680 御茶会練習 2
今回も(多分次回も)、説明会になります。
しかし、『エルフの伝令』ね、名前だけだといかにもファンタジーって感じの名前だな。
「まあ、大昔からある有名な噂話でさあね」
「そんなに有名な話なのか」
リューン王国の連中とか、たまにエルフと絡むこともあるし有名なら知っておいたほうがいいのかな。
「そうですわね、エルフ族の国や地域と関係の良くない国などでは有名ですわね」
敵対国のほうが有名って、どういうことだ。
「元々、エルフの部族や国は相互防衛の協定がありやして他の国から攻め込まれたり、地元で対応できねえ危険な『迷宮』の攻略なんかの時には、お互いに助け合うって事になってんでさ。これ自体はエルフの奴隷が人気で国や地域ごと狩られてた時代の名残ですがね。何せエルフは見た目が良いですし、長寿なんで減価償却がいいって昔から人気らしいですぜ」
減価償却って、奴隷を人扱いしないこの世界らしい物言いだけどさ。
「場合によっちゃ赤子が生まれた時にエルフの少年少女を買やあ、乳幼児のオシメ替えに始まり、精通から不能になるまでの夜のお相手、老衰直前のオムツ替えまで、一生シモの面倒を見せられるとか言われてたそうで。ついでに当時の貴族様方には、エルフとの間に子を残せば、子孫は長寿で見た目もよく魔力も高めになるんで御家が安泰ってんで、一時期はとんでもねえ高値で取引されたらしいですぜ。それもあって、歴史の長い国の伝統ある名門の御家なんかにゃエルフの血がちぃいっと混じってることが多いらしいですが」
なんか、体が目的のエルフ奴隷狩りってエロファンタジーのお約束みたいな話だな。
「そういった時代もありやすんで、エルフ族ってのは、同族の危機には敏感でして、どこかの部族が侵略されたとか危機にあるって知ったら、個人単位から国単位まで、それぞれができる限りの支援をするもんなんでさ。それこそ、知っていて何もしねえってなりゃ、他から薄情者とみなされちまって、エルフ社会に居場所がなくなるくらいだそうで。なもんで、義勇兵やら資金・物資の援助はもちろん、敵対国への外交、経済面での圧力やらなんやらが一斉に始まって、エルフ国に攻め込むとめんどくせえらしいですぜ。まあ発動しねえ書面だけの軍事同盟なんて、舐められる元ですからねえ。事あるごとに有効だって見せねえと抑止力にならねえんでしょうや」
うーん、やっぱり国際社会は任侠映画みたいだな、力があるって見せつけないとヤラれちゃうって。
「ただこの協定にも除外されることがありまして、エルフ同士の戦いや、エルフ側から他種族へ仕掛けたり挑発したことによる反撃や報復による戦い、明らかに攻められたエルフ側に重大な非がある場合などは、支援をしないそうです。過去には隣国を襲って反撃で攻め込ませてからエルフの援軍を呼び込みむということをした国があったせいだと聞きますが」
サミューが追加で説明をしてくれるけど、これがその伝令とどう関係するんだ。
「とはいえ、どれだけ強固な同盟でありやしても、味方の危機を知らねえと助けに行きようがありやせん。なもんでエルフの国や部族の領地に攻め込んで戦うってなった場合、他のエルフ族に開戦の情報が行かねえように国境線を包囲封鎖して関所を作るってのが一時期は定石になったんでさ。エルフかどうかなんてのは見ればすぐバレやすから、救援を求める使者なんて簡単に見つけられるってな具合でね」
まあ、エルフは細身で見た目が良いから、耳だけ隠してても、ぱっと見である程度は絞り込めそうだよな。『鑑定』を使えば種族もバレるし。
「いざって時の伝令は絶対に必要になりやすが、エルフ族にはそれが難しいってなりやして、戦時に救援要請をさせる伝令要員として他種族をエルフの国で囲い込むようになったそうでしてね。こいつらは孤児や解放した子供の奴隷なんかを、何十年もかけて教育して、エルフ族に対する帰属意識と忠誠心を刷り込まれた連中で、成長しやしたら行商人や冒険者なんかとして周辺の人族の国で活動しやして、その国でエルフ族への敵対行動があればすぐに他のエルフ族へ伝えに走るらしいでさあ、中には何世代にも渡ってそのお役目を引き継いでる間に、功績をあげやしたり大きな商いを成功させたりして、大店の店主や貴族様になっても代々隠れて、いざって時に備えてお役目を続けてたりするらしいですぜ」
なんか、スパイ映画のスリーパーとか草みたいな話だな。
「で、この『エルフの伝令』ですが、いざって時に伝えに行っても信じてもらえねえとしょうがありやせん、なにせ伝えに行く相手には他種族を信用しねえ排他的な森のエルフもいやすし、場合によっては敵対国の仕込んだ偽物が噓の情報を流すことだってあり得やす。しかも、自分がそうだとエルフ以外の連中に知られりゃ殺されるかもしれやせん。なもんで『エルフの伝令』はエルフ族ならばすぐに判るが、他種族は気づかない合図を使ってるって言われてるんでさ。有名な逸話だと、数百人が集まった宴席の場で、接待されてたエルフ族の旅人に誰にも気付かれることなく、遠方での開戦を知らせたなんて話もありやすが、まあここら辺は誇張された伝説ですかねえ」
うーん、まあ確かにそこまでの話になると眉唾物だな、とはいえ魔法やスキルのあるこの世界だと何でもアリな気がするし。
「まあ、そこまでの能力があるって話が本当かどうかは微妙ですがね。少なくとも他種族でありながら、閉鎖的な森のエルフの領地に立ち入って、話を伝えられるってだけでもかなりな事ですが」
あ、そういえば……
「なあ、森のエルフって何のことなんだ、今までの話で森と草原の二通りあるのは判るが違いが判らないんだが」
さっきからというか、ハルの礼儀作法の説明でもそこは分けてたよね。
「ああ、まあ、エルフのお国と商売なり、やり取りなりする所じゃねえと、あんまり気になりやせんからねえ。他種族の国や土地にいるのはほぼ間違いなく草原のエルフでやすから、一般的にエルフって言いやすと草原のほうになりやすからねえ」
ん、てことは俺が知ってるリューンの連中はみんな草原って事なのだろうか。
「まあ、普通に過ごす分でしたら、草原のエルフさえ知っていれば事足りますものね。森のエルフが他国に係わるとなれば、それこそ先ほど話した『エルフの伝令』やそれに伴う軍事支援に絡んだ場合、でなければ他のエルフ領へ移動する途中で仕方なく他種族の土地を通るくらいと聞きますもの。それこそ、いま言った内容以外で森のエルフが他種族と係わったとなれば、それだけで大きな話題となるほどでしてよ。シルマ家にいた頃に聞いたのは、『勇者の従者』候補を選定するときに数回あったという事だったかしら。噂では、エルフの候補者は『勇者』に選ばれやすいそうですけれど、草原のエルフに比べ森のエルフは、パーティーから外されることも多かったとか」
うーん、これまでの話し方を考えると、森のほうは閉鎖的な感じなのか、もしかしてアレかファンタジー小説とかで出てくる、いけ好かないタイプの鼻に付く感じのエルフなのか。それにしてもやっぱり歴代の『勇者』はエルフに惹かれるのか。
「元々は、エルフは全部、森に住んでいたそうですがね。大昔にどこかの森で生まれた種族が、大陸各地に広がっていっていく過程で、各地の森を選んで住み着いたって聞きやすね。ですが、さっきも言いやしたがエルフの奴隷が人気になったせいで、いくつかの森が焼き討ちされて、部族丸ごと攫われるってな事もあったんで、その対策として配置されたのが草原のエルフの国になりやす」
国が配置されたって、なんか変な言い方だな。
「当時はまだ、国ってのも規模が小さくて都市国家やその集合体みたいなのが大半でしてね。要は都市とその周りの農村と農地だけが領地で、複数の都市を抱える国って言いやしても、領地は飛び飛びでその間は誰の物でもねえ空き地の中を道だけが続いてるって感じでした。だからそういった誰の物でもねえ森近くの土地にエルフの国を作ったのが、草原のエルフの始まりでさ」
都市国家ね、昔のギリシャとかできた頃のローマみたいな感じかな。
「当時の国がエルフの森を襲うってなりゃ、いくつかの都市が合同で遠征軍を送って、森を包囲して多方向から火を放って、魔法やスキルで木を吹き飛ばしながら、包囲を狭めて逃げようとしたエルフを捕らえるってやるのが定石だったらしいでさ。何せ森の中じゃ、身軽で弓の特異なエルフは木の上やら物陰から射かけて逃げるってのを繰り返して被害が広がるそうですから。ついでに焼き払った後のエルフの森は、土がよくていい耕作地になるそうで、開拓する土地を用意するのにいいんだそうで」
エルフの森を燃やすって、ファンタジーでよく聞く話とはいえさ、ゲリラ戦が怖いから森ごと焼くって、ジャングルに枯葉剤とナパームを撒いたどこぞの軍隊みたいな考え方だな。
「そんな訳でやして、エルフ側は森を囲まれねえように、外側に町や砦を作ったんだそうで、それが段々規模がでかくなって国になっていったって感じですかねえ」
ああ、出城とか防衛・迎撃拠点とかそんな感じのやつか。でも地形の悪い森でのゲリラ戦が得意な連中を大群が展開できる平野に出したら物量で潰されるだけじゃないのかな。
「まあ、実際の目的は、外の町や砦が襲われて時間を稼いでる間に森の中で戦闘準備を整えたり、他からの援軍を呼び込んだり。それらの街を略奪するだけで、相手国が満足して引き上げるのを期待してってところらしいですがね。なもんで、森の外に出されたのは、三男や三女以降なんかの家で持て余されてた連中や、森の中で立場の弱い家系、代表者も族長の家督争いで負けた御仁やその子孫なんかがなったらしいでさ」
ああ、緩衝国とか植民地みたいな感じなのか、というか同族なのに扱いがひどいな。
「当初は、森の部族が宗主国で草原に送られた奴らが衛星国って感じでしたがね。森はこれで一安心とそれまで通りのエルフだけで緩やかな発展をしてく中で、無防備な草原でいつ敵国が攻めてくるかわからねえ草原のほうは、必死に国力を高めようとしやして、他都市の支配下にない周辺の他種族の村や集落を庇護下において吸収し、兵力や労働力を確保しやしたり。都市の防壁や砦の強化する資材や費用を確保するために周辺地域との交易を進めたり、更には戦争に備えた情報収集や攻め込まれないための関係強化のための他種族との交流なんかも勧めたそうでさあ」
「当然ですわよね、大軍が展開できる平野では、会戦や決戦での戦いになりますけれど、そういった戦いは数が物を言いますもの。大量の兵士と大量の武器を用意するには国力が必要ですものね」
今までは少数精鋭の特殊部隊で何とかなってたのが、歩兵連隊や師団が必要になったって感じなのかな。
「そういった流れの中で、草原のエルフの国は王や主要貴族はエルフで固めても、国民や中下級貴族、騎士なんかには人族や獣人なども多数抱える多種族国家となり、社会制度や建築・農耕の技術なんかも各国から取り入れて大国になった国も複数あるんでさ、人口を増やすなら獣人や人族のほうが早いですからねえ、しかも草原のエルフはエルフの森で取れる希少素材を他種族に、森では手に入らない金属製品や各地の産物を森のエルフに売る中継をそれぞれの地域で独占してかなり儲けてるらしいですし」
多種族国家、言われてみればリューン王国の王女様達の側近はミムズやディフィーさんたちで、人族や獣人族だったな。
「そういった歴史の中で、草原のエルフの国は数百年で森のエルフの国よりもでかくなった国が結構ありやして、権威と歴史だけはある気位だけは高い森のエルフと、実力があって地域の大国になった草原のエルフって感じに隣り合って分かれてるんでさ。まあ中には離反を警戒した森のエルフに攻め落とされた草原のエルフや、逆に草原に吸収されて保護領になった森のエルフの国もありやすし、森か草原の片方が亡びて、もう片方だけが残ってる地域なんかも多いですがね。確かリューンも森を囲むように三つ草原のエルフ国が作られて、そのうちの一つと森が滅んで、残った草原の二国の片方って感じでしたかね」
植民地が本国よりもデカくなるって、ああ、アメリカとイギリスみたいな感じなのかな。
「まあ、目に見えて国力差が出ていても、森のエルフは、草原のエルフを見下しているそうですわね。彼らからすれば、草原のエルフは盾や囮として国外に追い出した者たちの末裔であり、多くはその歴史の中で他種族の血が入っているので、種族としての自尊心が高い森のエルフは混血を好まないらしいですから」
「草原の国は様々な種族が入り乱れてやすからねえ、同族同士で婚姻しやすい傾向があるって言いやしても、気の合うもんが必ず同族とは限りやせんから。種族はエルフでも、系譜を辿れば何代か前のご先祖に他種族がいたなんてのは珍しくありやせんし。王族や貴族になりやすと、周辺国との政略結婚もザラらしいですからね」
リューンの王女様達もハーフエルフだもんな。
思わず、視線が動きかけるのを、手元のカップを見下ろして止める。
「ご主人様、以前聞いた話では、森に住む純血のエルフの一部の方々は自らをハイ・エルフと呼んでいるそうです。ひどい方では、草原のエルフをレッサー・エルフと呼ぶこともあるらしいです」
サミューが付け足してくれるけど、うん、その呼び方自体がアレな気がするな。
「雑談で、話がずれてしまいましたわね。さあ、リョー練習を再開しますわよ、サミュー、お茶を入れなおしてもらえるかしら。想定は、人族の貴族に騎士階級のリョーが招待された場合にしますわ」
「分かりました、それでしたら、こちらの茶葉が良いですね」
「そんじゃ、旦那、あっしはこれで失礼しやす。今の話じゃありやせんが、どうも森のエルフのお国が一つおもしれえ事になってそうでしてね。あっしは伝手がねえんでその国に入るのは難しいでしょうが、それでも周辺国に行きゃあ何かしかの儲け話は見つけられそうなんで、明日にはそっちに向けて移動を始めようかと思ってやすんで、縁がありゃまたお会いしやしょう」




