532 何でも『開錠』万能鍵
「テトビ、ここが最初の目標で、本当に間違いないんだな」
トーウから幾らか預かっていた『睡眠毒』を『薬殺投針』に塗りながら『聖者の救世手』の『範囲内探知』で見張りの位置を確認する。
「へい、間違いありやせん」
本当に信じていいんだよな、俺達が襲撃したってばれるような証拠を残すつもりはないけど、襲撃して死傷者を出して、場合によっては口封じまでして実はここは違いましたじゃシャレにならないからな。
「あそこにいるのは、殆どが金次第で外道な真似も平気でやる犯罪者同然の連中なんで、扱いを気にする必要はありやせんぜ。貴族との関係も金で雇われただけなんで、面子だとか仇討ちだとかの面倒も有りやせんし」
コイツ、俺の不安を見抜いたのか、的確な説明をしてきやがった。これだからコイツは……
「解った、とりあえず屋外の見張りを排除するぞ、中の連中に気付かれないように騒がれず静かに倒して行く、得意な奴以外はここで待機していてくれ」
「であれば某も向かいましょう、鍛えてきたトマホーク投擲であれば、相手に気付かれない距離より一撃で頭蓋を割り即死させられますからな、『連続投擲』と『曲射投擲』を組み合わせれば、壁の向こう側から斧が壁上を跳び越える形で十人程度まではバレずに潰せますぞ、警戒している相手を一撃でまとめて仕留める、良い実戦経験となりますな。この場に連れて来た者達であれば大半は潜入を得意としますが、より確実にとなれば……」
ああ、そう言えばトマホークって戦闘狂のケが有るんだっけ。
「ボクも行ける、元々ぼく達は『迷宮』に隠れ住んで狩りをして生きて来たんだし、『幻術魔法』が有れば気付かれずに初撃を当てる事も出来るんだ」
ヤッカか、以前のじゃじゃ馬のイメージが有るけど、カミヤさんの所でかなり鍛えられてきたって事だから、一部任せても大丈夫かな。
「よし、それならトマホークに道に面した壁沿いにこちらから見て右側面を頼む、ヤッカは幻術で姿を隠しながら正門から入って見張りの排除、俺は裏側から侵入して左側に掛けての敵を排除する。物音で中の連中に気付かれないように注意しろ」
「承知しております、久々の対人の実戦、好き放題に頭をカチ割っても問題にならない相手達というのは良い物ですな」
「わかった、ボクにまかせろ、よし、やってやる、やってやるぞ、ここで見せ場を作って」
なんだろう、二人とも随分ヤル気になってるな。これからする事の物騒さはともかく、やる気が有るのはいい事だよな。
「さてと、俺の担当範囲は広いんだから早めに始めるか」
もう一度『範囲内探知』で見張りの位置を確認してから、『軽速』を使い一気に壁を跳び越える。暗い上に今のタイミングならここなら見張りの穴だって事も確認できたし、『軽速』で体重を抑えれば、足音も消せるから、見つかる心配はない。
「後は、一人ずつ気付かれないようにこの毒針で眠らせれば」
静かに見張りの背後から忍び寄って、首筋に針を刺す。
「ん、なんだ虫か、あ、れ……」
レベルが上がり熟練度も高くなってるトーウのスキルで作った『睡眠毒』を『薬殺投針』の効果で強化してるから、寝付くのも一瞬だったな。痛みを感じない程度に軽くつついただけでこれなら、使い道は色々ありそうだな。
しかし、普通ならさ異世界転移とかなら、こういう時には『暗殺』とか『潜入』とか『隠密』、『気配隠蔽』みたいな感じのスキルを覚えて、見張りが目の前に居ても気付かれずに、楽々排除出来る所だろうに、なんで俺はこんなヤモリみたいに壁に貼りついてるんだろう。
「異常はないな、全く誰が来るんだってんだよ」
壁のほんの僅かな凹凸に指を掛けるだけでも、『軽速』で体重さえ下げておけば、俺の筋力でも十分壁に貼りついてられるからな。これだけ暗い上に、灯りは蝋燭やランタンだけで光量も照らせる範囲も少ないから、少し距離を取れば暗くて見えないし、見張りも外壁側を除けば上の方はあまり気にしてないようだから、こうやって建物の二階部分の壁に貼りついてればそうそう見つからないだろう。
後は見張りが俺の真下を通り抜けたタイミングで手を放して、落ちると同時に針を刺すだけで眠らせれる。
「一番面倒なのが、眠らせた相手を隠す為に運ぶ事だっていうのがな」
なにせ武装した大柄な男だから重量は100キロを超えてそうだし、意識の無い人間って運びにくいんだよね。まあ、暗い分軽く隠すだけでばれにくくなるんだけどさ。
(とどめは刺さなくてよいのか)
「それなら大丈夫だろうというか、必要ないだろう。トーウには同じタイプの毒でも、効果や濃度の高さを変えて何種類か変えて用意して貰ってたが、今回使ったのは一番効果のあるやつだ、それを『薬殺投針』の効果で高めればな」
(まあ、あの娘もかなり熟練度が上がっておるからのう。だからこそ一瞬で相手の全身の動きを止め、更に意識を奪ったのじゃろう)
「強すぎる薬ってのは、毒と一緒というか、薬ってのは薄くして必要な効果の範囲になる様に薄めた毒らしいからな、弱い毒でも強くすれば」
前に営業先の病院で聞いた話だと、手術でかける全身麻酔は呼吸が止まるから手術中は人工呼吸器を使わないといけないらしいから。脳に薬が作用して意識が無くなって更に効いて来ると、呼吸をコントロールする脳の機能や、呼吸している筋肉まで止まって息が出来なくなっちゃうって事だから。
まあ、市販薬や病院で処方する睡眠薬でそこまでの状態になるには、バケツ一杯分以上の量を一度に飲むから、自殺目的ではお勧めしないよって、あの先生笑って言ってたな、今考えても接待受けながらする話じゃなかったよな。
まあ、あの先生に聞かされた話がこっちの世界で行動したり判断する上で意外と役に立ってたりするから笑えないんだけど。
まあ、とりあえず今倒した相手で俺の担当範囲の見張りは最後か、一応全員隠しておいたから建物の中から誰かが出て来て探したりしなければ、騒ぎになる事はないだろう。
「あ、ここに居たか、探したぞ、じゃなかった。使節官閣下、僕、じゃないわたくしとトマホーク卿の担当区域の見張りの排除は済んでいます。既に、突入要員は敷地内に入り正面入り口と勝手口の付近を掌握し、屋内からの脱出の抑止体制を確立し、何時でも突入可能です」
返り血の付いた武器を持ったヤッカが、なんか凄いかしこまった物言いをしてるけど、これもカミヤさんの所で教わったのかな、というかヤッカのその武装……
「ゲ〇ググ、しかも隊長機だと……」
夜中とは言え街中を移動するから、武装の上にポンチョみたいな外套をすっぽりかぶってたから、ヤッカの用意して来た装備をまともに見るのは、今が初めてなんだが。
ヤッカの体型からするとややゴツメの鎧は、少し尖って飛び出した肩当と後ろにスカートみたいに広がっている腰防具が付いてて、足に装備した具足も足首の上あたりで広がっている。兜はやや短めのモヒカン飾りまでついてるし、しかもユニコーンのヤッカの角が、形状が違うとはいえ隊長機とかに付いてるアンテナみたいで。
なにより特徴的なのはラグビーやアメフトのボールをスライスしたみたいな盾と、ビー〇ナギ〇タを彷彿とさせる柄の両端に片刃が付けられた武器は……
「これは、カミヤさんの趣味なのか……」
流石にモデルになったであろうアレに比べれば細目だけれど、見る人が見れば何をベースにしたデザインなのかはすぐにわかるよな。
「な、なんだ、あもしかしてこの格好が気に入ったのか、やっぱり、この格好は異世界人には魅力的に映るのかな」
後半の声が小さくて聞き取れなかったんだが、気に入ったのかと言われると。
「うーん、俺は世代的に宇〇世紀の作品はあんまり」
俺が見てたのはこう拳がトランプマークに光って殴り合ってたり、題名に新が付いてて主人公が『お前を殺す』とかほざいたり、髭が生えたり、種だったりする作品だったから。
「え、う、〇宙、え、え、じゃ、じゃあこの格好しても、うわあ、う……」
「使節官殿、既に二階窓から数名を潜入させ、上階の大半と階段及び一回の一部を確保、二階などはほぼ無人でしたし、少数居た敵も排除できておりますので、残りの敵は一階の主要部分である玄関ホールと大広間、後はそれに面した部屋の壁を破壊して作った倉庫で荷の番をしているようです」
なんでか急に叫びそうな感じになってたヤッカの口を、いつの間にか来ていたトマホークが背後から押えてるけど、凄いな一瞬で取り押さえちゃったよ。
「悪いな、俺がここで時間を使っている間に、手間をかけた」
「いえ、今回、伯爵閣下から預けられた兵員は肉食系の獣人も多いため、多少の高さへ飛び上がるのも足音を消して獲物に忍び寄るのも、十分できる面子となっていますのでな。ただ、あの情報屋の話では、奥にはそれなりに実力者もいるようなので、奇襲で一気に畳みかけて片付けたいのですが」
これはまた、積極的な事を言ってくるな、まあ時間の関係も有るしその方がいいか。
「敵がこちらに気付かないまま、屋内に籠っているのであれば、主導権はこちらに有りますからな」
「旦那、こっちですが、御静かに願いますぜ」
閉められた両開きの扉の前でしゃがみ込んでいたテトビが口元に指を当てながら振り返る。
「この正面入り口を空けたすぐ向こうが目的の倉庫みてえですが、音を聞く分では中に何人かいやすねえ」
何人かの兵士が壁に耳を当てたりして中の様子を探ってるけど、考えてみれば俺なら正確な位置や状態も解るんだよな。とは言えいくらカミヤさんの配下とはいえ、手の内を晒す訳にはいかないか、テトビもいる事だし。
「鍵も掛かってるんだろう。お前なら開けられないか」
コイツの事だからピッキングくらいできちゃいそうだよな。
「そりゃまあ、開けるのは可能ですが、扉のすぐ向こうに見張りが居る状態でカチャカチャやってりゃ、気付かれて無防備な所を扉越しにスキルを食らうかもしれやせんし、何よりご丁寧な事に向こう側で閂まで掛けてるようでさあ。隙間からノコギリを差し込んで斬るって手も有りやすが時間がかかりやすからねえ」
扉の向こうからって、まあこの世界じゃ威力の高いスキルなら、普通に扉をぶっ飛ばしてそのまま向こうの敵をやれるのか、そう言えばラノベやマンガなんかでも、壁越しに銃撃なんてシーンが有ったしな。
「そこは某にお任せアレ、当家のマスターキーの威力をお見せいたそう。おい」
「は、」
トマホークが指示をすると、兵士が一人、戸の前に出るけど、閂じゃ鍵は意味が無いんじゃないかな。それくらいなスキルや魔法で……
「鍵の掛かっている位置はここ、閂もほぼ同じ場所だ、一発で行け、扉の開錠と同時に突入する。戦闘は某が務め近くの敵を排除する。トマホークは近接で叩いてよし、遠距離で投げてよしだからな。次は短剣投擲持ち、解っていると思うが手早く壁沿いに展開して相互に支援し射線の死角をなくしていけ、敵がこちらに対応してくる前に出来るだけ多くの敵戦力を遠距離から削れ、中に居るのは全て敵だ、躊躇なく撃て。敵がそれに合わせて物陰に隠れれば、そのまま牽制し敵をその場に拘束、後続の近接戦闘員の支援だ」
あれ、ラクナの翻訳越しだからか、意味合いも感じられたんだけど、いま『解錠』じゃなくて『開錠』って言ったよな、たしか不動産管理部門に居た時に聞いた話だと『開錠』って……
「情報屋の入手した図面では、天井はそれほど高くない、また物資が積まれて狭くなっている恐れも高い、解っているだろうが、長物ではなく中剣を使い、戦闘も障害物に注意して大振りは避け、小さく降るかでなくば突きを主体にするよう。物資が多ければ、死角も多く投擲だけで完全に制圧は難しいだろうし、物陰に隠れた敵と鉢合わせる恐れもある油断するな。開錠用意」
「は」
戸の前の控えていた兵士が持ってるのは、5、60センチ位の長さの棒、魔法の杖って事なのか、先端を鍵の位置に当ててるし、アレで鍵を外すのか。
「これは、かつてかの勇者クニオが『鬼軍荘園』でゴブリンソルジャーの槍を元に作成し、様々な素材を組み合わせレベルを上げて改良してきた簡易魔道具でしてな。流石に城門並みの厚さの有るモノや金庫のような堅い金属製の物は難しいですが、大半の屋敷の扉ならば一撃ですぞ、堅い物が相手でも連続で6発撃てますしな」
何だろう、言い方がどう考えても鍵を開ける作業の説明には聞こえないんだよな。なんだろうこうやって説明されながら見続けてると、兵士の構えている棒が、杖じゃなくて、まるでショットガンみたいに見えて来て……
「用意は良いな始め」
「は、始めます、発射」
その言葉と同時に鈍い音が響き、扉に拳よりも大きめの穴が空く。
ああ、たしか特殊部隊なんかだと、大抵の鍵を撃ち抜いて壊せるショットガンの事をマスターキーって呼ぶんだったっけ、そうだよメイド・イン・クニオだもんな、まともな品な訳が無いか。
『開錠』っていうのも、方法は選ばず壊してでも鍵を開けるっていう意味だったからね。向こうに居た時は、鍵を忘れた顧客がオートロックのドアでキー閉じ込めしちゃって、鍵屋がドリルで壊したって案件が有ったよな。
マスターキー、前回の投稿の感想で殆どの方が予想していた……




