29 隠れ里
ありがとうございます、総合評価が200を超えました~うれしくてサミューさんも一肌脱いでくれました。
これからもがんばります!!
ハル達が戻る前にミーシアは肉を全部食べ終えたが、その後にヤッカ達に熱い視線を向けたように見えたのは俺の気のせいだろう、気のせいのはずだ、気のせいであってほしい、頼むから気のせいであってくれ。
二人のユニコーンがさっきより離れたところにいるのもきっと気のせいだよなうん。
「待たせたかしら」
お、ハルが帰ってきたか、思ったより時間が掛ったな。
「りゃーあーーーー」
アラ、そんな高いところから飛び降りるんじゃない、危ないだろ。
「おおった」
慌てて、下に駆け寄り何とかキャッチする、危なかったもうちょっと遅れてたら、アラが怪我してたよ。
「えへへへ」
「危ないだろが、こんな事はもうしちゃダメだ」
真面目な表情を作って少しキツめに言ってみる、うん悪いことはちゃんと叱らないとね、アラが悪い子になっちゃったら耐えられないし。
「ごめんなしゃい、あっ」
素直に謝るアラ(偉いぞいい子だ)が何かに気付いたような声を上げるので俺もつられて上を見上げるとそこには。
「ご主人様ー」
同じようにハルから飛び降りたサミューの姿が。
さっきのアラもそうだけど、その高さはまずいだろ、まともに落ちたらただじゃすまない、いくら『軽速』があってもうまく使えなければ、あれ……
「受け止めてください」
うん、そのつもりだったんだけど、なんで……
なんで、下着姿なの、装備一式はどうした、しかも黒の上下にガーターベルトって。
「私のすべてを受け止めてください」
両手を広げて落ちてくるサミューがそのセリフを言うとなんか別の意味に聞こえるな、というか狙ってるんだろうな、危険な迷宮の中でここまで体を張ったネタをしてくるとは、エロメイド……恐ろしい子。
「ミーシア」
その一言で通じたのか獣態のままのミーシアが落下地点へと走り構える。
うん、サミューに怪我をさせるわけにはいかないけど、あれを受け止めるのはね、ちょっと俺の自制心の問題もあるし、乗せられるのも悔しいし。
「サ、サミューさんここです」
ミーシア、受け止める気が満々なのは解るけどさ、その姿で両手を開いて口開けてると怖いと思うよ多分……
「ご主人様は冷たいです」
そんなことを言いながらキャッチされてたけど、泣きまねするくらいなら受け身くらい取ろうね。
「遊んでないで早く装備をつけろ」
「心配してくれないんですね」
その格好でエロポーズを付けるな、ミーシアにしなだれかかってちょっと腰を横に突き出すとかどこのグラビアクイーンだ。
「人を待たせてるんだ、遊ぶなら後にしろ」
「後でならいいんですね、楽しみにしててください」
く、言質を取られたか、失敗した。
「すまないが、そろそろ向かってもいいかの」
背後から声をかけてきた長老が呆れているように見えるのは気のせいだろう、きっと……
「ここが隠れ里か」
うーんボロイな、家の作りも簡単な藁葺きだし道も狭くて整備されてない、そして何より。
「子供と老人しかいないな」
なんかほんとに過疎な田舎町って感じだな。
「大人はみな出稼ぎに出ているからな」
あれ、ほんとに田舎みたいだ。
「なんでそんなことに成っているんだ」
「この迷宮は魔物の強さの割には価値の高い採集物が取れないので冒険者が来にくい、だがそれだけに里全体を賄えるような収益がないのだ」
ああ、隠れ里なら人に見つかりにくい場所の方が良いけど、それがあだになったって事か、だけどそれじゃあ。
「防衛力が足りないんじゃないか、万が一見つかった時に戦力に成る大人が不在だと戦えないだろ」
「そうだが、これは仕方ないことでな、外で生活できるのは幻術を使いこなせるようになって角を隠せる大人だけでな、しかも女には幻術スキルが発現しづらく、大抵はつがいの男が二人分の幻術をかけているが、我らの力ではそれが限界、結果としてスキルのない子供やスキルの衰えた老人が里に集まることに成る」
かといって大人が残れば稼ぎが足りないって所か、でもやっぱり物騒だな。
「本来なら、十代になるころには槍で十分に戦えるようになるのだが」
そうは見えないけどな、ヤッカ以外の子はどれもステータスが低かったし、戦闘の時にはビビってたっぽいし。
「一族内で血統を守り続けたせいで最近は病弱な子が多くてな、昔のように戦える子供はヤッカだけで、幻術スキルも、本来なら使えるようになり出す年になってもほとんどが発現しない」
ああ、ヤッカがボクっ子になったのはこれが原因かな、弱い子供たちを守るって意識が強いのと、幻術は男に出やすいってのが影響したんだろうな。
「しかしこのままだとまずいんじゃないか」
原因が近親婚の繰り返しなら、これから先も同じような子供が、いやもっと酷くなってくるんじゃ……
「そこで、そちらを腕利きの冒険者と見込んで頼みがある」
長老がそう切り出してきたのは、食事として出された野菜料理を半分くらい食べたところだった。
俺にとっては半日ぶりの食事だし、全部野菜ってのがありがたくて一気に食べたけど、さっきの話からするとこの里じゃ結構なごちそうだったりして、窓の向こうから子供が何人か覗いてるし……
これは、断り辛い状況を作っておいてからの難問クエストって事か、いやいや昨日の貸しが有るんだこれでお相子だよな、うんきっとそうだ。
「内容と報酬しだいだな」
俺の言葉に奴隷娘達が少し責めるような視線を向けてくるが、仕事に同情は持ち込みません……たぶん。
「依頼は二つ、まずはこの迷宮『寒暑の岩山』を鎮静化してもらいたい、今までは若者の育成を兼ねてこの里でやっていたが、ヤッカだけではいくら下級迷宮でも荷が重い、といって活性化してしまえばこの里も危うくなる上に冒険者も増える」
まあここで迷宮を一つ鎮静化するのは俺としても悪い話じゃないよな。
「それまではこの里やいくつかある小屋を拠点にしてもらっても構わないし、食料や地図も用意しよう、『迷宮核』で得た魔道具もそちらの自由にしてくれ」
迷宮で補給や休息ができるなら効率がいいよな、うんこれは受けてもいいかも。
「もう一つは更に切実な話でな、外から新しい血を迎えたいので協力してもらいたい」
ああ、それは必要なのかな、でもなんか嫌な予感が。
「できれば我らに近い馬人族や幻獣族がいいが、事ここに至っては来歴は問わない、若くて健康でステータスが高く、我らの秘密を守れる人材であれば文句は言わない」
いやそれ結構ハードルが高い気がするけど、まあ普通に考えればそういう奴隷を買う事かな、きちんと命令すれば秘密も守れるだろうしそっちの相手も……
でもな、それは抵抗があるし、そもそもそんなに奴隷を買う予算がないだろうな。
となると、カミヤさんに相談して独身の兵士達とのお見合いパーティーでも企画してもらうかな、田舎に嫁ぐとかなんかのテレビみたいだけど。
いやいっそのこと、カミヤさんが文字通り種馬の代わりしてくれないかな、なんか勇者ってのは好色なイメージが有るし、いやこれは偏見か俺も違うしな。
「報酬はこの老骨の角ではどうか」
え、いいの、一本金貨二百枚だよな、それだけあれば……あれでもそれなら。
「ユニコーンが隠れているのは角を狙われるからだろう、それならいっそのこと全員の角を切り取ってしまうって訳には行かないのか」
確かサイの保護の為には密猟される前に角を切り落としておいて、狙われないようにするってテレビで見た記憶があるし。
それに角を売ればもっといい生活ができるんじゃ。
「それは無理だ、角はユニコーンの力の源で切り取れば一気に弱体化する、体力のない者はそれだけで命に係わる」
だめか、てっそれ聞いたら爺さんの角も貰えねえよ。
「そもそも、本当に角は万能薬になるのか」
それが狙われる原因だもんな、ファンタジー世界ならありそうだけど、どうも何でも治る万能薬ってのは眉唾っぽいんだよな。
「迷信じゃ、確かに角には毒を無毒化させる効果があるが、それは汚染された物に角を付けるだけでいい、切り取ったり加工したりなどしなくてもこうやって」
長老はお辞儀をするように頭を下げて角の先端を鍋に浸す。
「角を浸すだけで十分だ、たとえ角の粉末を飲んでも一時的に毒の効果を抑えることができるだけで完全な解毒は出来ない、まして万能薬としての効果なんてものはない」
あらら全否定されちゃった、でもそれならなんで。
「巷では、万能薬と信じられているみたいだが無毒化の効果が独り歩きしたのか」
「いや、我々の種族固有スキルを使えば、大量の薬物を濃縮したり効果を高めることができる、それらが角の効果と混同されたようだ」
ああ、ヤッカを鑑定したときにあった『強化濃縮調合』ってのがそれか、今度やってもらおうかな、そうすれば金になるかも、まあそれは別な機会だな。出口までの崩れてない道が見つかるまでは、この里で過ごしたほうが快適だろうし、その間に『迷宮核』まで行ってきてもいいか。
「二つ目はなんとも言えないが、一つ目の依頼は受けよう、その代わり迷宮から外に出るための道を探しておいてくれ、それと角はいらない」
「そうか、角で食器を作ればそれだけで毒殺の予防になるのだがな」
ユニコーンが狙われるようになったのって、こいつらの先祖が今みたいなことを不用意に言って回ったのが元凶じゃないのか。
H26年9月2日誤字脱字、句読点、接続詞等、修正しました。
H27年1月14日 誤字修正しました。




