あ、温かくてとっても美味しいです、サミューさん、お、御代りをください」
ああ、ミーシアちゃんまで一緒になって慌てて食べてしまって、アラちゃんでももう少しきれいに食べてますよ、後で注意した方が良いかもしれないですね。
わたしたち奴隷の言動のせいで御主人様が軽く見られては大変ですから、でも怒られたミーシアちゃんが落ち込み過ぎないように注意しないとダメですね。
「それでもまあ」
気持ちいいくらい元気に美味しく食べてくれますね、先ほどと矛盾してしまいますが作った身としては嬉しい限りです、まあ後の掃除が大変そうですけど。
でもまあそう言ったお掃除も楽しい気がしますしいいですか、こうやって侍女らしい仕事をしていられるというのは嫌いじゃないですから。
笑顔でお菓子を食べている子供達を見ているだけで良い物ですね。
「何時からこの家は託児所になったのかしら」
扉を開けて入ってきたハルさんを見た子供達の動きが一気に止まります。
まあ仕方ないかもしれないですね、ハルさんは服装はもちろん言動や纏う空気までも貴族様のお嬢様その者ですから、首輪にさえ気づかなければ、下手な事をして無礼討ちに遭わないかと緊張してしまうでしょうね。
「まったく、どういう事かしらわたくしの顔がそんなに怖いとでも言うのかしら、この場にいる全員が固まってしまうほど」
「ご、ごめんなさい、そんな事ないです」
「それでしたら、食べればよろしいでしょう。御菓子は焼きたてが最も美味しいものですわ。ただしもっと丁寧にお行儀よく食べなさい、そんなにポロポロと零して食べていては育ちが悪いと思われてしまいますわよ。ミーシア、貴方もですわよ、もう子供ではないのですから」
ハルさんに言われて子供達がまた食べ始めますが、さっきまで手づかみで食べていた子もフォークを使いだしましたね。ミーシアちゃんまで緊張して食べなくてもいい気がしますけど。
「サミュー、わたくしにも一つ頂けるかしら、お茶もお願いしますわ」
すこし意外ですね、もしかしたらハルさんはこういうのが嫌いかもしれないと思っていたので。
「別に子供が嫌いだったりは致しませんわ、まあ行儀悪く騒ぐのでしたらお断りですけれど、きちんと行儀よく大人の言う事を聞くのであれば気になりませんわよ」
何でしょう、まだ若いハルさんがこういうと少し可笑しく見えますね。
「どうぞ、ハルさん。ところで今日はどこに行っていたのですか」
御菓子を出しながら聞きますが、手ぶらで帰ってきたという事は買い物ではないでしょうし、外で食べてきたのなら小食のハルさんが帰ってすぐ御菓子を食べると言うのも変な気がしますから。
「そうですわ、明日から『迷宮』に行きますわよ、ソウラム草ですわ、今はソウラム草が売り時なのですわ」
「ソウラム草ですか」
あれでしたら御主人様と散々とりましたが、最後には値崩れしてしまったのではなかったでしょうか。
「ええ、先ほど道具屋の掲示板を見てきたのですけれど相場が上がって来ていますの、今でしたらいくらでも稼げますわ。そうすればまだ買っていないあれやこれに手が届きますもの、ええ、しっかりと稼いで盛大に使いますわよ」
フォークを握り締めたハルさんが急に立ち上がって高らかに宣言されますが、それを見ていた子供達が笑い出します。
「小っちゃいおねーちゃんへーん」
「自分でお行儀よくって言ったのに」
「こえおっきーね」
「食べながらおっきな声出しちゃダメなんだよー」
「なんですの、わたくしはまだ食べ始めておりませんもの、それにわたくしは小っちゃくは有りませんわよ、これだから子供は非常識なんですわ、ああ、お待ちなさいそれはわたくしの御代り分ですわよ」
お行儀よくと言って置きながら子供達と御菓子を取り合うハルさんを笑ってみている間に、御茶の時間は過ぎてしまいました。
しかしソウラム草ですか、あんなに簡単に採れる物がなぜ今頃高値になったのでしょうか。
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昨日のPVが十万とかビビりましたありがとうございます。
それと活動報告で詳細を書きますが、しばらくの間更新ペースが下がりそうです。
H27年7月25日 誤字、句読点修正しました。
H27年8月1日 誤字追加修正。




