30 補給
「ここまで来ると結構魔物が多いな、『活性化』が近づいてるせいか」
岩の間を飛び回っている猫の群れを追い掛け回す、猫なのに群れを作るなんてへんだろ、しかもこいつらけっこう速いし、でも仕方ないか。
灰山猫 LV10
身体スキル 重量軽減 速度上昇
戦闘スキル 斬爪
こいつらのスキルは俺の『軽速』と似たようなものだもんな。
岩壁で三角飛びをして飛びかかって来るのを『切り裂きの短剣』で迎え撃つ。
ああ、サイズは普通の猫なのに攻撃力が半端ねー
さっきだってちょっと引っかかれただけでざっくり切られたもんな、すぐに治ったけど、たっく火傷をミーシアに治して貰ったばっかだってのにな。
そのくせ小さくて速くて小回りが利くから、狙いにくいし。
同じ戦闘スタイルの俺とか、狙い撃ちの出来るアラやサミューなんかはまだいいけど。
威力や防御を重視したミーシアには分が悪いし、そもそも岩が大量に転がって足場の悪いここでは身動きがとりにくそうだもんな。
ハルは範囲呪文で当ててるけど、相手が散開してるから、MPを使う割に倒せるのは一匹か二匹程度だし。
やっぱこれは俺が頑張るしかないか。
岩や枯れ木を足場にして小刻みに飛び回り、猫たちを追いかけまわす。
木の幹を蹴って水平に飛び、目の前の一匹を切ると同時に右足に痛みが走る。
また噛みつかれたか、くっそ、さっきから足ばっか狙ってきやがってこの。
足だと短剣は届きにくいんだよな、足を上げて噛みついている猫の首を切る。
落ちていく体を蹴って方向を変え、左足を狙ってきた一撃をかわす。
新たな足場につく瞬間を狙って猫がかかってくる。
またこのパターンかよ、『軽速』を切って落下しながら迎撃する。
着地と同時に足元を狙ってきた猫を蹴り上げ、浮き上がったところを切り捨てる。
なんかこの図って傍から見ると動物虐待かも、いやいや魔物狩りは毎度のことだし仕方ないよな。
数体が飛びかかってくるのを蹴りと斬撃で迎え撃つ、うん、やっぱり剣だけじゃなくて格闘技も練習しといてよかったな、だけど……
(お主の攻撃力では、全力で蹴っても効かぬのう)
どうせ俺は非力ですよ。
左右から飛びかかるのを左回し蹴りで一匹を弾き、そのままの勢いで逆側の一匹へ向き直り短剣を振るう。
『軽速』を使って再度飛び上がり、空中戦を再開する。
しかし平野なんかでの戦闘よりはましだけど、天井のない屋外は『軽速』での三次元機動力を十分に活かせないよな。
「ミーシアちゃん、そのまま守ってて、ハルさんとアラちゃんは次の魔法をお願い」
サミューの指示と同時に、二人の詠唱が続く。
最近はサミューがこうやって後ろから指揮を取ってくれるようになって、俺も前線での戦闘に集中できるようになったけど、なんか俺が指示を出した時よりも皆が忠実に従ってる気がするのは、気のせいかな、うん気のせいだよな、ご主人様は俺だ。
サミューの言葉と呪文の内容から、狙いを予想した俺は一か所に留まって回避と防御に努める。
「炎よ舞上がれ……」
「ふきすしゃび、ふきとびゃせ……」
耳を澄ませて、呪文に集中し、タイミングを見て一気に駆け出す。
「……その尽く灰燼と化せ」
「……うずみゃけ」
サミュー達の方へ走る途中でそのまま地面へと伏せる。
『強炎』
『せんぷう』
ハルの放てる最大火力の火炎魔法がアラの旋風に乗って一気に広がる。
「熱っ」
ギ、ギリギリだったよな今のタイミング、てか背中を少し焼かれてるんですけど。
でもまあ今ので殆ど片付いたか、俺を囮にして猫を集め魔法で焼き払うって作戦をもっとしっかり教えてほしかったな。
「ハル、サミュー、もう少し狙いをどうにかできなかったのか」
「あら、ご無事でしたの」
おい、そこのカラスお嬢様、今なんて言いました、それ俺に当たるのが前提って事だよね。
「いいじゃありませんの、どうせ回復するのですし、それにわたくしは指示通りにしただけですわ」
あ、逃げたな、まあいいけど。
視線をサミューに向けると、潤んだ目で見上げてくる、うっ、そんな顔しても騙されませんよ。
「申し訳ありません、ですが、あの位置が最も効率が良かったんです」
「それは解るが、それでももう少し安全な……う」
そ、そんな両目からぽろぽろと滴を垂らしても、だ、騙されないぞ。
「ご主人様なら大丈夫だと信じていたのでやってしまいました、お怒りでしたら、どうかこの体で鎮めて貰えないでしょうか」
そんな事を言いながら、服をはだけるんじゃない。
「いや、そこまでは怒っていないから大丈夫だ」
「そうですか、ご主人様が許して下さるのなら、わたしを煮るなり焼くなり犯すなり、好きにして構わないんですけど」
エロメイドさん、最後のはおかしいよね、そんなことしないってのは解ってるよね。
いや、解っててそっちに持ってくことで話を誤魔化そうとしてるのか、ここは毅然としてビシッと注意を。
よし、深呼吸して気合を入れて、ちょっときつめの目つきで……
「そこまでする気はない、だが……」
「どうかお許しを、手でも胸でも上でも下でも後ろでもそれ以外でも、ご主人様の自由に」
何を言ってるんですか、いきなり過激なこと言うんじゃありませんアラやミーシアが居るんですよこのピンクメイドさん。
「チラ」
う、し、白い胸元が、でかい……じゃない、胸元を開けても誤魔化されなんかし……ました。
「気にする必要はない、おかげで一撃で殲滅できた」
「ありがとうございます、心からお慕いしていますご主人様」
いきなり立ち直りやがった、てか人の手を取ってどこに持ってこうとしてるんだよ。
「強く揉んでもいいんですよ」
こ、このデカくて温かいふくらみを……じゃない。
「今日の探索はここまでにして、小屋まで戻ろう」
今俺達がしてるのはルートの確認と整備だ、隠れ里からボスまでの地図が有るとはいえ、ここは冒険者がほとんど来ない不人気迷宮だ、何年も通るものがない道は雑草に隠されて解りにくくなり、場所によっては崖崩れで使えなくなっているところもある。
そういった場所を確認せずに、むやみに進んだりしたらボスの部屋に着く前に疲労してしまうかもしれないし、途中で事故や遭難にあうかもしれないからね。
だから少しづつ草を刈って道を整備したり、迂回路がないかを探してみたり、ミーシアの力やハルの魔法でどうにかできる岩を片したりしている。
ついでにフロアボスを倒しておいたり、途中で群れてる雑魚を積極的に狩って数を減らし、後々のエンカウント率を下げようとしたりしてるんだけど。
まあ草刈りは俺達がやってるわけじゃないけどね。
「だいぶ作業が進んだみたいだな」
俺が振り返った先ではヤッカを始めとする若いユニコーン達が『獣態』で草を食べて道を広げている、彼らは腹が膨れると里まで戻って、長老たちが用意してくれた俺たちの食料などの物資を運んでくれている。
まあ草食のユニコーン達が用意する食糧だから、野菜類とか豆類だけなんだけど、禁欲中の俺としては逆にありがたいし、ミーシア達は魔物肉が有るので特に問題ないもんな。
本来ならこんなに荒れた道を自分達だけで開拓しようとすれば、とんでもない労力が必要だったろうし、食料にしてもアイテムボックスの容量を考えると何度かは近くの街まで補給に戻らなきゃならなかっただろう、その分効率も悪かっただろうな、金もかかるし。
ついでに、魔物の数が少なかったり、弱いときなどは彼らにも戦ってもらって経験値を稼がせている、依頼の中には若手の育成なんてのはなかったけど、まあこのくらいは協力してもらってる分のお礼みたいなものだろう。
ミーシアの『回復魔法』の熟練度も上がるし、サミューに指示を出させて『戦闘指揮』の経験も積ませてるし。
俺自身はその間に周辺を探索しているけど、めぼしい収穫は特になし、崖崩れ前にちらっと見覚えのある物が有った気がするんだけどな、なんだったろあれ。
「なんで僕がこんなことしないとならないんだ」
俺達が戻った山小屋の中では先に戻ったヤッカが食事の用意をしているが、俺が中に入った途端に愚痴と一緒に睨み付けてきた。
「長老の指示なんだろう」
まあ実際ありがたいよな、ヤッカが調理してくれてるおかげで俺達はその分の時間を別な作業や休憩に充てられるんだからな。
「く、覚えていろよ」
どうもこいつは、俺を目の敵にしているというか、言動的に外の男を毛嫌いしているっぽいんだよな。
「ミーシアとサミュー、ハルは魔物の解体と採集品を集めてくれ」
アイテムボックスから魔物の死骸を出しながら指示したけど、採集品は少ないだろうな、火炎魔法のせいで一番金になる毛皮がかなりダメになってるし。
「その間に俺は肉を焼いておく」
ヤッカが用意してるのはスープと野菜炒めに堅そうなパンだけだもんな、スープに干し肉が入ってるとは言え、食べ盛りのうちの子達にはこれだけじゃつらいよね。
「やっぱりご主人様がやるんですね」
「非常識な味に慣れてしまいましたら、どうしてくれるのかしら」
「こげこげかー」
「わ、わたしは生のままでも……」
なんだろこのいつも通りの反応は、技術の進歩のためには反復と失敗が必要なんだってことを解ってほしいなー
「間違っても、小屋を燃やしたりするなよ」
こいつもか、そこまでのミスは一度もしたことないだろ。
ほら今日も一発でいい感じに焼けた、うん大分うまくなってきたぞ。
「表面はいい感じですけど、中は生焼けですね」
「また失敗ですの、はあ、いい加減にしてほしいものですわ」
「こげこげーー」
「わ、わたしはこのくらいでも大丈夫です」
ミーシア、気を使ってくれてるみたいだけど、あんまり慰めになってないからね。
「あら、こちらのスープはとてもおいしいですわ」
「たしかに、この味付けはなかなかできないですね」
へえ、味にはうるさいあの二人が手放しで褒めるってのはよっぽどなんだろうな、けど肉が入ってるから俺は食べれないんだよな。
ミーシアやアラもおいしそうに食べてるし、うーんちょっと気になるな、ヤッカには『料理』スキルなかったはずなのに、そんなに美味しいのかな。
ん、俺の所にもスープが有る、みんなのとは色が違うな、みんなのは少し黒っぽいのに、俺のは赤みがかかってるし具材は野菜しか入ってない。
ひょっとしてこれは、肉類が食べられない俺の為に、別に作ってくれたのか。
「これは俺の分なのか」
視線を向けると、ヤッカが目をそらす。
「いいから食べてみろ」
あれ、ひょっとして恥ずかしがってるのか、俺勘違いしてたのかな、生意気なボクっ子かと思ってたら、意外とツンデレなのか。
そんなことを考えてたせいで、ヤッカの口元がゆがんでたのに俺は気付かなかった。
「僕の特製のスープだ、早く食べてみろ」
わくわくした目で見てくる、ヤッカにせかされて、スプーンを使ってスープを口に運ぶ。
さて、どんな味が……ってっかこれ。
「辛い、いや痛い、み、水」
慌ててサミューの差し出した水を流し込む、ヒーヒー言っている俺の横でヤッカが爆笑している。
「どうだ、ユニコーン族に伝わる、精力剤だ体が温まるだろう」
この馬娘やりやがったな、覚えてろよこの恨みはそのうち……
うーんボクっこも難しいです。
H26年9月2日 句読点、三点リーダー、誤字修正および、一部台詞追加しました。
H27年1月20日 誤字修正しました。




