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123 追及

次の更新は遅れますと書いたのに意外と早く書けました。

「がはっ、く、あ、か」


 骨の手に喉元を締め上げられたマイラスの口から途切れ途切れの音がこぼれ出すと、それまで取り乱していた連中がやっと落ち着きだす。


 いくらなんでも慌て過ぎじゃないかな、一応みんな騎士や冒険者なんかの戦闘職なんだからさ。


「魔法兵はまだ来ないのか」


「参りましたが、この状況で攻撃魔法を使えば、ラマイ子爵を巻き込んでしまいます」


「ではどうすればよいのだ」


 マイラスごと吹き飛ばすってのはダメなのかな、やっぱり貴族だから無理なのかな。


「くっ、ラマイ子爵ご無礼を」


 ミムズがマイラスの肩を掴みもう片方の手で骨の手首部分を掴んで力ずくで引き剥がす。


「プテック」


「分かった、姉さま」


 ミムズが手首を机の上の放り投げると同時にプテックが数本のナイフを投擲し、そのまま机の上に骨の手首を縫い付ける。


 深々と突き刺さったナイフで完全に縫い付けられて動かなくなっても、骨は何とかマイラスの方へ向かおうと五本の指を動かし続けてその度に机の表面に傷がついていく。


 うーん、これは場面が違ってたらかなりホラーだろうな、実際襲われたマイラスには十分恐怖だろうし。


「そこの冒険者、これはどういう了見だ、一部分とは言え不死者を『拠点』内に連れ込むとは。事の次第によってはただでは置かぬぞ」


「先ほども言った通りこの事態の原因を作った人物を特定したかっただけです」


「世迷言を言いおって、こんな事で何が解ると言うのだ」


 何人かの騎士が剣を抜いて取り囲んでくるけど、平常心、平常心、下手に取り乱したりきょどったりしたら逆にこっちが疑われそうだもんね。


「不思議じゃありませんか、ここにはこれだけ多くの人がいて、しかも箱の周りを取り囲んでいたのに、迷うことなくたった一人の人物を、それもかなり奥にいた相手を狙うだなんて」


「むう、そう言えば確かに、拙者は箱のすぐ近くにいたが見向きもされなかったが」


 半分くらいは俺の話を聞く気になったようだし、何人かは俺が何を言いたいのか解って来たみたいだな。


「最初の襲撃の時から疑問だったんですよ、『第四拠点』が襲われた当初に居たのは全て人のゾンビでした、鬼のゾンビは戦闘が始まり音に引かれたようにあとから現れました、そうでしたよね」


「いかにも、貴殿の言われる通りだ」


『第四拠点』に救援に行った時に声をかけた騎士に確認を取ると重々しく頷いてくれたよ、よかったーここで知らないって言われたら洒落にならなかったからね。


「それとこれは噂で聞いたのですが、あれ以降人のアンデッドはこの『大規模討伐』に参加していた冒険者の被害者だけで、最初の不死者と思われる個体は、『第四拠点』の襲撃以外では確認されてないそうですね」


「確かにそうだが、なにが言いたいんだ貴様は」


 若い騎士がイライラした様子で聞き返してくるけど、俺が噂でしか聞けてなかった情報を保証してくれたかラッキー


「『第四拠点』が襲われたのが偶々アンデッドの集団に近かっただけなら、鬼のアンデッドも最初から混じっていたでしょう。あの時点ですでに鬼のアンデッドは発生していたんですから。偶々鬼のアンデッドが遅れてきたのだとしても、それなら人のアンデッドがあの時しか確認できないのはおかしいです。近くに生者が居なければアンデッドは当ても無く彷徨うそうですから、集団から外れる個体が居て後々発見される方が自然です」


 ラクナの話だと特に群れで行動する習性も無いらしいし、集まってるのは獲物が居るから群がっているだけらしいから。


 ここまでの説明で大半の連中が俺の言いたい事が分かったのか、少しずつマイラスの周りにいた人間が距離を取りだす。


「つまりリョー様はこう言いたいのですか、あの時襲撃をかけてきたアンデッドは何かに引きつけられていたと」


 パルスが会議の場にいる連中の思いを代弁するかのように質問してくる。よし、いいかんじだ。


「その可能性が有ると考えています。皆さんご存知の事とは思いますが、わたしが知人に聞いた話では元となった個体達は、死の瞬間に抱いた未練や怨念に基づいて行動するらしいですから」


「その未練の元を確認するために襲撃して来た人のアンデッドの手を今まで取っておいたわけですか、大胆な事をされますね」


 少し呆れが混じったようなパルスに頷いてから視線を転じると、周りがすっかりがら空きになったマイラスがこっちを睨んできてるけど、喉のあたりに指の跡がしっかり痣になってるよ、ザマー見ろ。


「ですが、想像以上の効果が有ったようですよ。さて、ラマイ子爵閣下、なぜこの手は貴方だけを狙って行ったのでしょうか、この手の持ち主が抱いていたであろう未練というのは何だったのか、この下賎な冒険者めに教えては頂けないでしょうか」


 マイラスを煽るためにわざと苛立たせるような丁寧な口調で言ってみたけど、さてどう出るかな。


「冒険者風情が調子に乗るな、俺は子爵だぞ爵位を持った貴族を相手に平民ごときが許しも無く口を利くだけでも不敬だと言うのに問い質すだと、身分を弁えろ下郎が」


「申し訳ありませんがラマイ子爵、わたしもこの件に関しては納得のいく御説明を戴きたいのですが」


 逆切れで話をうやむやにしようとしたっぽいけど、パルスの一言で逃げられなくなったな。


「な、パルス王女殿下」


「失礼ながら小官も主君よりこの『大規模討伐』の指揮を任ぜられている立場上お話を伺いたいのですが」


「拙僧としても『迷宮』の完全管理を教義とするライフェル教の僧侶としてこの件はうやむやには出来ませぬ」


 パルスに続くように、クレ騎士団の代表とラッドがそれぞれマイラスに向かって発言するけど順調だな、やっぱり最初にインパクトを与えてから落ち着く前に一気にまくしたててこっちのペースにしたのが上手く言ったのかな、まさかこの世界に来てプレゼンの経験が生きて来るとは思わなかったな。


「わたしたちがそれぞれお訊ねしても時間がかかってしまうでしょうから、この場はリョー様にお願いしたいのですが」


「フム、それもいいでしょうな、そこの冒険者が始めた話でもある事ですし」


「僧兵団としても異論はありません、リョー殿の事はよく知っておりますので」


 おお、ありがたい事に俺が質問役になれたみたいだな、もしかしたらこのまま周りに任せておけば良いかもってちょっと思ったんだけど、こっちの方がマイラスを追い込むには都合が良いよね。


「それでは改めて伺いますが、子爵様はこちらの手の持ち主とはどういった御関係で」


「知るか、この女が俺の姿を見て勝手に懸想でもしていたのだろう、死の間際に俺の姿でも思い浮かべたからこうなったんじゃないのか、まったくいい迷惑だ」


 この野郎、サラッと自分が美形だから勝手に惚れられるって言いやがったよ。そうですかいそうですかい金髪碧眼のハンサム様ですからね、そりゃあ見た目だけならモテるでしょうね、中身は最低だけどな。


 だけどハンサム様、口を滑らしちゃったねー


「なるほど、つまりはこの手の持ち主である女性が勝手に子爵様を恋焦がれていたので、不死者となった後は子爵様に襲いかかったと」


「そうだと言っているだろうが」


 おーおー、イラついてるよ、だけどおかげでチョロくなってるよ、とりあえず一つ目の言質が取れたかな。


「ところで子爵様はなぜこの手の持ち主が女性だと知っているのですか」


「なっ」


「見ての通りこの手は完全に白骨化していますから、私では性別を確認することは出来ませんでした」


 俺の言葉で周囲の視線が再びテーブルに縫い付けられた手に集まるけど、女性だと解るような特徴は誰も見つけられなさそうだよね。


「確かにこれでは、大きさからおそらくは成人の者だろうと言うくらいしか」


「先ほどは、この手の持ち主と面識がなく向こうが勝手に子爵様を思っていたという事でしたが、女性だと解るという事は本当はこの手が誰の物なのか知っているのではないですか、それとも骨を見ただけで性別が分かるほど人骨を見てきたとでも」


 この場にいる人間の殆どの視線がマイラスへと戻るけど、その大半が疑いを籠めだしている。


 この世界には指紋やDNAみたいな科学的な捜査なんて無いだろうから、おそらく自白や証言、後は状況証拠あたりで犯人を決めるんだろうね、それだと心証のしめる割合が日本よりも大きいだろうし。


 まあ冤罪なんかも有りそうだけど、今この場では都合がいいよね。


「そ、それは、襲撃してきたアンデッドは全て女だったんだ、それならこれも女に決まっているだろうが」


 かかった、いやいやこうも狙い通り行くなんてね。前に黒民商事の接待飲み会で杉屋専務が追い込まれた人間にどんどんプレッシャーをかけていくと、何とか取り繕うとしてどんどんボロを出すって自慢げに言ってたけどほんとだったな。


 あの専務は確か週刊誌で圧迫面接とパワハラを叩かれて降格になったらしいけど。

 

「なぜ、人のアンデッドがすべて女性だと知っているのですか、あの時に私は間近で戦いましたが、全身白骨化していたり、表面の殆どがボロボロだったりで性別の解らない個体がかなりありましたが」


 まあ、見た目がしっかりしてたのは全部女性だったからマイラスを疑ったんだけど、無駄にフェア精神を出して余計な事を言う必要はないよね。


「ひょっとして、子爵様はこの手の持ち主だけでなく、あの時襲撃してきたアンデッド全員を御存知なのでしょうか、それなら先ほどの発言も納得できますし、人のアンデッドの全てが『第四拠点』を襲撃してきた説明にもなるかもしれません」


「ぐう、貴様」


 うわー、マイラスがすっごい目つきで睨んでくるよ。『ねえねえ、今どんな気持ち?』とか言ってみたいけどさすがにこの場じゃ無理だよね。


「いったいどういう御関係だったのでしょうか、あれほど多くの女性が一定期間で死亡したうえに、無残にも『迷宮』内に亡骸が打ち捨てられて鬼達に食われる事となり、しかもたった一人の人物に並々ならぬ未練もしくは怨念を抱いているとは、なにが有ったのでしょうか」


 ほんとはここまで言い切れるほどの証拠なんて無いけど、ペースはこっちの物だからちょっと話を修飾して、周りの連中のイメージをマイラスが犯人で、アンデッドたちは哀れな被害者ってふうに誘導したけど上手くいったな、あ、パルスは騙されて無さそうだな、あの目つきは。


「さて、話しては貰えませんかいったい彼女達に何が有ったのか」


「もう良い、そこまでにせよ」


 マイラスにたたみかけようとしていた俺の声を騎士団の代表が止める、ここまでか。


「作戦自体はもう決したのだ、会議はこれまでとする、各々方は解散しそれぞれの持ち場に戻られ鬼と不死者の排除に務めて頂きたい」


 これはひょっとしてマイラスを庇ったのか。


「申し訳ないがパルス殿下とラッド僧正、ラマイ子爵は残っていただきたい、いやシルマ殿も残っていただけるか」


 もしかしたら、お偉方だけで話を付けるのかな。





(マイラスはあれでも他国の貴族それも爵位持ちじゃからの、あれだけの者が居る前で決定的な言葉が飛び出せば外交問題となりかねんから人払いをしたのじゃろう)


 なるほどね、でもそれなら。


(マイラスはどうなるんだ、まさかとは思うが無罪放免って事は無いよな)


(クレ侯爵家の者のみならばそうなったかもしれぬが、他国の王族であるパルスやましてライフェル神殿の僧侶が居る場ではそうは行くまい、とはいえ侯爵の一存で他国の子爵を罰する訳には行かぬじゃろう、おそらくは領外強制退去という形で追放するのが精一杯じゃろう)


 それだけ、あれだけの事をしてそれだけなのか。


(お主は軽いと思うじゃろうが、貴族にとっては一大事じゃ。領内にいる余所の貴族を追放するなど本来ならば宣戦布告の直前にしか行わない事なのじゃ。それだけの事をされた以上は他の貴族たちもマイラスには何かあると思うじゃろうし、会議の途中まで居た者の中には冒険者の代表も数名おる、人の口に戸を立てる事は難しい上に話が中途半端に終わった以上はマイラスが犯人だと言う話は憶測を交えて大きくなりながら広がる事じゃろう)


 貴族にとっては信用が大切なのに、それを完全に潰せたって事か。


(ライフェル神殿に睨まれた以上は、よほど親しいもの以外は繋がりを断つじゃろうし王宮で公職に就くことも出来ぬ)


 社会的には死んだも同然って事か、とはいえ地位と領土が有るんじゃ自分の領内で好き放題するんじゃないのか。


(たとえマイラスが領内に戻ってもこのような状態で何かあればすぐに改易、家門断絶という事になるじゃろう、故にミムズの様に禊ぎを行う事になるじゃろう)


 禊ぎって言うとあれか『迷宮鎮静化』とか『魔道具収集』とか普通なら無茶な事に挑戦して手柄を上げて罪を償うって奴だよね。


(そうやって『迷宮』に挑む事となった貴族は少なくないが、無事に終える者はごく僅かじゃ)


 まあ、そう簡単に『迷宮攻略』は出来ないって事か。


(お主がこれ以上手を出さずとも、どこぞの『迷宮』で魔物の餌食となるか、所領を失ってのたれ死ぬかじゃろう。ムリをすることは無いほうって置け)


次回は多分番外編になるかと思います。


ちなみにマイラスを中途半端にしたのは一応理由があります。

そこら辺は活動報告にて。


H27年11月19日 誤字修正しました

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