681 御茶会練習 3 (新魔法)
「本日はお招きいただきありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせました」
俺の前で、巡検使のオートミが丁寧に礼をし、その後ろでは副使のデカメロンもといカイライさんが同じように礼をしている。
「こちらこそ、お二人をお迎え出来て光栄でした。それではまた……」
俺は席を立って返礼しサミューに身振りでドアを開けるようにしめす。
「まあ、及第点ですわね。これでしたら相手から高い評価は得られなくても、最低限見下されない程度にはなりましたわ」
「ようございましたね、『勇者』様。これから先も私ども神殿の要望に応じて頂き交渉などに赴いていただく事もあるでしょうし。何より『勇者』様であれば、かのライワ伯のように、いずれは相応のお立場になられることでしょうから」
想定練習が終わった直後にハルが評価を伝えてきて、それに合わせたようにオートミが言ってくるけど、俺はカミヤさんみたいに貴族になる予定はないんだけどな。
とはいえ、礼儀作法ができるってのはコミュニケーションの基本ではあるからな。営業でだって、言葉使いや初歩的なマナーがなってなくて、商談に入る事すらできなかったなんて話もあったし。
まあ、そんな理由もあって、ライフェル本神殿に向かってる最中も、高級宿や地方神殿の客室に泊まった時なんかはオートミ達に相手役をしてもらって練習してるんだが。考えてみると元王女様と伯爵令嬢の高位聖職者って身分制度でいえばかなりとんでもないんじゃないだろうか。
しかし、いくらなんだってこの世界の礼儀作法は複雑すぎだろう。今回は草食獣人系の貴族を想定した飲食なんだけどさ。相手の種族や出身地次第で、出された食事を完食するのが礼儀な場合と無礼な場合があるってさ、バグってるだろ。いやまあ、日本でも地方で多少変わってたり、海外営業だとそういうこともあったりするけどさ。
(こればかりは、それぞれの文化、風習、価値観の問題になるからのう。料理一つの対応にしても色々じゃ、面倒な国等では前菜や汁物から最後の甘味に関するまで、盛り付けから味付け、素材などに関しても相手に合わせて何らかの意図を組み込み、それを余すことなく味わい、込められた向こうからの伝言を読み取るまでが礼儀であったりもするし、そうではなく純粋に相手が食事を用意するのに払った労力に対する敬意として完食するのが礼儀となる場合もある。逆に、残すことが礼儀の相手でも違いがあり、宴席の残りを家臣や使用人、領民に払い下げることが君主の人徳を示すとされるような地域では、あえて残すことで相手側の下々にも配慮していると示すことになる。一方で来客に対してどう考えても食べ切れぬほどの料理を並べて見せることで自分たちの力を示すという文化圏では料理を完食するというのは、お前の料理では満足できず物足りないという意思表示につながるのじゃ、この場合は豪快に飲み食いしたあとで、これ以上は食いきれぬと示すのが礼儀となる、まあそもそも食いきれる量ではないのじゃから、一番わかりやすく楽かもしれぬの)
残す残さないの二択だと思ったら、更にそれぞれ二パターンあるとかさあ……
えっと、1、料理自体にメッセージがあるからきちんと食べて読み解け、うんなんかいかにも貴族ぽいイメージだ。2、単純に歓迎してくれてるからしっかり食べよう、これが一番わかりやすいな。3、残ったものはフードシェアするから、下々にあげる分まで完食するのは優しくない、まあムルズの屋台でも孤児相手に似たようなことがあったから、なんとなく理解はできるか。4、わざと大量に料理を出して、こんなに金があるんだぞと自慢しているのを完食すると、お前の歓迎はこの程度なのかとケンカを売ることになると。
出された飯を食うだけで、こんなをのいちいち考えなきゃダメなのかよ。
(これ等は、招かれた際に持っていく土産や礼品なども変わってくるのじゃ。1ならば相手の意向に沿った返答を暗示するもの、2ならば単純に相手を喜ばすもの、3は家臣の者達に配れるような、簡単でも量があり小分けのできるもの、そういったものが喜ばれるの。それと4は食べ物や換金性の高い物を持っていくと、そちらの食事が不満なので自分のほうで用意した、あるいは、料理で無理をして懐が不安ならば金を恵んでやるという風に取られ侮辱となるので注意が必要じゃ)
ほんとにめんどくさいな……
(まあ、何かあればハルへ事前に聞いておけば、必要な助言はもらえるじゃろうが、奴隷を連れていけぬ場もある以上、ある程度はお主も覚えておかねばの)
うーん、まあ俺じゃ付け焼刃は隠せないだろうから、ハルに頼るしかないのか。
あれ、でも……
「そういえば、なんでハルはここまでしてくれるんだ。いくらなんでも、毎日こんなに時間をかけて、付きっ切りでとか、大変だろう」
ハルとしてはもっと魔法の勉強をしたいはずだよな。『地虫窟』で手に入れたシルマ家遺品の研究資料とか魔法書なんかでシルマ家に引き渡さなかったというか、向こうが買い取り切れなかった分が結構あったしさ。あれはハルが解読途中だったはずだけど、その時間を削って俺の相手をしてるなんて魔法好きなハルらしくないような。
「そ、そんな事、当然ですわ、リョ、リョーが、他の者達から軽く見られるだなんて、そんなこと耐えられるはずが、ではありませんわ。そ、そうですわ、あ、貴方が周りから軽く見られると、その奴隷である私やミーシア達も軽く見られ不都合が生じるかもしれませんもの。そうですわよ、これはリョー、あ、貴方のためなどではなく私の、わたくしのためにしたことですわ、ええ全て打算に基づくものでしてよ、ですからそれだけではなく貴方に要望もありましてよ、ええと、ええっと……」
ハルが、羽をバタつかせながら話してくるけど、羽音のせいで聞き取れないところがあるな、でも打算でか、そうだよな、で、俺に要望か、なんだろうな、何か欲しい物とかあるのかな。
ハルのことだから宝石や貴金属か、それとも魔法書とか魔法アイテムかな。まあ、最近はかなり稼げてるというか稼ぎすぎで現金がとんでもないことになってるから多少は贅沢してもいいか。
「打算ですか、確かに利害関係というものは人間関係を構築し維持するうえでは重要ですね。一方が与えすぎる、あるいは貰いすぎるというのは関係を崩すことになりますから。そこでなのですが、実は『勇者』様に一つ魔法のご教示を私どもライフェル神殿にいただきたく、もちろん十分なお礼は致しますので、どうか」
「そ、そうですわ、私も新魔法が欲しかったのですわ、ええ、私がより強くなるために新しい魔法が必要だったので、仕方なく、仕方なくあなたに付きっきりで、教えましたのよ。べ、別に貴方のこれからのことを心配したですとか、一緒に過ごしたかったですとか、将来のことを考えてとかではありませんわよ」
オートミが俺に要望を伝えてくるのに合わせて、ハルも新魔法が欲しいって言ってきたけど、確かに『重石』系統の魔法は結構使いこなせて来てるから新しい魔法にチャレンジするのもいいのかも。
「分かりました、どんな魔法が必要ですか、ハルもどうする、今回も属性を考えて選ぶのか」
「そ、そうですわね、ど、どうしましょうか」
「私どもライフェル神殿としましては、デイジーカッターとして使える魔法を教えていただきたいのですが」
「デイジーカッターですか、それはいったい……」
デイジーって確か雛菊だったか、ちょっと低めの草花だっけ、それのカッターてことは植物を使った斬撃みたいな魔法なのか。
「これは過去に勇者クニオが残した文献に書かれていた言葉なのですが」
ああ、クニオ《ミリオタ》か、またとんでもないことが飛び出してきそうな気がするな。
「強烈で広範囲の爆発による爆風で周辺構造物をなぎ倒し、空地を確保する魔法のことだそうです。この魔法があれば、障害物の入り乱れるような場所でも、部隊が展開して陣形を組めるような空白地帯を確保できるようになるかもしれませんので」
なんだろうな、聞いてる分だと、工事用の発破みたいな、いや違うか、でも攻撃用じゃなくて整地みたいな使い方なんだ。まあ、攻撃にだって使えるだろうけどさ、構造物ってことはちょっとした建物や立ち木なんかだろうから、それを爆風で破壊したり倒したりできる威力なら結構な殺傷能力のある爆発だよな。
「また、強力な爆発は、対陣する敵集団や拠点に籠っている者達へ、目に見える形でこちらの破壊力を示す、優越性を感じる自慰行為、もとい、敵対者の戦意を砕く示威行為となりえますので」
「そ、それですわ、私もその魔法にいたしますわ、ええ、ちょうど広範囲を破壊できるような爆裂魔法が欲しかったのですわ」
うーん、黒髪で小柄な美少女魔法使いが爆裂魔法か、まるでどこかのファンタジー小説に出てきそうな話だな、黒髪じゃなくて赤毛でも似合いそうだけど。じゃなかった、余計なこと考えてないで探さないと、それっぽい魔法があるかな。
脳内に書き込まれている膨大な魔法知識に意識を向けてみるけど、出てきちゃったよそれっぽい魔法が、しかも名前も『林壊爆風』なんて、それっぽい感じだし。
でもこれは、使いづらそうな、いやハルなら何とかいけるか、いや結構きついかも。
「一応あるにはありましたが、いくつか問題がありそうですね」
「それでも、とりあえずお聞かせいただけますか、使用できるかどうかは私ども神殿のほうで検討いたしますし、そのうえで使用不能と判断されても、勇者様への謝礼に影響したりはしませんのでご安心を」
「ごく限られた者だけが、その問題のある魔法を使いこなせ、そしてその中に私が居るとなれば、それを知った人たちはどう思われるかしら。ええ、私の魔法職としての声明が高まること間違いありませんわ」
うーん、オートミもハルも引く様子はないか、まあこれがダメなら別な魔法を提供すればいいか。
「要望の魔法は『林壊爆風』、爆薬になる物質を創り出して斜め上に投射、放物線を取って落ちてくる物質を地上の一メートル上くらいで爆発させ爆風を周囲に広げるという内容で、爆薬の作り方としてはハルが前に見つけた『臭液生成』に近く、空気中から生成するものが主で、それに魔法で作った金属粉を混ぜるようですね。威力はこの爆薬の生成量、要は生成につぎ込んだ魔力量に比例するそうです」
オートミに説明するために、敬語で説明しているけど、自分でもよくわかってないんだよな。
というか、空気から爆薬ができるってどうなってるんだ、二酸化炭素から炭を取り出すって訳でもないんだし、よく分からないな。普通に考えれば単純に熱とかを直接作ったほうが効率よさそうな気もするんだけど、どうなってるんだろ魔法のことはよくわからん。
「魔力を込めれば、込めただけ破壊範囲が上がるという事ですわね。これは魔力量の多い高位魔法職向けになりますわね」
ハルが、ちょっとわくわくしたような顔をしてるけど、この魔法の問題点がな。
「それで問題点なんですが、まずは投射する射程が普通に撃つとだいたい2、300メートルくらしか飛びません、頑張れば倍くらいには伸びるようですが、魔力消費が大きく増えます」
「それは、魔法として考えますと、まずまずの距離ではないかしら。曲射ですと正確に狙うのは難しいでしょうけれど、広範囲爆破でしたら多少の誤差は関係ないでしょうし、問題になるのかしら」
ハルが顎に手を当てて考えながら言ってくるけど、そうだよな普通に魔法やスキルとして考えれば結構長いほうなんだけどさ、これ以上だとそれこそ狙撃特化の魔法やスキル、じゃなきゃ『四弦万矢』みたいな特殊な装備とスキルの組み合わせた奴みたいになるはずだからな。
でもこの射程距離だとさ……
「ハル、この魔法を使った場合だと破壊範囲は数百メートルになる。普通に撃った場合だと射程距離よりも破壊範囲のほうが長くなり、対策を取らないと撃った本人が自分の魔法で吹き飛ばされることになりかねないんだ」
普通に考えて欠陥魔法だよな、現代兵器ならこういう広範囲を破壊するような攻撃は大砲やミサイルで数キロ、下手をすれば何千キロも離れたところから飛ばすか、さもなきゃ安全な空から落とすかだろうからな。現代兵器の威力だけを魔法で再現しようってのがそもそも、限界なんじゃないかな。
「それは、確かに問題ですわね、ですけれどいつ爆発するのかわかっているのでしたら、それに合わせて短時間の防御魔法を使えばいいだけではありませんの。神殿でしたら複数の魔法職を用意できるでしょうし、私にはスキルの他にも『詠唱骸』がありますから、あれを使えば複数の魔法を同時に使えますわ」
そうなんだよな、ハルならたぶん技術的にはできるとは思うけど、問題は……
「もう一つは消費魔力です、標準的な威力で使えば、それだけで魔力量多めな魔法職数人分くらいは消費します。『成長補正』でステータスを上げて来たハルでも、防御魔法込みで一回撃つのが限界でしょうね」
「なんだ、そんな事でしたの、でしたら問題はありませんわね」
え、そんな簡単に言っちゃうの、だって魔法職にとってはMP切れってかなり深刻な話なんじゃないのか。
「リョー考えてもみなさい、ライフェル神殿の戦力でしたら、私程度の魔力量を持った魔法職を一定数確保するのなんて、難しくないはずですわ。元勇者の従者ですとかその子孫などいくらでも居るでしょうし」
そっか、軍隊の規模で一人一発づつローテーションすれば、人数分だけ使えるし、他の人員が守ってくれるから、そこまで問題にはならないのか。というか普通に考えて数百メートルを吹き飛ばせるってなれば、数発敵陣に撃てばそれだけで決戦で勝てそうな気もするし。
「それに私でしたら、一撃を放って、魔力が足りなくなりましたらリョーから補充すればいいだけですもの」
俺から補充って、魔力を吸い上げるってことだよね。それってさ……
「ああ、あの鋭く尖った踵で踏みつけたり、茨のごく棘の生えた鞭で打ち据え縛り上げたり、出血効果もある細剣で切り刻んだりするのですね。無念です、私に十分な魔力量があれば『勇者』様でなく私がこの身を捧げていたのですが、いいえ、現状で私も『成長補正』の恩寵を幾何か頂いているはず、これを機にレベルを上げ魔力を高めれば……」
オートミが自己犠牲満載の言葉を口にしているけど、いくら自国でのあれこれで罪悪感を抱えていても、そんなに自分を追い詰めなくてもいいだろうに。
「正使様、御自重くださいませ、先ほどから何度か問題発言が出ておりますので」
いやそうじゃなかった、俺が確認すべきはさ。
「ハル、俺以外にも魔力の供給方法を考えた方がいいんじゃないのか」
いくらなんでもアレは、いろいろと問題があるからさ。
「リョー、貴方は外道ですの、現状で魔力の確保手段として考えやすいのは、他者からの魔力吸収ですけれど、貴方以外で十分な魔力量を持っているのは、魔法剣士のアラと回復職のミーシアくらいでしてよ、特にミーシアは『貯食』と『食肉回復』がありますから、魔力量を回復させながら供給することで膨大な量を確保する事ができるでしょうけれど。貴方はあの子たちにあんな真似をしろなどと非道な事とを言うつもりですの」
お前、俺にやるのはいいのかよ、あんな真似って言うような状況だって解っててやってるのか、いやまあ確かに踏まれたり縛られたりを、アラヤミーシアにやるのは犯罪臭しかしないから俺も反対だけどさ。
「それに私だってあんな恥ずかしい格好、誰かを踏んで下半身を間近で下から見上げられるなんて、貴方以外にさせるなんて…… ではなくて、確かに『ライワの秘薬』でしたら、魔力量を回復させられますけれど、あの薬はいざという時に命をつなぐための、最期の生命線になりかねない物ですし、何より一つで私の最大量までしか魔力を確保できませんわ、その点貴方からの吸収でしたら魔法系勇者の膨大な魔力量を、それこそ私とは比べ物にならない量の魔力を使えますもの」
う、魔力量の問題か、確かにそれを言われてしまうと、俺からの供給が一番効率的なんだろうけど、それでもな……
いや、これはあきらめるしかないのかな。まあ、次に行く『小鬼の穴』なら強力な魔法を使うことはないだろうから、しばらくは問題ないか。
現状、リョー君の次の職やこの先の展開を考えていたりしたのですが、どうやらヒドイン、じゃなくゲストヒロインが3人くらい増えそうな感じがしています。
彼女たちが、ヤッカやコンナ、ミカミのような一時的に同行して消えていくのか、トーウのようにがっちり食い込んでくるのか、オートミや、どこぞの兄貴やペテン師みたいに適度な距離を取った準レギュラーになるかはまだ未定だったりします。




