524 襲撃計画
「困ります、お客様、困ります、おやめください、困ります、あーいけません、ああ、ああああ」
ツツモ・ターセと呼ばれた盗賊に手を掴まれて引かれて、奥の部屋へと引きずられて行きますが、ここまではハルさんの予定通りですね。この盗賊は今までもこの村で目に付いた女性が居ると同じように、この奥の部屋へと連れ込んでいたという事ですから。
そして、この奥に連れ込まれた女性は、弄ばれ、暴力を受け、そして……
「へへ、可愛がってや…… うをっ」
大量の血が流れた場所特有のすえた匂いのする部屋の戸が閉められると同時に、捕まれていた腕を強引に引きはがしてから、逆に男の腕を掴みそのまま力尽くで男の体を振り回し近くの壁に、更に床へと叩きつけます。
「ぐがっ」
「いやあああ」
男の声が、外の盗賊達に聞かれないように、大きな声で悲鳴を上げて被せます。
男の人に乱暴された時や、拷問を受けた時にどんな声が出るのかは、身に染みて知っていますし、娼館で働かされていたころに行為中の演技という物も覚えましたから疑われる事も無いでしょうね。
「ぐ、う、こ、この、むぐっ」
起き上がろうとする男の背後を室内に隠れていたトーウさんが捕り、そのまま左手で口を塞ぐと同時に男の両目に右手の指を突き立てて潰し、そのまま右手で男の腕を取って手早く関節を逆に捻って抑え込んでいきますが、あの音は抑えた瞬間に折れましたね。
「え、ええい」
トーウさんに一瞬遅れてミーシアちゃんも男に跳びかかって両足と下半身を抑えこみ、手早く縛り上げて行きます。
「助け、助けてえええ」
二人が男を拘束している間も、わたしは悲鳴を上げ続けながら、部屋の中に用意してあった大きな砂袋を殴りつけたり、床にたたきつけて物音を立て、わたしが暴行を受けていると外に思われる様に取り繕います。
「サミュー、もういいですわよ、盗賊達は帰りましたから。トーウもこれ以上口を押えておかなくても大丈夫ですわ。それとミーシア、今アラが屋根の上から、盗賊達が村から出ていくのを監視して、他に村に来るものが居ないか警戒していますから、それを手伝ってきてちょうだい。こういう役目は視力や聴覚の発達している貴女やアラが適任ですから」
「は、はい」
事前に決めていた通りハルさんがミーシアちゃんを部屋の外へと誘導してくれましたね。今まで戦闘を繰り返していて今更な気もしますが、これからやる事はアラちゃんやミーシアちゃんの情操教育には向かない事ですから。
本当なら御二人にも席を外してほしい所ですが、わたし一人だけではこの盗賊から情報を聞き出せたとしても、十分に分析できなかったり、聞き逃しが有ったりするかもしれませんから、ラッテル家の御役目として尋問に関しての教育も受けているというトーウさんと、わたし達の中で一番分析能力が高いハルさんに同席して貰いましたが、上手く盗賊団の情報を聞き出せればいいんですが。
「とりあえず始めましょうか」
両目を潰され、両腕の関節を壊され、更に縄で縛りあげられ身動きの取れなくなっている盗賊を天井の梁から釣るし、用意していた拷問道具を手に取ります。
どの部位をどのように責めれば、どの位の痛みや苦しみを感じるのかは実体験で嫌というほどに覚えていますし、何処までやってしまえば死に至るのか、どの程度に抑えれば死なせずに責め続けられるのかというのも散々マイラス様に見せつけられてきましたから、よく解ります。
「貴方には色々と教えて頂きたい事が有るんです。話すつもりは無いでしょうが、すぐに頼むから話を聞いてくれと言うようになりますよ」
マイラス様達のように人を痛めつけて楽しむ嗜好は有りませんが、相手が盗賊、それも御主人様が取引をされた『金剛杖』や『炎霧』のように多少のみかじめ料や通行料を取るだけの、道理の通じる親分さんではなく、殺人や強姦を平然と行う魔物も同然の凶賊が相手であれば、心も痛みませんし、これから先の被害を無くせると思えば。
「アレが盗賊達の拠点なのですわね、さてどういたしましょうか、今でしたらもう少し近付けばわたくしとアラの魔法で大半の建物は焼き払えると思いますけど」
夕暮れ時の森の木に隠れて覗く先には、何も知らなければごく普通の集落に見える、いくつかの家々が有りますが、先ほど止めを刺した盗賊の話の通りなら、もともと住んでいた住民は皆殺しにされ、残された建物を盗賊達が使っているという事でした。
「いえ、先ほどの尋問の内容を考えれば、あそこには捕らわれている旅人がいるそうですので、出来れば助けたいですね」
あの盗賊から聞き出した内容通りですと複数の女性が捕らわれて慰み者にされているという話でしたから。
「ですと焼き討ちは無理ですわね、それにわたくし達の襲撃に気付かれた場合、人質とされて降伏を迫られる恐れも有りますわ。もちろん盗賊を有利にさせる要求などに従う理由なんて有りませんけれど、見捨てるというのは気分の良い物じゃありませんわね」
ハルさんはそう言いますが、彼女も優しい子ですから多分そうなれば、人質を助けるために無理をしかねないですよね。たぶん今こう言っているのはそう言った事態を想定して対策を立てるように助言してくれてるのでしょうから。
「それでありましたら、わたくしが先に潜入して捕えられている方々を確保いたしましょう。わたくしであればあの程度の警備を潜り抜けて潜入するのは可能ですし、負傷や消耗をしていても多少であれば回復させる事も出来ますので」
そうですね、以前に『暗殺者』の職を持っていたトーウさんなら、潜入はたやすいでしょうし。毒スキルの延長で回復薬を作る事も出来るようになっていますから、救出という役目には向いているのでしょうね、もしも見つかったとしても戦闘面での不安は無いですし。
「人質はそれでいいとしまして、見張りはどういたしますの、斥候役のトーウが行ってしまえば、敵に気が付かれずに見張りを排除するのは難しくなりますし、かと言ってトーウが見張りを排除してから救出に向かうのでは時間がかかり、発見される恐れが増えますし」
確かに見張りを倒せば、交代や定時報告などの刻限になれば異常に気付かれる事になりますから、見張りの排除から襲撃までの時間差は短ければ短いほど安全性は高いでしょうから。
「み、見張りは、わ、わたしが、や、やっつけます、森の中ならおっきくても、め、目立たないし」
「私もお手伝いするの、弓矢で狙えばおっきな音しないし遠くで気付かれる前にやっつけられるもんね」
そう言って、ミーシアちゃんとアラちゃんが、荷物から取り出したのは、木の葉や小枝を括り付けて暗色や緑系統の布をつぎはぎした、全身をすっぽりと覆えるような大きな被り物 たしかムルズ王国では『ぎりーすーつ』と呼ばれている斥候用の装備だとか。
確かにこれでしたら暗い森の中なら草木の色に紛れて目立たなくなりますから気付かれずに見張りを排除出来そうですね。
「この布を纏って森に紛れればミーシアが『獣態』を取りましても大丈夫そうですわね。普段であれば目の覚めるような白色が目立ちますけれど、色を誤魔化せれば、元々狩猟を行う肉食獣は気配を消すのも得意ですし丁度いいですわね。それで行きますわよ」




