227 迎撃戦
すみません、前回の部分でミスがありまして修正しています。リョー君やミーシア、トーウの新装備に『感知の大鬼鎧』を材料に使っているので、装備の効果に索敵能力が付いているのを忘れていたので、その点の言及をしています。
とはいえ基本的な話は変わりません、リョー君がそのことを考慮していますが、実戦投入するのが初めてなので効果がどのくらいなのか解って、使い慣れるまでは、頼らないようにしよう、と考えると言った内容です。
サミューが提案してきた水場にはもう少しで着くけど、その前にやる事をやらないとね。
「今までは、野営地や拠点なんかが用意してある場合が殆どだったけど、今回は違うからな」
うん、考えてみれば『薬師の森』や『地虫窟』はあんまり奥に行かなかったし、『寒暑の岩山』はユニコーンの山小屋や集落を使って、『鬼族の町』は大規模討伐の『拠点』を使ったりラッド達が野営地を用意してくれたし、『蝙蝠の館』は建物だったから部屋に籠ってドアにさえ注意してればよかったもんね。
最初に入った『子鬼の穴』に至っては物陰に隠れて小休止ってのが限界だったから、俺らだけで『迷宮』内でキャンプするのって本格的にやるのはこれが初めてなんじゃないだろうか。
そう考えると、今までは恵まれてたんだな、ユニコーンの小屋とか『蝙蝠の館』の休憩部屋なんかは『安全区域』にあったし、大人数の野営なら見張りも十分に居て、襲撃された時の待機要員もいたから、あんまりビクビクせずに休めたからな。
でも、ここみたいな屋外だとどこから敵が来るか分からないし、少人数だから見張りの負担も多いし、襲撃が有ったら全員で戦うから武装したまま寝なきゃだめだから、疲れが取れなさそうだな。
そういう経験したのってミーシアと二人で崖に落ちた時と、ディフィーさん達と穴に落ちた時、後はミムズ達と鬼を狩ってた時ぐらいで、どれも短期間だったもんな。
今回は、そのどれとも違うからな。『迷宮』の中に居る魔物も結構な数だろうし何より、魔物の索敵能力が高そうなんだよね。
という事で今回は、ラクナに教わった一時的な『安全区域』の作り方を試してみるつもりなんだけど。
「とりあえずこのような感じでよろしいかしら」
満足そうな表情でハルが振り返るのに頷いて、周囲を見回す。『岩壁結界』や『溶岩密封』を使って俺達の居る丘を囲むように障害物が用意されていて、魔物の接近を防いでいる。
「ああ、十分だ、これなら魔物が大量に押し寄せても防ぎきれるだろう」
陣地構築の知識なんてのは無いけど、とりあえず魔物の向かってきそうな方向には障害物を用意して、抜けて来れる隙間を幾つかに限定してるから、そこを狙い撃ちにすればいいからね。
「リャー、魔物さん達がいっぱいこっちに来るよ」
早速か、まあ当然だろうけどね。ハルにこれだけの魔法を使わせるために『流血の細剣』をアラから貸してもらって、この丘で捕まえた魔物を電池代わりにしたからな。その分魔物の血が流れて、臭いが広がっただろうからね。
まあ、魔物をおびき寄せるための陣地なんだから、問題ないんだけどね。
「ふむ、先ほどよりは手ごたえのありそうな数ですな。これならば拙僧の実力を師叔に測っていただけよう」
コンナが、拳を鳴らしながら魔物の群れを眺めてるけど、物騒な事を言うよな、どう考えても聖職者のセリフには聞こえないわ。
でもまあ、確かにコンナの言う通りだよな。これだけの戦闘なら名前しか分からないスキルも、どんなものか実際に見れるだろうからね。名前だけ知ってても威力や射程、適応なんかが解らないと作戦に組み込みようがないもんね。
あ、そう言えばさっきの戦闘で見たアレ。まさかとは思うけど、やっぱりそうなのかな、考えたくないけど確認しといた方が良いか。
「コンナ、さっきの戦闘で鎧を着たワードックの動きを止めた技だが、あれは……」
「ああ、『壁ドン』ですか、お恥ずかしい話ですが、拙僧の『乙女戦技』はまだ技能スキルとなってはおらず。あの技もまだまだ未熟ゆえ、師叔には御目汚しでしたでしょうな」
な、何だ、今のコンナの容姿に似合わない名詞は、まるで萌え系のゲームかアニメにでも出てきそうな感じの名前だったぞ。
(……ラクナ、今の『乙女戦技』ってのは何だ)
いや、なんとなく想像は付くんだけどさ、だって『壁ドン』だし……
(かつておった女性『勇者』数名の言語録や手記などを、ライフェル教に属す女性神官や尼僧達が解析して編み出した戦闘技術じゃのう。敵を壁に押し付けて自らの体と壁で挟むことで動きを止め、次の攻撃に繋げる『壁ドン』。片手で相手の顎を強引に持ち上げて、視線を上方に誘導するとともに、頸部の関節を破壊し、更に急所である喉を露出させて致命的な一撃へと繋げる『顎クイ』など、一撃必殺ではなく、次の攻撃に繋げる補助的な技が多く、一般的には体力面で男性に劣る女性の聖騎士や僧兵、武装神官の間で護身用などとして受け継がれてきた技じゃの)
うわあ、何か、想像以上にアレな感じなんだけど、いいのかこれ。要は乙女ゲームなんかのポーズやシチュエーションを曲解したんだろうけどさ。
う、うーん、確かに強引な感じのああ言った行動はある意味暴力と言えそうな気もするけど……
「言い訳をするわけではござらぬが、拙僧はラッド師父に師事しているため、こういった女性にしか使えぬ技はなかなか習得しづらく」
(ふむ、『乙女戦技』は、その発生と発展の流れゆえに生娘しか習熟できぬからのう。使い手が限られれば教わる機会も少なかろうて)
ああ、そっか、ラッドじゃ教えれないから他の誰かに聞くか自習するしかなかったのかな。ん、何か今のラクナのセリフが引っ掛かるな。
(ラクナ、今、生娘しか習得できないって言ったか)
宗教的な意味だとは思うけど、この世界だと本当にそういうのが有りそうだよな。
(文字通り乙女、つまりは処女で無くばこのスキルを習得できぬのじゃ、更には純潔を失うとそれ以上熟練度が上がらなくなり、いくら使ってもスキルとしては上達せぬ。この『乙女戦技』のようにスキルや職という物はのう、物によって様々な条件をそろえねば習得できぬばかりか、習得できても条件を満たし続けねば上達する事すら出来なくなるものがあり、種族や家系、身分などが条件となる場合もあれば、『捕食者』のように一定の行動を繰り返さなければならぬもの、逆に何かの行動を未経験である事が条件となる場合もあるのじゃ)
いや、だからってさ、その、そっちの経験があるかどうかでスキルが習得できなくなるって、そんなのありかよ。
(そう言った意味では性交経験の有無が条件となる事など珍しくも無い、僧兵や武装神官のスキルにも童貞のみに受け継がれるものもあれば、逆にサミューの『性奉仕』のように、多くの経験が無くば習得できぬスキル、更には出産経験が無くば習得できぬ……)
「リョー、近くまで魔物が来てしまいましたわよ、まだ始めませんの」
と、ラクナと話し込んでる間に、魔物が大分近くまで来てたか。
「よし、迎撃するぞ、事前の指示通りアラとハルはここから狙い撃て、コンナとミーシアは障害の前で迎え撃つ、サミューとトーウ、俺はミーシア達の後で援護、アラは状況に応じて前に出てきてくれ」
「承知いたしましたぞ」
「が、がんばります」
コンナが柳葉刀を抜いて駆け出すのと同時にミーシアも『獣態』を取って一気に走り出す。さっきまではアラとサミューを乗せてたから装備なしだったけど、今は一瞬であの重装備に変わってから坂を駆け下っていくから、迫力がとんでもないな。
「い、いきます、ぐぐぐあああああああ」
重装備に速度の付いた状態のミーシアが、障害物の隙間から出てきた魔物が密集しているところに、大声をあげながら突っ込んでったら、全身についてる棘や刃で十体以上があっさりとズタボロになってるよ。なんかもうボウリングのストライクみたいな感じで……
更に集団に突っ込んで大半を吹き飛ばしてから、立ち上がって前足の爪を大きく振るって残りを散らしてるけど、もうほんとに怪獣パニック映画みたいな感じだな、ブットい腕を振るたびに一撃で引き裂かれた魔物が宙を飛んでくし。
「グ、グギャアアアアアアアアア」
更にミーシアが前足を突き出して前に倒れると、高さにミーシアの重量とパワーが上乗せされて、鎧を着た魔物ですらあっさり押しつぶされてるし、頑丈そうな盾も勢いを付けて突き刺された爪が構えた魔物ごと貫通してるもんな。
うーん、ミーシアに新しい装備を持たせたら、文字通り鬼に金棒って感じの大活躍だな。戦力アップなんだけど、どうしても見た目が凶悪すぎて、なんとも。
「やりますな、ミーシア殿、拙僧も負けてられぬ。行くぞ『今宵の刃は血に飢えておるぅぅぅ』」
どこぞの時代劇みたいなセリフ言ってるけど、あれも、『武威口上』なんだろうな。しかし、どう考えても殺人鬼のセリフだよね、というか今は昼間だし。
ま、まあ物騒なセリフ通りの働きだけどね。うんコンナが刀を振るうたびに魔物の首や腕がどんどん飛んでいってるし……
「ふむ、後衛のアラ殿やハル殿の事を考えれば、幾らかは生け捕りにした方が良いか、ならば」
ん、コンナが少し下がって構え直したけどどうしたんだ。
「行くぞ『達磨連斬』」
コンナの持った刀が一瞬で数回振られた直後に、手足の全てを失ったワードックの体が地面に落ちるって。なんだよこれ、まさか達磨ってそういう事か、なんとなく『鑑定』した時に嫌な予感はしてたけど、やっぱりそのダルマかよ。血なまぐさすぎるだろ、マイラスじゃあるまいし、シャレにならんぞ。
てっきり僧侶だからさ、達磨大師が由来とかそんな感じのありがたい物かもってちょっとだけ期待してたのに。いや、普通に考えてみれば、達磨大師ってのは少林寺のお坊さんなんだから、この世界の僧侶と関係あるはずないんだよね。
「はああ、『達磨連斬』」
コンナがスキルを発するたびに、手足の無いダルマが地面に転がっていくんだけど、まあコンナの言ってた通り、これだけの数を相手にするとなると、魔力の回復手段は有った方が良いか。
「とは言え、やはり二人だけじゃ押さえきれないか」
後から後から、隙間を通って来る魔物がミーシアやコンナを避けるようにしてこっちに向かってくる。障害物のおかげで一斉に突っ込んで来る事は無いけど、後から後から隙間を通って出て来るからキリがないな。
二人もがんばって倒しているけど、散開されちゃうと、一体づつ追いかけて捕まえて倒している間に、別な魔物が抜けていくから。
「だが、そのための中衛だ」
向かってくる魔物たちへ『軽速』を使って一気に距離を詰め『鬼活長剣』を振る。
「グガヤ」
狙い通りに首元の血管を切り、血を吹き出しながら崩れ落ちる魔物から離れて次の敵に向かう。
「くらえ」
続けざまに剣を振って、肉や皮の薄い急所を切りつけていく。防具を装備してない敵が多いから急所を狙いやすいな。
「今使ってみた感じは『ゴブリンズソード』と変わらないか、これなら今まで通りに戦えそうだ」
(ふむ、しばらく実戦を離れておったが、腕はなまっておらぬようじゃの、相変わらずの面白みのない堅実な戦い方じゃのう。結構、結構)
いや、毎晩トレーニングしてたんだから、ラクナだって解ってるだろうに。
「まあいい、せっかくの機会だ今のうちに『斬鬼短剣』の方も試してみるか」
どっちかっていうと、短剣の方が元の『切り裂きの短剣』と形が変わってるから、慣らしておかないといざって時に困りそうだからね。もう少し『鬼活長剣』を試したら、持ち替えてみるか。
「みんな、ここで迎え撃つぞ」
乙女戦技ですが、実はあまり乙女ゲーに詳しくないので、もしも技に使えそうな乙女ゲーのシチュエーションにこんなのもあるよって、方がいらっしゃったら教えてもらえると嬉しーなー
H28年2月21日 誤字修正しました。




