83 疲労
うーん、前回今回でミムズに対する読者さんの好感度を上げたかったんですが上手くいったかどうか。
「はあ、はあ」
あーだるい、これは結構きついよな飲まず食わずでずっと歩いてるんだもんな。
「く、こ、これしき」
あちゃーミムズも疲れてそうだな、まあ仕方ないか。
「そろそろ日が暮れる、今日はここまでにして野営の準備をしよう」
「あ、ああ、いやこの程度、自分は、まだ、はあ、あるける」
いや無茶苦茶息が上がってるからね槍を杖代わりにして何とか立ってるような状態だろ、まあ無理もないよねいつ戦闘になるか解らないから鎧着たままだし、魔法騎士だから重装には慣れてるんだろうけど、ずっとじゃね。
それに比べて俺は装備は軽いムカデの殻と短剣だし、『軽速』で負担軽減してるし、『闘気術』で体力を保持してるし、『飢え』なんかも実は『超回復』で多少は軽減されてるし、元々の最大MPが高いうえに『MP自動回復』が有るからミムズほど辛くなかったりするんだよね。
うーん、これもチートに入るのかな、ある意味ズルだし『魔法士』なのに『闘気術』とかさ。
「そんな状態だと、たとえ追いついてもまともに戦えないだろう、それに向こうも生き物な以上は休息を取っているだろう」
「だが、一日、遅れればその分、いや、なんでもない、リョー殿の、言われる通りだ」
お、素直になったな、まあこんなキレギレとしか話せないような状態じゃ普通そうだよね。
(お主の歩調に合わせてここまで歩いてきたのじゃ仕方あるまいな、よく倒れなかったと感心するわ)
そこまで、いや確かに俺は結構なペースで歩いたけど、騎士ならそれなりに体力あるはずだろうステータスは解らないけどさ。
(愚か者、ミムズを『鑑定』してみよ)
え、『鑑定』って言ったって、どうせほとんどハテナマークだろ。
まあ、ラクナがやれって言うのなら試しにしてみるか、どうせデメリットのある事じゃないし。あれ、これって。
(やっと気づいたかの)
(ああ、『異常状態』がいくつか付いてるな)
これは隠れないんだな、えっと何々『魔力枯渇』これは予想通りだな、『空腹』『疲労』まあここらへんも仕方ないよね、でも『脱水』これはおかしくないか、だってしっかり水分補給してたよね定期的にぶどう酒を飲んで。
「あ」
そう言えば酒で水分補給って駄目だったっけ、熱中症対策の特番なんかでも『ビールは水分補給になりません』てよく言ってたもんね。
確かアルコールを飲むと、飲んだ水分量よりも尿が出るんだっけ。そう言えばミムズも休憩のたびに何度か物陰に……
やっちまったかも、もっと早く気付けば何とかなったかもしれないのに。村の方は大丈夫かな、多分氷は十分あるし動き回るわけじゃないしそのうち食料と一緒に水も来る予定だからたぶん何とかなるだろ、それに今俺が心配したってどうこうなる問題じゃないしね。
それよりも問題はミムズをどうするのかか、とりあえず酒を飲むのを止めさせないとね、とはいえうまく説明できる自信がないし、無理やり止めても抵抗されたら。
「仕方ないか、ミムズ」
「どうされた、リョー殿」
「寝てろ『入眠』」
俺の魔法を正面から受けたミムズのきれいな青色の瞳が閉じられ、力の抜けた肢体が崩れ落ちるのを全身で受け止める、胸の上に温かいふくらみを感じるのは気にしないようにしないと。
しかしまあ、相当疲れてたのかな、一か八かで掛けた無詠唱が一度で成功するとは、てっきり抵抗されるかもと思ったんだけど。
さてと、ミムズの豊満な体を岩陰に隠してから『軽速』を発動させて周囲を『鑑定』しながら駆け出す。ちょっと面倒だけど、ペース配分は俺がしてたんだからその分は責任を取らないとね、しかしこんな単純なミスするなんて俺も少し焦ってたのかな。
草原の中を歩き回ってやっと見つけた兎を捕まえて手早くさばいていく、臓物は処理に手間がかかるから諦めて皮を剥いだ肉だけを持ち帰る、途中で山菜やキノコでもあればと思って探したけど生えてたのは雑草と毒草が殆どで、若干香草の代わりになりそうなのが有っただけだった。
骨から肉をそぎ落として、使い道のない盾の上に並べ一気に刻む『切り裂き』と『軽速』が有るから早い早い、硬いスジ肉でもすぱすぱ切れるし、運動補助が有るからマンガみたいに手元が見えない速さでブロック肉が見る見るひき肉になっていく。
(やれやれ、せっかくの珍しい『魔道具』が調理用具代わりとはの)
いいじゃねえか無くなるもんじゃないし、ある物は有効に活用しないとね。
焚き木に火を起こして鍋を温めてから、別にしておいた脂身をなべ底に引き一気に炒める。
しっかりと火が通ったところで、魔法を絞り出して作った少量の水を注いで煮込む、まあ俺の作れる水じゃあ量はたかが知れてるけど、これだけ有れば何とかなるだろう。
『念力』で火力を調節しながらじっくりと煮込み丁寧に灰汁を取っていく、灰汁が出なくなってから残っていた酒を全部鍋に注ぎこみ火力を上げる。
あーあ、せっかくの酒がもったいないけど、どうせ俺は飲めないし今の状況じゃ背に腹は代えられないし、ミムズが飲んじゃって、また脱水になると面倒だもんな。
念のためにと俺にも渡されていた葡萄酒も一滴残らず鍋の中に入れてしまう、後はこれでアルコールを熱で飛ばしてしまえばそこそこ栄養も有るし、水分補給も出来る特製スープの出来上がりだ。
少しだけ残っていた調味料と途中で摘んだ香草で味を調える、俺には味見は出来ないけどこのあいだまでサミューに教わってたから味はそんなに悪くないはずだよな、今回も言われた通りの分量にしたし。
(のう、この方法で酒を飛ばして置けば、お主でも飲めたのではないのか)
「え、……あっ」
(お主も忘れておったのじゃな、全部の酒を肉と一緒に煮込みおってこれではミムズしか飲めぬではないか、まったく少しは別にして残しておけばよい物を)
そう言えば、ライフェル神殿の神官長も言ってたよな、熱で酒精が完全に飛んでいれば問題ないって。いやさ、ほらミムズがピンチだったからさ必死のあまりすっかりね。
(まったくお主は毎度毎度、他人の事となると馬鹿じゃのう)
おいちょっと待て、それじゃあまるで俺がミムズみたいじゃないか、こんな熱血正義バカと一緒にするのはやめてくれよ。
まあいいや、とりあえず完成したし。
出来上がった特製スープを器に盛ってミムズに近付く、マンガとかなら口移しで飲ませる所かも知れないけど、『禁欲』のある俺には出来ないからね。
「ミムズ解るか」
「う、ううう、あれ」
まだ寝ぼけてるっぽいけどとりあえず目を覚ましたな。ミムズの体を岩に立てかけてスプーンでスープを掬ってミムズの口に流し込む。
「う、んぐ、んう」
よしよし飲んでるなこの調子でどんどん飲ませて行こう、スプーンですくって流し込んでいくたびにミムズはすぐに飲んでいく、これなら器から直接流し込んでもいいかな。
カップにスープを注いでミムズの口に付けて傾ける。
「うぐ、うぐ、んんん」
おいおい自分でカップを持って飲み干しちゃったよ、そこまで喉が渇いてたのかやっぱり脱水って怖いんだな。
「ふはあ、ははさま、あ、あれ、ここは」
半分寝てて夢でも見てたのか、小さく呟いたミムズが目を開けてあたりを見回し、俺に気付いて気まずそうに顔を赤く染める、うーん今の呟きはミムズの名誉のためにも聴かなかった事にしておこう、でもこれは覚えておこうミムズはマザコンと。
「気が付いたか、疲れてたんだろこれでも飲んで少し休め、明日も歩くんだからな」
「ああ、すまないな貰おう」
スープを注ぎなおしたカップを渡すと、受け取ったミムズは一口飲んで動きを止める、あれひょっとして不味かったかな俺は味見してないし、さっきゴクゴク飲んだのは意識が朦朧としてたから味が解らなかっただけかも。
「口に合わなかったか」
まずいな酒は全部使っちゃったから作り直せないもんな。
「いや、そうではない、素朴で懐かしい味だと思っただけだ」
そう言ってミムズは俺の作ったスープを四杯お代わりしてから、何かに気付いて俺に向き直る。
「リョー殿これは肉が入っているし、ぶどう酒を使ったのだろう、ではリョー殿は」
「気にするな、こんな所で倒れられてもこっちが困るだけだからな」
「そうか恩に着る」
「とりあえず今日は休んどけ『入眠』」
前半の言葉に何か言いかけたミムズを魔法で無理やり眠らせる、やっぱり疲れてるのかな初級呪文なのに面白いくらいにかかるし。
寝込んだミムズを横にしてから、カップ一杯分の水を作ってから沸かし香草でハーブティーを作る。
「香草はまだあるけどこれだけじゃ食べれないよな、後は雑草と毒草しかないし、一か八か煮込んで食べてみるか」
(止めておけ腹を壊すだけじゃぞ、お主には『超再生』が有るとはいえ無駄に苦しむ必要はあるまい)
そうだよな、雑草って言ったって体に悪そうだもんな、まてよ。
(なあ、この毒草を食べまくれば俺にも『毒耐性』が出来たりするのか)
いくら『超再生』が有るからって言っても、毒を食らってから回復までは数秒タイムラグが有るから、もしも『耐性』が有れば毒を受けても平気だしMPの温存にもなるしね。
(無理じゃな、『耐性』を手にする手段は三つあるがそのうち二つはお主には無理じゃ)
えー、いい考えだと思ったんだけどな、まあ取りあえずラクナの説明を聞くか。
(まずは、親や先祖から受け継ぐ方法、ラッテル家の家臣共がいい例じゃろうな)
そう言えばあいつらは全員『毒耐性』を持っていたよな。
(次がサミューの様に『耐性』の元となるダメージを繰り返し大量に受けた場合じゃが、『毒耐性』を手にする確率は百人に毒を飲ませて全員が死ぬ前に一人獲得できていれば運がいいという程度じゃ、まして入手するためには瀕死の状態まで追い込まれて生死の境をさまよう必要がある、お主の場合そうなる前に『超回復』が起こるじゃろう)
なるほど、それじゃあ最後の手ってのはなんだろ。
(ポイズンオーガが『毒耐性』を持っておったじゃろう、あのように属性を持つスキルや魔法の熟練度が高いとごく稀にそれに対して『耐性』を持つ事が有るのじゃ)
そう言えばアラも『風耐性』が有ったっけ。
(お主が『魔法士』として熟練度を上げてゆけば運が良ければ何か『耐性』が手に入るかもしれぬの)
それってほぼ無理って事じゃん、ふて腐れながらハーブティーを飲んだけどあんまりおいしくなかった。
「いたぞリョー殿、あそこだ」
ミムズが指差す先にオーガらしい集団が見えたのは、集落を出発して三日目の夕方の事だった。
思ったよりも早かったな、追いつくまでもう少しかかるかと思ったんだけど、結構広い河の近くに陣取ってるって事はひょっとして奴ら俺達を撒いたと思ってあそこで長期キャンプでもするつもりだったのかな。
まあ理由はどうであれこっちとしてはラッキーか、追いつくのが早ければそれだけ犠牲も減るだろうからな。
「それでどうするのだリョー殿、今回は全てリョー殿の指示に従おう」
お、ずいぶんしおらしい事を言ってくれるね。
「そうだな、俺達二人だけであの数を正面から何とかするのは厳しいからな、生存者の救出を最優先したいところだな。事前に情報が欲しいがあそこじゃ見晴らしが良いから近づくのは難しいか、アラが居ればな」
「りゃーあー」
あれ、俺も疲れてるのかな、こんな時に幻聴だなんてもう、もしかするとアラの事が気になってるせいかな。
「リャー」
まただよ、今日はしっかり休んだ方が良いかな。ミムズを出来るだけ休ませるのに『闘気術』で無理しちゃったせいかもしれないし。
「リョー殿、あれを見られよ」
ミムズが指差す先にはこちらに向かってくる四騎の騎馬がいて、その一頭に二人乗りしてるのは間違いなくアラだ。なんで、なんでここにアラが居るの。
「リャー、怪我してない、痛いとこない、勝手に怪我してちゃめーなんだからね」
「大丈夫だ何ともないが、どうしたんだアラ」
「一緒、に行くと、聞かな、かった」
俺の質問に答えたのはアラと一緒に乗っていたプテックだった。
「おお、プテックやり遂げたか」
「頑張った」
勝手に理解しているミムズにプテックが頭を下げる。
「ミムズ様、サーレンもがんばったんですよ、ミムズ様に追いつくために飲まず食わずで馬を何頭も代えて走らせてやっと来たんですから、誉めて下さいサーレンを誉めて下さい」
そう言ってミムズに抱き着いた鎧の後ろからはフサフサの尻尾が生えてて、千切れんばかりに振られてる。あ、この人パルスの所にいた犬耳メイドさんだ。
「サーレン、お座り」
「ハウ」
鋭い声がかかると同時に犬耳メイドさんがその場にしゃがみ込む、あれ、今はメイド服じゃなくて鎧姿だけどメイドさんでいいのかな、とりあえずここは名前で呼んどくか。
「失礼しましたミムズ様、まったく褒められるのならプテックでしょうに、いくら『獣態』とはいえあれだけの距離を半日で駆け抜けて殿下達に知らせて、そのまま私達と取って返すなんて普通なら倒れてるわよ」
冷たい目でサーレンさんを見下ろしてるのは、緑の尻尾を振り振り歩いてきたワニ革メイドさん、えっとディフィーさんだっけ。
「報告します、アクラス殿下の命を受け、我々四名これよりミムズ様の指揮下に入ります。集落の方は既に騎士三名が詰めており、後ほど荷駄を揃えた本隊が救援に向かう予定です」
うーんハキハキした感じだな、感じ的にはメイドよりも秘書って感じかも、もしくはちょっと怖いメイド長とか、でもなミムズも最初のイメージは委員長だったし、見た目と中身は別物かもなー
「うむ、お主らがいれば百人力だこれならば何とかなろう」
まあ確かにプテックはかなり強いし、それと一緒に来たって事はこの二人の獣人メイドさんも強いのかな、もう一人はいかにも冒険者って感じだし。
「まあ取りあえずは休憩だな、俺達も疲れてるし騎馬を急がせてきたんならそっちの疲労も相当な物だろう」
今までならここでミムズが今すぐ特攻を叫びそうなところだけど。
「うむそうだな、ディフィー達が食料を持って来ているだろうからリョー殿も何か口にされよ」
お、それは有り難い、やっぱりおいしい食べ物が無いと力が出ないよね。
「分かりました、リョー殿はなまぐさなどがダメと伺ってますので別に用意させていただきます」
おお、こっちの事情もしっかり考えてくれてるとは有り難い。
「すぐに準備を始めますのでミムズ様は御召しかえを、サーレンお手伝いをいたしなさい」
「ほーい」
ディフィーさんに言われた、サーレンさんが『アイテムボックス』から騎士服と鎧を取り出す、そう言えばミムズの装備ってオーガの爪に刺されるし、所々焼け焦げてぼろぼろだもんな。
「いや、これから戦闘になる事だし、防具としてはまだ十分役に立つ」
「いけません、ミムズ様はラースト家の御当主なのですからそれにふさわしい格好をなさいませんと」
おお、ディフィーさんがミムズに詰め寄ってる、てかあのミムズが押されてるだと。
「そうは言っても今は野営中でしかもいるのは身内のみだ、しばらくすれば戦闘になると言うのに服装にこだわっても仕方あるまい」
「いいえ、リョー殿がいらっしゃいます、仮に誰もいなくとも何時何方にお会いしても恥ずかしくない身形を心がけるのが貴人たる御方のあるべき姿です、万が一この服装が原因でミムズ様が、ひいてはラースト家が軽く見られるような事が有っては先生や国元の母に顔向けできません」
「お主は王家付きの侍女であろうが、ラースト家の心配などせずともよい」
ミ、ミムズが完全に押されてる、見た感じはミムズより少し下くらいの年なのに。
「そうは参りません、母も常々申しておりました、王家への忠誠はもちろんありますが、先生がいらっしゃらなければ母達は生きてはおらず、私達四人は生まれてもいなかったと。私自身も様々な事を先生に教わり一人前の侍女にして頂きましたし、ラースト家より頂いた御恩は一生かけてお返しする所存です」
うーん、聞いてる分だと『先生』ってのはミムズの家族なのかな。しかしすごい心酔ぶりだなそんなにすごい人だったのかなその『先生』って。
「わ、分かった、分かったから落ち着いてくれディフィー」
あ、ミムズが折れた。
えー新ヒロインの人気がいまいちなので、ちょっとテコ入れのためにメイドさんに出張ってもらいました。
ほんとはリョー君が倒れる予定でしたが、それをやるとまたミムズの評価が……
H27年7月22日 誤字、句読点、段落、かぎカッコ、一部モノローグ修正しました。




