228 殲滅戦
「ここは、お通しできせません、御覚悟を」
トーウが両手の爪を光らせて構え、集団で向かってくる魔物たちの間をかけぬけざまに、引っ掻きながら毒を使っていく。
「グギャ、ググギャ」
麻痺や、毒、酩酊などの異常状態になった魔物が次々にその場に倒れていくけど、さっきから随分な数を倒してるな。
「ググア、グヤア」
ん、異常状態になってない魔物が何体かいる、どうなってるんだ。確実にトーウは手傷を与えてたはずなのに。
(ふむ、おそらくは毒爪の使いすぎじゃのう。爪に塗った毒は使えば使った分だけ魔物に投与され爪に残る分は減り、更には返り血などで毒自体も薄まってゆくが、それに対してトーウが毒を生成する量が間に合わなかったのじゃろう。短い時間で大量の魔物を休みなく相手にした結果じゃの)
なんだと、『鬼族の町』や『蝙蝠の館』じゃそんな事は無かったのに、いや考えてみれば『鬼族の町』の時は大人数で行動することが多かったから、トーウ一人当たりで一度に相手をする敵の数は限られてたし、それ以外の場合や『蝙蝠の館』での時だと、小規模な集団を倒して次の戦闘に成るまで多少とは言えタイムラグが有ったからな、それで毒の補充が追い付いてたのか。
今回みたいにひっきりなしに敵が押し寄せるっていうのは、トーウと行動するようになって初めてだったか、でもこのままだとトーウが。
(まあ、トーウには良い経験かも知れぬのう。フロアボスや高レベルの相手ともなれば、耐性を持っていないにもかかわらず異常状態に抵抗して、かかりにくい場合があるからのう。こういった場で毒以外での戦い方を磨くのもよいじゃろうて)
うわマジか、いやでも確かにボスが毒の一撃で倒せるなんて都合のいい事が有る訳ないか、てかそんな事言ってる場合じゃないだろ、毒が使えないって事はトーウがピンチって事だろう。て、あれ。
「ソイヤッ」
気合の入ったかわいらしい掛け声とともに、トーウがハイキックでワーキャットの側頭部を蹴り込んでるけど、爪先が頭蓋骨にめり込んでるように見えるんですけど。
「旦那様ほどではありませんが、わたくしも急所攻撃などは嗜んでおります」
蹴り技で数体の魔物を倒した後で、トーウが両手の指先から伸びる爪を自在に振るって魔物たちに切りつけるけど、さっきまでの傷を付けて毒を注入する事が目的の切り方じゃなくて、俺がやるみたいに、血管や臓器なんかの急所を狙って切りつけてるように見えるな。
うん、間違いないな、俺だったらここを狙うって考えそうな所と同じ様な場所を切ってるから。
(忘れたのではあるまいな、トーウは『毒士』だけでなく『暗殺者』の職もあるのじゃぞ、そう考えればこういった戦い方もおかしくはあるまい、というよりも『魔法士』のお主よりトーウの方がこういった戦い方は本職じゃろうて)
ま、まあ、そう言われるとそうか。うん、暗殺者っていうと確かにこういう急所狙いみたいな戦い方が似合いそうだよな。
それに、ラッテル家の本来の戦いは武器の持ち込めない場所での護衛なんかを前提にしてるらしいから、蹴り技で一撃必殺が出来たっておかしくはないのか。
ん、トーウがなんか残念そうな表情をしてるけど何かあったのか。
「ふう、食せない相手をむやみに殺めるのは、虚しいだけで本意ではありませんが、それもこれも旦那様の為、おしてまいります」
なんだよ、気にしてるのは食べれるかどうかか、やっぱりトーウとミーシアにとっての重要事項はそこなのかな。
ま、まあとりあえずトーウの方は心配ないって事だよね。そうだ、サミューは大丈夫だろうか、彼女は戦闘スキルが少ないし、何より鞭だと刃物なんかと違って、一撃で相手を戦闘不能にしたりするのは難しいだろうから、数で来られるときついんじゃ。
「いきます」
く、やっぱりサミューの方にも魔物が向かってる、どうする、助けに行きたいけど、俺がサミューの方に動けば今俺が押さえている分の魔物がハルたちの方に行きかねない。なら……
「はあ」
「グギャ」
「えい」
「ガギョ」
な、何だ、サミューの鞭でぶたれた三十体近い魔物がその場に崩れ落ちてるぞ、これはまるでトーウみたいな……
(忘れたのではあるまいな、サミューの新しい武器には複数の異常状態が付いておるのじゃぞ)
言われてみればそうだったな、確か、『毒』と『麻痺』『睡眠』『混乱』『魅了』だったっけ。あ、崩れ落ちてない一体が同士討ちを始めてるよ、『鑑定』したら『混乱』の異常状態が付いてるし。
でも混乱してるのは一体だけか、まあ、『毒』や『麻痺』と違って『混乱』は効果が(小)に成ってたはずだもんね。その分だけ成功率が低いのかな。
(とは言え、『毒』などの効果は、トーウのスキルと同じく一定時間に生成できる量が限られるからのう。そうなれば残るのは『混乱』等の精神系の効果のみとなるが、さて、どう戦うかのう)
おいおい、のんきに言ってるんじゃねえよ、精神系の効果はどれも(小)程度で効きにくいはずだし、相手に致命傷を与えられる訳じゃないなら、サミューが危険なのは変わんないって事だろ。
「ふふ、行きますよ」
両手で一度鞭をしごいたサミューが、笑みを浮かべながら更に十数体を叩いたらそれだけで半数近くが座り込んじゃった。え、一体どうなってんのこれ。しかも『毒』や『麻痺』で動けなくなって崩れ落ちたって感じじゃなくて、なんかいきなり放心しちゃって座り込んだような感じなんだよな。
(ふむ、そういう事か、いやはやお主らは本当に面白いのう。ほれ、魔物の『鑑定』結果を見てみい)
え、『鑑定』結果って、あれ、座り込んだ魔物が全部『魅了』状態になってる。いや、でもこれはおかしくないか、『混乱』が効いたのはほんの少ししかいなかったのに、同じくらいの効果しかないだろう『魅了』がこんなに効くなんて変だろ。
(サミューには『性奉仕』や『誘惑』等のスキルが有るからのう。それらのスキルが『捕殺鞭』の持つ『魅了』の効果を補強したのじゃろう。まあ『魅了』等の効果はある程度、性的嗜好が対象に合わねば通用せぬからのう、人型でない魔物などではあまり意味がないじゃろうが、この『迷宮』では非常に有効じゃろうて)
うわー、何だろう、なんか素直に凄いと言えないのは、エロメイドなサミューにドンピシャな効果だからかな。
(それに、今のサミューならば、この状況は都合が良いじゃろうしの)
(それはどういう事だ、『魅了』した魔物に利用価値があるって事か)
この感じだと『混乱』みたいに同士討ちを狙えそうにないし、そうなると盾代わりの肉壁に使うって事なのかな。
(見ておれば解ろうて、ほれ『魅了』されておらぬ魔物がサミューに向かってゆくぞ)
「行きます『巻付け』『頚骨絞砕』」
「ギョウエ」
え、サミューの鞭がワードックの首に巻き付いた直後に、首がおかしな方向に曲がったんだけど、というか今凄い鈍い音が響いたような気がそれに今のスキル名って、いやまさかそんな。
「もう一度です」
またか、鞭が首に巻き付いて、サミューが少し手首をひねった直後に首の骨がゴキリって、うん、間違いないな狙って首の骨を絞め折ってるよ、まさかそんなどこぞの仕〇人みたいなまねをするなんて。
「まだ、まだ、行きますよ」
サミューが次々と魔物を絞め殺していくけど、一体当たりにかかる手間が多い分、だんだん距離を詰められてきてる。このままだと、接近されて攻撃を受けるんじゃ。
「それなら『巻き投げ』」
鞭を魔物の体に巻き付けたサミューが大きく腕を振ると、そのままの勢いで鞭に引っ張られた魔物の体が宙に浮いてって、幾らスキルだとは言え、どんなパワーしてるんだよ。ていうかそのままの勢いで振り回された魔物が宙を飛んで行って、他の魔物を巻き込んでってる。
今のスキルでサミューの近くに来ていた魔物はほとんどいなくなったけど。
「はあ、はあ、ふう」
(通常攻撃で倒せぬ分、スキルの使用頻度が多くなり体力の消費が激しいようじゃのう)
そうだよなあ、体力が無くなって『疲労困憊』になれば、スキルはおろか通常の戦闘にも影響するだろうし、今のペースだと魔物を倒しきるより先にサミューが。
「やっぱり、回復しないとダメですか、出来ればこの手は使いたくなかったんですが、仕方がないですね」
ん、サミューの身長が急に高くなったように見えるけど、気のせいか。いやアレかブーツのヒールを立てたせいか。
「覚悟してください、えい」
サミューが鞭で向かって来ようとする魔物を牽制しながら『魅了』のせいで放心している魔物に近づいて、踏みつけただと、し、しかもヒールの先端で……
「キューン、キューン」
「クーン」
「ゴロゴロ」
「ブヒブヒ」
な、何だ、サミューに踏まれている魔物が、なんかすっごい顔で甘えたような声を上げてるけどどうなってるんだ、とういかサミューは一体何がしたいんだ。
「ふう、大分落ち着けましたね」
(サミューの履いておる『吸生の長靴』の踵は『吸血の細剣』で作った、ドレイン効果の有る物じゃからのう。ああする事で消耗した体力を回復させているのじゃろうて。『捕殺鞭』にも若干のドレインが有るが効果の強さが違うからの)
そ、そういう事か、ぱっと見はSMプレイのワンシーンにしか見えないけどね、鞭を持った金髪美女がハイヒールの編み上げブーツで踏みつけるとかさ。もう、思いっきりそうじゃね、しかもあのメイド服のスカートの下は、あの、く、黒の下着を穿いてるんだよね。
やべ、意識しちゃったら、尚更サミューがエロく見えて来た。
というか、なんであの魔物たちは、尖ったピンヒールで踏まれて血塗れになってるのに、嬉しそうに甘えた鳴き声を上げてるんだよ。いや、多分『魅了』状態のせいなんだろうけどさ……
「ふふ、十分回復できましたし、これならいくらでもお相手できますね。さあ、いらっしゃい」
やけに血色の良くなったサミューが、両手で持った鞭をぴんと張るけど、すっごい絵になってるな。
「ヒギュ」
「クワッツ」
あ、サミューに向かおうとしてた魔物が立ち止まって警戒してるよ、というか尻尾が股の間に入ってるとか、かなりビビってるんじゃないか。
(『捕殺鞭』には『威圧』効果もあったからの、あの光景を見た後では、尚更じゃろうて)
ああ、そっか、そうだよね。今のサミューの足元には獣面なのに、明らかな恍惚の表情で息絶えてる魔物の亡骸がいくつも転がってるもんね。
「と、とりあえず、サミューの方も問題はなさそうだな」
う、うん、問題ないよね、何も問題ないはずだ、今のサミューならとりあえずこの戦闘でピンチになる事はなさそうだからね、うん、問題ない、問題ない。
「『制圧射撃』いっくよー、えーい、それと『闇痺雷』」
「さあ、覚悟なさい『落雷陣』」
よし、アラとハルの魔法で、大分敵の集団も潰せてきてるな、この調子ならもうちょっとで全滅させられそうだ。
すいません、次の更新は来週以降になりそうです。




