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550 湖上戦

「大師、まもなく我らが船団は、レーナ川を抜け、ムルズ湖に到達いたします。今の所は敵勢力からの攻撃は有りませぬが、ムルズ湖は王都に面し国名を冠した、王国を代表する湖。そこに我らライフェル教の軍船が浮かんだとなれば、敵の水軍も黙ってはいませんでしょう」


 虎の子の揚陸船5隻を含む、ライフェル教の軍船団14隻を取りまとめる船団長の言葉に拙僧が頷くと、コンナが楽し気に帯剣を撫で上げる。


「水上戦ですかな、なかなか経験が出来る物ではありませんな。接舷切込みの際は拙僧にも是非、修練の機会を頂きたいもの。師父、このコンナを御指名頂ければ、ムルズの不信心者共の船の一隻や二隻程度であらば、乗員の悉くを拙僧の『鮮血柳葉刀』の糧とし、船内を血で染め上げて見せましょうぞ」


 その言葉を耳にしたのか、獣人の水夫たちが恐ろし気にこちらを見て来る。


 船団は獣人や鳥人の船員が大半を占める為、耳の良い相手に聴かれても良いよう話す内容を気を付けるよう言われているというのに、まったく。


「コンナ、僧の本分は慈悲であることを忘れるな」


 まったく、なぜこうも血の気が多いのか、武芸だけではなく僧としての師でもある拙僧が弟子を正しい性状へ導く事が出来ぬとは我が身の未熟を恥じるばかりか。


 そう言えばフレミアウの弟子も血の気が多いのであったか、若者に力を付けさせる事は容易くとも、力に溺れぬよう力の使い道を正す事は難しいという事か。


 だが、戦の時には頼もしいともいえるか。いやだが、突撃するばかりでは思わぬ搦手に足を掬われる事になる、そう言えば……


「船団長殿、拙僧等は二日前に乗船したばかりゆえ不案内ではあるゆえお聞き致す。今の所は川を遡上する最中に敵軍の妨害が有りませんでしたが、この先も大丈夫なのであろうか。確かムルズ湖に出る直前には大きな橋が架かっていたはず。この辺りはまだ、両勢力が入り乱れており、支配権を確保できてないと聞きますが、如何に」


 船団の先頭を進むこの船から後方を見れば、川を溯るために櫂船ガレーが一列が並んでいるのが見える。これが地上の行軍で有れば長く伸びた隊列の側面を突く好機としか見えぬ。


「とある『勇者』様の残された書物では彼の世界には、川を遡上する敵船団に対してあえて橋を落として動きを止め、そこを狙う等という戦術が有ったとの事。そこまでいかずとも、橋の上に伏兵がいた場合我らは無防備な頭上を抑えられ、敵の真下を通過する事になるのではありませぬか」


「大師の御懸念は御尤も、ですが対応はしております。この川の両岸には、幾つかの部隊が我らの遡上に合わせて移動しており、また必要に応じ、揚陸船からダイハツ、ショウハツにて陸戦要員を敵に見られぬよう夜間上陸させております。それらが連携する事で岸辺に有る敵の対船攻撃用の施設や陣地、停泊施設等を排除していますのでご安心を。これだけの規模の船を攻撃するとなれば、敵方も接舷用の舟や弩砲カタパルトを配備して待ち構える事になりますが、それらは水上や川辺から容易に移動させられませんから、発見も排除も戦力さえあれば容易ですからな」


 なるほど、拙僧等は急遽この船団に乗り込んだため、把握して居らなんだがそのような対策を取っていたのか。


「敵の弓隊なども移動中の大型船を狙うとなれば、それなりの人数を用意せねばなりませんから、そうそう隠せる物ではありませんし」


 確かに火矢の一本や二本程度ではすぐに消せるし、船上の数人が矢で撃たれてもよほどの重要人物でなければ、それほど問題にはならない。嫌がらせで無く本格的な船の撃破を狙うなら、十分な規模の弓隊が必要だが、それならば見つけるのも容易か。


「また、支流などに埋伏させた敵船からの襲撃に関しましては、船団前後の偵察を頻繁に行い早期発見に努め、奇襲を掛けようとする敵に対し、態勢を整えて迎え撃つようにしています。もっとも発見が困難で警戒すべきは、長射程の遠距離スキルや魔法の使える者が少数で陸上に潜伏している場合ですが、幅の広いこの川の中央部分を進む船団に対して、数発で航行に支障が出るほどの威力の攻撃を届けられるとなれば、よほどの実力者となります。ですがそう言った強者は真っ先に前線に送られて、戦場に屍を晒しているか、我らの友軍と睨みあってるかですからなあ」


 警戒はかなりして対策はしているようではあるが、そこまで対策をしなければならないという事はやはり、沿岸地域は敵味方が入り乱れているということ、であるならば……


「補給の問題は無いのでしょうかな、櫂船ガレーは凪でも動け、小回りも利き流れにも逆らえるので、風のあまりない海域や湖などでの戦闘に適しているとは聞きますが、多数の漕ぎ手を乗せる分、食糧の消費が増え積載量が減るため、頻繁な停泊と補給が必要なはずでは」


 安全に停泊でき多量の補給が受けられる、自陣営に友好的な港が一定間隔でなければガレー船団の遠征は難しいと聞いた事があるが、揚陸船にしても動力は大型魔獣だと言っても、その分陸戦要員を多量に乗せているいるのだし。


「その点に付きましては、神官長猊下がライワ家より『アイテムボックス』に幾らでも収納が可能な麦と豆、後は『迷宮』内で加工した魔物肉を大量に購入され、配布下されたのたとので、数か月は無補給で過ごせる量がアイテムボックスに準備できています」


 本来なら隠匿すべきライワ家の『迷宮産作物』か、確かにアレならばこういった作戦には向いている。そもそも無補給で長期軍事行動が可能になるからこそ、他勢力に知られぬようライワ家と神殿は迷宮農園の秘密を守って来たのだし。


 それにしても麦と豆、それに肉か、いやだからこそ船団はこの編成なのか。それに、この船団の乗員たちは全員が神殿の神官兵や在家信者の水夫なので、粗食でもそれほど不満は出ないのであろうし。


「法師には幾つかの生鮮食品の割り当てを予定していますのでご安心ください」


「ふむ、となると、水上戦にはならぬのですか、強者もこの辺りにないとは、いや川沿いの領地ならば、海驢騎士や海豚騎士の一騎や二騎位はいてもおかしくはないのですが」


 拙僧と船団長の話を黙って聞いていたコンナが帯刀の柄をさすりながら、敵を探すように周囲を見回しているが、油断なく警戒し索敵をしているのではなく、敵を求めての行為というのがな。拙僧等の話でまず考える事がそれというのも武辺に過ぎる。やはり教育が必要であろうか。


「仰る通り、ここ十数日はまともな戦闘は起こってませんね。とはいえ、幾ら両岸を警戒して発見した敵を排除しているとは言え、それはあくまで対船攻撃能力を無力化しているだけで、敵を殲滅してる訳ではないので、こっちの存在は敵に把握されてるはず、そう考えれば……」


 多数の大型船を要する、この規模の船団に、一領地の水上戦力で仕掛ければ各個撃破されるのは誰の目にも明らか。そう考えれば取れる方策は限られる。


「沿岸地域の諸家が連合し戦力の集中ですかな」


「でしょうな、ましてこの辺りの主戦派領主達は、主戦力を前線に送って水軍の他はまともな戦力も無いでしょうし、岸壁施設はこちらが潰してますから、川岸との水陸連携というのも出来ない、そうなれば出来るだけの水上戦力を集めて長距離を移動してきたこちらを迎え撃つ、そう考えるとおそらく待ち構えてる場所は」


「ムルズ湖からこの川へと注ぎだす接続部でしょうか」


「でありましょう、向こうは広い湖上、こちらは狭い川から出るので縦長の陣形の先頭に居る船に対し三方から水獣騎士と衝角船の突撃ができ、しかも我らは川の流れに逆らうため身動きがとり難くく、向こうが警戒してるであろうこちらの陸上戦力も湖の上には攻撃が届かない」


 普通に考えれば、敵に都合の良すぎる状況だが、はたして神官長猊下がこの程度の状況も予想せずに水軍を動かされるだろうか。いや、船団長殿にはおそらく手が有るのであろう。


「それはそれは、危機的状況ですな、衝角を突き刺した後は敵が乗り込んでくるのでしょうか、腕がなりますなあ、師父こちらから逆撃し敵船に乗り込むというのはいかがでしょうか」


「コンナ、我らはあくまでも乗せて貰っている身にすぎぬ、指揮権は船団長殿に有る事を忘れるでない」


 我ら僧兵団は少数や単騎での戦いが多いゆえ、戦場での指揮統制の意識に欠けるのが難点か。


「乗客の方々は、どうか落ち着いて御照覧下されたく、ムルズの連中は事あるごとに『勇者』クニオの名前を出して、かの『勇者』の遺訓に則った兵制を取っていると言いますが、『勇者』様方の残された言葉を最も多く留め、もっとも深く理解しているのは、我らライフェルであると示して見せ付けてくれましょうぞ」


「大船に乗った気、ではありませんな、文字通りの大船に乗っているのですから、貴殿らの活躍をしかと見せて頂きます」


 




「前方に敵船団、数23、湖入り口を包囲する形で展開、その他として海豚イルカ騎士、海驢アシカ騎士等の水獣騎士多数がこちらの正面に集結しています」


 上空から偵察するため『鳥態』を取って飛行していた鷲族わしぞくの水兵が高度を下げて報告してくると、甲板の上に緊張感が走るのが解る。


「やはり、湖の入り口で待ち構えるか、戦闘用意、漕ぎ手は全員交代させろここまでの遡上で疲労してる漕ぎ手じゃ戦闘機動に付いてけねえぞ、接舷された時に備えて漕ぎ手にも武器を持たせておくのも忘れるな。交代して手の空いた漕ぎ手はいざとなったらいつでも戦える用意をして休憩、甲板に投擲要員と遠距離要員を集めろ、投石機もすぐに動かせるようにしろ」


 船団長殿が、拙僧等に対する時とは違う船乗りらしい口調で指示を出して行かれる。


 投石機か、確かにこういった軍船には積んであるものだが、はたして互いに動いている状態で敵船に当たる物なのであろうか、いや数を撃てばそのうち幾らかはという事なのかもしれぬが。


 しかし投擲要員とは、幾らなんでも弓矢や魔法ほどの射程は望めないだろうに、それに彼らの足元に有る小さな壺いや歪な砲丸のような形状をしたモノは何であろうか、遠投をするのならもっと別な物があると思うのだが。


「鳥人族は、上空から監視、交代要員を残して飛び立たせろ。水鳥系は水上及び水中監視、合図の鳴き声の符牒を間違えるなよ、猛禽系はその外周で敵船団の動きを監視、飛び上がり来る鳥人が居ればこれを撃破、敵に空を取らせるなこっちの動きを見せてやる必要なんざねえからな」


 制空権いや航空優勢であったか、確かにこれは『勇者』様の持ち込まれた考え方であるな。リョー殿のパーティーように『鳥態』で飛んだまま強力な魔法を使ったり、背中に誰かを乗せて飛ぶというのは、『成長補正』を受けた者のような高ステータスでなくば難しいであろうが、こちら側だけが彼我の陣形や戦場の状況を俯瞰的に把握できるというのは大きな強みであろう。


 これは陸戦でも見習わねば。いざとなれば敵の油断している地点に十数羽が降りたって『人態』に戻れば、少人数とは言え敵陣の急所を突く事も出来るやも知れぬ。


「敵水獣騎士隊が船団から突出」


「ふむ、乗船前に聴かされていたムルズ水軍の定石通りか」


 確か、速度と小回りに優れる水獣騎士が先行して敵船に打撃を与えて船足を鈍くしたところで、本隊の軍船が衝角で止めという形だったな。よく考えれば、大型船が接舷や衝角突撃で文字通りぶつかり合う水上戦が始まれば、水獣など容易に挟まれて潰されるゆえ、こうして役割分担をせねば成らなかったのやもしれぬ。


「射撃・魔法戦だ、一斉に撃て」


 射撃指揮官の命令に合わせて放たれ矢とスキル、魔法が、数人の騎士を騎乗から撃ち落とすが、大半の水獣騎士が、乗騎を操り水中へと潜ってこちらの攻撃を避ける。


「あれでは、殆ど倒せませぬな、やはり戦闘の花は白兵戦ですか。敵が水中から甲板に上がってきたところを一刀の元に叩き切って見せましょう」


 コンナが嬉しげに語っておるが、確かに水中に逃げられては手が出せぬか、矢の勢いも水の抵抗ですぐに衰えまともに刺さらぬと聞くし、魔法の殆どは何かにぶつかる事で発動し炎や冷気、雷撃などを周囲に威力をまき散らす物の為、水面にぶつかる事で発動してしまう。これでは、よほど浅い所に敵が居なければ影響がないであろう。


 敵もそれは知っているだろうから、それなりの深さまで潜って進んでいるはず。


「それは難しかろう、聞いた話では、一度潜った水獣騎士は、そのままこちらの手が出せぬ水中から船底に穴を開けて離脱していくらしい」


 この不肖の弟子も拙僧と同じ話を聞いていたはずだというのに、なぜこうも……


「なんと、それではこちらからは何も出来ぬではありませぬか」


「御心配なく、対潜攻撃の用意はもうできております、ムルズ水軍はクニオ様の言葉を完全に間違えていますから。潜水攻撃の強みは水中からの攻撃ではなく、敵に気付かれずに奇襲できる隠密性に有るというのに、幾ら息が続かないと言っても敵の目の前で潜るなどと。射撃要員は下がれ各員爆雷戦用意」


 船団長の指示に従い、投擲要員と呼ばれて居た者達が並べられていた砲丸のような物を掴みあげて前に出る。あの手に持っている物が爆雷というのか。


「アレは勇者クニオの残された資料を参考にしたものでして、向こうの世界ではより巨大で強力な物らしいですが、こちらでは手や小型投石機で飛ばすので、アレが精一杯でして、あの中には爆裂の魔法を込めた『魔骨弾』が詰めてあります」


 魔骨弾か、魔力に反応し、あらかじめ込められていた魔法を周囲にまき散らす使い捨ての『簡易魔道具』だが、リョー殿などは手りゅう弾のようだと言われていたな。


「『魔骨弾』は魔力を込めてから十数秒後に爆発しますから、重しと『魔骨弾』を詰めた爆雷は水中に沈みながら爆発します。魔力を込めてから投げるまでの時間調整で、ある程度は深さも調節できますから、一斉同時に魔力を込め投擲要員に投げる方向と距離、投げるまでの時間を調節させれば、一定範囲の水域を水中を含めて三次元的に制圧できます」


 敵を正確に狙い撃つのではなく、無数の爆発で隙間を無くすことで敵にダメージを与える範囲攻撃という事か。上空で鳥人たちが監視しているため、ある程度の目途を立てるのも容易いのだろうし。


「魔力込め、一番隊投射、二番隊投射、三番隊投射」


 指示に従って、順繰りに爆雷が投げられていく。


「師父、船団長殿これで、本当に仕留めれてしまうのですか」


 コンナが不満げに聴いて来るのに、船団長が振り向いて答えられる。


「異世界の爆雷は、水中を進む鉄の船が相手らしいので至近距離でないと撃破は難しいらしいですが、我らの相手は生身の水獣と騎士ですから……」


 爆雷の投下された水域が一気に泡立ち無数の水柱が上がると、それに続く様に次々と水獣や数人の騎士が浮かび上がって来る。


「水の中で四方から爆発の衝撃を浴びれば、高レベルでよほどの耐久力が無ければ、気絶して浮かび上がって来るだけです。勇者様の世界では、漁業にも使うらしいですね。まあ浮かび上がって来れるのは、水獣と軽装の乗り手だけで、重装備の場合はそのまま沈むことになりますが」


 これは、すさまじいな『魔骨弾』の場合、個々の威力は通常の魔法やスキルに劣るはずだか、数を運用する事でこういった効果を及ぼせるとは。


「よし、敵水獣騎士は排除した、本船とそれに続く二隻はそれぞれ敵船団に向かいかき回す、敵は中小型船ばかりでしかも今の一撃で動揺している。正面からまともに戦わず動き続けての矢戦なら一定時間は十分に戦える、その間に後続の船に隊列を整えさせろ。気絶してる水獣の捕獲は、後続に任せる」


 確かに数の差は有れど、そこまで大きなものではない為、全ての船が川から湖に入れば戦力差は無くなるか、いや敵がこちらを包囲するために三方に散っている以上、各個撃破も十分可能か。


 これならば十分に勝てる。


 王都の物流の多くを担う水運の要であるムルズ湖を抑えれば、王都は前線やその周辺地域との繋がりの多くを断たれ、物資や兵員の輸送は陸路中心となり、補給の速度も量も大きく減じて敵戦力を弱体化させる事になるだろうし、王都自体への物資搬入はもちろん情報等の流入も滞る事となる。


 何より、主戦派貴族達のすぐ目の前にライフェルの水上戦力が展開し、いつでも王都を扼せると思わせる事の心理的圧迫はかなり物となろう。


「物資不足や不安から王都の民を脅かす事となりかねぬのは本意ではないが、現在の前線の状況を考えればやむを得ぬか」


 規模の大きな戦闘が起こる度に徴兵された民衆がクスリを渡され死んでいくようでは、もはや手段を選ぶ事も難しい。


現在やっている人気投票ですが11月14日21時現在

1 アラ   8票

2 サミュー 8票

3 ミーシア 1票(泣)

4 ハル   8票

5 トーウ  4票


となっており、アラ、サミュー、ハルの三人が並んでる状況となっています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 投票結果が楽しみ! アラちゃんも凄く良いけど、今回はハルに頑張ってほしい。
[一言] ミーシア…すまん でも何か戦闘面で十分キャラたってるし主人公との絡み云々が少し薄いし いやでも書いてもらえるなら見たい それは勿論
[一言] ミーシアは嫌いじゃないキャラなんですが、良くも悪くも安定しているというか、戦力ユニット感があるんですよね。
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