548 神官長さんの面談(裏)
※注意
今回の話はとてもアレな感じの裏話になります。直接ストーリーにはかかわらないので暗いネタが苦手な方は、この話を回避されても大丈夫です。(具体的には地雷騎士とかマイラスの最後みたいな流れが苦手な方向けの注意になります)
苦しい、苦しい、い、息が、息が……
「さて、そろそろのハズですね。首輪も填めましたし、必要はないでしょうが鎖も繋ぎましたので、何の問題も無いはずですが、滅多にある事ではないので不安が有りますね。上手く行っていると良いのですが」
声、誰の声だ、聞き覚えのある、女の声が……
そんなのはどうでもいい、息を、空気を……
「く、くう、き、くう……」
「ああ、目が覚めましたか。お久しぶりですね御機嫌はいかがでしょうか。それと、呼吸でしたらもう十分に出来るはずですよ、貴方の体には毒は残っていませんし、この場は風の通りも良いですから、空気も澱んでいませんので」
「はあ、はあ、はあ、息が、息が出来る」
大丈夫だ、煙も無い、クスリも無い、大丈夫だ、もう大丈夫だ、いや、あれは夢だったのか。
そうだな、そうに決まってる、俺がやられる夢を見るなんてどうかしてやがる。気付かないうちにクスリでも飲んじまってたのか、クスリは売るもんで食うもんじゃねえってのによ……
「どうやら、まだ意識がはっきりしていないのでしょうか、目の前にいるわたくしにもまだ気づいていないようですし」
また、声が、誰だったか、この声。
ゆっくりと目を開けると、天井と、見覚えのある女の顔……
「ごきげんよう、ヤスエイ」
「お前は、神官長ステミ、なんでお前が」
「なぜと言われましても、本来なら『活薬の地下通路』で死亡して、そのまま朽ち果てるはずだった貴方の躯を回収し、蘇生させたのは、わたくしどもライフェル神殿ですから」
「な、そ、蘇生、だと」
俺が一度死んだだと、なら、あれは夢じゃなく、本当に俺は……
「感謝してくださいね、貴方に使った『蘇生の女神像』は一度使えば壊れてしまうというのに、数百年に一度程度しか発見されず、我がライフェル神殿でも三つしか保有していなかった秘宝の一つだったのですから」
そんな『魔道具』があったのか、死んでも助かる効果があるなら、どれだけの金になるんだ。それなら、この女を殺して残り二つのそれを奪えば……
「まあ、死亡後、数分以内に使わないといけない上に、復活までに丸二日、しかもその間に死体に傷が付けば、効果が消えてしまうので、よほど条件が揃わなければ使いどころのない『魔道具』でしたので、今回のように死にたての勇者の死体がほぼ確実に手に入りそうな事態でもなければ、使えませんし、それに……」
淡々と、『魔道具』の説明をしてくるクソ女にムカついて来る。
「感謝だと、ふざけるな、あの男はお前らのコマだろうが、な、なんだ……」
どうなってやがる、体が動かねえ、いや全身が重くて、持ち上がらないのか。
「動けないでしょう、貴方は死亡した際に経験値という形でリョー様に、霊気という形で『迷宮核』に、それぞれ大量の生命力を吸われていますから。実際にステータスが低下した訳ではありませんが、ステータスをまともに発揮する事が出来ない状態なのです。解りやすく言えば本来のステータスの0.1%以下しか利用できない、解除不能の異常状態にかかっているような物と言えばいいでしょうか、もちろんスキルの発動も出来なくなっています。それと『勇者の武具』との繋がりもこれで切れていますので、この『薬師の創薬刀』は、もうあなた専用の装備ではなくなっています」
「バカ、な」
バッドステータスだと、そんな強力な物が有るはずが、解除不能、ありえねえ。
「今のあなたは、幼児程度の力しか発揮できなくなっていますから、大人の体重を自力で支えきれなくなっているのでしょうね。だから起き上がる事もまともに四肢を動かす事も出来ないのでしょう、やはり鎖は不要でしたか。ああ、慣れれば何とか立って歩く位の事は出来るようになると思いますよ。まあ、今はそんな事よりも貴方に、今すぐ聞きたい件が幾つも有るので、教えてもらえませんか」
「ふざけるな」
身動きの出来ない俺の言葉を無視し、俺を見下しながら、ステミが淡々と言いたい言葉を続けやがる。
「貴方の持っている、薬物の密輸・販売の経路、販売所として利用していた娼館、顧客名簿、組織構成、クスリで乗っ取った暗殺者集団に付いての一切を話してください。ああ、話す気が無いのは解っていますけれど、御心配なく。貴方のステータスでも決して死なさずに、ギリギリの状況で痛め付け続けられる拷問吏を用意していますので。また、拷問に際しても血の一滴、肉片の一欠片も無駄にはしませんから、勿体ないですからね」
な、なにを言ってるんだこの女は……
「先ほども説明した通り、ステータスは発揮出来なくなっているだけで、無くなった訳ではなくその体に残っていますから。レベル上げの為に倒した魔物の死骸でも、解体して持ち帰れば素材になるのと同じと言えば、貴方自身が幾らでも経験してきたでしょうから解るでしょう」
この女、俺を、なんて目で見てやがる、まるで商品を値踏みするような目で……
「あら、ずいぶん面白そうな事を言ってるじゃない、ステミちゃん」
誰だ、他にもいるのか、体が起こせないから見えない。
「アキエ、どうしてあなたがここに居るのですか」
アキエだと、あのアキエか……
「あら、私の職を忘れたのかしら、冷たいわね」
「そうでしたね、貴方が手に入れた職は『弓兵』『暗殺者』『狩人』の三つ、どれも隠形や潜入等に向いた物ですから、ここに忍び込むのも難しくはないですか」
「そう言う事よ」
「それで、どうなさったのですか、コレの引き渡しの約束は一月後の筈ですけれど」
引き渡し、だと、まさか、俺をか、まるで何かの荷物みたいに……
「私のモノになるんだから、今のうちにしっかりと確認しておきたくなるのは当然じゃない。んー、やっぱりイケメンよねー、ちょっと野性的でいかにも日本の不良って感じで、こっちの世界だと野生児も悪人も極端すぎちゃうのよね。日本人のイケメンで、この表情のバランス、堪らないわー。新しい勇者の子は見てきたけど、なんか普通の顔で、しかも雰囲気がオッサンぽくて、ハズレだったけど。ヤスエイ君なら、色々楽しめそうだし」
楽しむ、何を言ってやがるんだ。
「やっぱりヤスエイ君なら『受け』よね、素直になれず嫌がっているフリをしているところを、ちょっと幼めな子のドエスな責めで、徐々に快楽に素直になっていって、受け入れて行って、真実の愛に、本当の美に目覚めていくの。うちの子達だとクラムが丁度いいかな、クラ×ヤス、うん語感も良いかも。それともあえて、ハードに行ってマッチョな子で無理矢理っていうのも」
このババアの趣味は確か、まさか、本気か、俺を、テメエの男と……
「今更、貴方の衆道趣味にどうこう言うつもりはありませんが、ヤスエイの引き渡しはあくまでも貸与であって、贈与ではなく、所有権は神殿に有る事、それと貸し出しには条件が有ることをお忘れなく」
「解ってるわよ、私がヤスエイ君の子供を産んだら、一人に付き稀少種族や貴族出身のイケメン奴隷4人と交換って話よね、そっちこそ後で、なかった事にはさせないわよ」
ガキだと、アキエと、何を言ってやがるんだこの女共は。
「もちろんです、今回の戦争で、捕虜にした貴族の子弟から貴女の好みに合いそうな者達を、身代金交渉を拒否して確保していますし、本来なら奴隷売買に制限を掛かけている、幾つかの種族も神殿相手であれば奴隷を売ってくれますから。出産に関しましては、複数の魔法薬や魔道具を組み合わせる事で妊娠期間を10日程度まで縮められます、普通なら母体の負担が大きいのですが、貴女は今まで何度も使っていますが問題は有りませんでしたし、貴女のステータスなら今後も影響はないでしょう。神殿としては年に3人ほどは用意してほしい所ですね。ヤスエイの状況など多少の瑕疵はありますが勇者同士の子供というのはとても貴重ですので。それと他にも条件が有るのを忘れていませんよね」
「ああ、何かあった気がするけど、なんだったかしら」
「やはり忘れていましたか、三か月ごとに、小瓶一杯分の血液と剥いだ四肢の爪、四か月ごとに剥いだ全身の皮、年に一度切り落とした四肢、それと日々出る髪や体毛を提供してもらうという事になっていたはずですけれど、その為にカミヤから大量に薬を調達したんですよ」
何を、何を言ったんだ、この女は、俺を何だと思って……
「ああ、そうだったわね、だけどそんなに期間を開けてなんてもったいないじゃない。カミヤ君の所の薬なら、部位欠損だって怪我の直後なら飲めばすぐに回復するんでしょう、それなら毎日だって量産できるでしょう」
「残念ながらそうもいかないのです。これは以前に有った事例なのですが、とある貴族がそうとは知らずに稀少なスキルを持った奴隷の皮膚を度々剥いでいたので、その皮膚を手に入れようと手配を進めていたのですけれど、魔法や薬で再生したばかりの部位というのは、本来の素材としての質が大きく劣化しているという事が解りまして。大きな部位ほど再生させてから一定期間を置き、本来の質に戻す必要があるのです。短期間で質が戻るのなら、どれほど良かった事か」
もしも、そうだったら、この女は毎日でも、俺を……
なんで、なんでこんな事になっちまったんだ、ヤクザ共に殺されかけて生き延びて、この世界で面白おかしく生きていくはずだったのに。
「ふーん、そうだったの、それにしても酷い事するわねえステミちゃんも、ヤスエイ君がせっかく作り上げた組織を丸ごと奪うなんて。『薬師の創薬刀』を手に入れたのも、その為なんでしょう。もしかしてカミヤ君の領地も狙ってたりして」
「無理な事を言わないでください、カミヤの領地経営は、彼自身が向こうの世界で得た知識や見識に基づいて運営されている所がありますし、家臣や他家との関係性もカミヤ個人との貸し借りや恩仇、様々な利権や損得などの微妙な均衡の上に成り立っています。彼や彼の後継者がいなくなれば、簡単にこの均衡が崩れる事でしょうから神殿が乗っ取れるような物ではありません、いえ彼の事ですからあえてそうする事で余人が成り代われないようにしているのかもしれませんね。それに比べてヤスエイの組織は……」
なんでだ、何処で間違えた……
「所詮は既存の犯罪組織や密売人、暗殺者などを、『勇者』として手に入れた力で強引に抑え込み、『薬師の創薬刀』で作ったクスリで言う事を利かせていただけでしかありません。だからこそヤスエイが居なくなれば、こちらが強い力を示せば容易く降りますし、クスリさえ与えれば誰に対しても従いますから。ヤスエイの権力を支えていた『勇者』のステータスにしろ武具にしろ、所詮はわたくし達ライフェル神殿からの借り物の力、それだけに頼って悪用していたので、利子付きで返して頂いただけの事です」
俺が、勇者の力頼みだったからだと、貰った物を好きに使って何が悪いっていうんだ。
「あらら、それじゃあ私やマコトちゃんなんかも危ないのかな」
「貴女はそうならないように手を打っているじゃないですか、神殿が『勇者』から奪いやすいモノがあるとすれば、その武力で強引に作ったモノと武具が主ですが。貴方は金銭で買った奴隷位しか持っていませんし、武具にしてもそのうちの二つ『属性付与の弓兵弓』と『暗殺者の毒殺刀』を手放しています。といいますか、将来ライフェル神殿が入手できるように、一部の『勇者』であれば、容易に発見できるように隠されていましたよね。『勇者の武具』は大抵の場合、それなりの実力者なら誰が使っても強力な威力を出すものが多いですが、貴女が今使っている『巨重爆の加剛弓』は『勇者の武具』と遜色のない威力を持ちますが、腕力や照準、弾道計算などに関しては、使用者の能力頼みであり、要求ステータスやスキル熟練度が高すぎる為、貴女の切り札である超長距離砲撃は、貴女にしか出来ませんから、奪っても仕方がないですし」
「あら、あら」
「マコトにしても、財産と呼べるのは向こうの世界の食事や料理に関する知識とそれによって築いた物で成り代わりは難しいですし、後は各地で貸し借りに伴って出来上がって来た人間関係などですから、奪えるものではないですから。下手な事をすれば神殿への反発を招きかねませんから」
「なら組織の乗っ取りや財産の奪取は無理でも、今のヤスエイ君みたいに飼い殺しには出来るんじゃない、いやん、私の身体が狙われちゃう。これは乙女の危機だわ」
「それに関しても、貴方達は神殿に協力的ですからね、今回のような事態でも手伝ってくださりますし、貴女やマコトは『成長補正』で育てた奴隷など戦力を神殿に提供してくれますから」
「飽きた子を引き取ってくれて感謝してるわ。新しいイケメンを何人も衝動買いしちゃうと、養い切れなくなっちゃうし、いっぱい居過ぎると解らなくなってくるし」
「そう言えば、『勇者』様方の世界では、一部の方は3か月ごとに嫁を変えると言いますものね。それと貴女の場合は時折、奴隷との間に産んだ子供も提供してくれますし」
「ああ、そっちの件は助かってるわ。お気に入りの子に入れ込み過ぎちゃうと、ついつい子供が出来ちゃうけど、何時までも大きなお腹じゃ、他の子が気を使っちゃって思う存分遊べないし、かと言って堕胎したりすると、嫌がられるから。だけど産んだ後は育てるっていうのも所帯じみてて私の逆ハーには似合わないもの。それに神殿に預けたって言えば、子供の将来は保障されたって、あの子達も喜んでくれちゃうのよね」
「まあ、そういう訳でして、こちらとしては貴方達をのびのびと自由にさせておいた方が色々と利益になりますので。神殿に敵対する訳ではない協力的な勇者を排除する等というのは愚かしいでしょう」
俺が、ライフェル神殿に敵対したからこうなったっていうのか。
「それに貴女もタラク王国滅亡の事例は御存知でしょう」
「ああ、確か、ライフェル教の前身として勇者召喚をやっていた国だったかしら」
「ええ、あの国はとある『勇者』様をないがしろにしたがゆえに、多くの『勇者』様方を敵に回して滅びましたので。ライフェル神殿はそれを教訓として、よほどの事が無い限り、多少のオイタは笑って庇いますし、基本的には『勇者』様の意思を尊重します。例外は、貴女も御存知の通り、残存する元勇者様方にその者の罪を記した回状を回して、過半数が有罪で排除すべしと判断された場合だけです。このヤスエイのようにほぼ全ての方が、殺されて当然、どのような目に合っても自業自得等と判断された。わたくし達神殿の好きに処理できる後腐れの無い元勇者というのは、滅多に居るものではないので」
そんな、誰も、助けてくれないって事か、そんな馬鹿な事が有っていいはずが……
「あらまあ、ヤスエイちゃんも色んな所から恨まれてるからねえ。なかには勇者って名乗っただけで、ヤスエイちゃんの同類と思われて塩対応されたなんて話も聞くものね。それじゃあ、仕方ないのかしら」
俺は、俺は、これから、どうなるんだ……
「はい、ヤスエイのような、神殿に敵対的で、なおかつ邪悪な勇者の場合はこうして長期的に有効利用できますので、これからも色々と役に立ってもらうとしましょう」




